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第53話 布石と導線


「……うん、なんとかなる……ソレさえ分かれば。あとはまぁ、タイミング次第って感じかな。結局のところ」


 段違いに格上であるレッドオーガを討つため、心当たりと違和感……この2つの〝繋がり〟の解明を急ぐとともに近々起こるであろう〝ある事〟に期待しつつ、思考をフル回転させてとにかく生き延びることに全力を注ぐ。


 相手の観察、事が起きた際の備え、死なぬための立ち回り。

 これら全てをこの身ひとつで行なわなければならずのうえ、そもそもマルチタスクなど苦手な私。

 だがそれでも〝やり遂げてみせる!〟と思えるのはきっと、不屈の精神を持った父から受け継がれた血が濃いためだろう。元王国騎士団長にして【ドワーファ王国の英雄】である父『ティグル』の熱き血が。


 その後、再びレッドオーガは突然駆けだすなり馬鹿の一つ覚えかと思うほど忠実に先程の振り下ろし攻撃を再現し、一方の私も先程と同様の動きで攻撃を躱しつつ右膝裏を強く蹴り入れる……のではなく、今度はよりダメージを与えるべく『大跳躍』に加えて『旋風脚』を延髄に打ち込んだ。

 並の相手ならば気絶または場合によっては死に至るほど危険な一撃なのだが、今回は並々ならぬ相手のため本気で蹴るしかなかった。しかし……



「くっ、やっぱ効かないか……! それに……」


 奴の肉体があまりにも硬すぎるせいで逆にこちらが左足を負傷する事態となり、しかも未だ両手は痺れたままなのでやれることが限られてしまっている。

 あと攻撃を躱す度に風圧で衣服が破れていくのがすっごくイヤ。

 とはいえ、そのような状況下でもなんとか奥へと続く通路を背にする立ち回りをしてみせ、「ふぅ……」と一旦落ち着くために息を吐いた。


 ……人は誰しも弱く脆い。

 故に魔物との戦いは常に命懸けであり綱渡りを強要される。だが過度な緊張は視野を狭め、思考を鈍らせ、身体を強張らせてしまう。だからこそ、そうならぬようこうして自制する必要があるのだ。


 ──って、昔お父さんが言ってたっけ……馬鹿デカい熊の魔物とやり合ってるときに。……あ、そういえば他にも確か……


 魔物が普段とは違う行動を見せたとき、その理由として考えられることは3つ。



 一、精神異常。


 二、他者による洗脳または傀儡化。


 三、高位の存在からの指示・命令。



 ……とかなんとか。

 当時は理解できなかったが今ならなんとなく分かる。もうイイ大人だし。


 それはさて置き、この中で最もソレらしいやつといえば……三番、コレしかないと思う。

 先ず一番は絶対にあり得ない。だってどこをどう見ても〝まとも〟だもの。

 次に二番だが……一見あり得そうに思えるがやはり違う。何故なら奴の感情には整合性があるからだ。

 なんらかの理由で洗脳された場合は感情に矛盾が生じ、片や傀儡化させられた場合は感情を失くした状態となる。

 これらは魔物のみならず生物全般に云えることであり、当然ながら父より授かりし数ある教えのひとつ。


 ……魂の残滓……僅かに浮かべた笑み……道理から外れた様相……馬鹿の一つ覚え……高位の存在……


 出揃った数少ない情報を基に〝繋がり〟を解明せんと十二分に思考を働かせていたところ、「……!! そっか……そういうことか……!!」と思いの外早く全てが繋がった。流石は私……ううん、聡明な母の娘だからかな。


 奴こと『レッドオーガ』は己よりも高位の存在である〝あの女〟から指示若しくは命令を受けてあのような道理から外れた様相を見せている。

 しかしながら、生来の短気・短絡的な性格と低知能が災いしてその命を完全には実行できていない。つまりは中途半端。

 それは奴の似合わぬ行動を実際に見て感じたものが証明しており、それこそがあの僅かに浮かべた笑みと馬鹿の一つ覚えかと思うほど忠実な攻撃に他ならず、残虐性と凶暴性を併せ持つ悪鬼には到底無理な注文だったと云えるだろう。


 ……という具合に真相を明らかにした直後、ジリジリと距離を詰めてきていたレッドオーガは何故か一度だけ頷いたのち、三度目となる振り下ろし攻撃の動作に入る。となれば、私も当然の如く回り込んで反撃を──



「──えっ──」



 奴の攻撃を躱そうと左側へ体重を移した途端、硬く太めの何かに躓き派手に転倒。両腕が使えぬため受け身を取れずに顔から落ちてしまった。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 一体何事かと思いすぐさま顔を上げたところ、そこには私にバレぬよう密かに差し出された奴の硬く太めの右足が。


 ──ッ!! や、やられた……! 今までの攻撃は全部このための布石だったんだ……!!


