64.パルプ公爵の正体!
馬車は王都に着いたというのに、速度を落とさず街を走り抜ける。
始めた城下町をゆっくり眺める暇もなく、あっという間に遠ざかっていく。
暫くたつと堅牢な城壁が見えてきた。
すると馬車はゆっくりと速度を落とし始める。
制服をきっちりと着込んだ門番のチェックを終え、ようやく城内へ入った。
遠方に見えるのは、前世の教科書でしか見たことのないような中世のお城。
門をくぐって暫く経つはずなのに、一向につかなそうなエントランス。
クローバー男爵やマム伯爵の屋敷とは格も規模も桁違いの景色に、アイリはただ、ただ、圧倒される。
緊張をほぐすために、目線を少し下に落としてみる。
城内にはいってから急に速度を落とした馬車からは、満開のクリスマスローズがよく見えた。
不安を取り除いてくれるような、少し丸みを帯びた花弁。
豪華すぎない可憐さが、どこか安心感をもたらしてくれた。
隣にはアイリの緊張をほぐそう手を握ってくれる母。
正面には頼りになる祖父。
その隣には、ウィンクしてくるクマのようなロイ。
(そう、私にはこんなに頼れる人が沢山いるから、大丈夫、大丈夫)
落ち着きを取り戻して、再度ゆっくり庭を眺める。
雪化粧の様にあたり一帯を白に染め上げる美しい花を、心から堪能していると不意に馬車が止まった。
城の使用人が心得ているようにさっと扉を開けた。
それを合図とし、馬車から降りた。
左右に使用人たちが揃い、お出迎え。
まるで映画のワンシーンみたいな光景。
改めてシーナ公爵の『公爵』という地位の高さを感じる。
その隣に立つ母のロイも傅かれ慣れているのか、それに動じたりしない。
ただ、アイリ一人戸惑う。
そんなアイリの動揺もお見通しなのか、母は前を見つつもしっかりとアイリの手を握る。
一人の執事と思わしき人物が、シーナ公爵に近づいてきた。
申し訳無さそうに、早急に陛下のいる広間へ向かってほしいと言付けを伝えてきた。
シーナ公爵は快諾し、一同着の身着のまま、赤い絨毯を踏みしめながら陛下がいると伝えられた広間へ向かった。
広間につくと、既に行く人の関係者が集まっていた。
クローバー男爵夫妻の姿もそこにあった。
どうやら、男爵領に着いた途端すぐ王城へ招集されてきたようだった。
男爵夫妻はイリースの姿を見ると、明らかにうろたえていた。
話自体は聞かされ理解していたが、まさか本当にスイリが公爵令嬢だったとはというところだろう。
二人共顔面蒼白担ってしまっていた。
(奥様には本当よくしていただいたのに・・・申し訳ないわ)
そんな二人を見て、イリースは詫びの気持ちを込め会釈をした。
通常身分の高い物から低い者へ先に挨拶等はしない。
これがイリースが今できる謝罪だった。
二人は下げられた頭を見た途端、驚き目を開いた、それと伴にホッと安心したように見えた。
そしてあちらも頭を下げてきた。
一瞬のやり取りを終え今度こそ前を見る。
丁度、陛下が広間の奥の間の扉を開け、上壇にある椅子へ座った。
広間にいた一同、即座に膝をつき頭を下げる。
「皆の者ご苦労だった。顔をあげなさい」
その言葉を合図に、広間にいたクローバー男爵夫妻、シーナ公爵、ロイ、イリース、アイリが立ち上がった。
そのタイミングで広間の扉が開かれ、縄で拘束されたパルプ公爵が連れてこられていた。
公爵もアイリ達と同様の日程できたため、酷く疲れ果てた様子だった。
その姿と対照的な陛下は、朗らかに言い放つ。
「パルプ公爵、ちっといたずらがすぎるんじゃないか」
「申し訳ございません」
「貴公が純粋にお祝いに来てくれたと、わしは思っていたのに目的が花を手折る事とはな」
「・・・・如何様にご処分ください」
「はははっ、言い訳はせぬか」
「はい」
「お主は国の事は考えないのか?これは国際問題だぞ」
「私は国政に携わっておりませんので・・・」
「フォレス国もおわっとるな、こんな奴が公爵の位置にいるとは・・・でもな、お主もう公爵でもなんでもないぞ。だから国際問題にならぬ。一回の平民がおこなったことだからな」
「?!」
「兄上・・・っ陛下一体どういうことですか?」
「おぉ、ハリーこやつが公爵だったのは、建国記念パーティーの日までだったそうだ。そうでしょう現パルプ公爵よ」
そう言うと、陛下の呼びかけに答えローブを被った男性が皆の集まる中央部分に近づいてきた。
さらりとローブを下すと、美しい銀髪の髪、黒い瞳の人物が現れた。
「はい、この者はもう公爵でもなんでのございません。我が国でも正式に爵位をはく奪されており一回の平民にすぎません」
その者の顔を見るなり、パルプ公爵は驚きに目を見張る。
「お・・・おまえは!!」
「お久しぶりです、父上。爵位は私が受け継いだ。勿論フォレス国王の承認も得てる」
「そんな嘘を言っても無駄だ。簡単に爵位ははく奪されない」
「そんなことわかってる。だが、犯罪を犯してたら別だろ。ここ数年尻尾をださないから、時間がかかってしまった。父上、貴方はフォレスト国にて誘拐及び女性拉致監禁で刑が確定している」
「はっ、何のことだ」
「とぼけても無駄だ。そこにいるイリース様の瞳を変えた方法を私が知らないとでも思ってるのか?貴方の書斎、研究所すべて調べた・・・地下の奥もな」
「・・・っ」
現パルプ公爵がそこまで告げると、パルプ公爵は歯を食いしばった。
何かパキッと割れる音が聞こえたと思うと、パルプ公爵は前かがみに倒れていった。
絨毯には赤い実が転がっていた。




