第28話 噂
「それじゃあいってきま〜す!」
6時起床後、朝のルーティーンと食事を済ませた私と仲良し三人組は張り切って工房を後にし、昨日と同じ時間に冒ギルへと向かいだした。
私は引き続き商いを、この三人は更なる地理を覚えるために別エリアの依頼を受けるそうだ。
それとランニング中にふと気づいたのだが、昨日は初めての商いで緊張していたのか昼食を取り忘れていたらしい。
そのため今日は予め朝食作りと並行して弁当を作っておいた。それも四人分。
ド定番にして最も人気の高いガーデンバードの玉子焼きを筆頭に、放牧魔牛であるフリーダムカウの挽き肉と〝限りなく豚に近い魔猪〟ことピンクボアの挽き肉を混ぜ捏ねしてできた合挽き肉で作ったハンバーグを。
あとはホーンラビットのもも肉を加工して作られたタコさんウィンナー、〝裂き易い魔魚〟として有名なフィッシュソイルランドの塩焼き、そして昨日の朝食にも出したプチトマトとブロッコリーに加え、例のベーコンで巻いたベジターブルのアスパラガスも好きすぎるので当然入れてある。
一方の白米はソルト海苔を巻いただけのシンプルな三角おにぎり。
具無しだがその分塩味が際立つうえにオカズたちを邪魔しないところが尚イイ。
「はいコレ。みんなの分のお弁当」
「──ッ!! なん……だと……ッ!?」
驚愕の表情を見せるエタン……と、全く同じ表情のフェルムとプラータ。ホント仲良しだね、アンタたち。
それはともかく、一応は気になったので驚いた理由を聞いてみると、冒険者の昼食といえば安価で保存の利くカチボソの乾パンと塩辛くバリ硬な干し謎肉が主流らしく、依頼の指定場所や状況次第では現地調達もあり得るだとか。
「うわぁ……私にはとてもじゃないけど耐えられないよ、そんな苦行ぉ……」
「はぁ、だよなぁ……でも今日は弁当だからすっげぇ嬉しい! マジあんがとな!」
「フェルム……ううんっ、これくらい屁でもないよ!」
「プッ、女が屁とかw」
「うっ、煩い! そんなこと言うならお弁当返せ!」
「冗談っ、冗談だって! だからそれだけは勘弁してくれぇ〜!」
なんてふざけ合いながらも歩みを止めることなく進み続け、街中へ入るとプラータが何かをヒラヒラと見せつつ口を開く。
「……ねぇ、そういえばコレはもういいの?」
「ん? 何ソレ……? って、あ゙ぁっ! 完っ全にド忘れしてたぁ!」
急いでプラータから受け取ったのは特別依頼のリスト。
昨日保留にしたまま忘却と化していたため、もし彼が気づいてくれなければ永遠にお蔵入りするところであっただろう3枚の羊皮紙。
それでも再び見る機会が訪れたことに必然性を感じ、今度こそはとその場でみんなに説明を仰いだ。
1枚目……亜竜種『ワイバーン』の討伐。
通称【飛竜モドキ】
1年前より北の山【バハムートの塒】にて発見されし赤翼の大蜥蜴。
北方の街【クリアノール】で倒せずに逃した個体であり、右眼には戦闘時の矢が今でも突き刺さっている。
伝説の魔物【竜】の血を引くとされ、そのチカラはAランク冒険者が結束せねば倒せぬほど。
腹部を除き、全身を頑強かつしなやかな〝竜鱗〟で覆われているため並の武器では傷一つ負わせることができない。
性格は凶暴で恐れ知らず。特に繁殖期は手が付けられぬほどに凶暴化し、その時期のみはSランク依頼に変更となる。
攻撃方法は硬く鋭利な牙と爪、尾先にある1本の太い毒針、口内から繰り出される高熱の炎球。
どれも脅威的ではあるが、何よりも注意すべきは〝逆鱗〟より発生する不可視の障壁。
全身を包む障壁は〝竜鱗〟よりも硬く、そのうえ自動で発動するため奇襲や先制攻撃などの不意を突く戦法は不可能。
だが逆もまた然り。弱点は喉元にある〝逆鱗〟を剥ぐか破壊すること。
然すれば障壁は消え去り、全ての能力が弱体化する。
