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第18話 帰還


「にひひっ! ごめんねみんなっ、急に泣きだしたりして!」


 しんとした雰囲気のなか、未だ唖然とするみんなに向けて、泣きながらも満面の笑みで〝大丈夫だよアピール〟を。

 その傍ら、ソレを察したティナちゃんも「ふふふっ」と涙ながらに微笑み、そのまま私たちは泣き笑い合った。


 初めはポカンと口を開けて眺めるだけだったみんなも、今では安堵の表情を浮かべ、思い思いの言葉を口にする。


「……まぁ、何を思ってそうなったのかは聞かねぇけどよ、なんかあるなら相談くらい乗るぞ?」


「うんっ、ありがと! それじゃあお言葉に甘えさせてもらおっかな! いつか!」


「はぁ……急に泣きだした時はビックリしたよ。けどもう大丈夫みたいだね、安心したよ」


「てへへっ、ビックリさせてごめんね? でもこの通り元気元気っ!」


「……ふん、一応言っておく。お嬢様が心配なのは無論だが、お前のことも心配ではないわけでもない」


「えーっと……どうもありがとう? で、いいのかな……?」


 ……とまぁ、なんだかんだ心配し励ましてくれた三人の気遣いを嬉しく思いつつ、ツールポーチから取り出した武器屋柄の白ハンカチで先ずはティナちゃんの涙を──


「──ちょっと待て!」


 またイルズィオールに止められた。何故かは知らんけど。


「何故その柄をチョイスした!? なにゆえ2本の剣が斜めに鍔迫り合ってるやつなんだ!? 普通、女は花柄とか動物柄なんじゃねぇのか!? 知らんけど!」


 はぁ、なんだそんなことか……ってアンタも知らんのかい! ……は一旦置いとくとして、裏庭に着いてからずっと無言だったくせに、いざ口を開けば私の持ち物を貶すとかあり得なくない!?


 男って奴らはみんなそう。挨拶でも道案内でもなんでも私の胸を見ながら話しかけてくるし、何か持ち物を見せれば「もっと女性らしい物を持った方がいいよ」とか言ってきてさ。ホントマジふざけんな! って思う。

 現にほら。ケチつけた後のこの男の視線、私の胸しか見てない。この母譲りのジャスティスカップしかね。


 たださ、めっちゃレアな大きさだとは自分でも思ってる。今までにこの大きさを持つ女性なんか私たち以外に見たことないし。

 てか、そもそも会話って互いの顔を見てするものでしょ!? 違う!?


 だからこう考えるようにしてる。〝男という生き物は、私の目が胸部にあるものだと勘違いしてしまうくらいお馬鹿でくだらない者たちなのだ〟って。

 まぁ尤も、この考え方も母譲りだけどね。思春期で胸が膨らみだした頃に教わった家訓的なやつ。


「それに比べて……はぁ、羨ましい……」


 ティナちゃんはいいなぁ……天使の如く可愛いだけじゃなくて、身体は細く透き通るように白いし、何より慎ましすぎるお胸様で──


「──お姉様ぁ? 今何かぁ、大っ変失礼なことを考えられてませんかぁ?」


「ぴゃっ!?」

《察し良すぎてホント怖いよこの()っ! ていうかまさか固有スキルっ!?》


 思わず変な声を上げてしまった私。咄嗟に視線を上に向けて「ソ、ソンナコトナイヨ?」とカタコトで嘘を吐き、これで納得してくれてれば……と彼女をチラ見してみる。すると……



《ジト〜っ……》



 やっぱダメでした。

 訝しむティナちゃんの視線に耐えつつ「な、涙拭いて行こっか。にゃはは……」と誤魔化し笑いを浮かべたところ、急に彼女は「……ん」とドワーフ由来である琥珀色の瞳を閉じ、その幼くも凛とした御尊顔を差し出してきた。


 ──!? えっ、かわいっ! ……じゃなくて、もしかして涙を拭けってこと……?


