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2.一日一食がスタンダードって、無理です!

目覚めて2日目の夜。

テーブルに置かれた夕食は、カピカピになったパン1個とコップ一杯の水。

アイリは自分の目を疑った。

右手で瞼を擦り、再度テーブルの上を見るも、現実は変わらない。


朝ご飯と昼ご飯が出なかったため、この世界は一日一食が、スタンダードなんだろうと思ってた。

それはそれで、文化だから仕方がない。

だが、その分夕飯は期待した。

お肉やお魚、新鮮な野菜サラダにスープ、もしかしたらデザートもついてくるかもしれない。

そんな淡い期待を抱いた。

それを心の支えとして、朝、昼ともに水だけで空腹を凌いできた。


それなのに・・・。


「えっと・・・これだけ?」

思わず心の声が漏れてしまう。

「アイリちゃん、ごめんね。これだけなのよ。これもようやく貴女が死にかけているといって、お屋敷に訴えてもらえたパンなの」

申し訳なさそうに、スイリは微笑む。

1個のパンを手に取り、先に半分食べていいわよとアイリに差し出す。


(パンも二人で半分なの?!貧乏にもほどがある・・・)


確認のため、アイリは恐る恐る食事情を聞くことにした。

「・・・・・もしかして、朝ごはん、昼ご飯がなかったのは、家にご飯がないから?」

「そうよ。残りのパンが2個しかなくて、次いつ貰えるのかわからないの。だから節約してるのよ・・・」


(こちらの世界でも一日三食がスタンダードなのね・・・)


泣き出しそうなスイリに、気にしないでと伝え、カピカピのパンに口を付けた。

余りの硬さに、歯がやられそうになる。

だが食料は他にない。

覚悟を決めて少しずつ咀嚼する。

パサパサとした硬いパンが、口内に広がる。

一口、また一口噛みしめるごとに、現実を突きつけられる。

本物のアイリなら、疑問も抱かずに食べてただろう。

だけど、偽物の私は、三食当たり前だった世界で生きてきた。

前世の記憶が余計空腹を引き起こさせる。

(それにしても、この扱いはあんまりだよ・・・仮にも一度見染めた相手と、血のつながった自分の子供。昔習った歴史では、貴族は基本お金持ちと聞いていた気がするのに!)

声だけしか聞いたことのない父に、心の中で思いつく限りの悪態をつく。

怒りで空腹を紛らわし、その日は眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


3日目の朝。

アイリは漸くベットから起き上がれるようになった。スイリは、アイリの体調が回復したと確信を得たのだろう、今日からメイドの仕事へ復帰すると朝一でアイリに伝えた。

実は、メイドの仕事に復帰すると大きな利点があった。

給金は勿論のこと、昼ご飯も出る。

それに加え、お屋敷で出た残飯も持って帰れた。

スイリは、アイリに病み上がり一人にさせてしまって申し訳ないと伝えつつ、今日からはパン以外食べれるわよと嬉しそうに告げた。


スイリから聞いた話によると、昨日言っていたパンの配給は、アイリへの恩情で支給されてるものだった。

ここ一か月アイリが生死をさまよっていたため、スイリは、仕事に出られず無給になる。

薬代も高く、既に支払も手一杯。

そこで、スイリは意を決して、男爵へ二人分の食糧の配給を掛け合う。

その結果、男爵も完全に見捨てるのは気が引けたのか、不定期だが、パンの配給くらいはやってやるよと渋々頷いたとの事だった。

スイリが貯めていたわずかなお金は、アイリの薬代で消えてしまい、金目のものも全て薬代へ変えてしまった。

他にどうする事もできず、配給パンで飢えを凌いでいる状態とのことだった。


そして、スイリはお仕着せのメイド服に久し振りに袖を通していた。 

痩せこけて、服がブカブカのように見える。

「フフフ、ダイエットになっちゃったわ」

笑いながら言うと、仕事へ出かけて行った。


スイリが出かけたのを見送り、アイリは重大任務に取り掛かることに決めた。

そう!食料探索だ。

スイリの話から、この家の周りは森になっており、10分くらい歩いたところから、男爵家の庭が始まり、更に男爵家の屋敷まで、その庭から20分歩くとのことだった。


森という事は、もしかしたら何か食べられるものがあるかもしれない。知らず知らずの内に期待する。

前世は、山登りと無縁の生活を送ってた。山菜採りすらしたこと無い。更に付け加えるなら、家庭菜園もやった事無かった。

だけど、小中高、学校でトマトやら茄子やらピーマンを栽培したし、芋堀だってやったことはある。

前世ではスーパーに日本以外の野菜だっておいていたのだ。

見たことも触ったことも食べたこともある。

前世では、授業の栽培に意味を見出だせなかった。花や野菜はお金を出したら簡単に手に入れることが出来る。成長過程を見るのも、タブレットで探せば動画が出てくる。

現代科学が進んでる中で、態々めんどくさい水やりや、葉っぱの観察はかったるかった。

だけれど、今わかった。

きっとこう言う時のために、あの学習があったに違いない!そう確信を得たアイリは、棚の中から使えそうなスコップとズタ袋をいそいそと探しだし、ガチャリと玄関のドアを開けた。


扉を開くと、そこは思ってた以上に森だった。

少し離れて家全体をみてみると、雑草が生え放題の庭と森の境界線は、朽ち果てた木の柵で辛うじて仕切られていた。

家の門扉から、一応道らしきものは作られていたが、それだけだった。

探検するぞと意気込んでみたものの、森の方の雑草に至っては、子供の背丈を有に超えていた。

自然と顔が下に向く。

そのまま、足元を見ると、一足しかない靴はボロボロ。


この状態で森に入ったら、間違いなく死ぬ。

霊感でもなんでもなく、前世で積み重ねてきた経験値からなんとなく察した。


何事も無理は禁物。


今回は森に入ることを諦め、男爵家の庭の方を探検すること決めた。

森に背を向け、人工的に造られたであろう道に沿って進む。

歩きながら、今後の予定を考える。

まずは、この世界での野菜の種類を知ることからはじめ、できれば、庭師と仲良くなり、野菜作りのノウハウを教えてもらいたい。

でも、今日の目的は食料確保。

もし庭師に会えたら、情に訴えてでも食料を貰えるように交渉しよう。

そう腹を決めて、野菜が植わっている場所を探し始めることにした。

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