第46話 奥の手
「──!? はぁぁぁっ!? ジャイアントスイングとか嘘でしょ!? もし喰らったら絶対タダじゃ済まないやつじゃない!! アイツ馬鹿なの!?」
急にブチギレモードとなったピスカ。
その変化に驚いた私はつい身体をビクッとさせた……が、そんな彼女が発した目の覚めるような愚痴のお陰で、完全に忘れ去っていたはずの記憶が鮮明に甦る。
確かそう……あのアーツは生前に父が故郷の村を襲撃しに来た盗賊どもに掛けた豪快な投げ技であり、当時まだ幼かった私には危険だからと決して教えてくれなかったヤバいやつだ。
【お〜い! お前は絶対に真似しちゃダメだからなぁ! わはははははっ!!】
笑いながら盗賊の頭領をぶん回す父の姿を思い出したことであまりのヤバさ加減に引き攣り笑いをする傍ら、尚も彼女の強烈な愚痴りが火を吹く。
「軽めのゴブリンでも重傷んなるっていうのにそれを今度は重いボーグルでとか! しかも威力を何倍にも高める系のアーツを使うだなんて頭のネジ外れてんでしょアイツっ! マジホント馬鹿っ!!」
こうしてブチギレ捲るピスカからアーツの詳細を図らずも得たことによって、内心だけで肝を冷やしていたはずが表立って焦りだす私。
それに加え、こちらは未だに長印を結ぶ前に行なう〝魔力の練り上げ〟に集中している真っ只中であるのに対し、向こうは既に最終段階である〝高速回転の制御化〟へ突入しているため、静と動の勢い的にどうにも分が悪い気がしてならず、このままではヤバいという強い危機感を覚えた。
《くっ、もしこっちの方が遅かったらガチでヤバい! だからプラータ……ちょっ早でお願い!!》
とはいえ、それでも不思議と待つことに一切の躊躇いもなく、そしてそれこそが〝信頼〟なのだと不意に気づき、滲み出る嬉しさから笑みが零れた次の瞬間、微笑を浮かべた彼から「……お待たせ」と告げられたため速攻でゴーサインを。
「いっけぇぇぇ──ッ!! ぶっ放せぇぇぇ──ッ!!」
この咆哮を合図に、壁役の六人は左右に分かれての緊急回避を行ない、プラータからブルーオーガまでの導線がはっきりと見えるようになると、こちらに気づいた悪鬼どもが迫りくるなかで互いの〝奥の手〟が同時に放たれた。
【風遁『暴風龍の吐息』……術者から直線上に放たれる超高圧の突風。膨大な魔力を消費する代わりにその威力は絶大であり、条件次第では〝竜之息吹〟をも凌駕することが可能となる。但し、発動は二十四時間に一回のみ】
……という謎の知識が頭の中に流れ込んできたのだが、確かにコレは絶大すぎる。
ブルーオーガの放った『巨人之遠投』による死体投げの屍などまるで紙っぺらの如く容易に吹き飛ばされ、更には生存する全ての魔物が頑丈な岩壁へと押し潰されて全身がグチャリ。
無論、術の範囲内にあった屍たちも漏れなく同じ状態となっており、あのスプラッターな光景からして誰がどう見ても明らかなオーバーキル。
……え、こんなん反則すぎない……? と呆気に取られながらも恐る恐るみんなの反応を窺ってみたところ、仲良し三人組を除いた全員が口を開けたまま唖然として動かなくなっていた。
「はは、だよねー。あんなん見せられたら誰でもそうなるよねー」
乾いた口調でそう呟いたのが悪かったのか、ピクリと耳を動かしたみんなから怒涛の質問攻めに遭う羽目となり、「なんで私っ!? 使ったのプラータだよね!?」と透かさずプラータを見るも、魔力切れによって白目を剥いて倒れていたため今度はフェルムに助けを求めようと目を向ける……が、ここでよもやよもやの知らんぷり。
あっ……あんにゃろ見捨てやがったなぁぁぁ〜っ!! と内心フェルムに滅茶苦茶キレる一方、頼みの綱であるエタンに「ヘルプミ〜っ!」と嘆きのアイコンタクトを送ってみると、いざ返ってきたのは「無理だ、諦めろ」と言わんばかりに首を横に振るジェスチャー。
この時に漸く詰んでいることを知った私は「はぁ……」と観念のため息を吐いた後、最も質問の多かった【魔法】ではないことを念頭に置いてもらいつつ、今までの隠し事を全て告白した。
……静まり返るだだっ広い空間。
そんななかで耳に届いてくる幻滅の声らが私の心に突き刺さり、痛む。
たとえ自称で名乗ったわけではなくとも、〝聖女〟として讃えてくれている者たちに対して申し訳ない気持ちでいっぱいとなり、それはマイセルたちや目の前にいる彼らの身に付けている武器を見れば当然の感情と云える。
特に【アームストロング】の四人は主力武器ではなく補完武器として装備してくれているのだから尚更だ。
見るからに綺麗なままであることから扱われる機会などほぼないであろうあの武器たち。
ただあれほどまでに馴染んでいるさまを目の当たりにしてしまうと、まるで「必要な存在だ」と言われているように思えてならず、〝我が子〟を想う嬉しさから目頭が熱くなった。
だからこそ、目の前にいる女が〝聖女〟でもなんでもないと知った彼らは思わず幻滅の声を口にしてしまったのだろう。
そしてこれから私は詐欺師やペテン師などと罵倒されるであろうが、当然ながらそれらの言葉を真摯に受け止めなければならない。
