第50話 異常事態
《う〜ん、悩ましい……せめて暇潰しに誰かと話せればって思ったんだけどなぁ。本命のアッシュも今は無理そうだし……う〜ん、う〜ん……》
再び皆で歩きだしたのち、密かに悩み始めてから数十秒が経過。しかし、未だ話し相手は決まらず。
何故そこまで決まらないのか……理由は簡単、話したい相手に限って難敵がすぐ側にいるからだ!
例えばウルザ。
彼女には〝あの件〟で是非とも礼をせねばと考えてはいるものの、それにはオナパ(同じパーティ)である男三人を押し退ける必要がある……が、彼らにはキーニャたちを背負ってもらっているため雑な扱いは御法度。故に厳しい。
続いてレジーナ。
気品漂う佇まいや存在感、そして時折放たれる気迫がティナちゃんを彷彿とさせるため是が非でも彼女の正体を探りたいところではあるが、隣に大魔王エタンがいるせいで迂闊なことを聞けない。故に厳しい。
オマケでピスカ。
今までに話したことのある者の中で最も気が合うけど最も遠い気がしてなんだか不思議な感じがするから一応候補に。でも今すぐ話したいわけじゃないので保留中。プラータが一緒でも全然オッケー。故に厳しくない。
う〜む、うむむむむぅ……よしっ、決めた! ここは安牌を取ってピスカに話しかけよう! なんかモヤっとしたのも気になるし丁度イイや! てなわけで早速──いや、やっぱ違う気がする。今私が話すべきなのは……
ピスカの元へと向かおうとしたその矢先、不意に独りでいる〝彼〟が視界に入り、急遽そちらへ話しかけることにした。だって……〝独りぼっちは寂しい〟ってことを嫌というほど知ってるから。
「どもどもぉ〜、みんなの聖女ルゥちゃんです☆」
「は、はぁ……??」
やっ……やっちゃったぁぁぁ〜っ!! こういうノリ不慣れなうえにめっちゃ滑るとか穴があったら入りたいくらい恥ずかしいぃぃぃ〜っ!!
ほぼ面識のない相手だったので攻めた〝つかみ〟で距離を縮めようとしたがまさかの失敗。両手で顔を覆うほどの羞恥心に襲われる羽目に。
それと失礼承知でいえば、この甘いマスクと人当たりの良さを鑑みて「なんか女誑しっぽい!」と勝手に予想していたためもっとがっついてくるものだと思い込んでいたのだ。まぁ、単に私に魅力がないだけかもしれないけど。……あ、なんか泣きそう。
因みに、こうして顔に触れてやっと気づいたのだが……どうやらガスマスクとツナギの上半分をいつの間にか脱いでいたらしく、そのためかやけに視界が開けて見えるし掻いた汗もちゃっかり引いている。
寧ろ今まで気づけなかったのはいつものことすぎて意識から外れていたからだ。この〝脱ぎ癖〟のことを。よって、特別私が鈍チンというわけではない。
そう思ったらなんだか落ち着いた。
あ、そっか……どうりでモニアが外見を褒めてくれたわけだ。まっ、完璧お世辞だろうけどね。
あと恐らくだけど、あの未知の液体(牛乳っぽい見た目のやつ!)の匂いを嗅いだことで色んな感覚が麻痺してるんだと思う。怖気や気味悪さとかを感じ取る何かがさ。じゃなきゃ今頃こんな平然としてらんないもの。
……といった推察をしては「うんうんっ、絶対そうだ!」と独り納得し頷いていると、存在を忘れかけていたシンカーから〝ある誘い〟を受けることに。
「聖女様……辱めてしまったお詫びとして今夜打ち上げでもいかがですか?」
「あ、いや、別に辱められたわけじゃ……って、何故に打ち上げ? それにその言い方だとナンパしてるみたいに──はっ!」
この瞬間に確信を得た。この男……やっぱ女誑しじゃん! と。
「──!! そ、その表情……驚きの中に蔑みが垣間見える……!」
「は……?」
何言ってんだコイツ……と引いた。
「ハァハァ、やはり素敵だ……蔑む顔がとても似合う! 唆られる! まさしくご主人様に相応しい!」
