第32話 いざ道具屋へ
「あっりがとうございましたぁ〜!」
最後の客を笑顔で見送った後、安堵と気疲れにより「はぁぁぁ……」と長めのため息。
ギルド内の時計をチラ見。現在16時05分。
なんやかんやあったものの、新たなるスキルのお陰で大盛況のまま本日の営業を終えることができて嬉しく思う。
しかし、残念ながら途中退場による閉店。
本来であればあと2時間弱は残っていたのだが、とある事情から泣く泣く早仕舞いせざるを得なかった。
その事情とは……魔力切れだ。
スキルを使用する度に相応の魔力が消費されることは昔から知ってはいたが、宴会時に冒険者たちから聞いた話では、魔力が枯渇すると二日酔いに似た症状を引き起こし、ある程度回復しなければ体調は良くならないらしい。
スラム街で私がなったのも恐らくソレ。原因は『偉人の銘』を使い過ぎたためだろう。
尤も、ソレを経験したお陰で今回は枯渇する手前でやめることができたのだが。
というわけで、魔力回復の方法は大きく分けて2つ。
一、自然回復。
二、マジックポーションを飲む。
それだけ。他は知らん。
自然回復の場合は心身共に穏やかなときの方が回復率は高く、瞑想や涅槃をすることでより早く回復できる。まぁ、寝た方が早いけど。
一方、マジックポーションは即効性に特化した魔力回復薬。飲み専用。色は青く、味は青臭い。
一般的には〝マジポ〟と略されており、以前イルズィオールに使用した緑色のポーションとはまた別物。
あの時のアレはライフポーション。飲んでも良し掛けても良しの優れもの。味はまぁまぁ苦い。
通称〝ライポ〟と呼ばれる生命回復薬にして原初のポーション。やはり効き目がエグい……けどめっちゃ高い!
他にも体力と持久力を即時回復させる〝スタポ〟(黄色)や一瞬で増血できる〝ブラポ〟(赤色)などが存在するみたいだが、残念ながらお目に掛かったことはない。
特にブラポは医療用として扱われているため、一般購入はほぼ不可能とされている。てか、高すぎて買えないっぽい。
「……あ、そういえばライポもう無いんだっけ……よしっ、今から買いに行こっ!」
むふふっ……お金も入ったことだし不慮の怪我に備えておかなきゃね!
そんなわけで、受付にいる男性職員(名前は知らん)に挨拶を済ませてからいざ道具屋へ。
「おばあちゃん遊びに来たよぉ〜」
冒ギルより北へ少し歩いた所にある広めの路地裏……ではなく、更に少しだけ歩いた所にある狭い路地裏の奥にひっそりと佇む小さなお店。
見た目は地味すぎてイマイチだけど、品質と人柄は最高すぎるため今では私の〝行きつけ〟となっている。
「おや? 来たねヤンチャ娘。今日は何をご所望だい?」
そう言って笑顔で迎え入れてくれたのは、道具屋〝クオリエ〟の女店主『クオリエッタ』さん。
この人も私やオセロアと同様に黒髪を持つ、謂わば同志であり、実の祖母を知らない私にとっては祖母のような存在だ。
それにえーっと……歳は確か76で、来年には喜寿を迎えるとか言ってたような……って、それは一旦置いとけ私っ! 今日はライポを買いにきたんだから! 取り敢えず3つ!
「ライフポーションかい? ちょいと待っといておくれ。今取ってくるから」
高価なものは一切陳列せず、値段付きの名札のみを並べることで万引きや強盗を防いでいる。
この画期的な方法を教えてくれたのは悔しいことに他の常連客。
……そういえばこの前、「うん? これかい? 冒険者ギルドの女の子が教えてくれたのさ」とか嬉しそうに話してたっけ……ん? 冒ギルの女の子といえば……いやいや、そんなわけないよね?
