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68.最愛の人と対峙します!

まだ温もりが残る体を抱き上げる。

意識がない人間の体は重いはずだが、亡骸は想像以上に軽かった。

昔から父は、大きく近寄りがたい存在だった。

領地にて裏で潜入調査を行っていた時も、細部にいきわたる慎重さと、精密な計画に格の違いを見せつけられているようで、憤りを感じてきた。


だが、この躯からは、それらが一切感じられなかった。


最後にもらった、父からの一欠片の愛情。

今まで見ぬふりをしていたが、手に入れてからようやく欲していた事に気付いた。

心が苦しくなる。

一旦強く目を瞑った。


落ち着きを取り戻したところで、近くに控えていた兵士に亡骸を渡す。

そして、陛下に一礼すると、そのまま後ろを振りかえる。

背中に突き刺さるような視線を寄こしてくる者に、視線を絡ませた。


「アルっ」

数年越しに聞く愛おしい人の声。

隣にいるのは、彼女の父親と護衛、そして小さな女の子。

「スイリ・・・いやイリース公爵令嬢、お久しぶりでございます。シーナ公爵お初にお目にかかります。この度は、我が父が貴公に多大なるご迷惑をおかけしたこと、深くお詫び申し上げます。後日改めてその件でお詫びに伺わせていただきたく存じます」

言い終わると深々と頭を下げた。

下げた視線の先に、彼女の靴が見えた。

中々顔を上げない私に対し、強く私の両方を掴んで揺らす。

「どうして・・・」

「申し訳ございません。あの頃は名乗れませんでした。私の名前はアルフレッド・パルプと申します」

「・・・そんな事聞いてないわ!」

「・・・」

「なぜ・・・なぜ連絡一つよこしてくれなかったの?私は、あなたがいつか迎えに来てくれると信じて、ずっとずっと待っていたのよ・・・」

「すみません・・・」

「質問に答えて!!」

「・・・貴女は、幸せに暮らしていると聞きました。それに水を指すような連絡はできなかった。貴女を置いて行ってしまった私に、そんな資格がないと思ったからです」

「えっ?」

「実は一度、私の信頼する乳母兄弟に、貴方の様子を見に行かせました。手紙を持たせて・・・。ですが、彼は未開封の手紙を、そのまま持ち帰ってきました。貴女に手紙を受け取ってもらえなかったと。そして、そちらにいらっしゃるクルーバー男爵家で第二夫人として結婚し、子宝にも恵まれ幸せに暮らしているから、もう二度と連絡してこないでほしいと伝言を受け取ったと・・・。本当はその話を聞いたとき、すぐにでも貴女の元に駆け付け真意を問いたかった。ですが、貴女の居場所が父に知られることを恐れ、行けなかったのです」


