第22話 冒ギル
「ふぁ〜、もう6時かぁ……起きよ」
夜明の鐘が鳴り響くなか、日課のランニングと鍛錬を熟すべく部屋着からツナギに着替え、静かに外へ出る。
1時間ほど汗を流したらシャワーを浴び、部屋着に着替え直してから朝食を用意するためいざ台所へ。
これが私のルーティーン。父が亡くなって以降、ほぼ毎日行なっている私の習慣。
「よしっ、いっちょあがりぃ!」
今日の朝食はこちら。
ベジターブルのプチトマトとブロッコリーを添えたガーデンバードの半熟目玉焼きに、ピンクボアの薄切りベーコンとアシタコマチの白米、配合割合は謎だが大豆・米麹・岩塩で作られた黄金味噌を溶いた味噌汁。顆粒だしは入れず。
具は簡単にベジターブルの青ネギとシルク豆腐に分けワカメのみ。実にシンプル。だが美味い。
問題はみんなの起床時間。いつ起きるのか全く分からないうえに下手すると朝食を抜く可能性すらある。
しかし、そんなことは許さない。休日ならいざ知らず、仕事のある日はしっかりと食べなきゃダメ。
特に今日は初日だし、気合いを入れて頑張らないと!
てなわけで、〝イリア〟のフライパンとお玉を持って早速みんなを起こし回りに……と思いきや、丁度よくみんなが入ってきた。
「おーっす……つか、何してんだお前?」
「ななっ、なんでもないですけど!? ……あとおはよ」
「お、おう……はよ」
……とまぁ、こんな具合にフェルムと奇妙なやり取りをしつつ、みんなと挨拶を交わし、食卓を囲む。
みんなの美味しそうに食べる姿を見て思わず笑みが零れた。
ただ一つ、とても気掛かりなことがある。
それは、イリアさんだけがこの場に来ていないこと。
心配になってレオに話を聞いたところ、〝既に起きてはいるが暫く身体を休めないと活動できない〟という衝撃の事実を知り、皆無言となるも、私は箸を置いて伏し目がちに呟く。
「そうだったんだ……起きてるのにご飯が食べられないのってつらいよね……あっ! そうだ!」
それならばと、一昨日と同様に〝自家製梅干し入り玉子粥〟をササっと作り、今度は一人でイリアさんの元へ持っていくことに。
「ふふふっ、とっても美味しいわ」
料理を見ながら微笑み、そのか細い手でスプーンを何度も口へ運ぶイリアさん。
明らかに一昨日よりも食べるペースが早い。調子が良さそうで何よりだ。
彼女が「ごちそうさま」と両手を合わせた後、「おそまつさまです」と私が返し、食器を片そうと手を伸ばした途端、「あ、そうだ。本当は昨日──」と急に彼女は何かを思い出し、食器の置いてある低めの棚の引き出しに手を伸ばした。
昨日……はっ! まさかあの恥ずかしすぎる勘違いのこと──!?
急に恥ずかしさが甦り、「あわわわわ……」と狼狽えだしたところで目の前に差し出されたのは立方体の何か。
コレは昨夜イリアさんが眺めていた何かであり、恐らくは魔導具だ。
でもなんの魔導具だろ……? なんか昔のものっぽいし……とつい夢中で考えていると、私の思考を読み取ったかのようにイリアさんが解答を。
「コレは閃光の魔導具。私に武器職人の素晴らしさを教えてくれた人から頂いた、謂わば御守りなの」
懐かしげに教えてくれた彼女の表情はとても嬉しそうで、なんだか私まで嬉しい気持ちになった。
「凄く大事なものなんですね」
「えぇ、そうね。コレがあったから私は頑張れたの」
「なら感謝しないとですね、私」
「え? それはどういう……」
私の思考を読み取れず、不思議そうな表情を見せる彼女に対し、微笑みながらこう返す。
「だって、イリアさんと出逢えたのもその御守りのお陰ってことになりますから」
「──!! ふふっ、そうね。そのとおりだわ」
唇に手を当てて笑う彼女の姿に母の面影が、また。
──ッ!? 笑う仕草までお母さんと同じ……!? ゔぅっ、こんなのズルい! またうっかり呼んじゃうじゃん!
