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61.アイリの作戦がはじまります!

一方その頃、アイリは母の腕の中にいた。

久しぶりに感じる温もりに、張っていた気が緩む。

不安だった感情が、涙となり次から次へと外へ押し出されていく。

そんなアイリを母は両腕でしっかりと抱きしめる。

もう離さないとばかりに、その腕からヒシヒシと伝わってきた。


少し離れた位置で、ロイとタキは静かに二人を見守っていた。

−−−−−−−−

少し時を遡る。


階下で繰り広げられる乱闘を見たアイリは、黒月に力を貸してほしいとお願いする。

だが、助けたところで自分には利益がないからと、無下に断られてしまった。

祖父と母の知り合いのくせに、無慈悲な態度に思わず、『助けられる力を持っていながら、何で助けてくれないの!』という言葉が喉まででかける。

それを、手を握り込む事で必死に抑える。

やり場のない思いと比例するように、爪が皮膚に食い込み、うっすら血が滲みでる。

それさえも、目の前の黒月は面白そうに見てくる。


(私だって、本当はこんな天邪鬼な人にお願いなんてしたくないわよ!)


少し前までは、子供の力でもなんとかできるのではないかと僅かな希望を抱いていた。

実際この世界に転生してからも、周りの力を借りながらも自力で解決してきた部分も多かった。

それで『自分で全部なんとかできる』と自信をつけてきた。


しかし、それは過信に過ぎなかった。


普段の生活なら、それで解決できる部分が多かった。

だが、今回は状況が全く違う。

それなのに、自分ならできると勘違いしてしまった。

途中から勝手に離れて行動した挙句、関係ないタキまで巻き込んでしまった。

結局行動してみるとあっさり黒月に捕まり、このザマ・・・。


子供二人だけの力で、この大きな事態を変えるのは無理だと捕まってから悟った。


黒月に感情論は通用しない。

寧ろ面白がるだけで、動いてはくれないだろうと短い間彼を見てきて思う。

彼を動かすには、魅力的な『対価』が必須。

逆に言えば『対価』さえあれば、動いてもらえる。


そう考えると、天はアイリの味方をしてくれていた。


偶然、こんな人と出会うなど稀だ。

この土地に詳しくかつ顔が広い、加えて情報通。

それだけならば、そこらへんにもいる条件だが、それに加えて祖父と母との知り合いということから、普通の経歴では無いことは確かだ。

黒月さえ味方につければ、この戦況の均衡を崩せる・・・・ジョーカー的存在。


アイリはこのチャンスを逃したくなかった。

『対価』に値するようなものを必死に考える。

金銭で解決できるなら、祖父の力を借りれば簡単なのが、黒月にそれは要らないと牽制されている。


(お金でないとすると、この人の心を動かすような物・・・何かあるかな・・・この指輪とか?)


首元にぶら下げている指輪を通した紐を触る。

でも、なんだか違う気がする。


自分の直感を信じ、今までの黒月の言動を考査する。

短い時間だが、彼は目の前で起きていることを面白がっていた。

特に誰かの感情が動かされている時は、その感情がどういうたぐいのもので在れ、口の端をほころばせていた。

相手の感情がでればでるほど、面白さを感じているようだった。

その口調からまるで、テレビドラマをみているようなそんな印象を覚えた。

先ほども階下の騒動を<エンタメ>と呼んでいたことから、アイリはココに黒月を動かせるヒントがあると考えた。


そこで、前世のエンタメを思い出す。

これをテレビドラマだとすると、今はシリアスな流れからの戦闘シーンだ。

状況は辛うじて拮抗しているが、数的には祖父側が圧倒的に不利だった。

恐らくこの状態は長く持たない。

最終的に数で圧されて負け、母が連れ去られる展開がまっている。

創作ものであれば、ここでこのまま敵の勝利としたら、単にシリアスな話で思ってしまう。

面白味がまったくない。


では、どうすれば面白くなるか?

