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44.ファッションの力はすごいです!

冬場の澄み渡った青空のもと、建国100周年のパーティは開催された。

冬場というのに、色とりどりの花が飾られており、一瞬今が冬場と忘れてしまうくらいのものであった。

中に入ると、綺羅びやかなシャンデリアに廊下の何処を歩こうとも寒くない床暖房完備。

敷き詰められた真紅の絨毯は、踏みしめただけで高級品とわかるほどの質感。

そこを歩いていくと、大広間があった。


お城に到着した貴族達が続々と序列順に並び、国王夫妻の登場を待った。

ラッパが鳴り響き、国王夫妻の登場を告げる。

国王が長い演説を終え、漸くパーティ開始の合図が告げられた。

挨拶回りに勤しむもの、早速ダンスへ向かうもの、皆思い思いに行動する。

このようなパーティになると、大抵序列のほぼ変わらない者同どうして固まるものだった。

また、遠方から来ている階級が低い貴族達は、普段口に出来ない、一流の料理が並ぶエリアに集い談笑を行うというのが、暗黙の了解となっていた。

クローバー男爵夫妻も、この慣例に習い料理が並ぶエリアに向った。

そこにつくと、夫妻は一通りの挨拶を行う。

それが終われば、男女別れて顔見知りの人達と談笑するのが常たった。

男爵夫人のドレスは高位貴族に負けないぐらいの代物で、色味、デザイン共に斬新で美しかったことから、女性陣の中で話題の中心になっていた。

皆口には出さないが、低位階級のドレスが高位貴族よりも優れて見えるいるという事に、少し優越感を持っていた。


それが証拠に、高位貴族からチラチラとこちらを伺うような視線が注がれていた。


暫くたつと、1人の召使いがクローバー男爵夫人の下へとやってきた。

クローバー男爵が寄親としているマム伯爵夫人からのお呼び出しであった。

(やっとチャンスが巡ってきたわ!)

内心の浮かれた気持ちを押し殺して、優雅にその召使の後に続く。

伯爵夫人の周りには、同階級の伯爵や寄子の子爵家、はたまた侯爵家の夫人もいた。

マム伯爵夫人が口を開く。

「クローバー男爵夫人、本日のドレスも素敵ね!落ち着いた深緑のドレスも貴女にとても似合っているだけではなく、その施された金糸の刺繍が美しいわ」

「おほめ頂き光栄です」

その会話を皮切りに、自身よりの階級が上の女性陣からここ数年クローバー男爵夫人のドレスが、センスが良いと風の噂で聞いており、一度会ってみたかったと挨拶を受けることになった。

クローバー夫人は内心ガッツポーズをしつつも、それを表に出さないように謙虚に対応していた。

よほど男爵夫人のドレスが素敵だったのか、次から次へと人が挨拶してくるのであった。


その様子は、少し離れたフロアーで見ている人物がいた。


「貴方、あそこに人が集まっておりますわ。誰かいるのかしら?」そう問いかけるのは、シーナ領の若公爵ウィルの妻ルーナ。

「おそらく、クローバー男爵夫人だと思うよ。彼女のドレスがとても斬新で美しいと噂を聞いたことがあるから、おそらくそれじゃないかな」

「貴方・・・」

そのあとはウィルを見つめる夫人。

無言の圧力を受けて、ウィルは苦笑し「わかりましたよ、私の愛おしいお姫様」と言い、夫人に手を差し出す。

夫人は嬉しそうに、ウィルの手を取り人だかりができている輪へ向かった。


ウィル夫妻が到着すると、自然と人だかりが割れる。

国王の次に階級が高い公爵家。

粗相があってはならないと、寄親のマム伯爵夫人がクローバー男爵夫人の一歩前に出て挨拶を交わす。そして、クローバ男爵夫人を紹介した。

ウィルもにこやかな顔で挨拶を交わす。

周囲は女性達ばかりで、本来は場違いなのだが、妻のルーナは少々内向的なためこうした際は、ウィルが少しフォローをしてあげていたのだった。


今回はそれが幸いした。


ウィルは簡単な挨拶をクローバー男爵夫人と交わした後、そのあとを妻にゆだねた。

横でただ立っているのもなんだしなと、改めて男爵夫人のドレスを眺めた。

確かに主流のプリンセスラインから、男爵夫人の身長の高さと年齢に合わせたようなスレンダーな雰囲気のドレスでありこの会場で見ることはなかった。

そして、シンプルなドレスとは対照的な繊細な金糸の刺繍。


(これが噂の革新的なドレスか・・・)

外渉を担当するシーナ公爵家には玉石混交の情報が入ってくる。

目新しい物ならすぐにでもはいってくる状況だった。

このため、クローバー男爵夫人のドレスが数年前から話題になっていたのも知っていたのだった。

女性をジロジロ見るのもはばかられるため、視線を夫人の足元近くに落とした。

(ま!まさか・・!!)

目に入った刺繍は、公爵家の身内しか知らない暗号であった。

上手く他の刺繍と目くらましになっているが、どう見ても自身が知りえる暗号で、かつ内容も読み取れるものであった。

そして、所々にアヤメの柄が施されていた。


(イリース、イリースが生きているのか!)

驚きと嬉しさが混ざった感情がウィルを襲う。

アヤメの柄はイリースの個人紋章であった。

イリースは元々イリス《虹の女神》から命名しており、イリスはアヤメの花を指しているものだった。

遂に妹の手がかりを見つけたのだが、ウィルはそのメッセージに込められた内容に危機を覚える。

(危険、助けてって・・・一体何が!イリースに起こっているのか)

わからない状況に、手がかりを得ようと突如クローバー男爵夫人に話しかけた。

先ほどはにこやかな雰囲気を醸し出していたが、突如笑顔を張り付けたような顔をクローバー男爵夫人に向けた。

「お話の途中失礼します。お召し物とても素敵で驚きました。我が国でも見た事の無いデザインですね。どこでおつくりになられたのでしょうか?」

男爵夫人は、すでに緊張しきっていてウィル若公爵の変化には気づかず、にこやかに返事をした。

「我が領に凄腕の刺繍師がおりまして、若いながら裁縫取り分け刺繍が非常に優れているものがおります。その者が毎回私と一緒に打ち合わせをして、ドレスを作り上げてくれますの」

「そうなんですか。その者に会うことは可能でしょうか?夫人が着用されているドレスが素敵ですので、妻にも作っていただきたいです」

「もちろんでございます。我が刺繍師も名誉なことと存じます。いつでも歓迎いたしますわ」

「ありがとうございます」


領地訪問の口約束は得られたため、ウィルは妻を残しその場を足早に離れたのであった。

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