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第41話 考え事は尽きず


「な〜る、そういうことかぁ……てか、キミって話すの上手いんだね! もっと聞かせて聞かせて!」


「──!! はいっ、喜んで! いや〜実はあの時本気で漏らしかけるくらい驚いちゃいまして──」


 嬉しそうに話すアッシュの横顔を眺めながらニヤける私。不謹慎だけど、今この瞬間が楽しくて楽しくて仕方がない。

 その理由はきっと、大好きな家族や仲間に向けるものとはまた別の感情をアッシュに抱いているからだ。

 けれど、それを知られるのが怖い。

 彼に抱いたこの〝友情〟という名の感情は、とても脆く儚く、そして裏切られるものだから……



 ……昔、故郷の村での出来事。

 ある日を境に私の中で〝友情〟は〝嫌悪〟へと変わり、〝友達〟は〝奴ら〟へと成り果てた。


【フ・ジョ・オッ! フ・ジョ・オッ! フ・ジョ・オッ!】


 決して忘れることのできない奴らの見下した声。あの嘲笑され続けた日々はまさしく地獄そのもの。

 幼い頃から強気だった私は、現状に抗うため奴らとの喧嘩に明け暮れ、その度に物や家族にまで当たり散らしていた。

 だから父にはよく怒られていたのだが、あの頃の私はどうかしていた……本当に、どうかしていたんだ……



 ……あぁ、ヤだなぁ……小さい時のこと思い出したから胸がキューってなってる……


 吐き気を伴うほどの嫌悪感、胸を締め付けるような圧迫感、それらにより深く沈む心。

 幾ら精神的に成長しても払拭されない記憶であり、克服する術さえも見つからない厄介なもの。……それがトラウマ。


 だけど、今の私にはコレがあるから大丈夫。

 愛情込めて母が作ってくれた、この美味しい〝自家製梅干し〟がね! ……うんっ、相変わらずうまい!


 食べたら気持ちが軽くなった。


 母曰く、コレには身体の疲れを取るとともに心を落ち着かせる効果があるらしい。それも、即効性と持続性の両属性持ち。

 だから疲れたときや、こうして嫌な気持ちになったときには極力食べるようにしている。てか寧ろ食べなきゃ無理。

 因みにイリアさんに食べてもらっているのもそのためだ。ほんの少しでも元気になってほしいから。


 といってもまぁ、あの人の場合は好んで食べてくれてるみたいだけど。きっと身体が欲してるんだろなぁ……あっ、そうだ! あとでアッシュにも食べさせてあげよ──って、そういえば全然聞いてないじゃん話っ! 私から振ったのに!


 慌てて耳を傾けたものの途中からでは内容がいまいち分からなかったため、ひと先ずは聞いた話だけでも思い返すことにした。


 確かアッシュの話では……刀を軽く振るっただけでマウントバードの首が刎ね、他にも空中から突撃された際、刀を向けていただけなのに身体がスパッと両断。驚愕しすぎて危うく失禁しかけたとかなんとか。


