20.浮かれ過ぎは禁物です!
水曜日の約束が楽しみ過ぎて、眠気が吹っ飛んだアイリは、
午睡もせず、草むしりをさくっと終わらせた。
寝ていない分、いつもより帰宅時間が早い。
ポケットには金の生る木胡椒、手のズタ袋には今日の報酬の野菜をもち、ルンルン気分でいつもの平野を歩く。
途中で、前回見つけたミント&カモミールゾーンが目に留まった。
そういえば、未だにミントティとカモミールティ飲んでないことに気が付いたアイリ。
(今回は根っこ事もってかえれば、いつでもミントティとカモミールティーが飲み放題になるじゃない!)
いい案が思いついたとばかりに、手で丁寧に根っこ周りを引っこ抜き、苗を持ち帰ることにしたのだった。
家に着くとさっそく庭へと向かった。
最近、コッコとアイリは仲良しだ。
出会った当初の険悪さは、見る影もなく、和気あいあいとしている。
それもこれも、ひとえにポールのおかげである。
アイリの姿を見かけると、コッコはレンガの隙間をうまい事すり抜けてやってきた。
『コ・コ・コ~コケコッコー』
挨拶までしてくれる様変わりよう。
「コッコ、これミントって言うの、いい匂いがするんだけど嗅いでみる?」
アイリが聞くと、コッコは言葉がわかっているのか、鳴き声で返事をしてきた。
アイリが、葉を千切ってコッコの前で揉んでやると、ものすごい勢いで顔を背けてきた。
フーフーと威嚇までしてくる。
どうやら、お気に召さない香りだったらしい。。。
「ごめん!ごめん!この香りだめだったのね」
とアイリは素直に謝った。
その拍子に、ポケットから、黒いダイヤがポロポロとこぼれ落ちてしまった。
コッコの足元にも転がり落ちる。
アイリは慌てて、「ダメ!!」っと叫んだのにも関わらず、その制止ぶりから、おいしい物に違いないと察したコッコは、一気にくちばしで突いて食べてしまった。
「あーーー!」アイリの絶叫が響く。
コッコの茶色い顔色が、更に濃い茶色に変化したように思われた・・。
大声量で『コケーコッコ!コッコ、ゴホ、ゴホ、ゴホ』と叫びつつ、人間の様に手羽先部分で地面を叩いている。
足もばたつかせており、転がりまわっている状態に陥ってしまっていた。
「コッコー!!」アイリは心配で近寄ろうにも、のたうちまわっているコッコに近寄れない。
(そうだ!お水、お水!)
アイリは水を汲みに一旦自宅に入り、桶ごとコッコの目の前に置いた。
コッコは躊躇なく頭から桶にダイブする。
羽をばたつかせながら、水を飲んでいるが・・・・。
なんか溺れているように見える・・・。
爪で必死に桶の淵をつかみ、上半身をうりゃっと持ち上げるコッコ。
その姿は、息も絶え絶えな様子である。
(もしかして、本当に溺れていたの?!)
桶の水で溺れるとは思っていなかったアイリは、驚きの目でコッコをみた。
するとコッコと目があった。
コッコは、眼光鋭くアイリを睨んできた。
コッコは落ち着くと、さながら餌を狙う猛禽類化の如く、じわりじわりとアイリに近づいてくる。
アイリは思わず後退りをしつつ、先ほどのコッコの転がりまわる姿を思い出しだしてしまった。
すると、つい顔が緩んでしまう。
(だめだめ、ここでニヤけたらコッコへの心象が悪くなる!がんばれ私!)
