13.建師、燃える!
昼ご飯もお腹いっぱい食べたら、睡魔が襲ってきた。
(眠ってはだめ、だめ・・・)
目をゴシゴシと擦っていると、ポールがさっとお姫様抱っこし、ベットへ運んでくれた。
そして、大きな手のひらで背中を規則正しくトントンと叩いてくれる。
その心地よいリズムと手のひらから伝わる温かさで、
アイリは、いつの間にか眠りの世界へ落ちていった。
ポールは、アイリが寝たのを確認し、そっとベットから離れた。
ベットからは規則正しい寝息が聞こえてくる。
再度部屋をぐるっと見渡して、ポールは深くため息をついた。
この家は想像以上に、ボロかった。
下手すると、町外れにある貧民街レベルのものだった。
よく見れば、ところどころ修繕の跡が見られるが、その修繕方法の素人の思い付きのようなもので、
壁の隙間は、ぼろ切れを詰め込んでいるだけであった。
その布地が、水滴をため込み、穴付近の木を腐らせており、余計状態を悪化させていた。
天井も長い間管理されておらず、隙間だらけで、アイリが梯子が無いといった通り、補修されている形跡もなかった。
正直、プロの目から見ても、どこから手を付けていけばいいのかわからないくらいの有様だった。
経験上、これを補修したところで、家が持たないのは一目瞭然であった。
改築工事をするにしても、アイリ達の住む家は無い。
更に無償修理を考えていたが、思っていたより費用がかさみそうでとてもじゃないが、出せる金額ではなかった。
どうしたものかと考えていると、コンコンと入口の扉を叩く音が聞こえた。
(スイリさんが帰ってきてしまった?!)
ポールはできうる限り扉から遠ざかり、必死の形相で入口の扉を見つめた。
すると、「わしじゃよ、わし」しわがれたトムじいの声が聞こえてきた。
ポールが安心して扉を開けると、トムじいが立っていた。
「なんだ、お主無事じゃったか・・」
「・・・・その心のこもってない感じ辞めてください。それに、アイリちゃん寝てるんで外で話しましょう」
そう言うと、ポールは扉の外へでた。
庭にある木陰の下に行くと、ポールはトムじいの肩を思わずぎゅっと掴んだ。
「トムじい、この家がこんなにボロボロだって知ってましたよね?どうして、早くおしえてくれないんですか!こんなところで生活してたなんて・・・」
「お主に教えたところで、どうもできんかったじゃろう?お前さん、スイリ恐怖症じゃろうに。それに、今回おぬしに伝えたのは、クローバー男爵があの建物の修繕を許可したからじゃ」
「どういうことですか?」
「この間、アイリが死にかけた際に、スイリが男爵を連れてきたんじゃよ。男爵もさすがにあの状態は思うところがあったらしい、突然わしのもとに尋ねてきて、建物の修繕許可はくれてやる、材料も屋敷の物の使用を許可すると言って立ち去っていったのじゃ」
「なぜ私のもとに来なかったのでしょうか?」
「それは、おぬしが一番しっとるじゃろう」フォフォフォっとトムじいは笑う。
「まぁ、材料の使用許可が下りとるわけじゃから、お主が作っているレンガや木材は使用していいとのことじゃ。ただし、平日は屋敷の修繕をしろじゃとさ」
「ブラックだろう!!」
修繕命令は、仕事の指示にあたる。
であれば、当然休日出勤の手当てを要求できるはずだ。
もとから、善意で補修するから休日をつぶす予定だったが、命令があるならば話は別だ。
休日に無償労なんぞごめんだ!かといって、このボロボロの小屋をこのままにしては、良心の呵責に苛まれてる。
ケチな男爵は、ポールの性格を読んであえて指示してきたのだろう。
本当男爵はいい性格してるよなっと、ポールは深いため息をついた。
そのあとに、ふっとあることに気が付いた。
これは、チャンスではないかという事に・・・
もとから、ポールの仕事は屋敷の修繕作業が主で、建物を一から建てることなどほとんどない。
先ほども、どちらかというと予算との兼ね合いでどう節約しながら、改修工事を行うか考えていた。
だが、予算の縛りがなくなった。
自分で設計した図を基に、ほぼ制約なく自由に建物をつくれる。
そう思うと、ポールの建師魂に火が付いた。
近くの枝を手に取ったと思ったら、おもむろに地面に設計図を書きはじめた。
こうなったポールは止められない。
そんなポールの様子をみて、トムじいは
(発破も掛け終えたし、そろそろ帰るとするかのぅ)
目ざとく庭に埋められたトマトの育成状況をチェックし、さっさとアイリ達の小屋を後にするのであった。
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(良く寝たなぁ)
目覚めると、ベットの中。
最期の記憶は、ポールの優しく叩いてくれる手の感触だった。
アイリはすっかりポールのファンになっていた。
(筋肉だけでなく、中身もイケメンってどういうこと!)