などと脳内で愚痴っていると、笑い終えた彼女が真顔となって口を開く。
「ルゥちゃん、コレを貰って頂戴。本当は昨夜渡すはずだったのだけど話に夢中で忘れてたの」
「えっ!? でもそれは大事な──」
「──なるのでしょう? 私のように。なら貴方の前にも現れるはずだわ。私の前に現れた貴方のようなコが、きっと」
「……はい」
私は素直に受け取ることにした。この魔導具と彼女の意思、そして食べ終えた後の食器を……
再び居間に戻ると仲良し三人組がおらず、あれ? 三馬鹿は? とつい思ったところ、察したティナちゃんが「ぷふっ」と吹き出しながらも教えてくれた。
どうやらあの三人は冒険者ギルドへ向かう準備をするため自室に戻ったのだそう。
なら私もと、食卓に残された自分の食べかけを速攻で平らげ、出掛ける準備をせねばとレオの部屋へ。
「さーて、誰もいないことだしのんびり着替えますか!」
大胆かつ豪快に部屋着を脱ぎ捨て、下着姿で思い切り背伸びをしてからゆっくりとツナギを着装。
本日三度目の着替えはサービスシーン多め。といっても、需要なんて全然ないけどね。
只今8時30分。冒険者ギルドが開くのは8時丁度。玄関先で懐中時計と睨めっこをする私。父の形見だけれど。
昨日の話し合いで分かったことだが、冒険者ギルドは8時から20時までが営業時間であり、その理由は街の開閉門に合わせてあるからだ。
尤も、夜間受付があるので営業時間外に訪れたとしても依頼達成の有無だけなら報告はできる。
但し、特別依頼や買取希望の場合は例外となるため翌日まで待たねばならず、もし達成期限や買取強化が当日までの場合は依頼失敗及び通常買取となってしまうので注意が必要、とのこと。
「おっ、なんだ見送りか? えらく殊勝だな」
ご機嫌なフェルムを先頭に漸く三人が出てきたので、私は懐中時計をツールポーチに仕舞い、「むふふ……まぁね」と含みのあるあいづちを。
因みにティナちゃんとゴルトは別件のため同行せず。
三人とも部屋着から正装にビシッと着替えていて様になっている……が、どう見ても冒険者らしからぬその格好に「あはは……」とつい苦笑い。
だって、鎧とか戦闘服じゃなくてまさかの黒服なんだもの。そりゃあ苦笑いの一つもしたくなるってものだ。
「ま、まぁいいや……んじゃ行こっか!」
「はぁ? 行こっかって、お前何言って──」
「──いざ冒険者ギルドへ! 出発しんこー!」
「ちょっ、待てよ!」
そうしてうだうだとフェルムに絡まれつつも、私の的確な案内によって迷うことなく冒険者ギルドへ到着。
「ほぇ〜、前から思ってはいたけど改めて見るとめっちゃデカい──」
「──ちっちぇ建てモンだなぁ。ここの冒ギルはよ」
「──ッ!?」
フェルムに都会マウント取られたぁ! なんかめっちゃ悔しい〜! てかっ、冒ギルって冒険者ギルドのこと!?
「ふむ、確かに小さいな。この街の冒ギルは」
「──ッッ!?」
うっそエタンまで!? 王都じゃそう呼ぶのが一般的なの!?
続けざまに驚かされて疲労感が半端ない。
だが負けるか! と気合いで目の前にある大扉を開け、一番乗りで冒ギル内へと足を踏み入れる。すると……
「す、凄い……これが冒ギル……」
思わず息を呑むほどの光景に、私は自然と足を止めて見入っていた。
目が眩みそうなほど様々な髪色をした冒険者たちがそこら中で賑わい、一切の明かりが必要ないほどに吹き抜けの天井からは陽光が差し、多くのギルド職員が男女問わず忙しなく動き回っている。
それら全ての様子が見渡さずともよく分かり、更には圧倒されたからだ。
……とその最中、突然誰かに背中を軽く叩かれ「きゃっ!?」と驚きの声を上げると、前に出たプラータが振り返るなりこの一言。
「ほら、行こ」
「──!! うん!」
穏やかな表情で左手を差し出すプラータと笑顔で手を取る私。
再び甘い雰囲気が漂うも、不思議と今回は受け入れることができた。
昨日の一件からなんとなく互いに気不味かったけれど、これで完璧元どおりに……ううん、それ以上に仲良くなれた。そんな気がする。
嬉しさと気恥ずかしさに手汗を掻きつつ先を歩く二人と合流し、奥にある受付カウンターへと私たちは向かった。
あのひんやりと冷たい手の感触を思い出しながら……──
〜メイキング&NG集〜
スタッフ「んじゃ次は〝朝食〟のシーンいきまーす!」
ルゥ「よしっ、いっちょあがりぃ!」
クリスタ「今日の朝食はこちら。ベジターブルのプチトマトとブロッコリーを添えたガーデンバードの半熟目玉焼きに、ピンクボアの薄切りベーコンとアシタコマチの白米、配合割合は謎だが大豆・米麹・岩塩で作られた黄金味噌を溶いた味噌汁。顆粒だしは入れず。具は簡単にベジターブルの青ネギとシルク豆腐とワケワカメのみ。実にシンプル。だが美味い──って、なんなのこのダークマターのフルコースは!? なんか顔みたいなのが浮き出てるけど!?」
ルゥ「テヘっ☆」
クリスタ「テヘっ☆ じゃないわよ! ほら見なさいっ、アンタのせいでみんなの顔がアンデッド──青褪めてるじゃない!」
ルゥ「う〜ん、なんでだろ? 料理に限らず何か作ると10回に1回はこんな感じになっちゃうんだよねぇ……ホント不思議ぃ」
クリスタ「な、なんなのそのマイナススキル……それよりどうすんのよコレっ! こんなに食材を無駄にして──って、レオくん!? 人身御供になろうとしないで!?」
レオ「ゔうぅっ……で、ですが、作ったものは残さず食べないと……」
ルゥ・クリ「なんてイイ子っ!!」
スタッフ「はいカーット! 速攻で作り直してくださーい!」




