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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

フリースタイル for ライフ

作者: 夕凪__

「...一体、何が起こって」

 アジトの中は血で深紅に染まっており、無造作に転がる屍は一つ、また一つと増えていく。何故こうなった?計画は完璧、準備も万端。後は機を待つだけだったはずなのにどうしてこんなことに...。どこから漏れた?そもそもとしてあいつは誰だ?たった一人でここに乗り込み、5分と立たないうちにほぼ全ての仲間を圧倒的な力をもって殲滅した奴は一体...?


 永久に答えの出ない問いが脳内で駆け巡る中、ふと現実に意識をもどすとそこに仲間はいなかった。たった一人、圧倒的な恐怖を纏った存在のみがそこにいた。

「ハ、ハハ...」


 思わず乾いた笑みが漏れる。まさに最強。奴を一言で表すにはそれに尽きる。ん?最強?ああ、そう言えば。裏社会で最強の殺し屋の殺し屋がいるって聞いたな。まさか奴が...!

 答えにたどり着く前に、俺の意識は消えた。



***

 仮面を外し、血の付いたコートを別のものに着替える。それにしても今回の依頼は楽だ。政府の案件だからわざわざ死体を処理する必要がない。あれ本当に面倒だからな…。そんなことを考えながら適当にコンビニで食料を買い、家に帰ってささっと食べた。にしてもコンビニってのは本当にありがたい。だって24時間やってるから私達殺し屋には食料を確保するための重要な場所だ。

 コンビニに感謝しながらやることを済ませてベッドに入る。現在時刻は午前2時、6時には別件が入っているので少しでも体を休めておかないといけない。そう思って眠りにつこうとしたとき、ふと頭の中に一つの疑問が浮かんだ。



 一体いつまでこんな生活を続けるのか?



 別に私は人を殺して悦びを得るような人間じゃない。ただ突きつけられた選択肢がこれしかなかっただけだ。本音を言えば私だって人並みに自由を満喫したいが、私にはもう叶わない。この世界で私は罪を犯しすぎている。今から表世界に行くことはできないし、裏社会から逃げればまともな生活は送れないだろう。

 淡い羨望を現実で塗りつぶし、私は眠りについた。

 せめて夢の中では...と僅かばかりの願いを心に抱いて。



***

「.........ん」

 わずかな違和感を感じて目が覚めた。ここは…どこだ?明らかにベッドの上ではないが...。とりあえず周りを見てみよう。座席がたくさん並んでて、ガタンゴトン揺れてて、窓があって...って、途中から薄々気づいてたけどこれって列車だよね。うん、なんで列車乗ってんだろ、私。昨日はちゃんと家のベッドで寝たはずなんだけど…夢か?でも夢ならこんなに意識はっきりしてない気がするしやっぱり現実?いやそうだと説明がつかないな...。


「じゃあ神様かなんかか?」

「そうですね」

「そーなんだ......ん?」

 今の誰?私知らないんだけど。声のした隣の座席を見ると、そこにはいかにも優しそうな白髪の青年がいた。あ、私と同じ髪色だ。んーいやちょっと違うか。この人のはちょっと銀っぽいな。なんだ残念。


「あの急につまらなさそうに見られても...」

「...あーごめんごめん」

 かなり顔に出ていたらしい。あーそんな申し訳なさそうな顔でこっち見ないで地味につらいから。

 互いの間に割とマジの気まずい空気が流れたところで本題を思い出した。

「ところで君誰?」

「あ、失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私はシア、この転移列車の管理人です。この度は式凪洒音様、貴方を異世界へお連れするために参りました」


 …今がっつり「転移」列車って言ったよね?しっかり名指しで言われたよね??一体どういうことなんだ?

「えっと...もっと詳しく説明してもらっていい?」

「はい、まずはですね...」

 そこからシアは様々なことについて教えてくれた。ぶっちゃけクソ長かったので要点だけまとめると...