自分で自分で励ますも、一度思い出すともう止まらない。
「ゴフ・・ゴフ・・・」誤魔化すも、コッコの目は鋭くなるばかり。
とりあえず、アイリは言い訳をしようと口を開いた。
「いや!私止めたよね?止めたよね?」
コッコは首を傾げる動作をする。
「いやいや、私は全力で止めたでしょ?(貴重な胡椒だったのよー)」
「コ・コ・コ(それは、違う目的のためでしょ)」強めで鳴き声を返してくる。
アイリの心の副音声が聞こえるのか、コッコは聞く耳を持ってくれない。
『コッコ?(覚悟はできたわよね?)』と一声鳴いて、容赦ない攻撃をアイリに加えるのであった。
爪で引っかき、体で体当たりされ、足をくちばしで突いてくる。
まさにフルボッコの状態であった。
ボロボロになったアイリを見て満足したのか、コッコは『コッコ』と自分の名で勝利宣言をし、小屋へと帰っていった。
残されたアイリは気力で立ち上がった。
ズタボロ感万歳の状態で、どうにか守ったミントとカモミールの苗をコッコの小屋から離れた場所へ植え、足を引きずりながら家へ入るのであった。
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(えらい目にあってしまった・・・)
泥だらけの体を洗おうと、浴室へ向かった。
あまりの汚れっぷりに、貴重な石鹸の葉を使った。
身体は久しぶりにすっきりしたが、引っかき傷が何気にしみる。
リラックスできないまま、浴室をでた。
はぁっとため息をつきながら、窓辺を見ると干しっぱなしにしていた向日葵のタネが目についた。
数日前に取った大量のタネだ。
手に取ると、すでにカラカラに乾燥している。
試しに殻を割って中を取り出してみる。
殻の外見の割には、中身は意外とこじんまりとした小ささだった。
(う~ん、正直もう少し食べごたえがあると思ってたんだけど、張りぼてだったのね・・・・)
ちょっとがっかりしつつ、次は味のチェックだ。
しかし、このまま食べていいのか生で食べていいのか迷うところだ。
前世でもハムスターが食べてるところぐらいしか、見たことなかった。
乾燥させたとはいえ、生はちょっとお腹壊しそうだし、どうしようと考えを巡らせていると、
母が声をかけてきた。
いつの間にか帰ってきていたのだった。
「アイリちゃんどうしたの?」
「ママ~お帰りなさい」
「・・・・なんか、すごい傷ね、その傷はコッコちゃんよね・・・」
「・・・とりあえず、あとでその話はするね、今このタネどうしようか迷ってたの」
母はタネを手に取る。
「これって向日葵のタネよね?アイリちゃん庭に埋めるのだと思ってたけど、違うの?」
「これ食べれると思うの!」
「えっ!!」
「だって、木の実みたいじゃない、動物も食べてるし、多分大丈夫よ!」
「そうなの?ママよくわからないけど、アイリちゃんって物知りなのね~」
(ママ・・・チョロすぎる・・・)
「ただ、生で食べていいのかわからなくって・・・」
「だったら、火を通せばいいのよ!火を通せば全部消毒されるから、お腹もきっといたくならないはずよ!」
そういい放つと、母は意気揚々とコンロに向かい火をつけ始めた。
「アイリちゃん、早く早く!タネ持ってきて、炒るわよ」
「まって、ママ私が炒る」
母に火の番を託すと危険と理解していた、アイリは調理を変わった。
お玉で上手くかき混ぜながら炒っていくと、部屋に甘い香りが漂ってきた。
アーモンドやクルミとは違う野性味のある匂いも漂ってくる。
(これ、絶対おいしいやつだ!)
そう思い、チラリと母をみると、目がキラキラしている。
更に、お皿はすでに机の上に用意されていたのであった。
タネの色が肌色から茶色へ変化したので、アイリは火からおろした。
お皿にジャラジャラと置くと、言葉通りタネの山が出来上がった。
「「いただきます」」というと二人は食べ始めた。
食べながら、次の殻を剥き、また次の殻を剥き。
一言も発せず、黙々と食べ続ける。
タネ山が半分くらいになった時、ついに二人の手は止まった。
「「美味しい!!」」
「すごく味が濃厚、しかも甘い!」
「これは、お菓子よアイリちゃん!我が家もついにお菓子が食べれるようになったのね!」
手を合わせてハイタッチで喜ぶ。
果たしてこれをお菓子と呼んでいいものか、突っ込む者はだれもいなかった。
感動の嵐が襲った後の夕食は、いつもの侘しい夕食だったが、幸せな気分で眠りにつくアイリであった。
そう・・・コッコとの確執はすっかり忘れて・・・。




