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22.食糧がこんな身近にありました!

熱帯地域を抜けたころ、突如アイリの腹時計がけたたましく鳴り響いた。

お腹を押さえるも、そんな抵抗には負けないとばかりに更に音量を上げて、『ぐ~ぐ~』と連続音を鳴らす。

立派な腹時計だった。


(初対面の人に・・・はずかしい)

思わず顔を赤くするアイリ。


サラは微笑ましそうにアイリをみて、

「そういえば、もうお昼時だよね。近くに湧き水もあるし、ご飯にしよっか」と声をかけた。

少し歩くと、岩肌から水滴が落ち、天然の小川になっているところについた。

木陰もあり、見るからに涼しそうな場所だった。

サラは落ちてくる水を、手で掬うとゴクゴクと美味しそうにのんだ。

アイリもマネをして飲んでみる。


冷え切った水が喉を通り抜けていく、口当たりもまろやかでとてもおいしい!

空腹も相まって、アイリは夢中になって飲んだ。


するとサラから、「アイリちゃん、飲み過ぎるとお腹いっぱいになっちゃうよ!」と声を掛けられた。


だが、食糧等どこにもない。

アイリも長丁場になるとは予想しておらず、家からカピパンを持ってこなかったのだ。

手にあるのは道中空っぽになってしまった、水袋のみ。

サラもアイリと同じく軽装で、籠とお腰にぶら下げているのは黍団子ではなく、採集用と思われる道具一式のみ。皿や鍋すらない状態だ。

ましてや、昼ご飯を持ってきている様子などみじんもない。


どういう事だろうと思っていると、サラは、周りの草をブチブチ千切りだした。

その草、よく見ると全体的に白色をしている。

肉厚と言っていいのか迷うが、葉に厚みがある。

それをちぎり終わると、今度は突然木に登り始めた。

すると上からドサドサと丼みたいな大きさの木の実を落としてくる。

「ちょ・・ちょっと、サラさん、当たります、あた・・・痛い!」


アイリは木の実の直撃を受け、気を失った。


しばらくしてアイリは目覚めたが、倒れた時と同じところ同じ体制だった。

介抱してくれた様子は皆無だった。

(本当に何なのよ!!)

サラの首根っこを引張ってきたいが、いかんせん頭がズキズキする。

手で恐る恐る触れてみると『ぷく~』っと大きなたん瘤が出来上がっていた。

(とりあえず、冷やさなきゃ!)

持っていたハンカチを、水につけ、たん瘤にあてる。

冷たい冷水が、痛さを和らげてくれる。

それと共に少しは気持ちも落ち着いてきた。


ふっと遠くを見ると、サラが木へ登り実をとっている姿が見えた。

おりてきたと思ったら、即座に周辺の木の実や草、キノコも意気揚々と採っている。

すごく楽しそうだ。

(植物採取に夢中になっていて、気づかなかったんだろうな・・・昼食のためにやってくれているんだろうし・・・職人気質の人って本当夢中になると子供みたいになるんだから、もうしょうがないか・・・)


5歳児にこんなことを思われているとはつゆ知らず、スキップしながらサラが帰ってきた。

満足のいく採集だったのか、籠にはたくさんの植物が入れられていた。

「おかえりなさい!」

「みてみて、たくさん採れたよ、ってア・・・アイリちゃん!そのたん瘤どうしたの?こけちゃったの?顔面からいっちゃったのかな?痛いよね、気持ちわかるよ」っと言いながら、たん瘤を触ってくる。

のちにサラは語る、たん瘤の形がキノコの形に似ててつい触りたくなっただけなの!っと・・・。


こうして、サラはアイリの消えかけていた導火線に火をつけるのだった・・・。


「サラさん!どうして私に瘤ができたか知りたいですよね」

「えっ・・・う・・うん」何かを察するサラ。

「いいですか、最初に落としたあの茶色の実で、これができたんです!!私気絶してたんですよ!」

「えぇ・・・ごめんね、言ってくれれば・・・」

「気絶してるんだから言えません!それにも関わらず、放置して植物採集に向かうってどういうことですか?!」

「ごめんなさい」

「だいたい、一言言ってくれればいいんですよ、いきなり草むしったかと思うと今度は木登り!ちゃんと言葉で説明してください!」

「そうだよね・・・植物採集するとついつい・・・」

「ついついではありません!私まだ5歳児でか弱いんです!」

「大丈夫、そうは見えないから」

「そういう事ではありません!」叫んだ直後、お腹が今度こそ大きな音を立てて鳴り響いた。


サラは好機とばかりに、そそくさと炊飯の準備をするのであった。

アイリの怒りも大分収まったため、お手伝いすることにした。

サラはアイリのたん瘤を形成した茶色い実を置いて、金槌で1か所穴をあけ始た。

そしてアイリを手招きすると、口を開かせてその果実を注いだ。

下に広がるのは香ばしいミルクの味であった。

(オイシイ、甘い!)