一瞬、彼女の顔が浮かんだけどそれはあり得ない。
だって、彼女ならもっとシャレオツなお店に行くだろうし。
「そうそう、来るわけないって。あんな綺麗なコがこんな地味ぃ〜なお店に──」
「──悪かったねぇ、こんな地味ぃ〜なお店で」
「ギクぅ!? あは、あはは……」
ビっ、ビックリしたぁ……てか、随分とお早いお戻りで……
失言による気不味さから愛想笑いを浮かべる私に対し、あからさまに不機嫌な表情を見せるクオリエッタさん。
けど本心ではそれほどでもないことは分かっている。なんせ常連だもの。
それでもこの人の機嫌を取らねばと、とにかく褒めちぎる作戦に出る。「うわー、今日のライポも最高すぎるー、流石おばあちゃんだー、イイ目してるー」というヤバい感じで。
なれど当然の如く効果はないようで、「はいはい、そりゃどうも」と適当にあしらわれてしまい、余計に気不味くなるも、その行動によって〝ある物〟に気づく。
「むぅ、やっぱダメかぁ……って、あれ? そのポーション、なんか色違くない?」
用意された4つのポーションのうち3つは緑色なので紛れもなくライポだが、残る1つだけが何故か黄緑色をしており、その奇妙な色合いになんとなく違和感を覚えた……が、それ以上に興味が湧いたため、邪魔な気不味さを「このやろっ」と脳内で蹴り飛ばしてから色違いの理由を聞いてみた。
「あぁ、コレかい? このポーションはエナジーポーションだよ。私が作って私が名付けたのさ」
「エナジーポーション……? ていうか、相変わらず自作とか凄いね! 一体どんな効果なの?」
といった感じで聞いてみたところ、どうやら〝エナポ〟はライポとスタポを配合してできたイイとこ取りのハイブリッドポーション。
だがただ配合させればいいわけではなく、配合比率や繋ぎとなる何かが必要になるそうで、そこまでは流石に教えてもらえなかった。謂わゆる企業秘密というやつだ。
「まっ、試供品ってやつさね。だから遠慮なく貰っておくれ」
「おばあちゃん……で、でも……」
「ふふふっ、効果は確認済みだし副作用もないから安心おし」
「……うん。ありがと」
別に不安があったわけではない。単にタダで貰うことに申し訳なさを感じていただけ。
とはいえ、それを伝えたところで無理矢理に持たされるのが目に見えていたので、素直にライポの代金だけを支払ったわけだが、その代わり……
「じゃあコレあげる! 私が造った倍伸棍っ! ……あっ、刺股だから倍伸刺股かな? ゴロ悪いけど」
商い中、コッソリと進化させていた刺股。別名〝叉護杖〟とも云われる護身具。
因みにとある冒険譚に登場するキャラクターと関係しているかは不明であり、古代文字で〝杖〟と名が付いてはいるもののスキル判定では棍に属している模様。
「あははっ、確かに言いづらいねぇ! ……それにしても見事な刺股じゃあないか。流石は武器職人様だ。けれどよかったのかい? こんなに良い物をくれて」
嬉しくもどこか遠慮がちなクオリエッタさんに向けて私は満面の笑みで「うん! 寧ろ貰ってほしいの!」と伝え、使い方を簡単に説明し、すぐに実演してみせた。名前とともに得た謎の知識を思い出しながら。
【倍伸棍:攻『+150%』・耐『+150%』・能力『倍伸』】
【詳細:『ゴクウの棍』を基に進化した元無銘の棍】
【倍伸:武器を倍々に伸ばすことができる。但し、収縮はできず、伸長にも限度アリ。最長〝10倍〟】
「──!? どどっ、どうなってるんだいこの仕組みは──ッ!?」
「ふふっ、それは内緒♡ さっ、おばあちゃんもやってみて?」
そうして労わるように刺股を手渡すも、「私にできるのかねぇ……」と不安げに構えるクオリエッタさん。
初めての体験に戸惑いつつも「のっ、伸びろっ」と威勢よく唱え、見事2倍に伸ばせたことで一変、とても嬉しそうに「コレは童心に帰してくれる武器さね!」と心からの笑顔を見せてくれた。
だから私もつい嬉しくなって笑顔でこう思ったんだ。〝刺股は武器じゃなくて護身具だよ、おばあちゃん……〟って。
……その後、ちょこっとだけ世間話をしてから店を出た私。
刺股を持ったままのクオリエッタさんに笑顔で見送られて。
もぉ〜おばあちゃんってばぁ、何も外にまで持ってこなくてもいいのにぃ……でもすっごく嬉しい! なんだか今日はイイ日で終われそう!