そして、ベットで身もだえていた。
気づくと、真上だった太陽が少し傾いている。
周りを見渡してもポールはいなかった。
ちょっと、がっかりしながら起き上がり、窓の外をみた。
すると、何かの山が見えた。。。
慌てて、窓辺に近づいてみると、レンガの山・山・山。
畑部分はよけられているが、周囲がレンガだらけになっていた。
その中心部で、黙々と作業している人物がいた。
そうポールだ。
トムじいが帰った後、小屋を使いながらの改修方法を思いついたポールは、いてもたってもいられなかった。
少しでも作業に取り掛かりたいと、持ってきた荷台を弾き、怒涛の勢いで、日ごろ自分の拠点であるレンガの建物から大量のレンガを持ってきていたのだった。
往復すること数回。
普通、そんな肉体労働したらヘトヘトになるはずなのだが、創作意欲に燃えたポールの情熱は消えるどころか燃え上がり、そのまま次の作業突入していたのであった。
「ポールさん!」アイリが窓から声をかけるが、振り向きもしない。
(ちょっと、このレンガの量何?!この数時間で一体何があったの?)
大量の疑問符のまま、冷たい水を汲んでポールのもとに運んだ。
近くにきてポールを呼ぶが、反応しない。
仕方なしにポールの腕をグイっとつかみ、大声で「ポールさん!」と呼べば、やっと反応した。
「アイリちゃん、起きたんだね」
キラッと白い歯がまぶしく光る。
大量の汗を首にかけたタオルで拭うポール。黒く輝く上腕二頭筋。
アイリの運んできた水を、右手を腰に当てながら、ゴクゴクと豪快に一気飲みする姿。
アイリの目にはすべて、イケメンに見えた。
(カッコいい・・・)
アイリは、ポールに落ちたのであった。
この家では、ポールに安全を与えることは無理そうだと悟ったアイリは、さりげなく心の中で謝っていた。
ポールは一旦水を飲み、落ち着いたところで、アイリが寝ていた間の経緯をかいつまんで話してくれた。
要約すると、クローバー男爵が改修工事の許可をトムじい経由で与えたこと。
本当は、ポールで修繕の材料費を負担する予定だったが、クローバー男爵が材料を無償提供してくれること。改築工事は、今の家に住みながらでもできそうなこと。
ただし、工事は休日にしかできないことであった。
(クローバー男爵が無償提供してくれるなんて、何か裏があるのでは・・・・)
そう思わなくはなかったが、いかんせん我が家は貧乏だ。
アイリも修繕費用の材料を、ポールに負担させるわけにもいかなかったため、実は頭を悩ませていた部分でもあった。
なので、クローバー男爵の好意をそのまま一旦受け取ることにしたのであった。
費用の問題も無事に解決したため、ポールは事前に地面に書いた図をアイリに見せながら、今後の説明を始めた。
今の家は、床の部分は元からレンガで作られている。
だから、外壁周りを少し掘り下げ、レンガで増設し、床面積を広げる。
増設した部分に、レンガを積み上げ四方の壁を作り上げていく。
四方の壁を作り終えた時点で、木造部分は一旦取り除き、屋根を新しい木材で仮設置。
そのあと、レンガの屋根を徐々に作っていくとのことだった。
ポールは休日しか作業ができないということもあり、アイリもスイリも家にいる時は出来る範囲でいいので、積み上げ作業を手伝ってほしいとのことだった。
もとから、一緒に修繕するつもりだったので、アイリは快諾した。
さらに、安心安全の環境づくりに配慮することも宣言し、スイリにも手伝わせるが、なるべくポールから離れた場所で作業させるように采配すると約束した。
こうして、明日からポールと改築作業が始まるのだった。




