62.合流します!
闘争が繰り広げられた港は、至る所に樽の破片や割れた皿が落ちていた。
このままでは出航できないと、船着き場関係者は、慌てて片付け始める。
その傍ら、戦闘に加わった者は興奮そのままに酒場に繰りだす。
片手に酒を持ちつつ、役者さながら先ほどの出来事を語る。
娯楽の少ない周辺住民も、乱闘話目当てで、我先にと酒場に集まりだす。
そこに目を付けた吟遊詩人が、さっそくおひねり目当てで歌う。
その美しい調べに釣られて、女性陣もやってくる。
現場は、すでにお祭り騒ぎとなっていた。
そこへ現れたのは豪華絢爛の一台の馬車。
それはシーナ公爵から話を聞いた執事が手配したものだった。
アイリ、イリース、ロイは馬車に乗り込む。
「タキも乗って」
アイリは声をかけるが、タキは首を横に振った。
「俺は行かない。ヨル一人残しているし心配だ」
「じゃぁ、ヨルも一緒に!」
「それはダメだ。俺たちは孤児だ・・・迷惑だろ」
「私の方が迷惑いっぱいかけたじゃない!」
「いいんだよ、俺が勝手にやっただけだ。それより、母ちゃんと逢えてよかったな」
そう言い残すと片手をあげ去っていった。
黒月はというと、ロイにアイリ達を引き合わせた後、どこかへ消えてしまった。
こうして、三人でマム領主の屋敷に向かった。
屋敷に着くと、すぐさまシーナ公爵と対面する。
先ほどの件もあり、公爵とイリースのわだかまりはすでに解けていた。
お互い歩み寄ると、抱きしめる。
「お父様・・・」
「すまなかった」
「いいえ、いいえ、私こそ申し訳ございません・・・」
今度こそ涙の再開となった。
二人積もる話もあるだろうと、アイリとロイはその場を辞した。
夕食の時間帯になり、各々食卓へ集まる。
今日あった出来事から今後のことまで話しあう。
「今パルプ公爵は、この屋敷の地下牢にいる」
「そうなのですか」
「あぁ、だがすでに王城へ本件の事案を申しあててある。すでに王からは王城へとパルプ公爵をつくれてくるよう命を受けている。明日早々にたつ、お前たちも一緒にきてもらう」
「かしこまりましたわ」
「マム伯爵達は、明日こちらへ着くとのことだから挨拶してからすぐ出発する」
「ハリー、部下達も明日にはこちらに到着すると連絡があった」
「そうか」
「残党がいないとは限らないからな、クローバー男爵領を出立する際に既に部下達に来るように伝えておいた。俺らがパルプ公爵を護送したほうが安心だろ」
「そうだな」
明日の予定がひと段落したタイミングで、アイリは口を開いた。
「おじいちゃん、今回途中で黙っていなくなってしまいごめんなさい。」
「ああ・・・心配した」
「キョロキョロしながら進んでいたら、はぐれてしまって・・あたりを探してもおじいちゃん達をみつけられませんでした」
「そうか」
公爵は視線をアイリに向ける。
アイリも正面から視線を受け止めると、何があったか話し始めた。
祖父達とはぐれた後、孤児の少年に出会う。
彼らがわが身を顧みず、母奪還を手伝ってくれた。
途中まで順調だったが、そのあと黒月に捕まってしまったこと。
黒月と交渉して、地下にとらわれていた女性たちを逃がしたうえで、パルプ公爵が捕まえたことを捏造して周りのやじ馬たちを扇動したこと。
もし扇動した女性が捕まることがあれば、自分のせいにしてほしいと頼み込む。
アイリが話し終えると、静まり返る食卓にすすり泣く声が響く。
隣に座っているイリースからだった。
自身が捕まったせいで、アイリが危険な目にあったことに自責の念に駆られていた。
「ママ・・・泣かないで」
「私のせいでアイリちゃんが危険な目に!」
「違うよ、私が勝手に行動したの。ママを絶対失いたくなかったから!」
「でも・・・」
「そもそも、捕まったのはママのせいじゃないでしょ!」
「だって・・・」
『でも』『だって』のキリがない会話をぶった切るように遮ったのはロイだった。
「いやぁ~アイリちゃん扇動作戦とは策士だな!さすがハリーの孫」
「ロイさん!!」
ロイの茶化すような声音に、イリースは感情的になる。
「イリースちゃん、だってそうだろ?わずか5歳でこれを思いつくんだから、本当ハリーそっくりだぜ。な、ハリー」
「あぁ、助かったことは事実だが、今後危険なことはするな。あと孤児二人についてはうちで引き取るから安心しなさい」
「!!、ありがとうございます」
アイリが口を開いたのは、タキとヨルの引き取りをお願いするためだった。
その目的がかなえられそうで、ホッとする。
命を懸けるような手伝いをさせておいて、あのまま別れるのは気が引けていた。
このまま離れるには、後ろ髪が引かれてならなかった。
心残りだったこともなくなり、アイリは心底安心した。
安心すると、疲れがどっと押し寄せた。
食事中というのにウトウトし始め、とうとう更に激突しそうになるもイリースが間一髪でアイリの体を引き寄せた。
「こういうところは、まだまだ可愛い子供なのよね」
「本当だな」
イリースと公爵はクスっと笑い夕食の時を切り上げたのだった。




