第47話 前門の虎、後門の狼
「……ふむ、横道が計十二……ならばルゥ、ひと先ずは気配察知を頼む」
「おっけ〜。んじゃちょっと待っててね」
てな感じで、エタンからの頼み事を軽〜く引き受けた私は気配察知を発動。
それにより周囲及び12箇所全ての横道にも魔物はおろか一切の生物もいないことを把握できたため、私提案の基、各自分担して4箇所ずつ横道の探索を行なうこととなった。もしやキーニャたちがいるかもしれないと。
だけど……もしいた場合その三人は、もう……
嫌なことに最悪の状況を想像してしまった……が、それでも気を強く保ちつつ探索へと臨んだ。
……結果、幸いにもキーニャたちはどこにもおらず、その代わり細く短い道の突き当たりには粗雑な小部屋と地面中央に悪い意味で適当に敷かれた落ち葉がただあるだけ。多分、奴らの寝床。
「はぁぁぁ……よかったぁ……けどなんかガッカリ。せめてちょっとくらいお宝があってもいいのにさ」
キーニャたちの屍がないことに心底安堵したものの、宝物への淡い期待が呆気なく破れてしまいただただ落胆。
その後も残念がりながら通路に戻り、じきに無言で帰ってきた二人と合流し目を合わせるも、一切の会話もなく、まるで探索を行なった事実などなかったかのように再び歩き始めた。
前を歩く二人の反応を見るに、きっとどの部屋も寝床しかなかったのだろう。
つまり、残念がっていると知られたくないので何も言わずにいるわけだ。まぁ、私もだけど。
でもさ……とっくにバレてるから全然意味ないんだよ、お二人さん? とニヤけ顔で真意を見抜いた優越感に浸っていたところ、それを察知したかの如くレジーナが口を開く。
「……あぁ、そういえばだが」
「ふぇっ!? あぁ、うん、なに?」
「いや、何か言うことはないかと思ってな……ん゙ん?」
「え? え? え?」
ゆっくりとこちらを振り返りつつ謎の圧を強めてくるレジーナに対し、段々とイヤ〜な気配を感じては既視感を覚える私。
その圧(迫力ともいう!)の性質があまりにもティナちゃんのソレと似ていたため、半ば反射的に「ひぃぃぃ〜っ!!」と恐怖の悲鳴を上げた直後に難なく両手を上げて降参。この洞窟に来た経緯を嘘偽りなく話した。
もし仮にレジーナから逃げ果せたとしても、いつの間にか背後へと回っていたエタンからは逃れられない。まさに〝前門の虎、後門の狼〟状態だ。
なので早々に誤魔化すことを諦め、こうして正直に暴露した次第である。
ただそれが功を奏したのか定かではないが、少々長めの沈黙を耐え抜いたのち、渋々だが二人の許しを得たことで気不味すぎる空気とともに我が身は晴れて解放された。
まぁ尤も、私とアッシュが来なかったら全滅待ったなしだったから当然なんだけどね。くっくっくっ……
「……さてはお前、全く反省しておらんな?」
「ぎっくぅ〜っ!?」
「はぁ……まぁいい。少なくとも真っ当な方法で近くにまで来ているのだからとやかくは言うまい。だが反省はしろ!」
「ふぇ〜ん! ごめんなさぁ〜い!」
「ふふっ、確かに相違ない……が、なんせ初めて向かう場所だ、うっかり洞窟へ迷い込むこともあるだろう」
「はわわっ!? 微笑みながらフォローしてくれるレジーナとかカッコ良すぎるぅ……好きぃ♡」
……とまぁ、結局はレジーナへの好感度が爆上がりしたかたちでオチが付いた……かに見えたが、エタンの「私は道化か!」という意外すぎる自虐ネタでひと笑いあってから終了。そのお陰で実に和やかな雰囲気のまま先へと進むことができた。すると……
「……あっ! なんか奥の方に広そうな部屋がある! ひょっとしたらアソコにいるのかも!」
最奥と思しき場所に大部屋を発見。
狭い一本道に加え、魔物がいないことは既に把握済みであったため、少し前から『望遠』を駆使して奥の様子を探り見ていたのだ。
といっても、元々そこまで長い通路ではなかったので両目への負担は殆どなく、寧ろ探り見る必要などなかったのやもしれない。
なれど、亡き父の教えで〝万が一……いや、億が一に備えるべし!〟が身に染みついているため仕方なしと、余計な思考は切り捨て、武器を構えながら慎重に大部屋へと足を忍ばせ──
「──ふぎゃっ!? めっちゃ臭っ! なんなのこのあり得ない匂い──ッ!?」
大部屋の手前まで来た途端、室内から漂うはガスマスクをモロに貫通するほどの超強烈な悪臭。
ゔえ゙ぇ〜! お゙え゙ぇ〜! ……って、あれ? この匂いもしかして……また栗の花? 確か苦手な人多いって話だけど、私的には全然ヤじゃないんだよねぇ〜……とか思ってたけどコレは流石に強すぎて無理ぃ!!
