第40話 まるで豆腐ですよ肉なのに!
「それでは皆様、どうかお気をつけて。キーニャ様たちを宜しくお願いいたします」
オセロアが姿勢良く頭を下げて見送るなか、救出隊の面々はやる気と緊張が入り混じった面持ちで冒ギルを後にし、その傍らで取り残された私は独りポツンと佇んでいた。
彼らが横を通り過ぎる際、見知った者たちには「どんまい」と声をかけられたり無言のまま肩に手を置かれたりし、見知らぬ者たちからは同情や憐れむような目を向けられたりも。
それらのことがあったからか、皆に置いていかれたことがとても寂しく思え、何より悔しかった。
程なくして気づいたことがある。
それは救出隊の面々が退出し終えるまでの間、辺りが静寂と化していたということ。
ところがどうだ。彼らが去るや否や、沢山の冒険者が雪崩の如くオセロアの元へと押し寄せ、なんと抗議の嵐に。
「なんで聖女様を同行させてあげないんだ!」
「聖女様が可哀想よ! どうにかしてあげて!」
「オセロアさん! 今度食事に行きましょう!」
……みんな、私なんかのためにありがとぉ──って、最後のなにっ!? どさくさ紛れにナンパしてる!?
皆が元気づけてくれたから私はもう平気。
寧ろ気になるのはオセロアの方で、いつもは平然としている彼女だが物量に押されて疲弊したせいか、「はぁ……分かりました。それでは──」と観念したように妙案を口にした。
南の洞窟付近でしか自生していない珍しい植物『オッキシ草』
要はその草の採取依頼を出したらどうかといった内容だ。
それも、依頼条件に〝依頼者同行アリ〟の文言を付け加えたものを。
にゃーるほどぉ……さっすがオセロアちゃんめっちゃ天才っ! それなら確かに洞窟の手前まで行ける! あとは自己責任でよろしくってことだろうけど!
実のところゴブリンの討伐依頼を出せれば洞窟内にも入れたらしいのだが、この一件でゴブリン関連の依頼は全て休止状態となってしまうためそれができず。
更にいえばオッキシ草の採取依頼はDランク向けとなるそうなので、ゴブリン関連と比べても依頼料が高くつくことが容易に分かる。
しかし、それでも私は依頼を出すことに決めた。
身分証となるギルド登録証を提出し、必要書類に目を通してからサインを記入。
すると見守ってくれているみんなから急に歓声が上がって思わずビックリ。
ただそれ以上に嬉しかったので、密かに笑みを浮かべながら依頼料を支払い、依頼書作成のため席を外したオセロアが戻ってくるのを待つことに。
「お待たせいたしました。こちらが依頼書となりますのでご確認をお願いいたします」
オセロアから手渡された二枚の依頼書を確認した後、写しの方はツールポーチに仕舞い、原本の方は別のギルド職員(茶髪の女性)によって依頼掲示板に貼り出された。
やったぁ! これで救出に向かえる! そう期待して後ろを振り向くと、先程まで応援してくれていたはずの冒険者たちは皆一斉に明後日の方を向いて素知らぬフリを見せる。
応援こそすれど依頼を受けるのはちょっと……といった反応だ。実に分かりやすい。
え゙ぇ〜っ!? 嘘でしょ!? さっきまであんな盛り上がってたのになんなのこの落差っ!?
あまりの変わり身に驚きと衝撃を受けた……が、そんなのはほんの微々たるもの。
何故ならみんなの気持ちを即座に理解でき、同時に決心したからだ。
命懸けとなる依頼なのだから仕方がない、なので無理強いもしない……と。
とはいえ、少なくとも一人には受けてもらわなければ元も子もないため、みんなにはこの場から解散してもらい、近くの円柱に身を隠しつつ依頼書を覗いて暫く様子見を。
……
……
……あっ、誰か来た! ……って、すぐイっちゃった……
……
……
……おっ、また誰か来た! ……むぅ、やっぱダメかぁ。みんなイクの早すぎ……
……
……
……ん? 今度は三人組かな? ……おぉ見てる見てる……よーし持った! そのまま(受付に)イケイケイケぇ〜! ……くぅ〜残念っ! 今度こそ(救出に)イケると思ったのにぃ!
その後もヤキモキしながら様子を見ていた折、一人の男剣士が私の依頼書を手に取るなり凝視。
明らかに見覚えのあるその風貌を見た瞬間、不思議と胸が高鳴るのを感じた。
彼は確か……そう、『アッシュ』だ。刀使いのDランク冒険者。
好きな食べ物はキヴィ団子。好きな人物は祖父母。好きな動物は犬・猿・山鳥──って、そこは雉じゃないんかい! 確かに似てるけども!
先刻、別れる間際に色々と個人情報を交換したから知っているのは当たり前。
それよりてっきり退出したものかと思っていたのだが……ふむ、どうやら違っていたらしい。
《てか、寧ろ運命なのでは──ッ!?》
不意にそう感じ、依頼書を戻されてしまう前に彼の背中に凸る。
「つ〜かま〜えたっ!」
「ぐぇっ!? だだだ誰──って、また聖女様ぁ!?」
嫌な予感がしたのか逃げようとするアッシュに対し、自分の胸が押し潰れるほどのバックハグで逃走を防ぎつつ親愛度をアピール。
だが直感で分かる。
このままでは失敗に終わるということを。
彼は今までのような勢い任せでは決して頷かぬであろう強敵。
もっと別の切り口から攻め込まなければ攻略など到底不可能。
となれば……そう、ギャップ。普段見せない一面を晒すことで相手の心をガッチリ鷲掴みするのだ。
……!! ならアレをやるっきゃない! 昔っ、お母さんがお父さんにおねだりしてたときのアレを!!
