第45話 勝利の兆し
「アッシュ、言う事聞かなくてごめん。でも……」
本来ならば彼の願いどおりこの場から逃げ帰り、冒ギルに戻って緊急事態である旨を伝えるべきなのだろう……だが、その前にみんなは確実に殺されてしまうためそれはできない。
ここまで追い詰めた以上、きっと嬲られる以前に原型を留めておくことも許されはしないのだから。
……と、確信めいた推察をしている間に、ハルとモニアがなんとピンチに。
そして、武器を構えたゴブリン三体がヨダレを垂らしながら今にも襲い掛からんとして──
「──邪魔ッ!!」
即座に棍を伸ばし、行く手を遮る輩を横一閃で即一掃した私は、何事もなかったかのようにモニアの元へ到着。
ハルの「えっ、誰? 何故にガスマスク?」といった心の声がダダ漏れなのはさて置き、手早くツールポーチから取り出したライポをモニアの口に含ませて暫く様子見を。
ただ幸いなことに、少しずつだが飲めるだけの意識は取り戻せていたらしく、回復に多少の時間は要るが命の危険は去ったと云える。
しかし、問題はその時間をどう稼ぐかだ。
今はアッシュの加勢によりみんなの勢いも戻りつつあるが、正直なところそれもいつまで保つかは分からない。
だからもう一手っ! せめて奴らが攻めあぐねるくらいの手札がほしい! と苦慮しながら周囲を観察していたまさにその時、丁度すぐ側までプラータが後退してきたため「おーいプラータぁ! こっちこっち!」と透かさず呼び寄せた。
「──!? ルゥ!? なんでキミがココにいるわけ!?」
ここまであからさまに驚いたプラータを見るのは初めてだと逆に驚きつつも、駆け寄る彼に「ねぇっ、なんでアレ使わないのよ!」とすぐさま詰問を。
相当当たりが強かったせいか、口をモゴモゴさせて答えあぐねているプラータ。
それでも僅かな見つめ合いでいかに私が真剣であるかを理解してくれた彼は、少し照れた様子で口を尖らせながらこう答えた。「……だって、聖女じゃないってバレたら大変でしょ……」と。
思わず「キュン♡」って口にしていた私。
まさか私のためにアレを使わずにいてくれたなんて……と感激したからだ。
とはいえ、このままでは全滅待ったなしのため幾つかの指示と併せて「私のことはいいから使って!」とアレを解禁させ、プラータを再び戦線へと送り出した。
取り敢えず今はプラータの働きに期待しつつハルとモニアの護衛を最優先とし、あとはできるだけ目立たぬよう立ち回るしかない……と、思っていたのだがそうもいかず、何故かやたらとゴブリンどもに狙われるので否応なく排除しながら文句を垂れる。
「あ゙ーも゙ーっ! なんでこんなひっきりなしに襲ってくるわけ!? ココ全然前線じゃないじゃんかよぉ!」
半径10m以内に入ってきたら問答無用で突く、突く、突く、突く、突く。……いい加減ヤになってきた。
そんなうんざりするような状況のなか、不意を突かれるかたちでハルから感謝の言葉とともにとてつもなく気になる発言がポロリ。
「あの……妹共々助けてくださりありがとうございます、聖女様」
「いえいえ〜……って、あれ? 私のこと分かったんだ──せいっ! えっと、どこで気づいたか聞いてもいい?」
「えぇ、勿論です。恥ずかしながら初めはお顔が見えなかったので気づけませんでしたが、そちらのピンクのツナギを見ているうちにふと思い出しまして」
「あ、そりゃそうか。私くらいだもんね外でツナギ着てんの──とりゃ! ところでさぁ、やけにゴブリンがウザいんだけどいつもこんななの?」
「まぁ、そうですね……いつもはもう少し控えめですが、今は聖女様がいらっしゃるので」
「え゙ぇ〜っ!? 私のせい──ちぇすと! どゆことどゆこと!?」
その後タイミング良くゴブリンからの熱烈アタックが鳴りを潜めたのでハルの話に集中したところ、ゴブリンに関する衝撃の事実を知らされたことで奴らへの嫌悪感が増した。
実はゴブリンには夜目と発達聴覚の他にも特殊嗅覚という特性が備わっており、その多岐にも及ぶ嗅覚特性の中でも〝ある匂い〟を過敏に嗅ぎ分けることができるらしく、その匂いというのが〝女体臭〟と呼ばれる女性特有のフェロモン的なやつ。
個人差によって匂いの濃さは違うようだが多汗の者は特に濃い傾向がみられ、それも集団であればあるほど匂いはより濃厚となり漂う距離も伸びると云われている、とのこと。
ハル自身もごく最近に偶々知る機会があっただけのようで、私と同様に嫌悪感が増したと言って困ったように微苦笑を浮かべたため、同志として彼女にとても親近感が湧いた。
「……ゔ、ゔぅ〜ん……お、お姉ちゃん……?」
「──ッ!! モニア!? 意識が、意識が戻ったのね? よかった……」
完全に意識を取り戻したモニアに向けてハルは安堵の表情を見せると、零れる涙とともに笑みも零して彼女が無事であることを心から喜んだ。
すると、それに合わせたかの如くみんなを連れたフェルムがこちらへ駆け寄りながら「おーい! アイツに言われたとおり集めてきたぞぉ!」と声を上げ、程なくして皆が集結するなり私を見て驚くと、予め伝えてあった配置へと各自移動を開始。
てっきりエタンかレジーナ辺りから怒られると踏んでいたのだが、どうやら状況が状況なだけにグッと堪えてくれたようだ。まぁ、あとが怖いけど。
なんにせよ、これで準備は万端。満を持して再反撃に出れる。
魔物の屍がそこかしこにあるためゴブリンの機動力はほぼ封じられ、次いで速いボーグルに至ってはみんなの奮闘により残り僅か。
一方の私たちは壁際に近いため屍は少なく、固まって行動しているブルーオーガ及び無印オーガ三体とも距離があるので即全滅の恐れはない。
ゴブリン〝三五〟ボーグル〝〇四〟オーガ〝〇三〟ブルーオーガ〝〇一〟以上!
