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65.恋は人を狂わせます!

沸騰直前のお湯のようなボコボコという音が、不規則に聞こえる。

崩れ落ちた体は、自ら支えることもできなくただ床にとどまる。

僅かに零れ落ちる苦しそうな呼吸音が、広間に響いた。


シーナ公爵は、直ぐに兵士に医者を呼びに行くよう命令を出すが現パルプ公爵に止められた。

「不要です」

「しかし、ここで死なれては我が国としては困ります」

「大丈夫です、そこは私が我が国王に報告します。それに・・・もう助かりませんよ・・・」

そう伝えると、現パルプ公爵は父親の傍に片膝をつき、周囲にこぼれた赤い実を手袋越しに拾う。


「鈴蘭の実・・・か。父上、もうすべて話してください」

「・・・」

「貴方の息子からの最後のお願いです」

そう言うと頭を下げた。

パルプ公爵は、息子の顔を間近で凝視する。

見慣れたその顔は、よく鏡で見ていたもの・・・若い頃の自分にそっくりだ。

違うのは纏う雰囲気。


そして、瞳の奥に見え隠れする悲し気な感情・・・。


(公爵としては、まだまだだな)


自分の事を棚に上げ、公の場で見せる息子の態度を冷静に評する。

思い返すと、息子が産まれてから、現在にいたるまで息子に興味を持ったことがなかった。

どんな性格なのか、誰似なのかさえもどうでもよかった。

噂で私の若い頃にそっくりだと聞いていたが、本当に親子と人目でわかるほど瓜二つ。

執事から時折息子の成績や素行について報告はもらっていたが、それすら関心がなかった。

記憶の蓋をこじ開けると、息子が幼かった頃に何度か「父上」と嬉しそうに呼びかけられた記憶が蘇ってきた。

だが、何一つ返事を返さない内にそれすらも呼ばないような、会話の一つすらない関係になっていた。


そんな息子との初めてのまともな会話が『今』だった。


そう思うと、ふと最後くらいは息子の望みを叶えてやりたい気がした。

どうせ自分はあと少しでこの世から旅立つ。

置き土産だ。


「私はメイリー・シーナ様をお慕いしてたんだ・・シーナ公爵よりもずっと前からな・・」

苦しい呼吸の間とぎれとぎれ話す。

若かりし頃、勉強の合間に訪れた避暑地で、彼女と偶然湖の畔で出会い、一瞬で恋に落ちた。

滞在期間一ヶ月の間、毎日、毎日湖の畔に出かけては、彼女を探した。

今迄、植物にしか興味を持たなかったが、彼女のくるくると変わる表情に初めて心を動かされた。


逢えば会うほどに、心を奪われていく。

彼女の家の身分は男爵であったが、幸い彼女はフォレスト国では幸せの象徴とされている、緑の瞳の持ち主だった。

身分が低くても、緑の瞳さえ持って生まれれば、国母にもなれるほどというくらい貴重な色。

(彼女と結婚できる!)

そう思い込んだ元パルプ公爵は、避暑地から帰還後、両親に彼女のことを話した。

自分が植物以外で、初めて興味を持った人と結婚したいと・・・。

だが、パルプ公爵は産まれた時から婚約者が決められていた。

今更婚約破棄などできないと、バッサリとその思いは切り捨てられた。

政略結婚にいままで不満を覚えるなど、馬鹿げてると思っていたが、心がざわめいた。


そんな折、彼女とシーナ公爵が恋仲になり結婚すると言う噂。

絶望が襲う。


どうしても諦めきれなかった。

だが、諦めざるを得なかった。

仕方無しに、心に蓋をしそのまま親に決められた妻を迎え、研究所に籠もって実験を繰り返す日々。


数年後、彼女が亡くなったという話を耳にする。

更に彼女そっくりの娘がいるという事も・・・。

それを聞いてから、その娘が欲しくなった。

年の差や倫理感等どうでもいい。

ただ、ただ、どうしようもなく、手に入れたくなった。

メイリーの娘なら、メイリーに変えてしまえればいいのではないと考えた。

部下に手に入れさせた、似顔絵を見ると、瞳の色が、水色以外彼女にそっくりだった。

この色は、自分から彼女を攫ったシーナ公爵の色・・・。

そう思うと、どす黒い感情が溢れ出し、瞳の色を絶対変えてやろうと考えた。

幸い、秘伝の髪を変える薬の作り方はしっている。

応用すれば、瞳の色を変えれるだろうと思っていたが、簡単にはいかなかった。

そもそも、緑の瞳の持ち主はなかなかいない。

仕方ないため、水色と黄色の瞳の子を集め始め、最初は涙をとり材料として使っていた。

だが、うまくいかなかった。


そんな折、脱走者がでる。

脱走したのは、15歳位の黄色の瞳の女の子だった。

賃金の良い仕事があると、誘われ応募したものの、牢屋に入れられ、来る日も来る日も鞭で打たれる。

出た涙は、何故か回収される。気持ち悪いところだった。

自由が欲しくて、隙を見て脱走するも、即時殺されてしまった。

そんな哀れな少女の遺体をみた時、公爵はふとその者瞳を、材料にすることを思いついた。


涙が駄目なら現物でと・・・。


そして、同じく捕らえている水色の瞳の子に秘薬をのませた。

すると、たちまち瞳の色に変化が現れた。


実験は成功だ!


歓喜にわく公爵は、満足げに檻の中を見つめた。

後は、色を調合すればいい。

人の道を外した瞬間だった。

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