19.秘密は我慢できません!
月曜日の朝。
休み明けという事もあり、通常であれば布団から出たくない、学校行きたくないとダメな自分を押し殺して無理やり起きるのが、月曜日の常識というもの。
もしくは、休日の感覚をうっかりひきずってしまうのも、これまた月曜日の仕業だ。
ブルケッタに夢中になってしまった、二人はまさに後者の感覚に陥ってしまった。
アイリとスイリは、お腹を満たせた後、お水で乾杯しおしゃべりに興じていた。
内容はもちろんポールの素晴らしさについてだ。
白熱する議論を繰り広げ居ていると、コッコの鳴き声が聞こえてきた。
「コッコちゃんの様子でもちょっとみようか」っとスイリが窓辺に近づいた。
アイリもつられて窓辺に近づいた。
そこで、二人はようやく気が付いた。
太陽の位置がいつもより高い場所にあることを・・・。
二人は顔を見合わせた「遅刻だ!!」大慌てで用意し、走って職場へ向かうスイリ。
アイリもそのあとを追いかけるように、トムじいの小屋へ向かうのであった。
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息を切らしながら、トムじいの小屋へ近づくと、
「遅刻じゃぞ!!」とドアの前で仁王立ちしているトムじいの姿があった。
アイリは素直に謝った。正座して謝った。
だが、トムじいの説教は終わらない。
「だいたい、最近の若者は精神がたるんでおるんじゃ!そうじゃろ」
「はい・・・・」
「自分から弟子になりたいですっと懇願して、お願いしておきながら、遅刻するとは気合がたらんじゃろ!」
「おっしゃるとおりです」
「だいたいなぁ、アイリちゃんもだがポールも、菜師のサラもわしが偉大な花師ということをわすれとるんじゃ、サラのやつ私の意見を無視しよって・・・」
なんだか、違う方に話が進んでいく。暴走するトムじいの愚痴を聞き流し、新たに手に入れたサラの情報が気になるアイリであった。
(サラさんって方が菜師の人の名前なんだな。お話してみたいな)
別の事を考えると、それに気が付いたトムじいが「アイリちゃん、まじめに聞かんか!」と雷を落としてきた。
(あ、シマッタ・・・これ長くなっちゃうやつだ・・・)
トムじいの説教に油を注いでしまったアイリは、今度こそおとなしく話を聞くのであった。
ほぼ愚痴みたいな説教が終わり、ようやく正座体制から解放された。
足を崩したものの、痺れはなかなかとれない。
中々立ち上がらないアイリをみて、トムじいはにやりとした。
そして、こともあろうか、アイリの足をつつき始めた。
「ちょ・・ちょっとやめてください!!」
「遅刻した罰じゃ~」
「!!」
地味な嫌がらせをしてくるのであった。
漸く痺れもとれ、たちあがった。
するとトムじいから、「今日はあの花壇からこの花壇まで草むしりをするんじゃ。終わったら帰っていいぞ」と言い放つと、さっさとその場を後にしたのであった。
アイリは言われた範囲を改めて眺めてみた。
ざっと見積もると25メートルプール×5列分ぐらいの広さだった。
(明らかに、午前中に終わる範囲じゃないよね・・・。そうだよ、トムじいがあの「ツンツン攻撃」の罰だけでおわらせるような、優しい人じゃなかった・・・)
遅刻のペナルティをちゃっかり課すトムじいであった。
兎に角はじめなければ、終わらない。
『絶対午前中にこの範囲を終わらせてやる」と気合をいれ腰を落とすアイリであった。
作業すると意外なことに、スイスイと終わっていった。
土はフカフカのため、雑草が簡単に抜けていくのだ。
また、良く管理されているため、根が深くはっている雑草がそもそもない。
子供のアイリでも簡単に取れるようなものばかりであった。
花壇もよく見てみると、面白かった。
流石自分で一流の花師というだけあり、花本来の美しさが際立つように配置されており、花の香りも計算されて植えられているようだった。大小さまざまな色とりどりの花をみていると、トムじいの凄さが伝わってきた。
アイリの心の中で、ちょっと花師になってみたいかもっという気持ちが芽生えてきそうになった。
そうこうしているうちに「昼ご飯にするぞ~」っと小屋の方からトムじいの声が聞こえてきた。