そこまで伝えると、アルフレッドは当時の状況を話し始めた。

イリースと出会う少し前に、アルフレッドは領地から逃げ出していた。

それは、偶然、父親の実験に気づいたからだった。

目的はわからないが、材料と呼ばれている物がなんなのかは分かっていた。

得体のしれない父の姿と、漠然とした感じの将来。

自身の事を気に掛ける人などいない環境で、このまま操り人形の様に生きていく事に嫌気がさし、家出を敢行した。

宛もなく行きついた先が、何も特徴もないクローバー男爵家の領地だった。

元々植物好きという事もあり、また狩りも習得していたため森の暮らしは性に合った。

のんびり暮らしているところへ、ある日突然イリースが現れる。

一緒日暮らし始めると、コロコロ変わるその表情に癒され、心惹かれていった。

生きるという事は、ただ衣食住そろっていればいいというわけではない。

誰かと一緒にご飯を食べる事、誰か笑顔で微笑み合う事、そんな些細なことが必要なのだと気付かされた。

それに加え、自分にも『感情』と呼ばれるやつがあったのだと教えられた。

特別な思いを寄せれば、寄せるほど、森でイリースを生活させるのに気が引けていった。

町で生活するのは、自分の居場所が露見する確率が上がる。

けれど、イリースの為には、町で暮らした方がいいと考えて山を降りることにした。

日々の暮らしは大変だったが、見つかることなく穏やかに過ごしていた。


だが、それも突如終わりを迎える。


パルプ領にいた頃の乳母兄弟、リーフに何故か居場所がばれてしまった。

ある日、いつも通り出勤するとリーフが職場前に佇んでいた。

話があると言われついていくと、パルプ領の現状を聞かされる。

新規収入源ができた訳でもないのに、突如税率が突如上がり、民が苦しい生活を強いられていること。

領地では既に人口流出が始まっており、若い女性の身売りまで始まっている始末。

フォレスト国の陛下から、パルプ領の現状を見かねて跡取りのアフルレッドに戻ってくるように命令が出ているとのことだった。

今のままでは、近い将来領民が路頭に迷ってしまう。

公爵に立ち向かえる人材が必要で、それはアルフレッドしかいない。

だから戻ってきて欲しいと。


何度も、何度も訪ねてきた。

それでも首を縦に振らなかった。

それに加え、こんなに頻繁に来られると、父に居場所がバレてしまうからもう来ないでくれといい放った。

突如リーフから胸倉をつかまれ、拳をお見舞いされた。

呆然と座り込む私に対して、彼はこう言った。

「領民を見捨てるのか!お前がやっていることは、お前の父親と同じだ!」っと。


咄嗟に『違う』と出かけた言葉を呑み込む。


領民にとったら、父も自分も、身勝手そのものだ。

その地位についたら、その責務を負わなければならない。民を幸せに導く義務がある。

教科書でも習っていたそんな基礎的なことすら、忘れて各々好き勝手いている。


そう考えると、父と自分は同列。

あんな奴と一緒だと思うと、自分に吐き気がした。


貴族の最低限の義務すら果たせないような自分に、果たしてイリースを幸せにできるのだろうか?

ましてや自身の命を狙われている状況だ。

そもそも、幸せ以前の話ではなかろうか・・・。


イリースの隣で堂々と生きていきたい。


それには、領民の信頼と支持を得て、領地を安心して暮らせる場所にする必要がある。

公爵として認められたその時、初めてイリースと幸せになれるような気がした。

その下地作りをするのには、まず領地に帰らねばならない。

だが、危険な土地にイリースを連れて行くわけにもできず、かと言って理由を話す事もできず、ただ一言「必ず迎えにいくから」としか言うことができなかった。


パルプ公爵領についてからも、気になるのはイリースの事。

幸せに暮らしているのか、自身の目で確かめたいと思った。

だが、内偵している内に、父の標的はイリース公爵令嬢と判明した。資料に描かれていた似顔絵は、金髪水色の当初あった頃のスイリそのもの。

何かの間違いだと思いたくて、イリース公爵令嬢失踪日付を調査したところ、自身がスイリを助けた日付と同日。

そこで、スイリがイリース公爵令嬢と同一人物だと確信した。

それもあり、自身からスイリへの接触は絶対避けなければならないと暗い顔をしていると、見かねたリーフが様子を見に行ってくれる事になった。


待ちに待ったリーフの報告は、自身を絶望に突き落とした。


待っていてくれるだろうと思っていたイリースは、自身が離れてすぐ、別の者と結婚し、子供までいると・・・。

あまりの事に信じられず、今すぐ馬で駆け出しそうになる自身を止めたのは、リーフだった。


安易に接触して、彼女の居場所が公爵にばれてしまったら、彼女はきっと攫われてしまう。

お前が幸せにできなかった分、彼女にはこのまま幸せに暮らしてもらう事こそが、愛情何じゃないかっと・・・。

その意見にぐうの音もでなかった。

そんな思いを抱えて、イリースへの連絡は以後閉ざしたとのことであった。


そこまで聞くと、イリースは泣き崩れた。

「そんな・・・私を信じてくれなかったのね」

「・・・」

「私は、貴方をずっと待っていたわ。確かに、アイリとは幸せに暮らしていたわ。でも男爵様の家族としてでなく、奥様の一使用人としてよ。父の横にいるのは私の子、アイリ。この子の年齢はいくつだと思う?5歳よ」