そう、ちゃぶ台返しだ。


使えるキャストを考えると、自然に目につくのは周りの野次馬。

彼らを扇動することができれば、きっと滅茶苦茶な状況になるだろう。


(あとは、扇動するきっかけのストーリーのみ・・・)


何がきっかけはないかと、思考を巡らせる。

すると、脳裏に先程船乗り場の地下でみた女性達の姿が蘇る。


前世で読み漁ってきた小説では、囚われの女性達はたいてい攫われてきた設定だった。

事実もわからないし、調べる時間もない。

ただ檻に閉じ込められていたことから、彼女たちは望んでその場にいるとは思えなかった。

そう考えると、彼女達を助ける際に、黒幕を『白髪の男性』と吹き込み、奴隷として売り飛ばされると逃がす代わりに階下の現場で叫んでもらうようにお願いすれば、やじ馬たちを上手く誘導することができるはず・・・。

白髪の男性といったところで、だれも『パルプ公爵』と入っていないのだから、女性たちは罪に問われることはないだろう。


例え、監禁女性たちが、そのことで捕まるようなことがあったら、アイリが名乗り出ればいい。

所詮子供勘違い、そんなに叱責されることはないだろう。

自身のバックにこの国最強の宰相もついている。

状況的にも情状酌量を狙える。


(これだ!!)


アイリは心を決めて、黒月に「黒月さん、もっと面白いイベント見てみたくないですか?」そう声をかけたのだった。


作戦を聞いた黒月の行動は早かった。

アイリとタキを連れ、さっと宿屋を後にする。

そのまま、堂々と乗船乗り場までやってくると地下へと向かう。

顔パスなのか、誰に止められることなくそのまま牢の前までやってきた。

牢の中には、アイリ達が見た人はおらずいくつかの箱が置いてあった。

黒月は、顔見知りなのか、牢屋の番人に宿屋で買った差し入れを差しだした。


「おぉ、いつもありがとな!珍しいなこんな時間にくるなんて」

「その荷の主人からの言付けを伝えに来ました。早々に船に移すようにだそうです」

「そうなのか?」

「実は・・・地上で今曲者が主人に戦闘を挑んでいます。兵士たちも一緒に戦っているのですが、戦況が悪くて一刻も早く船に乗り込んで出発したいそうですよ」

「そうなのか?!主人の兵士たちは手練れなのに、苦戦するとはすごいな。でも、箱重いから運ぶの時間かかるんだぜ・・・」

「そうなんですね。だったら箱から出して連れて行けばいいんですよ。現場混乱しているからだれも気にとめないですよ」

「でもなぁ・・・逃げ出されたら困る」

「手枷嵌めてるんでしょ?それ鎖でつなげていけばにげれませんよ。それに今すぐにでも出航するといってましたよ」

「まじか・・・まぁ、お前さんが言うならばその通りにした方がよさそうだ」

牢屋の番人は、懐から鍵の束をを取り出した。

「手伝います。小間使いもつれてきたので、手分けして箱を開けましょう」

こうして、4人で箱の施錠を解除しはじめる。


黒月は巧みに牢屋の番人と会話しながら、箱を開けていく。

その傍らアイリとタキは渡された鍵で、ガチャリと箱を開ける。

中にいたのは、体育座りにさせられた女性たちが3人ほどギュウギュウ詰でいれられていた。

全員布で口枷をされており、手枷を嵌められていた。

箱から出る際に手を貸すふりをしつつ、口枷を緩め彼女らの耳元で黒幕と作戦を囁く。


女性たちは目を大きく見開き、力強く頷いてくれたのだった。


箱から出された女性は全員で12人。

その人たちを等間隔で用意された鎖に手枷の鎖をひっかけていく。

先頭の6人の鎖は、牢屋の番人がつなぎ、作戦を告げた6人の鎖は黒月がつけたふりをする。


こうして、冒頭の扇動作戦が実行されることになったのであった。

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