自然と涙が滲み出るほど強烈に漂う、栗の花の香り。
これには幾多の依頼で慣れているはずの二人も我慢ならなかったらしく、どこからともなく布を取り出しては鼻口に巻き、何故か今にも逆上しそうな形相となって部屋の中へと侵入。速やかにキーニャたちの捜索が開始された。
汚れた貨幣や貴金属の他、錆びついた剣や盾など幾許かの金品や装備品が無造作に置かれている状況から、この部屋はきっと宝物庫的な役割を果たしているのだろう……と推理しつつ、それら全てをツールポーチの中にせっせと押し込んでいる傍ら、何やらエタンは誰かのギルド許可証を見つけてはハンカチを用いて拾い、片やレジーナは何かに気づいた様子で部屋の隅へと足を向ける。
明らかにただならぬ雰囲気を漂わせている二人。
形相も依然として険しく、この部屋この香りに何かしらの目星がついたのだと想像できる。それも……悪い方で。
ただ悔しいことに私には皆目見当がつかず、だからこそ直接確かめなければと、即座に合流したエタンと共に片膝を突いて動きを止めたレジーナの元へと向かった、のだが……
「ねぇねぇ、何見てんのぉ? ……あ、もしかしてド偉いお宝でもあったとか? それなら私たちにもちゃんと分けて──えっ……」
尋常ならざる殺気を放つ彼女が見つめている何か。
ソレを確かめるべく後ろから覗き込んでみると、そこには捜索対象の一人と思われる青髪の女性が全裸のまま仰向けに倒れていた。
完全に意識はなく、全身には青痣と切り傷が無数に付けられており、一見しただけでもあの女性と全く同じ状態であることが窺えたため、煮えたぎるような激しい怒り覚え、同時にこの二人が見せた形相の意味を知る。
しかし、今はもう怒りの矛先を向けるべき相手は存在しない。
そのため怒りに打ち震えながらも前回同様、ツールポーチから取り出したライポを全身に隈なく掛けて傷の回復を待ち、そして農具屋柄(鍬と鋤の鍔迫り合いがモチーフ)の黒毛布を優しく掛け終えると、こちらが言わずとも率先してエタンが背負ってくれた。
「……変態」
「──何故に!? そ、それにしてもまたおかしな柄のものを……まぁいい。他でも既に保護しているはずだ。取り急ぎ戻るとしよう」
「ちょっ、おかしな柄ってなにっ!?」
「了解した。ピスカに文句を言われるのも癪だしな」
「あれぇ!? 私の声聞こえてない!? めっちゃ綺麗にスルーされたんだけど!?」
このツッコミがウケたらしく、二人は忍び笑いを。
ぐぬぬっ、なんだか釈然としない……! けどそのお陰で怒りは収まったから良しとするかぁ!
そう瞬時に開き直り、この大部屋から出るため立ち上がろうとしたその矢先、地面に置かれた何かにふと気づく。
その何かとは……コルク栓で蓋をされた、古びた牛乳ビン。
それも満タンに入ったものが幾つも並べられており、その光景があまりにも異質なためつい手に取って眺めていた。
キュポンッ! と栓を外し、よく見えるようガスマスクを上にずらして。
「へぇ〜、魔物も牛乳って飲むんだぁ──って、くっさ!! なんで栗の花の匂いすんの!? しかも変にドロドロしててなんかキモっ!!」
なんの疑いもせず、なんの気なしに匂いを嗅いでみてビックリ仰天。
コ……コレは牛乳なんかじゃない! 未知の液体だぁ!! と悟るほどに。
それからすぐ、部屋の外にいるエタンから「何しているんだ早くしろ!」と出発を急かされてしまった私は、咄嗟にコレをツールポーチの中へ放り込み……──
〜メイキング&NG集〜
オルド「んじゃ次は〝未知の液体〟のシーンいきまーす!」
ルゥ:ナレ「ぐぬぬっ、なんだか釈然としない……! けどそのお陰で怒りは収まったから良しとするかぁ!」
クリスタ「そう瞬時に開き直り、この大部屋から出るため立ち上がろうとしたその矢先、地面に置かれた何かにふと気づく。その何かとは……コルク栓で蓋をされた、古びた牛乳ビン。それも満タンに入ったものが幾つも並べられており、その光景があまりにも異質なためつい手に取って眺めていた。キュポンッ! と栓を外し、よく見えるようガスマスクを上にずらして」
ルゥ「へぇ〜、魔物も牛乳って飲むんだぁ──って、くっさ!! なんで栗の花の匂いすんの!? しかも変にドロドロしててなんかキモっ!!」
クリスタ「なんの疑いもせず、なんの気なしに匂いを嗅いでみてビックリ仰天。コ……コレは牛乳なんかじゃない! オスの液体だぁ!! と悟るほどに。それからすぐ──」
ルゥ「──ちょっとタンマっ! ……なんかさぁ、〝未知〟の液体が〝お酢〟の液体になってたんだけどw 見た目も匂いも全然違うのにww」
ルゥ以外のみんな「…………」
ルゥ「……あれ? なんだか私が間違えたみたいな空気になってない? 一体なにゆえ……?」
クリスタ「はぁ……確かに(わざと)間違えたのはアタシだけど、それとは関係なくもうちょっと(オスの)勉強した方がいいわね、アンタの場合」
ルゥ「へっ? どゆこと? ……あ、もしかして〝お酢〟の勉強しろってこと?」
クリスタ「……まぁ、ある意味そうね……全く違う意味(お酢じゃなくてオス)だけど。……まっ、いいわ。アンタはそのまま貞操でも守り続けてなさい」
ルゥ「──貞操っ!? 何故か知らんけど小馬鹿にされてない私っ!? てか、なんでみんなして憐れんだ顔向けてきてるわけ!? そんなに〝お酢〟って大事なものだったの!?」
エタ・レジ「はぁぁぁぁぁ……」
ルゥ「……なっ!? クソデカため息っ!? しかも部屋の外からハモって聞こえてきたんだけど!? ──あっ、まさか呆れられてr──」
オルド「──はいカーット! とにかく勉強してきてくださーい!」




