第43話 鉄と栗の花
「んじゃまっ、打ち合わせどおりココはよろしくね! いってきま〜す!」
居残り組の四人に見送られるなか、私たち二人は再度歩きだした。
昼食を終え、食休みを兼ねた話し合いの結果がこの分離策。効率を考えて二手に分かれた次第だ。
私とアッシュは救出組として先へ進み、【ガルキマセラ】の四人はあの場に残って怪我の治療及び魔物の解体と後処理をする手筈となっている。
ただ彼ら曰く、「こっちが済めば加勢しに行く」とのことだが、あまり無理をしてほしくないというのが本音。
まぁ尤も、その前に私たちが全て片付けてしまうかもしれないが。……あ、なんだかやれる気がしてきたかも。
「むふふっ、逆に解体とか手伝っちゃう?」
「へっ? い、いやぁ、それはちょっと無理が……」
……えっと、冗談で言っただけだから魔に受けなくてもいいんだよ? と思って密かに苦笑い──あ、屍発見。
あちこちにゴブリンやボーグルの屍が転がっており、その数は先へ進むにつれて増えていく一方。
幾らガスマスクを装着していようと視覚から入るグロ情報だけで充分に吐けr──いや吐かないよ!?
独り脳内でノリツッコミをしながら続く屍を跨いでいると、何かを思い出した様子のアッシュから不意に質問が。
「おっと、危うく蹴飛ばすところだった……あ、そういえばですが、あの時何故レクターさんを蹴飛ばしたんですか? あとその前にも何か渡してたようですし」
「ふぇ? あの時……? よいしょっと……あぁ、あの時ね」
おーっと、見られちゃってたかぁ。食休み中にこっそり渡したはずだったのに目敏いというかなんというか……まっ、別に隠すもんでもないから教えちゃってもいいよね?
僅かな逡巡もせず、食休み中の出来事をアッシュに説明した。
といっても、早い話が一人だけ〝我が子〟を連れていなかったので託しただけのこと。だって可哀想だったし。
それと蹴飛ばした理由だが、代価も払わず「くれくれ」と煩いうえにしつこかったため交換条件として『旋風脚』を受ける案山子になってもらったからだ。
因みに蹴飛ばした相手は茶髪槍士こと『レクター』
さきの戦闘では見られなかったが〝槍投げ〟を得意とするやや無作法な男。
だが別に悪気はなさそうなのでそれほど気にはしていない。……まぁ、ちょっとくらいは自重してほしいけどね。
他にも明るく自分に正直なエロ赤髪剣士こと『マイセル』、態度は偉そうだが実は気配り屋の青髪棍士こと『クライス』、そして口数は少ないがずっとニコニコ笑顔の白髪弓士こと『ケトル』
彼らもレクター同様、イイ意味で変わり者だ。
マイセルは元神官騎士のくせに煩悩に忠実すぎて笑えるし、没落貴族のクライスは口が悪いせいで褒めているつもりでもいまいち伝わってこないから面白い。
それにケトル……名前の意味は〝雄弁なる者〟だが寧ろ真逆の生き方なのが最高すぎる。
本人たちには内緒だけど、いかにも【変人】って感じがして好感が持てるし何より一緒にいて楽しい。
「ふふっ、またみんなでご飯でも食べながら話したいね」
「──!! そうですね! 是非やりましょう! 依頼の打ち上げとしても丁度イイですしやらない手はありません!」
堪らなく嬉しげな様子のアッシュに感化され、つい私まで嬉しくなって気分が高揚。一気にやる気に火が付いた。
「よーしっ、んじゃサクッと助けてパーっと盛り上がろー!」
「おー!」
ハイテンションの私たち二人。足取りは相応に軽い。
そのため自ずと歩くペースも速くなり、一切の罠もなく、邪魔する魔物もおらず、加速度的かつ順風満帆に進み続けていく。だが……
うんうんっ、この調子ならすぐみんなと合流できそう! と安心し切っていたそんな折、なんの前触れもなく強烈な悪寒を感じるとともに左方から謎の視線が。
先程まで全く気配などなかったはずだと驚きつつも「──誰っ!?」と透かさず左を振り向くと、そこには般若の面を被った白装束姿の女が佇んでいた。
黒髪ロングに極スリム体型、雪のような白肌に何故か裸足で手足の爪は鮮血の如く赤い。あと猫背。
え゙っ、こっわ!! てかいつからソコにいたの!? それに人なの!? 魔物なの!? なんで鬼のお面なわけ!? 全然さっぱり分からないけどとにかくあの女……ヤバいッ!!