なんて浮かれながら路地裏を抜け、街中を通り、街外れの道中で不意に気づく。「私っ、お弁当食べてなくない!?」という悲しき事実に……──
〜メイキング&NG集〜
オルド「んじゃ次は〝ある物〟のシーンいきまーす!」
みんな「は〜い!!」
オルド「……とその前に、今話から登場していただく大大大ベテランにしてレジェンド女優のクオリエッタさんです! 皆さんっ、盛大な拍手でお出迎えを!」
ルゥ「……ラ、ラスボスじゃん……(無意識)」
クリスタ「シッ! 聞かれたらどうすんのよ馬鹿っ!(小声)」
ルゥ「ごっ、ごめんっ、ついうっかり!(小声)」
クリスタ「はぁ、勘弁してよね……もしあのレジェンド女優の機嫌を損ねたら私たちの首が飛ぶのよ? 分かってる?(小声)」
ルゥ「う、うん、勿論。監督やオルドさんもビビり捲ってるしガチでヤバそう(小声)」
クリスタ「ヤバそう、じゃなくてヤバいのよ、実際(小声)」
ルゥ「……帰りたい(切実)」
クリスタ「はぁ、私もよ……でもね、逆にチャンスでもあるのよ?(小声)」
ルゥ「チャンスぅ? どゆこと?(小声)」
クリスタ「噂ではレジェンド女優にゴマ擦っとけば他の作品にもお呼ばれする確率がグンと上がるらしいの(小声)」
ルゥ「ほほぉ……それは確かにチャンスですなぁ(ニヤリ)」
クリスタ「でしょ? だから今日だけは協力してゴマ擦りしましょう!(悪巧み)」
ルゥ「そだね! よーしっ、全力でゴマ擦るぞぉ! スリスリスリスリぃ〜!(悪ノリ)」
オルド「んじゃ改めて〝ある物〟のシーンいきまーす!」
ルゥ「おばあちゃん遊びに来たよぉ〜」
クリスタ「冒ギルより北へ少し歩いた所にある広めの路地裏……ではなく、更に少しだけ歩いた所にある狭い路地裏の奥にひっそりと佇む小さなお店。見た目は地味すぎてイマイチだけど、品質と人柄は最高すぎるため今では私の〝行きつけ〟となっている」
クオリエッタ「おや? 来たねヤンチャ娘。今日は何をご所望だい?」
クリスタ「そう言って笑顔で迎え入れてくれたのは、道具屋〝クオリエ〟の女店主『クオリエッタ』さん。
この人も私やオセロアと同様に黒髪を持つ、謂わば同志であり、実の祖母を知らない私にとっては祖母のような存在だ」
(中略)
クリスタ「それでもこの人の機嫌を取らねばと、とにかく褒めちぎる作戦に出る」
ルゥ「うわー、今日のライポも最高すぎるー、流石おばあちゃんだー、イイ目してるー」
クリスタ「──というヤバい感じで。なれど当然の如く効果はないようで──」
クオリエッタ「はいはい、そりゃどうも」
クリスタ「──と適当にあしらわれてしまい、余計に気不味くなるも、その行動によって〝ある物〟に気づく」
ルゥ「むぅ、やっぱダメかぁ……って、あれ? そのポーション、なんか色違くない?」
クリスタ「用意された4つのポーションのうち3つは緑色なので紛れもなくライポだが、残る1つだけが何故か黄緑色をしており──って、違ぁぁぁーう! どう見ても紫色でしょアレっ! 明らかに失敗してるじゃない! クオリエッタさんになんてもの持たせてんのよ製作者は! 恥を知りなさい恥を!(チラッ)」
ルゥ「ホントそれ。ったく、一体誰が作ったのやら。……はぁ、マジご勘弁って感じ。是非とも作ったヤツの顔を見てみたいよ。てか、土下座級の大失態だし! クオリエッタさんに土下座しろし!(チラチラッ)」
オルド・監督「あわ、あわわ、あわわわわ……」
ルゥ・クリ「……?」
クオリエッタ「ふふっ、ふふふ……」
ルゥ・クリ「……えっ? えっ?」
クオリエッタ「ん゙ごめんなさいねぇ……!! ん゙なんせ初めて作ったものだからぁ……!!」
ルゥ・クリ「──ひっ!? ひぇぇぇ〜〜ッ!!」
……この日、ルゥとクリスタは生まれて初めて土下座をしたという……(自業自得)




