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第37話 危機一髪


「……!? あれは……ギルド登録証──!?」


 そう……今し方ゴブリンAがゴブリンBに見せびらかすように舐め始めたあのカードは、私たちにとってとても馴染み深いもの。

 各ギルドで発行される会員登録の証であり、己の存在を示す証明書。命の次の次くらいに大切なものだ。


 くっ、それにしても選りに選ってキーニャちゃんのを舐め回すなんて……まるで本人にシてるみたいで気持ち悪い!


 だがこれで確定した。

 キーニャたち四人がゴブリン討伐の依頼を受けてこの洞窟に来たという事実が。


「……ん? なんか喋ってやがんな。何言ってんのか分かんねぇけどよ」


 フェルムの言うとおり会話自体は分かりかねるも、奴らの身振り手振りからして他三人の登録証は所持していないことが判明した。

 となれば、それらは洞窟内にいる奴らの手中にあるということ。


《なんとしても取り返さなきゃ……登録証もみんなも!!》


 そう決心した直後、洞窟内から他の魔物が出現。それも、全裸の女性を引き摺りながら。

 虚ろ目の女性は長い髪を掴まれて痛いはずなのに抗いもせず、その様相はただ生きているだけの屍のよう。

 更に全身には打撲による青痣や切り傷による出血が多々見られ、思わず顔を背けたくなるほどの惨憺(さんたん)たる有り様。



「な、なんて無体な仕打ちを……断じて許せません……!!」


 静かに怒りを露わにしたティナちゃんが「ゴルト!」と小さくも力強く声を上げると、後方から飛んできた何かが私の頭上を通過。あまりにも速すぎて視認できず。


 間もなくして洞窟の岩壁から「パァーン!」と破裂音が響き、そこで初めて気づく。

 先程の何かはゴルトが投げた大きめな石であり、女性を引き摺っていた魔物の頭部を吹き飛ばしたのだと。


 しかし、それだけではなかった。

 その急な展開にただ唖然とする私を余所に、今度はフェルムが混乱状態のゴブリン二体を強襲。

 両腕に黒い血管を浮き上がらせての豪快な槍捌きによって、僅か一振りで奴らの首を刎ねた。


 す、凄い、魔物をあんな簡単に……これが冒険者……って、それより早く助けなくちゃ!


 正気を取り戻すなり速攻で草叢から飛び出した私。

 仰向けに倒れて動かぬ女性の元へと駆け寄り、ツールポーチから取り出したライポを全身に掛けて応急処置を施す。


 ……!! よしっ、効いてる! なら次は──


 女性の身体が癒え始めたのを確認し、次に掛けたのは防具屋柄の白毛布。

 十字星の付いた騎士盾がモチーフの柄でとても格好イイはずなのに、武器屋柄と同様に何故か皆に引かれてしまう不憫な毛布


 ……はぁ、なんで誰も分かってくれないんだろ……あ、もしかしてみんなの頭が腐ってるとか……ん?