 まんまとしてやられた事実に気づきショックを受けるとともにやられるまで気づけずにいた間抜けな自分にひどく腹が立ち、その悔しさから下唇を噛み締めながらも負けたくない一心で立ち上がりを試みる……が、さきの反撃で負傷していた箇所を重ねて負傷したためか左足が全く動かずの状態に。

 加えて、生命の危機が差し迫っていることで異様に興奮しては情緒に異常を来し、遂には感情を抑えきれなくなってしまう。


 くそっ! くそっ! くそっ! 折角〝繋がり〟が分かったのに見抜けなかった! それにこのままやられたらそれこそ間抜けじゃない! てか動けなくなるなら事前にそう言ってよ! だからほら動いて! 動け! 動け! 動け! いいから動けってばぁぁぁ──ッ!!


 荒々しくも必死に動かそうとするも依然として左足は応えてくれず、そればかりか両腕と同じく激痛と痺れに襲われたことで一気に冷静さを取り戻せはしたものの、同時に血の気が引いていくのが分かった。


 ただでさえ心身共に疲弊しているうえに二度の攻撃が掠っただけで衣服はズタボロに裂かれ、更には四肢のうち三つが動作不能という半死以上の状態となったことでふと脳裏に浮かぶは負のイメージ。それも最悪なことに、つい……



《──あ、コレ死んだ──》



 ……そう思ってしまった。

 するとその事実を本能で嗅ぎ取ったのか、レッドオーガは僅かな……いや、完全に勝ち誇った笑みを浮かべてはそのまま愉悦に浸る。

 悍ましく醜い内面とともに聳り立つ巨大な愚物を腰布から曝け出して。


 ひと先ずは奴が馬鹿なお陰で生き永らえることができた……が、それでも状況が好転したわけではない。

 とはいえ、このまま殺されるのをただ待つのも癪だと、その無防備な急所を目掛けて棍を伸ばし、一矢報いることにした。そう……たとえ惨たらしく殺されようとも。


 先程まで幸福に満ちていたであろう奴の顔が一変して苦痛に歪むと、すぐに憤慨した顔つきとなり、怒気を放ち、地団駄を踏み、そして今度こそ金棒を振り下ろす。嘗てないほどの力で。


 ……悔しいよ……何も成せずに死ぬなんて……


 心残りがありすぎて落ち着いてなどいられない。

 されど、既に打つ手がないのは重々承知のため、無理に目を瞑り、悔しくも〝生〟を諦めることにした。

 だって、その方がカッコイイ死に様だと思ったから……




「諦めんな──ッ!!」




 真なる恐れに屈し、真に〝生〟を諦めかけたその時……突如として事は起きた。

 もうじき起こるであろう〝ある事〟が予想よりも早く訪れたのだ。


 馴染み深き〝アイツ〟の励声で咄嗟に目を見開くと、背後からは厳しくも温かな気配たちを感じ、この身は震え、突き動かされるように行動を起こしていた私。

 レッドオーガによって脳天から打ち砕かれる寸前、右足のみで地を蹴り後ろへ跳ぶことでなんとか攻撃を回避。そのまま仰向けとなる。


 そしてその直後、私がずっと保ち続けていた導線を活かすかたちで後方からは数多の苦無と2本の弓が流星の如く飛来し、眼前を流れ、奴の全身に遍く直撃してはその硬すぎる肉体に皆弾かれていく。


 ──ッ!? ま、まさかあんなに硬いなんて……でも、これでどうにか……


 ダメージは皆無だが思わぬ奇襲に怯んだのだろう、奴がよろめきながら後退を始めたことで私への追撃は不可能となり、一時的ではあるが危機から逃れられ、どうにかこの命を繋げることができた。




 ……が、息吐く暇などない。

 茫然と起き上がる私の両隣を駆け抜けた者たちがいたからだ。非道なる悪鬼を討ち取るべく、烈々と……──



         【番外編】



ルゥ:ナレ「……魂の残滓……僅かに浮かべた笑み……道理から外れた様相……馬鹿の一つ覚え……高位の存在……」


クリスタ「出揃った数少ない情報を基に〝繋がり〟を解明せんと十二分に思考を働かせていたところ──」


ルゥ「……!! そっか、そういうことか!」


クリスタ「──と思いの外早く全てが繋がった。流石は私……ううん、聡明な母の娘だからかな」



 ……一方その頃、とある村では……



チェリーナ「──はっ! たった今ルゥちゃんが私を褒めてくれたような気がするわ! 大変っ、急いで美味しいお赤飯炊かなきゃ!」


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