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線香花火
花咲くように丸く赤い火の玉の周りに
繊細な光の線が生まれては弾けて消える
ぱちぱちと音を立てて
冷たい夜の暗がりの中
立ち昇る白い煙と火薬の匂い
細やかな光の線は四方にはじけて
闇に咲き誇る優美な牡丹のように
火の花は音を立てて
そこに乱れ咲く
季節外れの花火
浮かぶ遠い記憶
繊細に火花は弾ける
その火の舞いは現れては消え
消えては現れる
ぱちぱちと音を立てて
音もなく記憶は
闇の中で密度を増して
赤い火の玉に集う火花は次第に
花の終わりを告げるかのように
ぱちぱちと音を立てながら
小さくなってゆく
落とさないように
落ちてしまわないように
消さないように
消えてしまわないように
そんな思いなどかき消すように
火の玉がどんどん小さくなってゆく
闇にか細く光を落としながら
闇に浮かぶ記憶は次第に重さを増して
ふっと冷えた風が吹きつけた
そっと灯る赤い命を
揺り落とそうとするかのように
悪戯な風のせいか
その命の終わりなのか
ぽとりと地に赤い火の玉は落ちた──
2021年10月に書いたものに手を加えたものでした。




