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28.質問タイムに入ります!

スイリは、ここまで一気に話すと、ミントティに口をつけた。

冷めきってしまったミントティが、カラカラになった喉に、爽快感を与えてくれる。

コクリ、コクリと飲みながら、チラリと娘を盗み見た。

混乱しているのか、眉間に皺をよせていた。

(アイリちゃんには、まだちょっと難しい話だったかしら・・・それにしても、その表情もまた可愛いのよね~)

そんなことを内心思っていると、アイリの視線と目があった。


アイリは、何かを決心したように口を開いた。

「ママは・・・まさかの異世界転移者?」と聞いてきたのだった。

(異世界転移ってなんのことかしら??)

スイリの頭に、はてなが浮かぶ。


それを読み取ったアイリは、『こちらでは異世界転移って言わないのね・・・』とブツブツ呟くと言葉の説明を始めたのであった。

「異世界転移というのは、元の姿のままで、元々居た世界から別次元の世界へやってくることを指すの。ママはメール国シーナ領から、突然国名知らないけど、クローバー男爵領に瞬間移動してきたってことでしょ?つまり別次元の世界へやってきたという事かなって思って」


それを聞いたスイリは、あることを思い出していた。

そう、アイリは死にかけた時に記憶喪失になっていることを・・・基本的な知識も欠落していることをすっかり忘れていたのだった・・・。


(・・うっかりしていたわ、アイリちゃんには一から色々教える必要があるわ・・・)

そんなことを思いつつ、今は、娘の質問に答えようと口を開いた。


「アイリちゃん・・・・クローバー男爵領もれっきとした、メール国の一領土よ」

「そ、そうなの?」

「ええ・・・ただ、シーナ領とはクローバー領は、メール国の王城を挟んで反対側にあるから、距離は大分離れているのよ。それに、私が公爵令嬢の頃は、貴族名鑑といって貴族の血筋などが記載されている書物を暗記しなくちゃいけなくて、今でも覚えているわ・・・現当主の男爵のお名前、年齢も記憶していた内容と同じだったのよ」

「じゃぁ・・・・ママはシーナ領からクローバー領へ転移したってことになるの?」

「そうなるわね・・・」


スイリがそう言うと、アイリは明らかに肩を落とした様子になった。

(理由はわからないけれど、異世界転移とやらに憧れがあったのかしら??)


そんな母の気持ちはつゆ知らず、アイリは本気でがっかりしていた。

仮に母が異世界からやってきていたら、勇気をだして自分の真実(てんせい)を話してもいいかなっと思っていた。

だが、アイリから言わせれば、同じ世界の同じ年代の転移だった。

言い換えれば、母の出来事は、ただの移動に過ぎなかった。

前世で例えると、飛行機にのって日本からアメリカってところだろう。

多少文化は違くとも、同じ世界だから親近感や安心感はある。

かたやアイリは、異世界からやってきて、文化も何もかも違い過ぎる場所で過ごし、更に年齢の顔も形も変わっている・・・。

やっと同士というか、身近に得られた類友と勝手に期待しただけに、その落胆ははげしかったのであった。


(落ち込んでいてもしかたない)

出鼻をくじかれた形となってしまったが、パシッとアイリは両頬を叩いて、気合を入れなおし、怒涛の質問タイムに移るのであった。


「今の名前は、偽名なの?」

「ピンポーン、正解よ。本当の名前は、イリース・シーナよ」

「もしかして、愛称がスイリだったの?」

「違うわ、愛称はイリーよ、スイリにしてたらすぐ見つかっちゃうわ」

「年齢はいくつなの?」

「24歳よ」

「ママ・・・若いね。じゃぁ、お兄さんのウィルさんだっけ?どういう人だったの?」

「ウィルお兄様は、私より5歳年上よ。今年29歳だわ。お兄様と一緒にいたのは、私が7歳までだったわ。とても私を可愛がってくれて、お話を沢山読んでくれたりしたことがあるわ。利発で文武両道で、わずか12歳でフォレスト国へ学術留学されていたわ。容姿は金髪で緑の瞳、お父様の顔立ちを少しやわらかくした感じだったわ」

「おじいちゃんは?」

「あなたのおじい様のお名前は、ハリー・シーナ公爵よ。今年49歳だわ。金髪で水色の瞳。威厳ただよう方よ。メール国の宰相で、外交能力にたけていると聞いたことがあるわ。自分にも他人にの厳しい方だったわ。無口で何を考えているのか、娘の私にもよくわからなかったわ」


そう語るスイリの表情は暗い。


「おばあちゃんは?」

「あなたのおばあ様のお名前は、メイリー・シーナ公爵よ。さっき話したように、私が10歳の頃、35歳の若さで亡くなってしまわれたわ。そこにいるだけで、温かい気持ちになれるそんな心穏やかな方だったわ。金髪で緑の瞳だったわ。刺繍が上手で、センスの良く私のドレスに入れていただいたこともあったわ。お母様がご存命の時が、一番楽しかったわ。あぁ・・・ウサギのぬいぐるみを作っていただいたんだけれど、あれを持ってこれなかったのが今でも心残りだわ・・・」


寂しそうな顔をするスイリであった。


アイリは一通りシーナ公爵家の事情が知れたので、今度は自分を含めた事柄を聞くことにした。

「ママが今24歳というと、私はママが17歳の頃に産まれたってことであってる?」

「フフフ、違うわよ。貴方が生まれたのは6年前、私が18歳の頃よ。0歳をカウントしてないわよ。」

「あ!本当だ。でも・・あれ?、クローバー領にママが転移したのは15歳の頃でしょ?そのあとの3年間、このお屋敷にくるまではどうしてたの?ママ、生活能力皆無というか、破壊的というか、普通は野垂れ死んでもおかしくないレベルでしょ?」


アイリの鋭い指摘に、ぐうの音も出ないスイリ。


「・・・・そこまで言わなくてもいいじゃない・・・」

事実のため、否定できずちょっといじけるスイリ。


アイリは慌てて、「ご・・ごめんなさい、つい本音が・・・それで、どうやって生活していたの?」


続きを聞きたいのでアイリは促すが、スイリはチラリと時計をみた。

時刻は既に深夜だ。

アイリに、明日は仕事もあるから今日はこれでおしまい。また明日と告げ、話を切り上げるのだった。

アイリは不満そうだが、質問タイムの途中、無自覚に大あくびをしていたのをスイリはきちんとみていたのだった。

アイリはブツブツ言いながらベットに入ったと思えば、そのままパタリと寝てしまった。


文字通り、バタンキューの姿にスイリは微笑み、髪を撫でる。


(転移後の生活よね・・・・子供にどこまで話していいのかしら・・・・)


そんな迷いと共に、スイリはアイリの隣に滑り込み瞼を落とすのであった。

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