1.神様が私を選んだ理由

2.これから行く世界について

3.私へのギフトについて


 まず一つ目についてはすごくシンプル、私が強いかららしい。異世界に行ってもすぐ死なないようにっていう話だがそれ私じゃなくてもよくね?まあ特に気にしてないけど。

 二つ目の話も割とシンプルだった。まあこれは私があんまりしてほしくないってシアを黙らせたのが理由だけど。だって気になるものは自分で調べたいじゃん。え?そうは思わない?私と君は気が合わないらしい...って私は誰に話してるんだ。まあ内容としては魔法とスキルがあって魔王とかいるよっていう感じ。うん、実に分かりやすい。

 んで三つ目、ぶっちゃけここが一番大事。ギフトについてだ。ギフトっていうのは所謂スキルとか強い武器とかがもらえるやつだ。聞く話によるとどれも破格の性能を誇るらしい。何がもらえるか楽しみだ。


「...んで、私は何がもらえるの?」

「貴方に渡すギフトはありません」

「うん......は?」

 こいつ今なんて言った?渡すものはないだって?勝手に呼んだくせに舐めてんのかこいつ。ジト目でシアを睨むと慌てて訂正し始めた。心が痛い。

「いや本当に何もないわけではなくてですね、洒音様の魂には元から力が眠っているのでそれを解放しようということです」

「どゆこと?」

「大抵の人間には魂の力、『魂力』が少ないので神から力を賜るのですが、稀に元から魂力を多く持っている者がいるのです。そのような者は魂力を解放することによって魔力やスキルを得ることができるのです」


 なるほど、つまり私にはその魂力とやらが大量にあるかそれを解放してスキルを手に入れようということか。いいじゃん借りものじゃなくて自分の力って感じで。

「もう目的地まで時間がないのでさっさと解放しちゃいますね」

「ああそんなノリ軽い?」


 結構軽いノリで言われたので心配になったが、そんなものはすぐに消え去った。

 空気が、変わった。いや、そんな生ぬるいものじゃない。世界が震えているように感じた。神聖な気配が車両を覆い尽くす。シアのほうに目を向けると彼と目が合った。彼の瞳は深淵に佇む闇の如き深さと暗さを合わせ持っていた。私はその闇に吸い込まれると同時に、自分の全てを観測されているような感覚に陥った。

 暫くその感覚が続いたのち、それから解き放たれると一つの言霊が響き渡った。


「解放」


 同時に体に何か流れる感じがした。シアのほうを見ると、優しそうな青年に戻っていた。

「成功ですね。ですが、洒音様は魔力ではなく霊力が流れているようです」

 あーなんかクソ長い説明にちょっと出てきたな。確か魔力と似ているが全く別方向の力らしい。えーつまり私には魔法が使えないってことか......。

 は?魔法使えないの??えー結構魔法使うの楽しみにしてたのに…。まあ、なんもないよりはましか...。


「そっか。でスキルのほうは?」

「なんか投げやりになってません?まあいいですけど...。それでスキルの方ですよね、開示(オープン)と唱えると見ることができますよ。もし開かなかったらありません」

 シア、やめてくれ。ない可能性があるとか言うな。さっき魔法が使えないって分かって萎えたのにもっと泣きそうになること言わないでくれよ。

 そんなことを思いながらもシアに言われた通り開示(オープン)と唱えると......?




 目の前に画面が出てきた。よっしゃ危ねえええ!ここでスキル画面が出てきてなかったら異世界引退RTAするとこだったぜ。二択をなんとか引き当てたところで私はスキルの内容を確認することにした。希望の塊であるスキル画面を見るとそこには......!


異端者(アウトサイダー)

   ∟変換

    拡張

    逸脱


 たったこれだけしか書かれていなかった。いやまああるだけいいんだけどさ、もうちょっとなんかあると思うじゃん?あーでももしかしたらこれからたくさんスキルを覚えますよってことかもしれないしとりあえず聞いてみよう。

