45.やっと見つけた!
煌びやかな広間の間を縫うように、ウィルは会場内で最も目立つ場所へ向かった。
ウィルは目的の場所へ着くと、片膝をつき陛下へ挨拶をする。
陛下と軽く挨拶した後に、父に視線を向けた。
宰相を担っている父は、陛下の出席されるパーティの際は、常に陛下の側で控えているため、父を探すことは簡単であった。
父は息子から視線を向けられ、陛下に断りを入れ席を外した。
普段このような行動をしない息子に、おそらくただならぬ出来事が発生したのだろうと推測する。
二人は会話することなく、人気のない中庭へやってきた。
庭では冬の凍てつく寒さのため誰もいなかった。
そこには、ただ薄緑色や白色の花弁が美しく花開くクリスマスローズが咲き誇っていた。
「ウィル」っと公爵は息子の名を静かに読んだ。
ウィルは先程の柔和な雰囲気をがらりと変え、父に向かい合う。
「父上、イーリスの居場所が判りました」
驚きに目を見開く公爵。
絞り出すような声音で「イーリスは今どこに」と尋ねる。
「イーリスは恐らくクローバー男爵領にいて、刺繍師として生活してる者だと思われます」
そう聞くと公爵は粛然たる態度が崩れさり、空を見上げた。
自然と右手が持ちあがり自身の顔を覆っていた。
「生きているんだな・・・」
そう呟いた声音は少し震えていた。
そんな姿の父をウィルは初めて目にした。
イーリスが忽然と消えてしまった際、自身は留学中でその場に居合わせなかった。
事が起きてから実家から手紙で詳細が来た際、慌てて自国へ帰国した。
屋敷につくなり、ノックもせずに父の書斎をバシッと開けた。
父はゆっくり顔を上げ、「帰ってきたのか」と口を広げた。
その父は冷静沈着な様子に、ウィルは苛立ちを覚える。
そのまま父に詰め寄ると、坦々とイーリスが消えた話をしたのであった。
少しも嘆く様子の無い父に、ウィルは思わず殴り掛かってしまった。
結局当時、父に取り押さえられた跡、やり場のない怒りにかられたまま、イーリスの部屋へ行った。
ウィルは歩きながら後悔した。
どうしてもっと妹の事を気にかけてあげられなかったのだろうか。
手紙をもっと頻繁に送ればよかった。
母も早くに亡くし、この広い屋敷で心許せる人もおらず、きっと寂しい思いをしていたのだろう。
簡単に想像がつく事なのに、日々の生活にかまけて妹の事が疎かになってしまっていた。
母上は最後の時に、妹の面倒もしっかり見ると約束したはずだったのに・・・。
一歩また一歩と歩みを進めていくうちに自責の念に駆られていった。
そうこうしているうちに、妹の部屋の前についた。
ドアノブは鈍く光り輝いており、部屋の主が不在でも掃除が行き届いているのが分かった。
誰もいないと知りつつ、若干の期待を捨てきれずノックをする。
返答は勿論なかった・・・。
そのままガチャリと扉を開く。
すると、驚いたことに部屋はイーリスが出ていった時のままのにされてあった。
乱れた寝具と置きっぱなしの学習ノートに山になった課題。
ティーカップが一客テーブルの上に置いてあった。
ただ掃除はしているらしく、ドアノブと同じく、チリ一つ落ちていない綺麗な部屋だった。
ウィルは自身の後を付けてきた執事にこの奇妙な状態を問うた。
「じいや、何故こんな状態なのだ?」
「ウィル坊ちゃま、これは旦那様の御心でございます」
執事が恭しく頭を下げる。
「・・・父上はイーリスが消えたというのに平然としていたではないか!」
「本当にそうお思いですか?旦那様はお嬢様が消えた後、真っ先に庭にでていって周囲を探されておりました。今でも時間ができれば昼夜問わず自ら馬に乗られて探しに行っておられます。また公爵の面子を潰してまで、この領だけに留まらず、各地に多額の報奨金を用意し尋ね人の手配もしております」
「・・・・」
「これは老人の戯言だと思って聞いてください。どうか旦那様の事誤解なされないでいただきたいのです。旦那様は不器用なだけでとてもイーリス様を愛しておられます。坊ちゃまのことも。今もこれからもずっと・・・」
「・・・わかっている」
そのあとウィルは部屋の中を探した。
だが、手掛かりになるようなものは見つからなかった。
仮にそんなものが存在していたら、真っ先に父の手元に渡っているだろうと、漸く落着いて考えることができたのだった。
そんな若かりし思い出をふっとウィルは思い出していた。
そして、改めて目の前の父を見る。
あれから気付けば父はめっきり老け込んでいた。
そして、この数年父はずっと妹を探していた。
妹の婚約が解消されても、それは続いていた。
似ている者がいると聞けば、どんなに遠方地でも忙しい時間の合間に立ち寄っていた。
妹が行方不明になった直後から、不思議なことに領地の調味料系植物がもとの収穫量に戻った。
そのお陰で、相手方の要求してきた婚約破棄の慰謝料の現物支給をも何とか支払う事ができたのだった。
結局、収穫が減ったことも増えたことも、原因は不明のままだった。
だがウィルは思わずにはいられなかった。
もう少し早く収穫量が増えていれば、妹はあんな婚約しなくてすんだのに、そしたら消えることもなかったのではないかと・・・。
そして、ウィル自身も留学先から切り上げ帰国した。
父の補佐をしてきて、わかってきたことがあった。
父親は身内への愛情表現が下手な人だった。
一歩家の外に出ると、頭脳明晰、文武両道、外交にも人心術にもたけていた。
一寸の隙のない人物だった。
だが、その反面、家族に対する愛情表現については、まったくもって不器用そのものだった。
恐らく、母が居た頃は、母が父の意図を汲み取って子供達に伝えてくれていたのだろう。
その通訳的な存在がいなくなり、自身も妹も不器用な面を誤解してしまっていた。
もしイーリスが無事に戻ってきたら、エピソードも添えて父の話をしてあげようとそんなことを思うのであった。
そうこう回想しているうちに、父がいつもの冷静沈着な様子に戻っていた。
「お前の口ぶりからして、生きてたこと以外にも何かあるな」
「そうです。イーリスの居場所はわかったのですが、それに添えられていた暗号からして、どうやら身に危険が及んでいるとのメッセージがかかれておりました。男爵夫人の態度からして、男爵家では冷遇されていないようですし、おそらく違う要因があるかと思われます」
「分かった。このまま向う」
「まってください!父上!私も行きます」
「何をいっておる!お前は陛下に説明をそして、ルーナをエスコートして領地へ先に戻っておきなさい」
「ですが!!」
「エスコートができる幸福をお前は知らないのか?」
「・・・わかりました。ご武運を!」
二人は言葉を交わすと、足早にクリスマスローズの香り漂う中庭を後にしたのだった。
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そして、城のとある一室に一羽の伝書鳩が舞い降りた。
主人の部屋の窓がわかっているのか、コツコツと合図を送る。
大柄な男性が窓を開け、鳥を引き入れた。
足に括り付けられたメッセージを読み取った。
「見つけたぞ」
薄暗い口調で嬉しそうに口を三日月にして笑ったのだった。