「!!」

「貴方が居なくなって、男爵家に刺繍師として就職したその日に色々ね・・・。だから、この子がどちらの子なのかわからないし、男爵様と結婚してないわ。私が好きなのは、貴方だけだから・・・」

アイリも首を縦に振る。

「で、では!」

「えぇ、あなたの子の可能性もあるの。証明する手立ては・・・あの子の薬が切れた時、髪の色が金髪以外だったらわかるわ。貴方は銀髪で男爵は茶色だもの」


アルフレッドはアイリに視線を向ける。

イリースに瓜二つ。

髪色を変える秘薬は、パルプ家当主しか存在を知らされておらず、かつ調合方法も門外不出だ。 当然過去女性に秘薬を飲ませた記録がなく、飲んだものが妊娠した場合などの文献は一切ない。

子に影響が出るなど、誰も分からない。

そんな物を後先考えずに、飲ませてしまった自分に責任を感じる。


「すまなかった・・・私はなんて愚かな事を・・・」

項垂れるアルフレッドを見て、イリースは優しく慰めた。

「・・・きっとリーフさんは、本当に貴方にパルプ領を救って欲しかったのでしょう。だから、邪魔な存在の私達を貴方から切り離したんだと思います。今、貴方の誤解が溶けたならそれでもういいわ」

「やつの事を赦してくれるのか?」

「えぇ・・・私利私欲の為ではなく、貴方の家臣として領地の為を思って行った事だと思いますわ。貴族の責務から逃げた私に、彼を批判する事はできません」

「・・・ありがとう」

「でも、お会いする事があったらデコピン位はさせて貰う予定よ」

そう言うとイリースは、クスクスと笑った。

アルフレッドも釣られて笑う。

その寛容な心と優しに触れ、心に秘めていた思いが口をついてでた。

「・・・イリース様、あの時からずっと貴女の事を愛しています。貴女の隣に居ることが、私の幸せであり、生きる喜びです。どうか私と結婚してくれませんか?」


少し和んでた空気が、一気に重くなる。

「・・・気持ちはとても嬉しいわ。でも、私は世間から見たら、他人から見ると一度結婚してたように見えます。アルの身分が公爵なら、今の私はその座に相応しくないわ」

「そんなの関係ない!私は、イリース、貴女と結婚できないならば、一生涯独身でいるつもりだった。全て解決したら、養子をとってこの座を継がせる予定を立てていた。私の妻は、一生涯貴女ただひとりだ」

アルフレッドはそのままイリースを抱きしめた。

「でも、私にはアイリがいます。愛しいあの子と絶対離れません」

「何を言ってるんですか?貴女の子供であれば、例え血がつながって無くても、私の子供です。一緒に連れていく予定です」

更にイリースの耳元に口を寄せ、低く囁く。

「今度は何があっても離しません。愛してます」

「・・・私も愛してるわ、アル。ずっと貴方の隣に置いてください」


こうして、二人の想いは遂に成就した。

周りにいる人達の事を忘れ、あつい口吻を交わした。


勿論アイリもワクワクしながら、ずっと様子を見守っていた。

だが、途中恋愛パートと思わしき部分に入った頃から、ロイに耳を塞がれ、祖父に目を塞がれる。

子供への配慮であったが、アイリの中身は17才。

今迄追ってきた一読者として、ハッピーエンドの様子がうかがいしれないのは、大いに不満があった。

(美男美女の生ラブシーンが!!)

後に、その日はあまりに悔しすぎて、寝れなかったと語る寝癖ピンピンのアイリがいたとか、居なかったとか・・・。

何時も読んで頂き、ありがとうございます!

次の更新は金曜日になります。

宜しくお願いします。

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