「シア、私のスキルこんな感じなんだけど...」

「ええと...なるほど、多重スキルですか」

「なにそれ」

「あーこれは説明していませんでしたね。多重スキルとは、複数の効果を持つスキルのことです。別名として権能と呼ばれる場合もありますね」

「...これ、強い?」

「強いかどうかは本人次第ですけど、かなりレアであることには変わりませんね」


 とりあえず雑魚スキル確定っていうわけではないことに一安心。でも私次第って言ってたからそこはどうにかしないとな。まあそれはいったん置いといて、

「これ一つしかスキルないんだけどこれからたくさんもらえるやつだったりする?」

「うーん、そうですね。洒音様は容量的にあと一つしかスキルを手に出来ません」

 は?あと一つしか手に入らない?よくわからんやつ一個とあとなんかだけって、流石にこれは人生鬼畜仕様じゃないか?まあでも一応モノはもらってるんだしなんとかなるか。

「ちなみに普通の冒険者は三つ以上スキルを持ってます」

 訂正、やっぱ無理かもしれない。


「あー、なんかかわいそうなので残り一つは好きなのを差し上げますよ」

 まじ?シア最高愛してるごめん言い過ぎたからそんな目で見るなよ。でも少ししかない自分の手札を自分で選べるのはあまりにも大きい。うーん、なんにしようか…とは言ってみたものの欲しいスキルは決まっている。

「じゃあ収納系で。一番いいやつお願い」

「分かりました。では、能力贈与(ギフト)


 言霊と同時に私の体が淡く輝き、数秒すると光が消えた。すぐさまスキル画面を開くと、そこには文字が追加されていた。


異端者(アウトサイダー)

   ∟変換

    拡張

    逸脱

情報化保存(ストレージメモリ)


 おお!ちゃんと増えてる!これで物の持ち運びに困らずに済む。ありがたい。

「最上級スキルなので使うのは難しいですよ」

「全然オッケー、使えればなんでもいいよ」

「それと、そろそろ終点、目的地です。」


 もうそんなところまで来たのか。結構長い道のりだったけど思ったよりかなり短かったな。あー、クソ長説明を除いて。

「そっか、ここまでありがと」

「いえ、仕事ですから。それに、洒音様は表情豊かなのでとても楽しかったですよ」

「はは、久しぶりに私も楽しかったよ」

 列車の動きがだんだんと緩やかになり、わずかなブレーキ音と共に停止した。二人旅は幕を閉じ、ここから私の物語が始まる。そんな大層な物じゃないけど。


 座席から静かに立ち上がり、ゆっくりとドアの向こう側へ歩く。外へ出る直前に後ろから声が聞こえた。

「それでは、いってらっしゃいませ」

 その言葉に私は、

「行ってくる」

 と短く返して車両を降りた。直後に視界がホワイトアウトした。



***

「...ん、おお!」

 視界が開けると、そこにはいかにもRPGのような街があった。いやここまでRPGな街ある?異世界ってめっちゃゲームなんだな。んまあそれは一旦置いといて、ここからどうしよ。んー、まずは何より金だよね。金は全てを解決する。だってないとご飯も食べられないし、宿取れないし物変えないしetc...。とにかく金をどうにかしよう、すぐ稼げる奴ね。


 金策を考えながらその辺をうろうろしていると、ふと目に入った路地裏の奥にほんの僅かに人影が見えた。風貌からみて冒険者(っぽい、多分男)だろう。どうやら訳ありらしい。何か情報が手に入るかもだし何より面白そうって私の勘が言ってる。というわけで行ってみよう。

「おっさんどしたのこんなとこで」

「...ん?なんだ嬢ちゃん。こんな場所になんか用かよ」

「質問で返さないでちゃんと答えて」


 ホームレスの男は少し言い淀んだ後に答えた。

「仲間にギルドの規則違反を擦り付けられてバカみたいな金額を払わされた挙句自棄になってカジノに行ったらイカサマ野郎に残りのほとんど取られちまった。おかげで宿も取れなきゃ飯を買えねえし挙句の果てにはこの有様だ。はは、情けなくて自分でも笑っちまうぜ」

 男は自嘲気味に笑った後「こんなのに構ってないでさっさとどっか行きな」と言って再び下を向いた。

 嘘は吐いてなさそうだ。それに、言動や素振りからしていい人間なんだろう。私はしばらく考えた後、男に告げた。


「取り返してきてあげよっか?」

「...え?」

 別に同情したわけじゃない。ただ、こいつの余り金を使ってカジノでボロ勝ちすればこいつは金が戻るし私は渡した残りを丸々もらえる。つまり、win-winの関係なのだ。

「残りの金全部渡して。それで勝ってきてあげる」

「...嬢ちゃんなんかが勝てんのか?」

「大丈夫、賭け事そこそこ強いから」

「そこそこって...。まあいい、このままだったらどん底のままだが、嬢ちゃんにかければ何か変わるかもしれんからな」


 仲間に裏切られた後なのに随分とお人好しな奴だ。まあでも、それくらいのほうがやりやすい。それに、ちゃんと約束守ってやろうって気分になるしね。てかここで急に話しかけてきた小娘に残り僅かな金を賭けるなんて、このおっさん根っからのギャンブラーだな。