2枚目……悪鬼種『ブルーオーガ』の討伐。
通称【青鬼】
3年前より南の洞窟【ミスリル鉱山跡地】に突如として現れた大鬼『オーガ』の変異種。
基本的にオーガの皮膚は緑褐色であるが、件の魔物は名前の通り青褐色の皮膚を持ち、知能は然程変わらぬものの膂力は桁違いに向上している。
稀少鉱石〝ミスリル〟を取り尽くしたのち、南の洞窟は【神隠しの洞】と呼ばれ、小鬼『ゴブリン』と中鬼『ボーグル』の共同棲家と化していたのだが、現在では少数のオーガを引き連れた件の魔物が支配している模様。
性格は通常のオーガと同様、とても交戦的なうえに短気で短絡的。だが故に恐ろしくもあり強みとも云える。
攻撃方法は主に肉弾戦。
拳や蹴り、そして力任せの突進といったただ腕力に物を言わせるものが多く、場合によっては手頃な樹木や岩石を武器にすることも。
全身は筋肉に覆われており、加えて皮膚も分厚いため耐久力は高い。
弱点は自慢の双角。とても硬いがへし折ることで激痛とともに弱体化が可能。
補足、〝急所〟も狙い目。
3枚目……霊魔種『ゲシュペンスト』の討伐。
通称【ビスクドール】
5年前より忽然と姿を現し始めた死霊『ゴースト』による大量発生のなれの果て。
初めは単なるゴーストであった個体が怨霊『スペクター』へと変わり、更には亡霊『ゲシュペンスト』へと進化を遂げたものと推測される。
件の魔物のみならず、霊魔種全てが実体を持たずに魔力のみで活動しているため、生命力は微弱だが物理攻撃では倒すことができない。
攻撃方法は霊魔種特有の魔力波長による精神汚染が主ではあるが、件の魔物に至っては〝呪い〟を掛けてくるので細心の注意が必要となる。
現在、〝呪い〟を解く方法は天職スキル『聖女の祈り』によって発動する『解呪』のみとなり、それ以外の方法は依然として不明。
弱点は〝聖なる光〟と陽光。
閃光の魔導具でも怯みはするが倒すまでには至らず。
よって、現時点では討伐の見込みは皆無。
「……う、嘘でしょ……冒険者ってそんな激ヤバな奴らと戦わなきゃいけないの……」
リストを眺めつつみんなに説明してもらうことで初めて魔物の恐ろしさを知った私は、あの四人が無事であることを心の底から願わずにはいられなかった。
そして同時に、この街が抱えている〝危機的問題〟が浮き彫りとなり、あの四人が示唆していたことを真の意味で理解した。
先程私が恐ろしさを感じたように、このリストの魔物たちは皆強大すぎる。
だからこの街に在籍していた数多のBランク冒険者は討伐を諦め、こぞって他の街へと移籍してしまったのだ。このままでは一生昇級できないと悟ったから。
脅威度ランクA上位であるワイバーンは勿論のこと、単体ならばどうにかなるであろうブルーオーガも配下まで相手となるとまるで勝ち目はない。
更にはゲシュペンスト。
遥か大昔に【魔法】は失われているため物理攻撃でしか戦う術はなく、現状この街では〝不可侵の魔物〟という扱いとなっている。
「……まぁ、それでも討伐に挑んだ奴らはいたみたいだけどよ……」
暗い表情で語りだすフェルム。
どうやら昨日他の冒険者たちと話していたのは〝ある噂〟について伺っていたらしいのだが、その噂というのが……
【ここだけの話……ゲシュペンスト討伐に失敗した奴らの末路ってのがよ、なんでもその場でおっ死んだか今も治療院で寝たきりになってるらしいぞ】
私には無縁の話だと思いながら聞いていたはずがふと身近に感じられ、その瞬間より沸き出した恐怖によって心の底から震え上がる。
こ、怖い……まさかそんなことになってるだなんて……でっ、でも大丈夫っ! まだ耐えられる! 死んじゃった人や寝たきりの人たちには悪いけど、その中に私の知り合いがいるわけじゃないもの!