なんて気合を入れたものの、恥ずかしすぎてやはり躊躇してしまう……が、秒で覚悟を決めてアレを実行に移す。
「……ねぇ、一生のお願い♡ どうしても依頼を受けてほしいんだけど……受けてくれる?」
か弱くも甘〜く囁くように懇願してみたところ、意外にもアッシュは「は、はひ、受けまふ……♡」と今にも蕩けちゃいそうな声であっさりと承諾してくれた。
お、おぉ、効果覿面……恐るべしお母さん……と改めて母の凄さを思い知っていたら、何故か母のニコニコWピース姿が頭に浮かんだ。
プッ、何それぇ……でもありがとね、お陰で上手くいったよ。
故郷の母に、感謝とともにご報告……──
「──お疲れ様でした。以上で依頼の受注手続きは完了となります。ところであの……大丈夫ですか? 何か物凄い悲鳴を上げておりましたが」
真顔で心配そうにチラ見するオセロア。
その視線の先は私……ではなく、隣で死にかけているアッシュ。
実はあの後、素に戻ったら羞恥心がクライマックスを向かえていたため、照れ隠しに軽くのつもりが力いっぱい抱き締めてしまったのだ。
「あ、あはは、大丈夫大丈夫っ……多分。じゃっ、じゃあいってきま〜す!」
そそくさと逃げるように冒ギルを出た私。既に満身創痍? のアッシュの手を取って。
街を出てからも変わらず急ぎ足のハイペース。
依頼の作成や手続きに時間が掛かり、予想よりも出発が遅くなってしまったからだ。
完全に魔物との戦闘を避け、薬草や硝子石など換金可能な素材にさえ目もくれず、ただひたすら進んで目的地へと向かう。
……残り半分を超えた頃、日が落ち始めてきたので更にペースを上げる。
暗くなる前に辿り着かなければ危険だと、休憩する間も惜しんで突き進み、そしてもうじき着くというその道すがら、ふと気になることが浮上。
「……ねぇ、そういえばその刀……使ってくれた?」
なんの気なしに聞いてみると、アッシュは思い出したようにこう返す。
「へ? えぇ、まぁ勿論……って! なんなんですかあの斬れ味っ! まるで豆腐ですよ肉なのに!」
えぇ……なんでキレられてんの私……てかごめん、何言ってるか全然分かんないや。
ドン引きからの塩対応。
そんななか、徐ろに彼は昨日の出来事を語りだした。
「……昨日の昼下がり、マウントバードというEランクの魔物を討伐した時に──」
「──いやちょっとタンマっ! 討伐しちゃったの!? 山鳥好きって言ってたのに!?」
「……? 魔物ですよ? 全然別物じゃあないですか」
「は、はぁ、さいですか……」
……とまぁ、ついツッコミを入れて脱線させてしまうも、今度はきちんと聞いてあげることにした。
彼と行動し、懐かしくも甦ったこの感情に心弾ませながら……──
〜メイキング&NG集〜
オルド「んじゃ次は〝アッシュに突撃〟のシーンいきまーす!」
クリスタ「その後もヤキモキしながら様子を見ていた折、一人の男剣士が私の依頼書を手に取るなり凝視。明らかに見覚えのあるその風貌を見た瞬間、不思議と胸が高鳴るのを感じた」
ルゥ:ナレ「彼は確か……そう、『アッシュ』だ。刀使いのDランク冒険者。好きな食べ物はキヴィ団子。好きな人物は祖父母。好きな動物は犬・猿・山鳥──って、そこは雉じゃないんかい! 確かに似てるけども!」
クリスタ「先刻、別れる間際に色々と個人情報を交換したから知っているのは当たり前。それよりてっきり退出したものかと思っていたのだが……ふむ、どうやら違っていたらしい」
ルゥ:ナレ「てか、寧ろ運命なのでは──ッ!?」
クリスタ「不意にそう感じ、依頼書を戻されてしまう前に彼の背中に凸る」
クリスタ以外のみんな「……ん?」
クリスタ「……? あら、何かおかしかった……?」
ネウ「……あ、あの……ソコは〝デコる〟ではなくて〝トツる〟ではないかと……」
クリスタ「はぁぁぁっ!? ウソでしょ!?」
クリスタ以外のみんな「あははははっ!!」
クリスタ「んなっ!?」
ルゥ「ぷぷぷっ……マジウケるんですけどw なんでアッシュの背中にデコんなきゃなんないわけww」
クリスタ「ぐぬぬっ……!」
アッシュ「くくくっ……た、確かにw 意味もなくデコられるのは僕としてもちょっとww」
クリスタ「ぐぬぬぬぬっ……!!」
オルド「はいカーット! 小道具にスワロ◯スキーはございませーん!」
クリスタ「うっせぇわ!!」