「ありがと、ところでお兄さん名前は?」

「ラオだ、嬢ちゃんの名前は?」

「...洒音だよ」

「そうか、シノ。頼んだぞ」

「おっけー、任された」

 ホームレス男もといラオからカジノの場所と残りの有り金全てを預かって私はイカサマカジノへ向かった。




***

「...ここか」

 ここがラオが大金擦ったカジノか。それにしても店の名前が「カジノ・ペテン」って、いかにも金毟り取る気満々じゃん。まあ店の名前については一旦置いといて早速やりますか。

 店の中は酒と煙草が寂れた印象を醸し出しながらもそこそこに人で賑わっていた。入るとすぐにコンシェルジュの男がやってきた。

「ようこそ、カジノ・ペテンへ。ご来場は初めてですか?」

「うん、大まかに説明願えるかな」

「かしこまりました。まずは...」


 コンシェルジュはいろいろなことについて説明してくれたが、どれも元の世界のカジノと同じだったので途中から話半分で聞いていた。必要だったのは換金についてだけだったな。

 基本的にチップは白、赤、緑、黒、紫、黄、茶、橙の八段階でそれぞれ10レーン、50レーン、250レーン、1000レーン、5000レーン、1万レーン、5万レーン、25万レーンとなっている。シア曰く1レーンが10円相当なので大体平均位だ。


 一通り説明が終わり、コンシェルジュから解放されると真っ先に目当てのテーブルに向かった。

「ようこそお越しくださいました、こちらではドローポーカーを行います。ルールの説明は如何いたしましょうか」

「大丈夫、必要ないよ」

「失礼いたしました。それでは早速準備に入らせて頂きますね」

 一見普通のディーラー、しかし中身は性根の腐ったイカサマ野郎。ラオが擦った100万レーンと、私の分も合わせて200万レーンは稼ぎたいかな。

「では、始めさせて頂きます」

 手持ちはラオから預かった80レーンのみ。さて、一体どんな手を見せてくれるのやら...。


 と、思っていたのだが。なんかこいつ、結構弱いぞ。確かにシャッフルやディールのときの上手さには目を見張るものがあるが、私からすれば子供騙しのようなものだ。思ったよりも楽に稼げてしまったので少しがっかりした。いやいいんだけどさ、せっかく来たんだからもう少し楽しみたいじゃん?まあ預かった金だからそんなこと言ってられないけど。

 あっさり目標の200万レーンを稼ぎ切って換金し、いざ帰ろうとしたそのとき、ガチャリとドアの鍵が閉まる音がして、直後に声をかけられた。

「待ちたまえ」


 声のしたほうへ振り向くと、恰幅のいいジジイが何人か男を連れて立っていた。

「...何か用?」

「とぼけるな、イカサマしたのは分かってるんだ。さっさとその袋を渡せ」

 あーバレてたか、まあそうだよね。イカサマしてる相手に勝つには基本的にイカサマしないと勝てないからバレて当然か。でもこのジジイ今までイカサマでボロ儲けしてきたくせによくそんな澄ました顔でそんなこと言えるな。ただここで認めてはいどうぞと返すわけにはいかないので形だけでも否定する。

「言いがかりつけられて困ってるのは私なんだけど」

「成程、あくまで認めるつもりはないと」

 その直後にジジイの後ろにいた男のうち2人が前に出てきた。

「認めないなら、体に直接聞くしかあるまい」


 言葉と同時に男達が襲い掛かってくるが、動きがまるで素人だ。殴りかかってきた男の拳を軽く躱して体勢を崩したところで鳩尾に拳をめり込ませると、男は僅かに呻いて倒れた。

「オラァ!!」

 直後に背後からもう一人の男が襲い掛かって来るが気配が駄々洩れで丸分かりだ。ターンして拳を回避すると同時に男の顔面に裏拳を叩き込み体が揺らいだところにそのまま回し蹴りを食らわせた。

