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1.転生先は貧乏家庭、衣食住改善まったなし

ねぇ、なんでそんなに泣いているの?

笑ってよ、笑って、私を褒めて

『ありがとう』って言ってよ



頬に何か冷たい物が当たる感じがした。

目を開くと、真上には古ぼけた木造の天井が見える。

『一体ここはどこだろう?』

最後の記憶は、車に引かれた自身と必死に呼びかける声。

ここが天国?意外と質素なんだなと思っていると、頬の水が気になった。

手を伸ばそうとしても、腕が鉛のように重くて持ち上がらない。

そのまま水滴を振り払うのを諦め、ぼーっとしてると、足元からバタンと音が聞こえた。

そのままドタドタと見知らぬ女の人が、必至な形相で駆け寄ってきて、ガバリと覆いかぶさるように抱きしめてきた。


呼吸が止まるのではないかというくらい、とても必死に・・・。


ずぶぬれになった状態で、「アイリ、アイリ!」と呼び掛けてくる。

その女の人が、誰かはわからない。

けれど、その必死な呼びかけとボロボロと涙をこぼす様子に、『人違いですよ』と伝えてあげたいと思った。

私の名前じゃないと口を開きかけた時、ふと、私は誰なのかわからなくなった。

わかる事といえば、私の名前じゃないということだけ・・・。

それに気付き、余計頭の中が混乱する。

そんな中、後ろのほうから冷ややかな声が聞こえてきた。

「スイリ、目覚めたなら、私はもう行く」そう言って男の人は去っていった。

その間、この女の人は私を抱きしめたままだった。

冷たい体のまま抱きしめてくるその人から、なぜか温もりを感じた。

不思議なことに、『嬉しい』という感情が湧き出てくる。

そんなことを朧げに思いながら、自然と下がってきた瞼に身を任せて目を閉じた。


このスイリと呼ばれていた女の人が、母らしいと分かったのは次の日だった。


天井の隙間越しから入ってくる陽の光に導かれ、目を覚ますと、前日見た木造の天井が見えた。

朽ちかけ具合といい、ボロさ加減といい妙にリアリティ溢れる光景。

なんとなく、ここが天国でも地獄でもなく、新しい世界に生まれ変わったのではないかと感じる。


昨日はわからなかったが、17歳だとは思えない手の小ささに、足の小ささ。

髪の色も、漆黒から銀髪という衝撃の変化を遂げていた。

この世界もわからないし、この体の事もよくわからない。

わからなすぎて、下手に取り繕うより、ここは記憶喪失という設定で乗り切ろうとを心を決めた。


そんなことを冷静に考えていると、スイリという女性がドアを開けて入ってきた。

「おはよう、アイリちゃん」

その声音は、すごく優しい。

「どうしたの?アイリちゃん、まだ具合悪い?」

眉間をへの字にして、心配そうに顔を覗き込んでくる。

「大丈夫です・・・ところでここはどこですか?」

元の言葉遣いがわからないので、無難な敬語で返事する。

スイリは、漫画のよくあるリアクション道理、額に青筋をたて『ガーン』っと音がたっているような雰囲気を絶たせて、腰を抜かしてしまった。

そして、ショック過ぎたのか魂の抜けたような表情になってしまった。

暫くすると、スイリは、徐々に落ち着きをとりもどし、今迄の経緯を語りだした。

判明したことは、私の名前はアイリ・クローバー、年齢は5歳。

風邪をこじらせて、死にかけていたとのことだった。

母の名はスイリ、父は私が死にかけた日に見舞いに来た男性。名はピール・クローバー、爵位は男爵。

スイリはもともとクローバー家のメイドとして働いていたが、無理やり愛人にさせられたぽかった。

その行になるとスイリは、言葉を濁した。

その言葉尻から、なんとなく合意の上ではないであろう感じがした。


アイリは正直に、記憶喪失と話したおかけで、次々質問しても疑われることはなかった。

例えば、水はどうしているのかとかトイレの使い方とか、幸い両方上下水道が完備されているのか、

水道は蛇口を押し上げればでてくるし、トイレも水洗トイレで使うことができた。

このおんぼろの家にに使わないほどの設備のように感じる。

つい「家はこんなにぼろいのに、そこだけ完備なんで不思議」とつぶやくと、それを聞いていたスイリに貴族の義務なのよと笑って教えられる。

どいうことかというと、上下水道不備の場合、不衛生になるため国から重税をかけられる仕組みになっている。

このため、領主はどの世帯に対してもココだけは必死に整備しているとの事だった。

その他の設備はボロくても税金を課せられることがないため、水周りだけが新品同様で後は雨漏り、隙間風のオンパレード。

見るからに重税回避の為だけの部屋の作りだ。

アイリがあの日感じた冷たさも、どうやら雨漏りの水滴が顔に落ちてきたものらしかった。

この小屋に住んでる経緯もサクッと聞いたところ、妊娠が発覚した後出ていこうとしたが、正妻が慈悲という名のもと無理やりこの小屋に押し込んだとのことであった。

男子が生まれていなかったため、もしもの時の予備とも考えていたらしいが、生まれたのは女の子だったため、更に扱いがひどくなり今では食糧さえも分けてもらえなくなりつつあるとのことだった。


その状態で、我が子が危篤となり、クローバー男爵に助けを求めにいったというのだから、何とも子供思いの姿に、胸が熱くなった。


それにしても、お腹がすいたよ―。

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