《……うん、分かってる……全部、自業自得だってこと……》
幾ら勝手に祭り上げられたとはいえ、それに足る助力ができたと自負しているし、私にしかできぬ行ないでみんなの役に立てたことも誇らしく思っている。
されど、罵倒されることについては分不相応だと自覚しながらも〝聖女〟という称号を利用して商売に走った自分への罰だ。言い訳も何もない。
……フェルム、エタン……大丈夫だよ、私はもう覚悟してるからそんな心配そうな顔しないで。
そう伝えるため二人に微笑みかけつつも、これから来るであろう罵倒を一身に受けるべく、両拳を強く握り締めながら〝その時〟を待つ。すると……
「……なぁ、別にいんじゃねぇの? 聖女じゃなくてもウチらにチカラくれたんだから。寧ろ文句垂れる意味が分からねぇよ、そうだろ?」
思い掛けぬウルザのこの発言により、両目を見開いて唖然とする私……と、ハッと何かに気づかされた表情を見せるみんな。
次第に彼女の思想が正しかったかのように「……まぁ、確かにそうだよな……」と呟き頷く者たちが出始め、遂には「さっきはすまなかった!」と罵倒どころか逆に謝罪をされてしまい、その意外すぎる展開に思考が追いつかぬまま慌てて彼らを許していた。
「ふふっ、どちらにせよ私たちがAランクに上がれたのは貴方のお陰なのだから元より気にしてなどいなかったがな」
「まっ、そういうことだからアンタも気にしなくていーんじゃない? って、別に心配してるわけじゃないんだからねっ!?」
レジーナとピスカ、相変わらずな二人。
だがそのお陰で私は平静を取り戻すことができ、次いでその様子に安堵したエタンは「……うむ、それでは救出に向かうとしよう」と気を利かせて進行を。
といっても、奥にある通路手前で再度立ち止まる羽目となるのだが。
「……さて、どう振り分けようかエタン氏」
「ふむ……やはり各通路に女性を付けるべきだろう」
「あっ、私真ん中がいい!」
「ちょっと!? 隊長はアタシなんだけど!?」
……とまぁ、隊長のピスカ(自称)はさて置き、イイ意味で適当な話し合いの結果がこちら。
左の通路……ピスカ、フェルム、シンカー。
真ん中の通路……レジーナ、エタン、私。
右の通路……ウルザ、エレバス、ゴレーラ、スカラベ。
待機……ハル、モニア、プラータ、アッシュ。
待機組については負傷中のモニア、看病のハル、魔力酔いのプラータ、そして護衛のアッシュという編成となっている。
なお、私に同行すると手を挙げたレジーナとエタンは協同的に何かをするつもりらしく、この二人の表情からして確実に怒られるやつだと悟ったことは言うまでもないだろう。ひ、ひぇぇぇ〜……
その後、アッシュに軽く声をかけてから各通路へと足を踏み入れた私たち。
先程覗かせた彼の物言いたげな表情がふと脳裏を過るもそのまま奥へと進んでいくと、視界の先には幾つもの横道が見え始め……──
〜メイキング&NG集〜
オルド「んじゃ次は〝幻滅の声〟のシーンいきまーす!」
クリスタ「見るからに綺麗なままであることから扱われる機会などほぼないであろうあの武器たち。ただあれほどまでに馴染んでいるさまを目の当たりにしてしまうと、まるで「必要な存在だ」と言われているように思えてならず、〝我が子〟を想う嬉しさから目頭が熱くなった。だからこそ、目の前にいる女が〝遊女〟でもなんでもないと知った彼らは思わず幻滅の声を口にしてしまったのだろう。そしてこれから私は──
ルゥ「──ちょっと待てぇぇぇ〜い!!」
クリスタ「あら何よ? 折角ノってきたとこなのに邪魔しないでちょうだい」
ルゥ「いやいやいやっ、何平然と私が〝遊女〟じゃなくてガッカリ! みたいな感じ出してんの!? あまりにも自然すぎて危うく聞き流すとこだったからね!?」
ウルザ「……あ、確かに。言われてみればそうですわ」
レクター「ということは……はっ! 危うく拙者らも〝夜遊び人〟として扱われるところだったわけでござるか!?」
クライス「ウソやろ!? ホンマかいな!?」
マイセル「……な、なんで……」
クリスタ「チッ……作戦失敗か」
レクター「クリスタ殿っ! 何故そのようなことを!」
ケトル「そーだそーだぁ!」
クリスタ「……面白半分よ」
クライス「ウソやろ!? ホンマかいな!?」
マイセル「……な、なんで……」
クリスタ「……だって、だってみんな……最近忙しくて全然笑えてないでしょ! だからやったのよ! 悪い!?」
ケトル「そーだそーだぁ!」
みんな「…………」
オルド「はいカーット! 笑顔で撮影に臨んでくださーい!」
ルゥ「……ったく、それならそうと早く言ってよね! こんな回りくどいことしなくても言えばみんな分かってくれるんだからさ!」
ケトル「そーだそーだぁ!」
クリスタ「アンタたち……」
ウルザ「ふふっ、ルゥさんの仰るとおりですわ。それに……この中で夜遊びに勤しむ方はどなたもいらっしゃらないと思い──」
マイセル「──なんで……なんで夜遊びしてることがバレたんだ!! 石鹸の匂いもちゃんと誤魔化したはずなのに!!」
みんな「……え?」
マイセル「……え?」
みん・マイ「……え?」