壁際に佇む怪しげな女。
殺気こそ放たれてはいないもののヤバすぎる気配をギュンギュンと発しているため、全身に冷や汗を掻きつつ震える両手で武器を構えて戦闘モードに入る……がその直後、背後にいるアッシュから思いも寄らぬ一言を貰うことに。
「……? 何かいるんですか?」
あまりにも突飛すぎるその発言に「はぁっ!? 何言って──」と声を荒げながら後ろを振り向く私。
不思議そうにこちらを覗くアッシュの顔を目にした途端、底知れぬ不安感で心がざわつき、不意に戸惑うと、ほんの一瞬だが気を逸らしてしまう。
されど、即座に隙を与えていることに気づき「──!! しまっ──」と素早く振り向き直すも、あり得ないことに女の姿は既にその場から消えていた。
「──ッ!? いない……」
理解が及ばずただただ茫然。
あの女は一体何者で、一体なんのために現れては消えたのか。
依然として何一つ分からぬまま、半ば無意識の状態で三度歩きだした。
……
……
……さきの言動、アッシュから見れば単なる奇行に過ぎないのだろう。
だがそれでも彼は何も聞かずに歩みを合わせてくれている。
その事実が私を正気にさせ、且つ冷静に考えることを許してくれた。
何故私には視えてアッシュには視えなかったのか、何故前触れもなく現れては消えることができたのか、それらをこれまでに得た知識と経験に基づき考え、じきにある1つの結論に辿り着く。それは……
「……そっか、魂だ……」
ストンと腑に落ちた気がする。まだ完全には理解できていないが。
霊体はともかく魂を視認できるのは私だけであり、姿形関係なく実体がなければ岩壁をすり抜けることも可能なはず。そう確信してのこの回答。
「……あ、それに今思い返せばあの女うっすら発光してたし何気に岩壁の一部も崩落してた──ふぎゃっ!?」
考え事に夢中のあまり、魔物の屍に気づかぬまま躓いてしまい派手に転倒。
堪えるどころか受け身すら取る間もなく顔からビタンッ! ……とはならず、そーっと目を開けたらなんと地面目前のところでアッシュが抱き留めてくれていたのだ。後ろから。
ただその手が選りに選って胸に……うん、気にしない気にしない。
「あ、ありがと……」
「い、いえ……」
あ゙ゔうぅ……めっちゃ恥ずいし気不味いよぉ……と茹で魔蛸の如く赤面し、互いに顔を逸らし合う。
……ややあって、四度歩きだしてすぐのこと。
このむず痒すぎる雰囲気をなんとか変えるべく、〝あの女〟についてしどろもどろな口調だが伝えてみたところ、「なるほど……だからあのような言動を取ったんですね」と意外にも信じてくれたアッシュ。
そんな疑うことを知らぬ純粋な彼を見て、思わず「正気なの!?」と驚くとともに2つの意味でホッとした……のも束の間、突然オーガと思しき怒号が奥から響いてきたため瞬時に戦闘中であると判断。私たちは共に頷くなり先を急いだ。
……奥へと続く道の途中、急に見知らぬ場所へ来たような錯覚に陥ってしまい、困惑。
それは荒々しく掘削された岩壁や凹凸だらけの地面へと地形が変わったためであり、やはり悪鬼どもにイジられていたのだと確信を得た。
《けれど……そんなことより今はみんなを助けなきゃ!!》
その一心を胸に、私とアッシュは全速力で悪路を突き進む。
初めは微かな戦闘音が先へ進むにつれて徐々に大きくなり、同時にガスマスク越しでも分かるほどツンと匂う、鉄と栗の花の香り。
……ん? 待てよ? 鉄は血だって分かるけど、なんで洞窟の中に栗の花……? って、嘘でしょ!? あの悪鬼どもに花を愛でる趣味が──!?
想像しただけで身震いが起きた。てか絶対あり得ないし!
速攻でくだらない思考を蹴り飛ばし、全力で駆け抜けた先には次なる空間とそこから漏れ出す明かりが。
そして間もなく辿り着いた瞬間、目の当たりにした光景に私は……──
〜メイキング&NG集〜
オルド「んじゃ次は〝後ろから〟のシーンいきまーす!」
ルゥ「……あ、それに今思い返せばあの女うっすら発光してたし何気に岩壁の一部も崩落してた──ふぎゃっ!?」
クリスタ「考え事に夢中のあまり、魔物の屍に気づかぬまま躓いてしまい派手に転倒。堪えるどころか受け身すら取る間もなく顔からビタンッ! ……とはならず、そーっと目を開けたらなんと地面目前のところでアッシュが抱き留めてくれていたのだ。後ろから。ただその手が選りに選って胸に……うん、気にしない気にしない」
ルゥ「あ、ありがと……」
アッシュ「い、いえ……こちらこそありがとうございます!」
ルゥ「あれっ? なんか台詞違わない? もしかしてアドリブ──って、なんで手をニギニギしてるわけ!?」
アッシュ「い、いや〜、あれほど大きくハリのある胸に触れたことなんて今までになかったもので……あっ、でも勘違いしないでくださいね? あくまで僕は〝尻派〟ですから!(キリッ!)」
ルゥ「聞いとらんわそんなこと!!」
クリスタ「ブフッw ドヤ顔でフェチ曝露とか……大変な変態ww」
オルド「はいカーット! 自分は〝胸派〟でーす!」
ルゥ「だから聞いとらんわそんなこと!!」