そう割り切ることで少しの罪悪感と引き換えに心の平穏を図り、沸き出す恐怖に蓋をしたのも束の間、そんなものはすぐに吹き飛ばされてしまう。
【あくまでも噂だけど……命辛々逃げ帰った人の中には精神汚染で発狂しちゃって、治療院でも手の施しようがないとかで隔離されてるらしいわよ】
「あ、ヤバ──」
思わず失神しかけたものの、どうにか踏ん張って耐えた。
まだ四人がそうなってると決まったわけじゃない!! そう自分に言い聞かせて……──
【オセロアのマメな豆知識】
スタッフ「オセロアさーん! 今日も例のやつ撮りますんでおなしゃーす!」
オセロア「こっ、こちらこそお願いします!」
《三度目の正直っ! いい加減挽回しなきゃ!》
スタッフ「んじゃいきまーす! 5、4、3……」
オセロア「皆様、ご機嫌いかがでしょうか。私は至って普通です。さて、本日三回目となりますオセロアのマメな豆知識。進行は私オセロアが務めさせていただきます。それでは早速ですが、本日は前回に引き続き〝スキルの枠組み〟についてご説明いたしますのでこちらの白板をご覧ください」
【天職スキル:〝天より授かりし職〟に就きし者のみが習得できる特定的なスキルの総称。就くまでは自覚できない。職業スキルの上位互換として知られているが本質は似て非なるもの。高親和性であるのは勿論のこと、スキル性能も非常に高く稀有なものが殆ど。故に習得難易度も相当に高く、中には〝魔法〟を思わせる超常的なものもある】
【血統スキル:先祖から受け継がれることで習得可能となる遺伝的なスキルの総称。要は〝蕾〟の状態。開花させるためにはある程度の努力と親和性が必要となる。主に王族や貴族のイメージが強いので勘違いされがちではあるが、実は平民の中にも脈々と受け継がれていたりする平等な能力。そのためか、秘匿されるケースもしばしば】
【天稟スキル:〝天より授かりし能力〟であり特別なチカラ。開花するまでは自覚できない。固有スキルの上位互換と推測される超先天的なスキルの総称。親和性は神のままだが習得難易度は魔王に進化している。種族や血統を問わず、ごく限られた者のみが〝種〟を持つことを許された、謂わゆる〝才能〟の一つであるとされている】
オセロア「以上の三種は限られた者のみが知る大変レアな枠組みとなっており、数多居る冒険者の中でもほんのひと握りの者しか持ち得ておりません。ですので、もしお持ちの方で冒険者にご興味がおありの方は冒険者ギルドまでお気軽にお越しください」
スタッフ:カンペ【パ〜フェクトっ! そのままエンディングいっちゃって!】
オセロア「はi──そっ、それではお時間が来てしまいましたので次回またお逢いしましょう。白黒つけたいお年頃のオセロアでした」
《あっ、危なかったぁ! うっかりまた返事しかけるとこだった! でも……》
スタッフ「はいカーット! お疲れ様っしたー!
オセロア「おっ、お疲れ様でした!」
スタッフ「今日はほぼ完璧っした! 次もこの調子でおなしゃーす!」
オセロア「はっ、はいっ、ありがとうございますお願いします!」
《くぅ〜っ、やっと挽回できたぁ! よーしっ、これからもっと頑張るぞぉ!》
……この日、オセロアは満足げな表情で眠りに就いたという……
クリスタ「…………えっ? まさかの出番ナシっ!?」