「帰っていい?」

「ッ...冒険者か、生意気な。なるべくしたくはなかったが、やるしかあるまい。お前達、魔法の使用を許可する。何としてでもあの女から金を取り戻せ。捕まえた後は好きにさせてやる」


 ジジイの言葉に下種な笑みを浮かべた男達は前に出るとおもむろに手を突き出し

「「「火球(ファイアボール)」」」

 男達が唱えると魔法陣が現れ、直後に火の玉が発射された。

 おーすげぇ、これが魔法か。本当にアニメじゃん、いーなー私も魔法が使える人生でありたかったなぁ。どんな仕組みで出来てんだろめっちゃ気になる...。じゃなくて

「あっぶな!!」


 流石に油断し過ぎだったか、というより知識欲に駆られ過ぎか。初見だからどれだけダメージが入るか分かんないし注意していかないとな...。

 と思っているうちに二回目が放たれる。今度はちゃんと集中して火球を確認する。さっきはギリギリだったからあれだったけどしっかり見るとそんなに早くないな。余裕をもって火球を躱し、相手との距離を詰める。男の一人が近接に切り替えて殴りかかって来るがあまりにも動きがお粗末だ。攻撃を躱して男との距離を詰めて拳を打ち込む。倒れそうなところに追撃に行こうとすると火球が迫って来ていたので回避行動をとる。


「チッ」

 こいつら地味に面倒くさいが火球の動きも見切ったし本体も雑魚だからいけそうだな。魔法も体感できたしそろそろ終わらせようかと思ったその時

「衛兵だ!お前達、何をしている!」

 唐突にした声のした方を向くと鎧を着た男が三人立っていた。にしても衛兵が何でここにと思い周りを見るとすぐに納得した。カジノの至る所に穴が空いていて、奥を覗けば外の建物まで壊れているのが見える。え、あれそんなに威力高かったの?精々壁がへこむとかそのくらいだと思ってたんだけど、さすがに殺意高すぎない?いや当たり前かのように打ってきたけど冒険者とかってああいうの普通に耐えんの?えぇ怖...。

 いやそれよりちょうどいいところに衛兵が割り込んで来てくれたし今のうちにトンズラするか。瓦礫で向こうから見えてなさそうだしあいつらも衛兵に気を取られてるし。というわけで奴らにバレないように気配を消して、近くの穴から急いで逃げた。



***

「おっすラオ、元気してる?」

「うおっ、本当に帰ってきやがった」

「私を何だと思ってんの」

「変な奴」

 本当に何だと思ってんだ。てか急に距離詰めすぎだろ陽キャかよ...陽キャか。まあそれはいいとして、

「ほら、ちゃんと勝ってきたぞ」

「お、どれどれ...って、マジで全部あるじゃん!!」

「だからそう言ってんじゃん」

「いや、いくらか取られるもんかと...」

「私のは追加で稼いでるから問題ないよ」

「そ、そうか、ならいいか。にしてもよくあの店で勝てたな」

「そりゃあ勝つって宣言したからね」

「ははっ、シノってすげえ奴なんだな」

 そこからはしばらく情報を求めて雑談をした。ラオが知っている限りでは、最近魔物が活発化してきていて対処のために冒険者だけじゃなく衛兵まで駆り出されているらしい。そのせいで治安も少し悪化しているんだとか。今日もごつい衛兵が三人程走っていったらしい。はてさて、なんのことやら...。忙しいときにすんません。


「それじゃあ、私はそろそろ行くよ」

「おう、本当に感謝してる。俺はこれから迷宮都市に行くから、何かあったらいつでも頼りにきてくれよな」

「ありがと、それじゃあねー」

「またな!」

 迷宮都市か、なんか面白そうだし気が向いたら行ってみるか。異世界に来て早々にイベントがあったが、情報や軍資金が手に入ったし幸先がいいぞ。...金の分だけツケが回ってこなきゃいいけど。

 まあでも、最初は魔法も使えないしスキルも一つしかなくてマジでどうしようかと思ったが、意外とどうにかなりそうで良かった。ただこれからこんな感じのイベントが続くと大変だなと思い苦笑するが、それを楽しみだと思っている自分もいる。

 地獄のような仕事詰めの毎日じゃない、最高なイベントとハプニングの毎日。そんな未来に想いを馳せつつ、今日の宿探しに向かった。

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