なるほどぉ、四十三体かぁ……むふふぅ、これならイケちゃうかもなぁ〜! と勝利の兆しに二チャリ。
残存数を再び把握し、敵の強さと照らし合わせた結果がこの悪笑顔を生み、父が言うにはこの表情を浮かべた私はとても厄介なのだそう。
私のすぐ右隣で「うわぁ……」と引いているプラータにはアレの中でも最高火力のものを放つよう仕返しとばかりに急かして要求し、フェルムとレジーナ、そして【アームストロング】の四人には壁役として魔物らの足止めを。
続けて、エタンには私の左隣で壁役に当たらぬよう『必中』による足止めの援護とついでに撃退も頼み、足のあるピスカとアッシュにはひと先ず左翼と右翼に分かれてもらい合図が出るまで待機を……いや、やっぱ遊撃をしてもらおう。
最後にシンカーだが……うん、私の意図を殆ど理解しているようだ。
何をするのかまでは分からずとも、自発的にエタンと共に弓で足止めの援護を、それも特に来てほしくはないオーガどもの方をやってくれている。
しかも弓に関しては結構なお点前であるうえに〝我が子持ち〟のため私の中での好感度はかなり高め。
因みに当の私はというと、負傷により移動のできないモニアとハルの護衛かつ不測の事態にも備えているのであって、断じてサボっているわけではない。いやホントに。
それはともかくとして、一つだけ大きな懸念がある。……そう、ブルーオーガによる〝死体投げ〟だ。
幾ら配下とはいえど、仲間の屍を投げ飛ばすなど常軌を逸しているとしか到底思えず、いつそのイカれた行動を取る気なのかと内心肝を冷やしているところ。
死体投げとアレ。どちらが早いかで勝敗が決まると言っても過言ではない。
壁役の六人やエタンとシンカーによるダブル足止めは勿論のこと、偶に両サイドを抜けてくるゴブリンどもはピスカとアッシュが倒してくれているのでそこは無問題。
ただ計算違いなのは想定よりもアレの発動が遅れていることであり、その理由は洞窟という限られた空間であることとアレの中でも最上位のものを放とうとしているからだ。
まぁ、私は見たことないんだけどねぇ──って、マズっ! 遂に仕掛けてくる気だ!
膠着状態に痺れを切らしたブルーオーガは再び地団駄を踏むと、今度はボーグルの屍を拾っては何故か横回転をし始め……──
〜メイキング&NG集〜
クリスタ「取り敢えず今はプラータの働きに期待しつつハルとモニアの護衛を最優先とし、あとはできるだけ目立たぬよう立ち回るしかない……と、思っていたのだがそうもいかず、何故かやたらとゴブリンどもに狙われるので否応なく排除しながら文句を垂れる」
ルゥ「あ゙ーも゙ーっ! なんでこんなひっきりなしに襲ってくるわけ!? ココ全然前線じゃないじゃんかよぉ!」
オルド「はいカーット! 休憩入りまーす!」
ルゥ「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃっ! ……あっ、そういえばハルちゃんの趣味って曲作りだったよね?」
ハル「──!! はっ、はい! とはいえ拙いものですが……」
ルゥ「えぇ〜? んなこと言って実は自信満々なんでしょ〜?」
ハル「い、いえ、そんなことは……」
ルゥ「ふ〜ん……じゃあ私がジャッジしてあげる!」
ハル「えっ!? で、ですが──」
ルゥ「──はいっ、歌うのけってぇ〜! というわけで一曲お願いね?」
ハル「──!? わ、分かりました……その代わり即興でもよろしいですか?」
ルゥ「──!! もちっ! あぁ〜楽しみだなぁ!」
ハル「コホンッ、それでは聴いてください……」
ルゥ「……ゴクリ……」
ハル「……全然前せn──」
ルゥ「──ちょおぉぉぉっ!!」
ハル「……? え、えっと、何か問題でも……?」
ルゥ「いや問題も何もそれ完全にパクリだから!!」
ハル「……テヘっ♪♪」
ルゥ「──ぎゃわいっ!! それも私的にパクリだけど可愛いからどっちも許す!!」
オルド「はいグレーゾーンなので再開しまーす!」




