23.仲直り後のディナーは最高です!
空はすっかり夕暮れ時、庭の方からは母とコッコの楽しそうな声が聞こえてくる。
アイリは背負った籠そのままに、ただいまと庭の方へ向かう。
アイリの声を聞いたからなのだろう、コッコが相変わらず逃げようとする。
それを羽交い絞めして、「アイリちゃんと仲直りするんでしょ」とコッコを諭す母の姿が見えた。
だが、アイリは強気だった。
今日は秘密兵器があるのだ。
右手に持って帰った、葉っぱで作られた小包を暴れるコッコの前にそっと置く。
コッコは首を傾げたが、訝しんで突こうともしない。
そんなコッコの代わりに、母がコッコをつかみつつ、片手で器用に包みを開けた。
瞬間、声にならない叫びをあげ・・・・気絶してしまった。
コッコはというと、解き放たれた葉の隙間から、ウネウネとでてくる生物に視線を向けていた。
そう、葉の小包の中は、特大幼虫であった。
家へ近づくにつれて、アイリはおのずとため息をついていた。
それを見たサラの話を聞き、このお土産大作戦を提案してくれたのだった。
帰り道、倒木を見つけるたびに木の皮をはいだり、裏を持ち上げたりしてくれ、厳選に厳選を重ねた。
幼虫『三高』をとってきたのだった。
サラ曰く、鶏の好物は虫であり、更に幼虫が大好き。
だから、色白、太さ、のど越しのよさげなフォルムを兼ね備えた『三高』をもっていけば、すぐコッコの機嫌も直るはずだとの事であった。
アイリは、今それを実感していた。
コッコが幼虫から目を離さない、こちらをチラチラ見てきて食べていいのか伺っている。
「コッコ、これはこの間のお詫びだよ。鮮度100%、堀たてほやほや、食べなきゃ損損だよ」
どこかのスーパーで流れてそうな、決まり文句を言い放った。
コッコは、アイリのほうに顔を上げると、コッコは『グル』っと一声鳴いた。
二人の和解が成立した瞬間だった。
アイリは嬉しくなって、「コッコ~」っと抱き着きに行くも、すでに幼虫に夢中なコッコは、アイリの腕を華麗にすり抜けて、ひたすら食に没頭する。
飼い鶏は、とにかく飼い主に似ているのであった。
「アイリちゃん・・・ひどいわ・・・でも、コッコちゃんと仲直りできたからいいわ・・」
と気絶から生還した母の弱弱しい声が聞こえてきた。
アイリとしては、あの包みを母が開けることは想定内だった。
だが、悲鳴を上げる程度で、まさか気絶するまでとは思っていなかったのだ。
コッコとの仲に嫉妬したということもあり、中身を黙って渡したことに罪悪感がちょっぴり湧いた。
「ごめんなさい・・・」
アイリは素直に謝り、地面に座り込んでいる母の手を取った。
「今度したら、めっだぞ!」
反省の色を感じた母は、茶化すように言うのであった。
そして、二人は家の中へ移動した。
空はすっかり暗くなっていた。
急いで身ぎれいにしたアイリは、夕食作りに取り掛かることにした。
だって、母には料理の才能は皆無なのだった。
火はつけれるとしても、食材の扱い方や包丁の使い方が、危なさ過ぎてみちゃいられなかった。
その状況で、アイリとこの小屋で二人暮らしで来ていたのだから、驚きだ。
本日のメニューは、森で採集してきたニンニクと野草、玉ねぎ、人参を使った炒め物と深しジャガイモ。それから、トマトサラダに決めた。
まず、油をひきニンニクを入れる。
辺りにニンニクの香ばしい匂いが漂ってくる。
「わぁ~ニンニクのいい香り・・・何年ぶりだろう」すぐ後ろから声が聞こえてきた。
「ちょっと、いい匂いだからってよってこない!危ないから離れてて」と慌てて母を引っぺがす。
アイリにしかられた母は、しょぼんとして、おとなしくテーブルに向かったのであった。
母がいなくなったことを確認し、次の作業に移る。
切った野草、玉ねぎ、人参を入れ触感が残るくらいまで炒め、最後にシオーナをちぎっていれた。
同時進行で下のオーブンでジャガイモを焼く。
トマトはザク切りにし、自家製バジルを、シオーナ、胡椒、オリーブオイルで合える。
出来たものから、食卓に並べていく。
今日は所謂ちゃんとした『夕食』と言っていいものになった。
いままで残飯やら、トマト&パン生活ばかりだったが、自分たちで入手した食材で、料理した主食・メイン・サラダがそろった温かいご飯は初だった。
テーブルの上に並べると、アイリは感動に浸るのであった。
そんな、アイリを母はそそくさと椅子へ座らせた。
今か今かと食事の合図を待っている・・・。
(ちょっとは、感動しようよ!)
腹ペコな母には、感動うんぬんよりも食欲のほうが勝っているのであった。
「・・・・食べよっか」
「うん!いただきます!」
二人は、しばし夢中になって夕食を食べるのであった。
ご飯もたべおわったころ、アイリは今日はデザートもあるんだよといって、アーモンドミルクの実を取り出した。
更にもらったトンカチを構えたところ、母から急に「ストップ」の声がかかった。
「??、ママこれ穴開けないと中身でてこないの」
「そうなのね、でも金槌は子供が使うには危ないわよ、ママが空けるわ」
そう声をかけると、アイリの手から金槌を抜き取る。
この瞬間、アイリはカピパン飛行事件が脳裏をよぎった。
(・・・ママに任せていいのかな・・・)
だが、すでに真剣に金槌を構えている母がいた。
(これ、止められないやつだ・・・)
諦めることを覚えたアイリは、自然の成り行きに任せることにしたのだった。
数分後、案の定半泣きになっている母の姿があった。
何回かチャレンジしているせいで、手が痛そうだ。
「アイリちゃん、この実も元気よく飛んで行っちゃうのね・・・」
正式な使い方をすれば、そんなことないのだが、突っ込む気力もないアイリは黙って金槌を受け取った。
実が木にくっついていた部分を狙い、金槌を振り下ろす。
簡単にパかっと穴が開いた。
中からふわっと、アーモンドミルクの香りがする。
母をちらっと見ると、呆然とした表情で自信が格闘していた実をみているのであった。
呆けている母をそのままにし、アイリはコップの中にミルクを注いだ。
この間母が買ってきていた蜂蜜を少し垂らし、ゼラチンの実をつぶし入れかき混ぜる。
あっという間にミルクゼリーの完成だ。
ゼラチンの実は、つぶすと透明なドロッとした液状のものが出てくる。
料理に入れると固まるという性質をもっているとサラに教えてもらっていた。
その話を聞いた時から、アイリはこのミルクゼリーを作って母を驚かそうと思っていたのだった。
きっと、母も喜んでくれるだろうと・・・・。
「みてみて!ミルクゼリーだよ、すごいでしょ」ドヤ顔で母をみると、
母はミルクゼリーをみながら、固まっていた。
呆然としてゼラチンの実を見つめているのであった。