「これは、アーモンドミルクの実、普通のミルクより香ばしいでしょ?」

「・・・普通のミルクを飲んだことがないので、で、でもおいしいのはわかります」

驚きと痛まし気な表情でアイリを見てくるサラ。


(ミルクって・・・庶民でも飲めるものだったのね)

一般常識をまた学んだアイリであった。


ミルクの中が空っぽになると、自然とパかっと実が半分に割れた。

これを器に料理をするとのことだった。

川辺の石で器を置けるよう焚火用の枠を作り、その中に小枝と枯れ葉をいれ火をつけた。

アーモンドミルクの実の器は、燃えることはなかった。

その器の中に、湧き水と、採集してきたキノコや山菜が投入されていく。

あの最初にみた白の葉っぱは(シオーナ)というらしく、その名の通り塩の代わりに使えるという事だった。それを入れて胡椒をいれる。

グツグツに得るまで待つ、それと同時進行で、パンの実を火の傍にくべた。


暫くすると、いい匂いが漂ってきた。

パンの実も真っ黒く焦げ、遂に昼食が完成した。

森の恵みスープは、キノコのうまみが溶け出し、野草のシャキシャキ触感といい塩梅の塩胡椒味でおいしかった。

焼きたてパンの実もホクホクしており、腹ペコだったお腹が一口食べるごとに満たされてくる。

デザートにと差し出されたのは、リンゴの実であった。

姫リンゴに近く、小ぶりではあるが酸味と甘みのバランスがちょうどよく、触感もシャキシャキしていた。

「はぁ~満福満福!」アイリはドサッと大の字になって草の上へダイブした。

なんだが、久しぶりにまともな食事をとった気がする。

空が青くて、まぶしいなぁ~っと思っていたら、アイリは自然と眠りに落ちてしまった。


そんなアイリを見て、サラも横になった。

この森は、不思議なことに危険な生物がいない。

更に、異様に食用植物が多いのだ。

サラが小さい頃は、普通の森であり、シオーナもなければ甜菜糖もなかった。

森も普通に危険な動物も住み着いていたのだが、今は見る影もない。


(ここ数年で異常なほど森が変わったのよね・・・そう、スイリさんが現れた時ぐらいから・・・)


そんな考えを巡らせつつ、目を閉じるのであった。


爽やかな風が二人を駆け抜けていく、そんな穏やかな昼下がりだった。

ーーーーーーーーーーーーーー


お昼寝タイムが終わり、森を出発することにした。

帰り道は、サラの道草山菜講義が始まるのであった。


その内容は、驚くべきものだった。


サラは断言したのだ、『この山でそろわない食べ物はない』っと・・・。

詳しく話を聞いてみると、

塩も先ほどのシオーナで手に入る。胡椒もあの亜熱帯地域まで行けばいい。

砂糖に関しては、籠に入れた甜菜糖がこの辺に埋まっているから煮詰めればいいとのことだった。

どれも乾燥や煮詰めたりすれば、長期保存ができるとのことだった。

食料品に置いて、調味料は現世でも少しお高めだったので、この情報はすごく朗報であった。

油も少し手間はかかるが、オリーブの木が埋まっている場所もあるので、頑張れば絞りとれる。

果物はリンゴの木、野イチゴ等あるとのことだった。

野菜については、この周辺は食べれる野草やキノコも豊富とのことだった。


そこらへんに生えてる草なら、何でもわかると豪語するだけあって、本当にサラの知識には脱帽するものがあった。


トムじいが腰痛を抑えて、サラを使わせてくれたのをすっかり忘れ去り、サラに弟子入りをしようかと決意を新たに、足をすすめるのであった。


サクサク進んでいくと、家の屋根が見えてきた。

アイリは家の門扉前でサラと別れた。

空はすっかり夕暮れ時。

背負っているかごはずっしり重いが、門扉を開ける足取りはすごぶる軽い。


食用植物の知識を教えて貰ったからには、今後は飢えから逃れられる・・・

(0円生活どんとこいよ!)


アイリは、そんな謎の自信を持つことができたのであった。

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