アイリは手とスカートについた土をパンパンと叩き、トムじいの小屋へ駆け寄るのであった。
手を洗い小屋に入ると、いつも通り昼食がテーブルの上に用意されていた。
本日のメニューは卵ときゅうりのサンドウィッチとミルクだった。
パンは期待してたふかふかパンでなく、ちょっとがっかり。
そんなことを思いつつ一口食べてみると、サクッとした触感のパンに卵焼きがふわっと乗っていておいしい。きゅうりもシャキシャキしていい歯ごたえをしていた。
いつもの塩味のみかとおもいきや、何かピリッとした刺激が舌に走った。
どこかで食べた事のある感覚だが、思い出せない。
恐らく前世で食べたのかなぁ…そんなことをおもいつつ、食材が気になったのでトムじいにきいてみることにした。
「トムじい、これなんかピリッとした気がするんだけど、なにがはいってるの?」
「おぉ、アイリちゃん、するどいのぅ!これは胡椒という調味料なんじゃ。おいしいじゃろう」
とてもうれしそう話してくる。
(あぁ!胡椒か、どうりで食べたことあると思った。でも、確か学校で中世の頃胡椒は金と同じくらい価値のあるものって教わった記憶がるんだけどなぁ?もしかして・・・お給金の違い??トムじいの花師ってもしかして、ものすごく給与いいの?!やっぱり花師めざしたほうがいいのかも・・・)
お金に目がないアイリであった・・。
そんな明後日な考えをしているともつゆ知らず、トムじいは、アイリの反応をみてからそわそをしだした。
「アイリちゃん、どうやら胡椒の事を知っているようじゃな」
「うん、知ってるよ」
「どうじゃ!おどろいたじゃろ、胡椒じゃぞ!どうしてわしが持ってるのか知りたいじゃろ」
(人間こういう風に言ってくるときは、たいていろくな話ではないのよね・・・)
「いや、いいです」
「え?」
「知らなくていいです」
「そうはいっても、本当は知りたいじゃろ。アイリちゃんとわしの仲じゃ、特別に教えてやろう」
「結構です」
押し問答数回、トムじいはどうしても話したいらしい。
「子供は遠慮するもんじゃないぞ、こういう時は素直に聞きたいですっていうもんじゃ、朝の遅刻の時の様に素直にいう事も大切じゃぞ」
(朝素直にあやまっても、許してくれず、説教してきたどの口が言ってるだか・・・)
心の感想は置いておいて、面倒臭くなったアイリは棒読みで「ぜひ教えてください」というのであった。
「そじゃろ、実はな・・・」
そう始まったトムじいの話は、こんな内容だった。
花壇に使う腐葉土を後ろの森に取りに行ったら、いつもとっている場所の腐葉土は、状態がいまいちだったため、別の場所のを取りに行った。
その際に、木に巻き付いている赤い実があった。
花師として、色彩が鮮やかな物は日ごろからチェックしており、その実が気になり、手にいくつかとったところで、足を滑らせて地面に落としてしまった。
その拍子に、いくつか潰してしまったのだが、急に胡椒に香りが漂ってきた。
まさかと思い口に含んでみると、まぎれもない胡椒と判明。
すぐさま、なっている分を摘んできて、乾燥させたものが今回使われた胡椒ということだった。
(え、まさかのオイシイ話、これでお金儲けができるのでは?!)
アイリは期待で胸が膨らむ。
「でじゃ、あの森でとれるものは皆ものだが、この話をクローバー男爵にしてしまうと、おそらく根こそぎ持ってかれてしまうじゃろ。だから、周りにも迂闊にはなせないんじゃ」
そう言うと、トムじいはすっきりしたとばかりに、ホホホッと笑った。
(確かに、あの男爵が胡椒の事を知ったら独占するだろうな。だったら、胡椒でお金儲けはむずかしいな・・・・なんかいい案無いかな・・・)
そんなことを考えていると、トムじいが小さな袋を取り出し、目の前にポンとおいた。
中をのぞくと、噂の胡椒が入っていた。
「これは・・・?」
「口止め料じゃよ」ニヤリと笑う。
「トムじい、口止め料より、私も場所知りたい・・・」
アイリの言葉に被せるように、
「いいぞ!アイリちゃんには特別に教えてやるぞ。よし、水曜日の朝一緒にいくぞ」
ごねると予想していたアイリは拍子抜けした。
なんだかんだ、秘密の共犯者が欲しいトムじいだった。