「はぁぁぁ〜っ!? ななな何言っちゃてんのアンタっ!? 頭のネジ外れてんじゃないの!?」
シンカー……この男は〝女誑し〟ではなく【変態】なのだと、そう悟った。
それに加え、これ以上話していると確実に蹴り飛ばすであろうことも悟っていた私は、さきのやり取りによって再度〝彼ら〟のことを思い出していたため、一応それとな〜く伝えることにした。しかも、お得意のアレで。
「あーそーいえばー確かー、マイセルたちが来てるんだったー」
「──ッ!?」
くっ、我ながらなんて酷い芝居を……ぐふっ! とあまりの下手さ加減に精神的ダメージを負っている傍ら、「そ、そんな……何故彼らが──!?」と先程とは別人のようにひどく動揺を見せるシンカー。……あれ? なんだか様子が……
私の見立てでは「わーそうなんだー、ビックリぎょーてーん」と単に驚くだけだったはずなのだが……予想外にも彼は唐突に駆けだすなり何も告げずに皆を抜き去っていき、そのただならぬ行動に異変を感じた私も単身追いかけることに。そして……
「ちょっ、ちょっと! 急にどうしたってのよ!」
「……み、視えたんです……」
「はぁっ!? 見えたって何が!? ……えっ、もしかして私、腋の処理が甘k──」
「──彼らが消されるところを!!」
「あ、あぁ、なんだそっちかぁ──って、消されるぅ!? ……そ、それってまさか……!!」
シンカーの言わんとする意味に気づいた直後、彼の目的地である中間地点に到着。互いに軽く息を切らしながら。
ココはマイセルたち四人と面識を得たと同時に親交を深めた場所でもあるとても感慨深い空間。地形の完成度もやはり段違いに素晴らしい。
……それより、さっきシンカーが言ってたことがホントなら四人は神隠しに遭うってことだよね? でも見えた……ううん、〝視えた〟って一体どういう……?
シンカーの言葉に何かが引っ掛かりつつも、必死になって四人を探す彼とともに大声で彼らの名前を呼び捲った。何度も何度も繰り返して。
するとその最中、突然背後に気配を感じたため振り向きざまに強烈な回し蹴りをかまs──
「──ストップストーップ! 俺です俺っ!」
この聞き覚えのある声に即反応した私は、またこのパターン!? と驚きつつも顔に当たる寸前でどうにか蹴りを止め、透かさず顔を確認。やはりその人物は捜索中のマイセルだった。
「あわわごめん! てっきり魔物かと思っちゃって!」
「いっ、いえっ! こちらこそ急にすいません!」
蹴りの体勢のまま謝り合う構図……なんとシュールなことか。
その後すぐ、あまりにもおかしかったため「くくくくくっ……!」と堪えながらも笑い合っていると、光の届かぬ場所から他三人もひょっこりと現れ、その変わらぬ元気な姿と合わせて〝神隠し〟の疑いも晴れたことで内心とても安堵した、のだが……
「……何故だ……何故来たんだ……!!」
こちらに気づいたシンカーがゆっくりと向かってきている……が、何やら様子がおかしい。てか明らかに怒ってるよね、アレ。
「よ、よぉリーダー……! げげ、元気そうで何よりだ、なっ、なぁみんな!?」
とても慌てた様子のレクター。
こちらはこちらで明らかに動揺しており、あとの三人も賛同の笑みがぎこちなすぎるため動揺しているのが丸分かりだ。
う、う〜ん、彼らの間に何があったのかまでは分かりかねるけど、このままじゃ絶対碌なことにならな──
「──笑い事じゃない!!」
「すませんッ!!(×4)」
あぁ〜、やっぱこうなったかぁ……って、なんだか騎士団の上司と部下みたいな関係性だなぁ。あのケトルでさえ真顔で声張り上げてるし。あ、そういえば……
……幼い頃、故郷の村に何度か遊びに来た〝父の元部下〟と称する者たちが父に対してこのような感じであったことをよく覚えている。──はいっ、回想終わり!
