69.会いに行きます!
―あの事件から1年後―
新緑が眩しい季節がやってきた。
目の下に隈を作りながら、両国の有能な宰相をはじめとする役人達が尽力し、漸く事件の後処理を全て終わらせる事ができた。
命を失った代償は、金銭で補填できるものでは無い。
だが、これしかできることはないと、アルフレッドは、時間を見つけては、自国の被害にあった領民の家を一軒一軒周り、頭を下げた。
貴族達からは、情けないと批判を浴びた。
けれど、アルフレッドは意に返さなかった。
平民達は、そんな新公爵の姿に驚きを隠せなかった。
通常どんなに貴族の方が悪くても、平民に謝ることなどしない・・・いや、あり得ない。
だが、新公爵様は違う・・・俺達を人間として扱ってくれる。
そんな話しが、実しやかに語られるようになり、徐々に領地の雰囲気が変わっていった。
それに加え、次々と交付される施策は歓迎されるものばかりであった。
手始めに、法外に設定された領地の税率が、昔の税率に戻る。
道路の整備や治水工事の施工予定も張り出され、数多くの求人が出され、職にあぶれていた領民は、我先にと応募する。
衣食住が不安定な者達には、仮住まいが与えられた。
その噂を聞いた元領民達の帰還も始まり、パルプ領の人口は徐々に元通り回復していった。
こうして、パルプ領は、たった1年で勢いのある領地へと変貌を遂げていった。
そして、悲劇の発端となった秘薬はというと・・・封印される事となった。
今回の件で、多くの命が失われた。
失われた命は戻らない。
だからこそ、二度とこのような事が起こらないようにとパルプ家の秘薬の資料は、フォレスト国の国立図書館に禁書として封じられた。
正確に言うと、森の石に保管されることになった。
この森の石は、異次元空間になっており、膨大な数の禁書が、封じられている。
目的の書物のものを取り出すには、森の石が書物ごとに与えた謎をクリアしなければならなかった。
だが、この石、悪意がある者が触れると、その者を「禁書」として、書籍の森の中・・・つまり石の中へ封印してしまう特徴があった。
記録上、過去挑戦しようとした者はいたらしいが、禁書を取り出せた記録はなかった。
秘薬の材料が、人体にかかわる物だったため、最初は燃やす事も検討した。
しかし、万が一この資料が既に出回っていた場合、完全に消滅させてしまうと、何か事件があった時に対策しようがないという意見が上がったため、封印という形だが残すこととなった。
どうか未来永劫、この秘薬を使う者が現れませんようにと願いをかけながら・・・。
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領地でのゴタゴタが少し収まった頃合いを見計らい、アイリ達は懐かしの場所を訪れることにした。
「お尻がいたいよ・・・」
「アイリちゃん、あとちょっとよ!」
アイリは長時間、馬車に揺られ続け、疲弊してしまったお尻を擦る。
(こんな時、車があれば・・・いや、新幹線?飛行機)
前世の移動手段の快適さを懐かしむ。
そんなアイリの涙目姿を、隣に座ってるイリースは、少し心配そうに、正面のイリースの婚約者、アルフレッドは苦笑しながら見ていた。
「もうすぐ着くわ!」
やってきたのは、クローバー男爵領。
窓から見える景色は、懐かしい長閑な田舎町。
舗装されていない道路で、カタンコトユと揺れる。
暫く行くと、小高い山の上に屋敷が見えてきた。
よく見ると、既に沢山の人が待っているようだった。
アイリは窓から身を乗り出し、大きく手を振った。
それに気付いた、待ち人達も手を振り返す。
「もうすぐ、皆と会える!」
待ちに待った人達との再会。
三人が屋敷に到着すると、クローバー男爵夫妻が丁寧にもてなす。
身分が明らかになったイリースに対して、昔みたいに気軽に接する事は無い。
表面上の挨拶を交わし、屋敷内へと足を進める。
途中一角に、縫い師達がいた。
こちらを見ると嬉しそうに、滂沱の涙を流していた。
イリースは思わず彼女達の下へと駆け寄る。
それと共に、彼女らとの思い出がふっと蘇ってきた。
子供が小さいと大変でしょうと、何かと融通を効かせてくれたこと。
アイリの薬代に苦労してると知ると、少しでも足しにしてくれと援助をしてくれたこと。
私の刺繍を褒めてくれたこと。
アイリにお守りを持たせてくれたこと・・・。
少し距離を置いて接していたイリースの領域を踏み込むことなく、温かくを見守っていてくれた同僚達。
溢れん図りの優しさを貰っていた。
そう思うと、必然的に感謝と共に涙が溢れてきた。
一人一人強く手を握って感謝の気持を述べる。
そこには『公爵令嬢』ではなく、イリース個人としての思いだった。
そんな母の再会の傍ら、アイリも師匠と対面していた。
感動の再会になると思いきや、トム爺の偏屈さは相変わらずたった。
「花師になりたいと言い寄ったくせに、この一年顔も出さないなんて、アイリちゃんは弟子失格者じゃ!」
「えっ!!トム爺弟子だと思ってくれてたんですか?」
「そんなの言わんでもわかるじゃろ、だが今日で師弟関係は卒業する」
「えぇ〜離れていても、弟子は弟子でいいじゃないですか」
「いかん!わしは歴代最高峰の花師だぞ。たるんでるやつに教える気はない!」
そんなトム爺の横で、ポールはクスクス笑っていた。
「アイリちゃん、久しぶり!トム爺はね、テレ屋なんだよ。本当は、アイリちゃん達が来る知ってから、ずっと楽しみにソワソワしてたからね」
「ポール、わしは楽しみになんかしてなかったぞ」
「はいはい、いつもの照れ隠しね。それにしても、元気そうで良かったよ。イリースさんが公爵令嬢と聞いたときは、腰を抜かしそうになったけど、アイリちゃんも公爵令嬢なんだよね?俺頭が高いかな?」
「ポールさんは、私の師匠じゃないですか!トム爺みたいに放りだしてないてすし、今のまま接してください」
「アイリちゃん、わしが無責任でいい加減だと?!」
「「・・・・プっ」」
そして昔みたいに三人で、ゲラゲラと笑った。
そんな二人の楽しそうな様子を見たアルフレッドは、男爵夫妻と一足先に応接室に向かうことにしたのだった。




