49.祖父と孫の最強タッグ!
アイリはジッと公爵を見つめた。
海の深さを思い出させるような暗い水色の瞳。
髪の色は金髪というより、白銀と呼ぶにふさわしい色合い。
母から聞いていた感じと少し異なる印象。
顔は確かに無表情であったが、その瞳にどこかアイリを案じているような気配を感じる。
初対面だがどこか前世の父に通じるような・・・そんな優しさを感じ取った。
両脇で持ち上げられた状態がしばらく続いた。
どれぐらい時間が経ったかわからないが、公爵はなぜか動かない。
(ちょっと・・・そろそろおろしてくれないかな・・・・)
アイリが念を込めて、再度ジッと訴えてみると、公爵ははっと気が付き、ようやくそっとアイリを床に下した。
「・・・おはよう」
「おはようございます」
「食事の準備ができている」
それだけ言うと、部屋の片隅に待機していた執事がさっと温かい紅茶を入れ始めた。
そこまできて、アイリはハタと周囲を見渡した。
部屋は落ち着いた色合いで構成されており、天蓋付きベットにフカフカそうなソファ。
卓上テーブルには、すでに朝食用のお皿や料理が並べられていた。
昨晩から食べていなかったアイリの腹時計は、食べ物を見た瞬間主張をし始めた。
鳴りやまないグーグー音に、思わず顔を赤らめる。
公爵はアイリの盛大な腹時計に驚き、一瞬くすっと口元をほころばせた。
こうして、二人は向かい合って朝食をとることとなった。
テーブルの真ん中には、見るからにおいしそうなフワフワのバターロール。
冬場にも関わらず、とれたて新鮮な野菜サラダ。
濃厚卵のオムレツに、こんがり焼き目のついたウィンナー。
経った今注がれたばかり紅茶。
普段質素な食事のアイリには、どれもがご馳走に思えた。
食事の挨拶を終え、さっそく食べ始める。
見た目通り、どれも素材の本来の味を引き立てており美味しい。
バターロールも一口分千切って口の中にいれると、フワフワ。
薄切りにしないと、固くて食べれないなんてことはなかった。
冬になってから、口に入れるすらできなかったシャキシャキサラダ。
フレンチドレッシングのさっぱりした味と相まって、フレッシュさが引き立っていた。
そして卵がたっぷり使われた、オムレツ。
アイリが作るオムレツはアーモンドミルクでかさ増ししてたため、卵感少なめであっさりしていたが、純度100%の卵オンリーのオムレツは、味が全然違った。
最後にこんがり焼けたウィンナー、歯でウィンナーをかみ切ると溢れる肉汁と久しぶり過ぎる肉の味。
あまりのおいしさに、いつも通り「ママ、美味しいね!」と顔を上げて正面を向く。
そこにいたのは公爵だった。
「あっ・・・ごめんなさい」
アイリは直ぐに俯いた。
自身が作った料理は、材料はほぼ野生の物、素人が四苦八苦した料理に過ぎない。
片や目の前に広がる料理は、材料も調理師もすべてプロが作ったもの。
だけれど、アイリは母と一緒に食べた自身が作った朝食の方が百倍も美味しいと感じた。
そう思うと、これらの料理が砂を食べているように思えてきてしまい、アイリはそのままフォークを置いた。
「・・・どうした」
「すいません、お腹いっぱいです・・・」
「そうか」
「・・・」
「母親を探しに行かないつもりか」
「?!」
「食事を抜くとは、そういうことだ」
「そんなことはないです!でも、私はただの5歳児です!何ができるって言うのです」
アイリはキツク公爵を睨みつけた。
その視線を受け止めながら、公爵はアイリを諭す。
「では食べなさい、アイリにしかできないこともある。我々はこれからイーリスを探し出しにいくのだろ・・・お腹がへってたら頭も回らない、行動もできないぞ」
「私にも・・・できることがあるの・・?」
「ある。アイリ知らないかもしれないが、私は宰相だ。この国一の頭脳をもっている」
真顔でそんなことをのさばった公爵。
冗談なのかそれとも本気なのか、アイリはよくわからなかった。
だが、その瞬間アイリの目に闘志が宿った。
どこの誰が母をさらったかわからないが、必ず母を探し出して助け出す。
公爵の言う通り、自身の味方にはこの最強の宰相がいるのだ。
財力も頭脳も、母への愛情もすべてそろっている。
自身も、5歳児にしてはきっと天才の部類。
前世でも頭はそこそこ切れる方。
この世界の読み書きはまだまだだけど、役に立つかわからないが理数系なら前世の方が進んでいるはず。
それに前世ではこっそり推理小説を読んでいた。
犯人のパターンも学習してきたととらえれば、私こそが母を助けるキーマンになるかもしれない。
こうして変な自信を取り戻したアイリは、その後朝食を綺麗に完食したのであった。




