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39.サラと対峙します!

休日が終わり、また月曜日がやってきた。

鳩時計ならぬコッコ時計で、アイリは早めに目覚めた。

隣を見ると母はまだ夢の世界。


布団の中で、ヌクヌクしながら昨夜の話を思い返す。

私の病気を治癒するため、埋め込まれていた緑の石の力が殆ど消費されていた。

大木が葉っぱを出したことも、母に指輪の存在をアピールするためにゼラチンの実で合図を送ったことも、全て私が起因している。


なんだか罪悪感が湧いてくる・・・。


母からは、どのみち緑の石の力は強すぎるため、遅かれ早かれ、何らかの形で消費しなければならなかった。不届き者の手にわたったら、大惨事になる所を、アイリちゃんがそれを防ぐ役割を担ってくれたようなものよと笑っていった。


後悔はしていないと明らかにわかるような顔を母はしていた。


その気持ちが重い。

私は転生者で、本物のアイリではない。

身体を乗っ取ってしまったのか、単に転生して5歳まで記憶をなくしているだけなのか、わからないけれど、母が知っているアイリではない。

母の気持ちを素直に受け取れるほど、身の程知らずでもない。

それでも、私はその思いに応えるように、笑顔で母に感謝の気持を伝えた。


見えない足枷がまた一つ自身の中にはまった様に思えた。

けれど、この枷重いが案外嫌じゃないかもしれないと思い始めていた。

それぐらい、私は母のことが大好きになっていた。


答えもおぼろげに掴みかけたところで、アイリはそっとベットを抜け出した。

足元が少し寒く、無意識に足を擦り合わせる。

靴を履くとひんやりして、一気に目が冷めた。

季節はもう夏の終わりを告げ、秋の訪れを感じるようになっていた。

薄手の羽織物を着てから、家のドアを開ける。

そのまま水を汲みを水やりを行う。

勿論、コッコへの挨拶も欠かせない。

「コッコ!おはよう」

声を掛けると、アイリの足元まで寄ってきて《グルッグルッ》と鳴く。

恐らく《珍しく早く起きたのね》っとでも言っているのだろうなと思えるほどの、鳴きっぷり。

そのままアイリの足をコツコツ突く。

「なに?」

アイリが尋ねると、ついて来いと言わんばかりに、鶏小屋の方角へ向かう。

小屋の中を覗くと、藁の上に卵が一つのっている。

「コッコ、ありがとう!」

アイリは卵を収穫し、トマトを捥いでから室内へ戻った。

ゆっくりドアを開けたが、母は起きて身支度をしていた。

「おはよう、アイリちゃん、今日は早起きなのね」

「おはよう!ママ、トマトの水やり終えたよ。今から朝食用意するからちょっと待ってて」

そう伝え、アイリは朝食の準備を始めた。


今朝のメニューはパンの実にトマトサラダ、きのこと卵のスープ。

干しキノコからはいい出汁がでており、スープの味に深みがでる。