 ふと地面に目を向けると、そこには粉々になった石の破片が。

 豪速球による衝撃で細かく砕け散った、あの大きな石のなれの果て。

 加えて岩壁にも大きなヒビが入っており、もしあの時私の頭に当たっていたらと考えるとゾッとした。


 人智を超えた力……流石は【破界】と称されるだけはある。魔物の頭部が吹き飛ぶのも無理からぬ話だ。

 因みに、自身の頭が破裂する画を想像して危うくチビりかけたことは秘密。



「お姉様、女性の容態は如何程に」


「ふぇ? あぁ……うん、大丈夫。命に別状はないみたい」


 女性が無事だと知り、安堵の表情を浮かべるティナちゃん。

 どうやら怒りは収まってくれたらしく、私の隣に座るなり安心させるように女性の手を握りだすと、その温かさに安らいだのか女性は静かに眠りに就いた。一筋の涙とともに。


 国民ひとりに対し、これほどまで親身になれる者は貴族でもまずいない。それが王族ともなれば尚更のこと。


 流石は私の……ううん、みんなの天使だ。

 慈愛の心に溢れてて、私なんかよりよっぽど聖女らしいよ。優しいし可愛いしイイ匂いするし。それに──


「──あのっ……も、もうそれ以上は……」


「……!! あぁ、ごめんごめん。心読めちゃうんだもんね」


「はい、ですので……え? な、何故そのことを……」


「……へ? あ、しまっ──な、なんでだろぉ、あはは……」


 苦し紛れに笑って誤魔化してみた……が、やっぱり無理だったよ。

 彼女から放たれる無言の圧に難なく屈した私は、「……はい、正直に言います……」と観念して気づいた理由を話すことにした。

 これまでに見せた気の利いた振る舞いや異様に勘が鋭いのは勿論のこと、心から理解したうえで一緒に泣いてくれたのが何より決め手であったことを。



「……そう、でしたか……」


 ティナちゃんはその一言だけを呟き、口を噤んだ。小さな唇をキュッと噛み締めて。

 きっとこのの中で葛藤しているのだ。心が読めてしまう理由を私に打ち明けるか否かを。


《それなら待つよ……貴方が話してくれるその日まで……》


 心の中でそう伝えると、ハッとした表情でこちらを見つめる彼女。その瞳は少し潤んでいる。

 すると罪悪感に駆られたのか、噤んでいたはずの口を開き「あっ、あのっ、お姉様っ──」と詰まりながらも何かを言いかけた。

 されどそれを遮るかのように、周囲を警戒していたフェルムの切迫した声が響く。



「──みんな逃げろぉぉぉ──ッ!!」



 そのただならぬ呼びかけに即刻振り向くと、洞窟内から地鳴りの如く大量の足音が。

 それも段々と近づいてきており、反響しているためかより激しく感じる。


 でもなんでバレて……そっか! あの破裂音が岩壁を伝って中の奴らに聞こえてたんだ! 話には聞いてたけど耳良すぎじゃない!? てか、こんなに足音がするってことは……まさか仲間を呼んだ!?


 迫る足音に危機感を抱きつつも、速やかに女性を抱き上げて即時撤退。


 だがここで問題発生。

 いかに鍛治や鍛錬で身体が鍛えられているとはいえど、女性ひとりを持ち上げながらの全力疾走は相当に厳しく、なんと5分と保たずにバテてしまったのだ。


 はぁはぁ……も、もう無理ぃ……


 限界が近いためか、腕や足にも力が入らなくなってきた。

 とはいえ、すぐ隣を走る我が妹に女性を任せるわけにもいかな──って、ゴルトの右肩に座ってる!? いつの間に!? お人形みたいで可愛すぎでしょ!!


 それはともかく、このままでは魔物どもに追いつかれるのは時間の問題。

 後方を走るフェルムに任せようにも奴らの怒声奇声が煩すぎて私の声は全く届かず。


 くっ、こうなったら直接渡すしかない!! と覚悟を決め、後先考えずに減速し始めたその時、急に両足が地面から離れ、そのまま誰かに担がれるかたちとなった。



「──!? ちょっ、ウソでしょ!?」


 女性を左肩と顔で固定しつつ左腕の力だけで私を担ぐというあり得ないことをやってのけたゴルト。

 しかも走る速度が変わらずのうえ重さを我慢しているようにも見えない。これも筋肉の成せる業……なのか?


 いい加減驚き疲れながらもふと顔を上げたら、眼前には爆走中のフェルムと悪鬼の群れがすぐそこに。

 困ったことにゴルトの足はそこまで速くないらしく、少しずつだが確実に差を縮められている。


 ……あれ? これヤバくない? と感じたのち、漸く私たちに追いついたフェルムがレッグポーチの中をガサゴソと。


「ねぇヤバいって! このままじゃ追いつかれちゃうよ!」


「うっせぇ分かってる! だからこうして……おっ、あったあったコレだ!」


 もう目と鼻の先にまで迫っている悪鬼の群れ。その数、八十体以上。

 ヨダレを垂らし、飢えた目で迫りくるその光景は恐怖そのもの。

 もし捕まりでもすればあの女性と同じ目に遭うのは必至。そう考えたら身も心も凍えるほどの悪寒を感じてこの身を震わせた。


 しかしそんな折、球体状の何かを放り投げたフェルム。

 そしてその何かが地面に落ちた途端、眩いほどの閃光とともに甲高い音が広範囲に響き渡り、ここいらにいた全ての魔物が一斉に逃走を開始。危機一髪のところで難を免れることができた。


