53.追跡を開始します!
地面には霜が降り、辺り一帯を白く染めていた。
誰もまだ起きていない道を、二頭の馬がテンポよくそれを踏みつけていく。
サクサクという音だけが、余韻を残して響き渡る。
先頭を走るのは公爵の馬。
ロイとアイリが同乗している馬はそのあとに続く。
アイリは乗馬ができないため、ロイの背中におんぶで括り付けられいた。
ロイとくっついているお蔭で、接する面は温かく、彼の広い背中が風よけになってくれていた。
それでも早朝の凍てつく寒さが襲う。
だが、アイリはそれで構わなかった。
この寒さは、一時の事だと知っていた。
本当の寒さは、母がずっといないこと。
手が赤切れになろうと、まつげが凍ろうともどうでもよかった。
当初公爵はアイリのために馬車移動を計画していた。
既に主要の国境には鳩を飛ばし警備を厳重にしている。
早速少しでも怪しい素振りをした者を、片っ端から検問にかけ始めていた。
だが、その首謀者と思われる人物は、フォレス国の公爵。
建国の祝いに来た公爵を不確定要素の段階で、取り調べるという事は不可能に近い。
国際問題になってしまう。
このため、公爵は最初からこの国でとらえられる可能性をあきらめ、相手国に乗り込むつもりでいた。
そのため、フォレス国とシーナ領の国境に隠密用の準備を整えていた。
その話を公爵はしたが、アイリは譲らなかった。
急げば母をメール国内で助け出せるかもしれないのに、やらないうちに正攻法をあきらめて、二番煎じだけを実行する気なのかと・・・。
少しでもメール国内で母を救い出せる可能性が残されているならば、そこに賭けたほうがいい。
自身は荷物の様に連れて行ってくれるだけでいい。
だから、騎乗で行きたいと話したのであった。
その話を聞き、公爵はアイリの思いを汲むことにしたのだった。
男爵家の執事が門番に予め通達してくれていたおかげで、公爵の馬影が見えた瞬間さっと開門された。
一同は、パルプ公爵の留しているマム伯爵領へと向かう。
マム伯爵領は、クローバー男爵領の右隣りにあり、かつ港を保有する領地であった。
かの地から直通でフォレスト国へ行ける航路はなく、ザード国への航路のみ存在していた。
ただ、ザード国へついてしまうと、そこからフォレスト国への航路も陸路も存在している。
ここを取り逃すと非常厄介だった。
ウィルからもたらされた伝言にパルプ公爵が『希少な花を手折りに行く・・・』と言っていたと記載があったからだった。
通常シーナ領とパルプ領は国境を境にするため、そこを通って自国へかけったほうがスムーズなのは明らかだった。
単純に考えると、そこを見張っていればいい。
だが、妙にその言葉だけが、アイリも公爵も引っかかった。
相手は腐っても公爵。
シーナ公爵がイリースの行方を知らないとすでに把握しているだろう。
それを前提とすると、行方不明の娘がこのタイミングで誘拐されたなど、露程知らず、他国の公爵家を安易に取り調べることもできないため、国境の警備も軽々流し、連れ出すのは簡単だ。
しかし、万が一パルプ公爵はシーナ公爵もイリースの行方をすでに把握していると考えたら・・・さらに、娘が行方不明になったら、万全の準備をもって国境を強化してくるに違いないと予測しているだろう。
そうなると、違うルートを考えるかもしれない。
目眩ましの罠かもしれない。
だが、公爵とアイリは自分達の直感を信じることにした。
公爵は、シーナ領の信頼できる部下に検問を任せ、自分達はマム伯爵領へ向う。
今できることは、手綱を握りしめ一刻も早くマム領地へと向かう事だ。
部下からの知らせでは、パルプ公爵は建国パーティーで国王と言葉を交わした後、すぐにパーティーを後にしたとのことだった。
そこで、公爵はパーティー嫌いのパルプ公爵がわざわざ他国の建国パーティーに参加した目的を察した。
十中八九、その場で正式にマム伯爵領への滞在許可を国王から得るためだったのだろう・・・。
マム伯爵たちは恐らくパルプ公爵の滞在予定を知らされていないはずだ。
通常他国の皇族に近しい身分の者が訪問する場合は、宰相の耳に知らせが入るようになっている。
今回、少なくとも自身の耳にはその知らせが入ってこなかった。
唐突の思い付きのように、国王にその場で提案した形にしたのだろう。
或いは、マム伯爵が私に意図的に隠したか・・・。
だが、マム伯爵夫妻も建国パーティーに参加しており、ゆっくりと馬車で帰っているという話も聞き及んでいる。
おそらく、パルプ公爵の来訪を未だに知らないのだろうと察せられた。
事実として、パルプ公爵がマム伯爵領に馬車ではなく騎乗で向かったと知らせが入っている。
ということは、すでにマム伯爵領に滞在している可能性が非常に高かった。
公爵の優れた乗馬術と地図の読み込みによって、最短ルートでいくつもの村を駆け抜けていく。
日が暮れるころには、無事にマム伯爵領地に到着した。
シーナ公爵とバレると面倒になるため、予め用意していた偽造の身分証明書を提示し、領内に入り込む。
馬のための休憩は何度かあったが、基本的にほぼ休憩なしで走り続けてきたが、公爵とロイからは疲労がみてとれなかった。
片やアイリはおぶさっていただけだが、常に揺さぶり続けられるため、疲労困憊であった。
途中休憩でも馬酔いを発症しておっり、碌に食べれず、水分もあまりとれない様になっていた。
(私・・・足手まといだ・・・)
落ち込もうとすると、馬からの上下の揺れが襲ってくるため、結局落ち込み過ぎる気力もなく、ぐったりとした様子で宿屋に到着した。
部屋に入りベットに横になるとすぐに寝落ちしてしまうのであった。