フーフーしながら、ゴクリと一口飲むと、冷えた身体を一気に温めてくれる。

「アイリちゃんは本当に料理上手ね」

「えへへ、ありがとう」

和やかに朝食を終え、母は男爵家に向かった。

アイリも食器洗いを終えると、足早にトムじいの元へと向かう。


色々秘密を共有したものの、結局今はどうしようもない。

どうしようもないことを考えても仕方がないよねと二人で話し合い、何時もの日常を送ることにした。


アイリは、水曜以外の月曜日から金曜日までトムじいのもとでお手伝いをし、報酬の野菜はせっせと貯蔵。

水曜日と土曜日は、ポールと共にレンガ積みを行う。

このレンガ積みを通し、アイリとポールの関係にも変化が起こった。

少し前までは、近所のお兄ちゃんと年の離れた妹ちっくだったが、今や師匠と弟子の間からかともおう程に進化を遂げていた。

レンガ積みに、一切の妥協を許さないポールの指導の元、アイリは積み上げる楽しさに嵌まる。

ポールが語るレンガをのせる角度、こだわりに感銘を受け、最終的にポールの指導に心躍るようになったのたった。

ポールの影響をもろに受けてるアイリも積む作業に、最新の注意を払っていた。


丁寧すぎる作業者二人のせいで、壁ができあがらない。

スイリは途中から、密かにポール一人で作業をおこなった方が、まだ作業が進むのではないかと思っていた。アイリの積んだレンカに逐一チェックをいれるより、遥かに効率的。

けれど、師匠と弟子の関係になってしまった二人の事に、第三者が口を出す事は、野暮というもの。

スイリの中では、今年の冬も寒さに耐える心積もりが着実にされていった。


日曜日、スイリとアイリはザリガニ釣りや森へ木の実やら野草を採取しに行く。

森の恵みは多岐にわたり、冬に向けて保存食準備が着実に整って行く。

今まで空っぽだった棚に、ぎっしりと詰められた山菜類やキノコ類。

それだけでは足りず、ポールに頼んで外にも倉庫を一つ作ってもらった。

そうこう過ごしているうちに、あっという間に秋も週番にさしかかっていた。

この頃になると、季節とは関係なく、生息してた調味料系植物に明らかな異変が生じていた。

緑の石の指輪を回収して以降徐々に数を減らしていたシオーナ、甜菜糖、胡椒が遂に消滅。

勿論根っこ事抜いたゼラチンの実は、あの日以来生えていない。

以前大木の根元あたりになっていた実は、まるで最初からなかったかのように跡形もない。

その事を既にわかっているのに、無意識に生えていたあたりを確認しては、毎回二人で安堵する。

その後、周囲の植物も確認していた。

シオーナや甜菜糖は依然としてその場にあり、少しはなれば場所にも胡椒は豊富にあった。

最初の頃は、二人で調味料はまだとれそうだと安堵していた。

けれど、何度も森を訪れるうちに、段々数を減らしていってるのが手に取るように分かった。

母はやっぱりねっという感じだったが、アイリは惜しい気持ちが沸いていた。

(タダだった調味料が・・・)