本来ならパーティ内での揉め事に関与するのは宜しくないのだが、どこをどう見ても只事ではない雰囲気なので「仕方ない……ここは一肌脱いじゃいますか!」と張り切って仲裁に入ることした。
「まぁまぁ! とりま神隠しの危機は去ったわけだし一旦落ち着こ?」
「……? 神隠し? 一体なんのことです?」
「え……? なっ──」
期せず、疑惑が浮上。そして同時刻、異常事態までもが発生し……──
〜メイキング&NG集〜
オルド「んじゃ次は〝視えた〟のシーンいきまーす!」
ルゥ「ちょっ、ちょっと! 急にどうしたってのよ!」
シンカー「……み、視えたんです……」
ルゥ「はぁっ!? 見えたって何が!? ……えっ、もしかして私、腋の処理が甘k──」
シンカー「──そのとおりです!!」
ルゥ「あ、あぁ、なんだそっちかぁ──って、え゙ぇ〜っ!? 合ってんの!? それならそうと早く言ってよぉ!」
クリスタ「デュフッw 脇の処理は女の嗜みだおw」
ルゥ「はぁ!? 何その笑い方と語尾っ! なんかムカつくんだけど! てか、そういうアンタは脇の処理ちゃんとしてるわけ!?」
クリスタ「チラリ」
ルゥ「──ゔっ!? まっ、眩しい! それになんなのこの迫力は!!」
シンカー「おぉ……なんて尊き輝き! まるで腋から後光が差しているかのようだ!」
クリスタ「ふふふ……さぁ、跪くのです」
ルゥ「くっ、あまりの輝きと迫力に思わず屈しちゃう……!」
シンカー「あぁ……この穢れた心が浄化されていく……」
クリスタ「いいから跪くのです、人の子らよ」
シンカー「ははぁ!」
ルゥ「──ウソっ!? シンカーがオチた!?」
クリスタ「ふふっ、残るはアナタのみ。碌に腋の処理もできぬ憐れな小娘よ……さぁ、さっさと跪くのです」
ルゥ「うぐぐっ、このままじゃ恥を晒す羽目になっちゃう……でも、もう抗うチカラなんて残ってな──って、あれ? 光と迫力が消えた……?」
クリスタ「──ッ!? ちょっと!? もうすぐオチるとこなんだから頑張んなさいよ!」
フェルム「いやそう言われてもよ……もう魔力だって切れちまったし」
レジーナ「それにやり過ぎな気もするしな。……ふむ、もうここいらで良いのではないか?」
クリスタ「ぐぬぬぬぬっ……きぃぃぃ〜っ!! 覚えてなさいよぉ〜っ!!」
ルゥ「……どゆこと?」
レジーナ「それはかくかくしかじか……というわけだ」
ルゥ「ふむふむ……つまりあの輝きはフェルムの魔導具で、迫力の方はレジーナのスキルだったってことかぁ」
フェルム「まっ、そういうこった。あと手を貸した理由はうんぬんかんぬん……ってわけなんだが、どうもやり過ぎちまったみてぇでわりぃな」
ルゥ「ううん、別にいいよ。だって騙されてたんでしょ? 〝怠けてる私に罰を与える〟っていう嘘っぱちの名目でさ」
フェルム「まぁ、そうだな」
ルゥ「ならこの話はこれでお仕舞い! あの女にはあとで〝ギャフン!!〟って言ってもらうつもりだから気にしないで?」
レジーナ「うむ、かたじけない。その際は是非とも協力させてもらおう」
フェルム「よしっ、その時は俺も手を貸すぜ!」
ルゥ「うん、ありがと二人とも! ……あ、けど必要ないかも」
フェル・レジ「……?」
オルド「はいカーット! もっかいいきまーす!」
クリスタ「はぁ? 今更カットぉ? アンタ仕事ナメてんじゃないの?」
オルド「……あっ、言い忘れてました! ギャフらないクリスタさんのギャラはナシでーす!」
クリスタ「──ッッ!? ギャフン!! ほっ、ほら言ったわよ! だからっ、だからそれだけは勘弁してぇぇぇ〜っ!!」
シンカー「…………」
《ゔぅっ、恥ずかしすぎてここから動けないよぉ……》