 はぁぁぁ……どうにか生きてるぅ……って、死ぬほどビックリしたけどね!? てかこういうのは先に言っとけっての! ……でもまぁ、そのお陰で助かったわけだし? 悪寒も吹き飛んだからギリ許してあげる!


 未だ目と耳に少しの違和感は残るものの、私たち四人は無事こうして街に戻り着くことができた……──



       〜メイキング&NG集〜



オルド「お〜いててて……くそぉ、一昨日から毎日欠かさずポーション飲んでるのにまだジンジンする……」


ネウ「に、兄さん大丈夫……?」


オルド「──!! おう! モチのロンだ! 偶々タマが持ち上がってたお陰で直撃は避けられたからな!」


ネウ「タマタマタマ──!? にっ、兄さんのド変態っ! 今すぐ破裂しちゃえ!」


オルド「ガァーン!! む、昔はお兄ちゃん大好きって言ってたのに……な、何故なんだ……」



 ……とまぁ、そんな悲しいやり取りがありつつも恙無つつがなく撮影は進んでいった、のだが……



ルゥ:ナレ「……あれ? これヤバくない?」


クリスタ「──と感じたのち、漸く私たちに追いついたフェルムがレッグポーチの中をガサゴソと」


ルゥ「ねぇヤバいって! このままじゃ追いつかれちゃうよ!」


フェルム「うっせぇ分かってる! だからこうして……おっ、あったあったコレだ!」


クリスタ「もう目と鼻の先にまで迫っている悪鬼の群れ。その数、八十体以上。ヨダレを垂らし、飢えた目で迫りくるその光景は恐怖そのもの。もし捕まりでもすればあの女性と同じ目に遭うのは必至。そう考えたら身も心も凍えるほどの悪寒を感じてこの身を震わせた。しかしそんな折、球体状の何かを放り投げたフェルム。そしてその何かが地面に落ちた途端、眩いほどの閃光とともに甲高い音が広範囲に響き渡り、ここいらにいた全ての魔物g──」


ルゥ「──ぎゃあぁぁぁ〜っ!?」


フェルム「うおぉっ!? なんだなんだ急に!?」


ルゥ「眩しすぎて目がぁ〜! あと耳も超キーンってしてぇ〜!」


フェルム「んなっ!? お前馬鹿か! なんでモロ喰らってんだよ!」


クリスタ「プフッw誤爆してて薬草ww 」


ティナ・ゴルト・女「…………」

         《私は空気私は空気私は空気……》


ルゥ「目がぁ! 耳がぁ! うわぁ〜ん! 誰かなんとかしてぇ〜!」


フェルム「はぁ……ちょい待ってろ。今エリクサー貰ってくっから」


クリスタ「きゃははははww 軽い状態異常でエリクサーとか超薬草ww」


オルド「はいカーット! エリクサー代払ってくださーい!」


フェルム「──ッ!? ちょっ、ウソだろ!? なんで俺がアイツのために払わなきゃいけねぇ──って、おいクリスタっ! 何しれっと俺の財布ごと渡してやがる! ──つかネウ、お前もかよ!? 何普通に受け取って笑顔でエリクサー渡してんの!? どうせなら買った俺からアイツに渡してぇのによぉ〜!!」


クリ・ネウ・オルド「ニヤニヤ」


フェルム「──ッッ!? ちっ、ちげぇって! 全然そんなんじゃねぇし!」


ルゥ「目がぁ! 耳がぁ! ぴえぇ〜ん! 誰でもいーから早くしてぇ〜!」


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