家の調理担当者としては、非常にがっかりしていた。


平和な日々が過ぎ去っていく。

そんな中、アイリには気がかりなことが一つあった。

サラの事だ。

母からは気を付けなさいと言われていたので、さりげなくサラと合わないように避けていた。

だが、調味料系植物が全滅し、とりわけ胡椒が無くなったとなれば、きっと落ち込んでいるに違いないと思っていた。

かかわってはダメなのはわかっているが、なんとなくその原因を作った張本人としては、申し訳ないなと思う気持ちが湧いてしまう。

ある日、遂にサラがアイリの元を訪ねて来た。

アイリがサラを避けているのを感じ取ったのだろう、トムじいの元で手伝いをしている最中のアイリの元にやってきたのだった。

「アイリちゃん!久しぶり」

「あ、サラさん。お久しぶりです」

緊張で声が上擦る。

「ちょっと話したいことがあるんだけど、あとどれぐらいで終わるかな?」

「えっと・・・」

アイリが言いよどんでいると、近くにいたトムじいの声が飛んできた。

「サラ!お前は何をさぼっておるんじゃ、今は仕事の時間じゃろうが!」

「えートムじい、固いなぁ~」

「ふんっ、それにアイリちゃんは、わしの弟子じゃ!お前には渡さん」

「「えっ!!」」

アイリとサラの声が思わずハモる。

アイリはこの機を逃すべく、すかさず尋ねる。

「トムじい、遂に弟子にしてくれるんですね!」

「・・・言葉の綾じゃ」

トムじいは、照れ隠しのつもりか、後ろを向いてしまった。

「アハハ!じゃぁ弟子にするのは諦めるから、アイリちゃんちょっと借りるね」

トムじいの牽制をもろともせず、サラはアイリの手をひき荷台にひょいと乗せて連れ去っていった。


先程の陽気さはどこへいったのか、終始無言で進むサラ。

纏う空気はピリピリしている。

暫くすると野菜師のテリトリーと思わしき庭についた。

そこには、生い茂る葉と葉の間から主張する様な丸々としたカボチャが至る所に生えていた。

見るからに美味しそうな艶。

アイリの脳内は、すぐにカボチャでいっぱいになる。

目的地についたのか、突如台車がピタリと止まった。

サラがクルリと振り向き、アイリと視線を合わせる。

その眼差しは怖く、そして怒涛の勢いで話し始めた。

「アイリちゃん、あれから会えなかったから知らないかもしれないけれど、遂に胡椒が全滅してしまったのよ!そして、ゼラチンの実もよ」


サラの言葉は続く。


自身がアイリに教えた次の週には、早々にゼラチンの実が跡形もなく無くなっていた。

ゼラチンの実は良くわからない植物のため、気にしてなかったが、そのほかの調味料系植物がゼラチンの実消滅後、徐々に減っていってしまった。

全滅してから気付いたが、あの水辺の大木を基軸として、すべて同じ縦の列に沿って生えていて、まるで誰が、故意的に畑を作ったかのようだったとのことだった。


そこまで言い終わると、サラはアイリを見据えた。


「アイリちゃん、私の胡椒の増産お手伝いしてくれるって言ったわよね」

「は・・・はい」

「じゃぁ、答えてくれるわよね。どうして、胡椒類が全滅したのかをね」

「えっ?なんで私に聞くんですか?そんなこと知らないです!」

「アハハ、やっぱりね!」

「何がですか?」

アイリは何か言い間違えたのだろうかと、返答した内容をもう一度頭に浮かべる。

何も怪しいことは、何も言っていないはずだ。

「前回の時と反応がこうも違うなんて・・・胡椒が消えたのよ。アイリちゃんが一攫千金狙えると喜んでいた物よ。普通それらが消えたと聞けば、うろたえるか絶叫するでしょ?でも、貴女は、まるでそれを予想していたかのような反応だった」

アイリは、頭をフル回転させ反論する。

「胡椒が全滅した理由なんて知りません!ただ、調味料系の植物が徐々に減っていってたこと・・・実は、知ってました。サラさんに言うと悲しむかなと思っていままで接触を避け黙っていました。ごめんなさい」


サラは視線で続きを促すので、アイリはここ最近の近況を伝えた。


サラに植物の知識を教えて貰ってから、何度も母と森へ食糧採取に行ったこと。

母にも食用植物の知識をレクチャーしながら、二人で採取を行えたお陰で、冬を越せそうなくらい十分な食糧を手に入れることができたこと。

胡椒は採取しなかったことを包み隠さず話した。

ただ、行くたびに植物の個体が減少している気がしていた。

だから、最近は採取するのを辞めていたが、つい先日様子見に行ったら全部無くなっていた。

念の為に胡椒も確認したら無くなっていて、サラが悲しむと思って言えなかったと・・・。


若干の嘘を織り交ぜながら、自身が知り得ている経緯を伝えた。


ドキドキしながら、サラの言葉を待つ。


緊張で手が汗ばんでくる。

(一部嘘ってばれたかな・・・)

心配しながらサラの言葉をまっていると、ふぅ~っという声が聞こえてきた。


うつむいてしまっていた顔を上げる。

「疑って悪かったわ。私は・・・子供相手になにやってたのかしら」

そう言うと、サラは髪の毛をくしゃりと掴んだ。


そして、アイリに疑って申し訳なかったと謝ってくる。そして、お詫びの印として、アイリに沢山の野菜を持たせてくれた。

その中にカボチャもあり、アイリは大興奮。

サラの疑いも晴らせたし、カボチャも貰えたとご機嫌のまま、もと来た道を戻っていった。


サラは、アイリが見えなくなるまで手を振る。

その顔に表情はなかった・・・。

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