 はは〜ん、要約すると〝この武器TUEEEEE!!〟ってわけだ。そりゃあ漏らしかけもする──


【──って、あれ? 私、今何を思った……? TUE? ツエ? こんな古代文字知らな──ゔっ……】



 全く見覚えのない文字が頭に浮かんだかと思えば急な頭痛に見舞われ、咄嗟に歩みを止めてしまう。

 だがすぐに治まったので再び歩きだし、気づかず話し続けているアッシュに向けて「へ、へぇ、そうなんだぁ……」とバレぬよう適当な相槌を打つ。


《……あの文字は、あの頭痛は一体なんだったの……?》


 異様なまでに気になったので必死に思い出そうとするも、それに関する記憶が皆無のため辿ることすらもできず。

 そうして思い出せずに悶々としていると、アッシュから何かを言われたのでまた適当に相槌を打った、のだが……



「……!? 危ない!!」


 その大声とともに彼は何者かを斬りつけ、私はハッと我に返る。

 よく見れば南の洞窟まで辿り着いており、地面には一体のゴブリンが青い血を流して倒れていた。

 先程彼はこの危険を伝えてくれていたのだと即座に理解。同時に己の愚かさに気づき、負い目が滲む。


「あ……ご、ごめ──」


「──それより早く残りを倒そう! 仲間を呼ばれたら厄介だ!」


 人が変わったように勇ましいアッシュに引っ張られ、透かさず私も「──!! うん!」と気合を入れ直して棍を振るう。


 残る敵はゴブリンが五体。上位種はいない。


 少数なうえに強敵が不在なこともあり、初の共闘戦ではあったが苦もなく勝利を収めることができた。無論、仲間も呼ばせずに。


 そっか……幾ら魔物とはいえ、初めて意図的に生き物を殺したんだ、私……


 転がる屍を見て、罪悪感から胸がズキズキと痛む……が、感傷に浸っている時間はない。一刻も早く助けに行かなければ。


 取り急ぎ武器と魔核だけは回収。

 ナイフや石斧は私が、体内にある魔核はアッシュが解体して取り出した。


 取り敢えず屍は放置。

 土葬してあげたいがそんな余裕はないし、余計な体力を使うわけにもいかないからだ。



「……あ、そういえばお礼し損ねてたね……ありがと、助けてくれて」


「──!! い、いえ……そっ、それでは行きましょう!」


 どうやら元の少〜し気弱な彼に戻った様子。

 それでも前を歩く姿に頼もしさを感じ、ちょっとだけ背中が大きく見えた。



 洞窟の出入り口。そこに立つ私たち二人。

 中は真っ暗。まるで闇夜の世界。

 照明の魔導具で辺りを照らすアッシュ。

 元は鉱山なだけあって頑丈そうな岩壁、固く転圧された地面、深奥まで続く広い空洞、これなら安全に進めそう。


 されど、踏み入ること叶わず。

 咽せ返るほどの血の匂い、全身に纏わりつく嫌な空気、それらがこの足を竦ませているからだ。


 思わず吐き気を催す私。だけど我慢し切ったうえに呑み込んでやった。

 こんな訳の分からないものには負けたくないし、何より情けない姿を彼に見られたくないもの。


 すぐさまガスマスクを装着。常備していてよかったと心底思う。

 彼にも使うか尋ねたが必要ないと断られた。流石は冒険者、慣れているのだろう。


 やむを得ずツナギに袖を通し、チャックを首元まで閉める。

 汗っ掻きのため敢えて上を着ずにいたのだが、そんな悠長なことなど言っていられない。


 これで準備は万端。足の竦みも……うん、もう平気。

 私たちは互いに頷き、そして中へと足を踏み入れた。





「……静かだ……」


 ポツリとそう呟いたアッシュの声がよく聞こえるほどの静けさ。

 だが先へ進むにつれてゴブリンや他の魔物の屍がチラホラと見受けられ、この状況を踏まえれば争いがあったことは明白。


 奴らの傷跡からして時間は然程経ってはおらず、そのうえ同士討ちでもない……と、アッシュは云う。

 打撃・斬撃・矢傷……様々な武器で倒されていることは素人の私でも分かる。

 つまりこれらの傷は冒険者との戦闘時に負ったものであり、既に救出隊の面々がこの中にいることを示しているのだ。


「……それにしても、まさかこんなにボーグルがいるなんて……」


「……ボーグル? それってゴブリン以外の魔物のこと?」


「えぇ、そうです。奴らは──」



 中鬼『ボーグル』


 通称〝フツオニ〟


 悪鬼種。脅威度ランクはD。

 小鬼『ゴブリン』の進化先にして半リーダー的存在。進化率は凡そ30分の1と推測される。

 進化後に群れを抜ける者が約半数もいるらしいがその理由は不明。

 成人男性と似た体格をしており、進化前に比べて敏捷性や性欲は減衰しているが腕力と残虐性はその分増加している。

 肌の色はゴブリン時よりもやや暗めの緑に変色。

 攻撃方法は素手と武器の両方。力のある個体ほど素手で戦う傾向が強く、恐らくは力を誇示するため。



 ──以上がアッシュから聞いた情報だ。

 あと屍を見て気づいたのだが、洞窟前でゴルトに頭を吹き飛ばされたやつも確か同じ見た目をしていたような……


「……ん? てことはさ、ゴルトは投擲だけでDランクの魔物を倒したってこと……?」


 自分で言っておいて怖くなったので考えるのをやめた。

 結論、ゴルトは〝やべーやつ〟である……って、マジヤバいどうしよぉ! 私っ、ドロップキックかましちゃったから頭パーンてされちゃうかも!?


 訂正、考え事は尽きず。


 くっ、こうなったら……帰ったら速攻で詫びの品を渡そう! と固く心に誓いつつ、尚も奥へ奥へと進んでいく。

 すると突如、前方から激しい金属音が反響して聞こえてきて……──



       〜メイキング&NG集〜



オルド「んじゃ次は〝トラウマ〟のシーンいきまーす!」



ルゥ:ナレ「……あぁ、ヤだなぁ……小さい時のこと思い出したから胸がキューってなってる……」


クリスタ「吐き気を伴うほどの嫌悪感、胸を締め付けるような圧迫感、それらにより深く沈む心。幾ら精神的に成長しても払拭されない記憶であり、克服する術さえも見つからない厄介なもの。……それがトラウマ」


ルゥ:ナレ「だけど、今の私にはコレがあるから大丈夫。愛情込めて母が作ってくれた、この美味しい〝自家製梅干し〟がね! ……うんっ、相変わらずu──まっず!!」


クリスタ「食べたら気持ちが悪くなったww」


ルゥ「ホントそれっ! どうなってんのってくらい不味すぎて気持ち悪いんだけどマジで! しかも時間差とか!」


クリスタ「ふーん、それはちょっと気になるわね。どれどれ……ん゙ん? 別に不味いってほどじゃな──まっず!!」


オルド「ナマズ……?」


アッシュ「いやいやいやいや、お二人ともホント上手いなぁ。──あ、おひとつ頂きますね? ……で、お話の続きですが撮影に出てくる料理で不味いものなんてあるはずがな──まっず!!」


オルド「ナマズ……?」


ルゥ「いやナマズじゃなくて不味いって言ってんの! みんな!!」


クリスタ「それよりどうなってんのよコレっ! どう考えてもチェリーナさんが作ったものじゃないわよね! こんなナマズの餌みたいなやつ!!」


アッシュ「そうですよオルドさん! お美しいうえに料理上手なチェリーナさんがこんなナマズの餌みたいなやつを作るはずがないですから!!」


ルゥ「全くの同意っ! さぁ、今すぐ白状なさい! こんなナマズの餌みたいなやつを作った大罪人の名を!!」


オルド「──ッ!? そ、それは……」


ルゥ・クリ・アシュ「それはぁ〜?」


オルド「それは…………クっ、クオリエッタさんです……ッ!!」


ルゥ・クリ・アシュ「──ッッ!? チーン……」



 ……この日、何故かクオリエッタの下に大量の進物が捧げられたという……


クオリエッタ「…………どゆこと?」


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