 恐らくそうではなかろうかと、恐る恐る彼女の涙をハンカチで拭き、ドキドキしながら反応を待つ。ゴクリ……



「……ふふっ、ありがとうございます。ではお姉様、お手を。早速イリア様の元へ参りましょう」


「え? あ、うん……」


 なんかよく分からないけど、どうやら今ので手打ちにしてくれたみたい。

 それに、手を差し出してきたってことは手を繋いで歩きたいのだろうから、やっぱり許してくれてるってことでいいんだよね? ならよかったぁ……


 ホッと胸を撫で下ろしながらティナちゃんの手を取った私は、みんなと共に玄関側へと回り、「ゔぅ、心臓がヤバい……」と緊張で鼓動を速めるも、玄関の扉をゆっくりと開け、中の様子を窺いつつそーっと足を踏み入れ──



「──おかえりなさい!」


「きゃっ!?」


 またもや変な声上げてしまった。しかも、柄にもなく可愛いらしい感じで。


 くっ、外で待つみんなのニヤけた視線がなんかムカつく……!


 まぁそれはともかく、元気よく挨拶してくれたレオに「た、ただいま……」と気不味く挨拶を返したところ、何やら奥から美味しそうなカレーの匂いが漂ってきたため、つい廊下の先に目を向けると、そこには居間から出てきたあの人が。


「あらおかえりなさい。急に叫び声が聞こえてきたから驚いたわ」


「あ……た、だだいまです……急に叫んですみません……」


「ふふっ、いいのよ? 全く気にしてないもの。それより服が汚れてるじゃない……大丈夫? 怪我は無さそうで安心したけどあまり無茶はしないでね?」


 私の心配をしながら、ゆっくりと近づいてくるイリアさん。壁に手を付け、少しずつ、少しずつ。


 勝手にいなくなった私を咎めるどころか優しく接してくれるこの人を見つめているうちに嬉しい気持ちと同時に裏庭での想いが甦ってしまい、今度は溢れんばかりの涙による大泣き。それも、女の子座りでわんわんと。


 唐突に私が号泣しだしたものだから、当然の如くイリアさんはその場で戸惑い始め、更には「ルゥちゃん……」と心配の声を漏らす……が、一方のレオはというと……



「……よしよし、もう大丈夫だからね? お姉ちゃんを泣かせる悪い奴らは僕がやっつけてきてあげる!」


 まさかの〝頭なでなで〟からの英雄ムーブ。

 根本的に何か違う気はしつつも、それでもあまりの嬉しさからつい起因となるワードを口にしてしまう。


「ゔぅ〜……裏庭グスッ……薬草ヒック……イリアさんズビッ……」


 すると、二人とも驚きの表情を見せる。


「──!? そ、そんな……まさかママがお姉ちゃんを……!?」


 全然違う。いや、結果的には合ってる……のか?


 なんてボロ泣きしながら考えていると、何故かイリアさんの口から打ち明け話が。


「えぇっ!? わ、私のせい……? まさかそんなはずは……はっ! もしや貴方たちのために作ったクッキーを半分食べちゃったこと……!?」


 それも違う。てか半分もつまみ食いしたんかい! でもそれだけ元気になられて嬉しいです!


 二人のトンチンカンな回答になんだか無性に笑えてきて、そうしたら突然「くぅ〜」とお腹の底で腹の虫が鳴いた。廊下中に漂うカレーのイイ匂いに我慢できなかったようだ。


「ふふっ、元気になったようね? それじゃあご飯にしましょう。私たちもこれからなので丁度いいわ……あ、沢山作ってあるから外のお仲間も誘ってあげてね?」


 それだけ告げると、イリアさんは居間にある台所にゆっくりと戻っていく……がその最中、「そう……アレを見たのね……」と悲しげな声で呟き、間もなくして居間へ。

 片や、レオはイリアさんの手伝いに、私は言いつけ通り外にいるみんなを誘いに向かった。先程の呟きを耳奥に残しつつ……



 ……その後、開けたままの扉から居間へと入る私たち五人。当然、イルズィオールは外で待機。

 庭に立つ小さな木に、胡座で座らせたままロープで括りつけて放置。ふむ、丁度あの窓から監視できるみたいで何よりだ。


 それはそうと、2台のテーブルによって横へ拡張された食卓には、食欲を掻き立てる焦がしカレーことアサシンカレーとベジターブルから摘み取った色とりどりの野菜で作られたサラダが用意されており、それらを見た途端に「ぐぅ〜」と今度は低い声で腹の虫が鳴いてみんなに笑われた。


「ふふふっ、もう待ち切れないようね? それじゃあ皆さん、好きな所に座って頂戴」


 台所から背中越しで話すイリアさん。紅茶入りのティーカップを〝イリア〟の木製トレイに乗せ、そのトレイを持って振り返る。

 しかし、こちらを見るなり急に動きを止めた彼女は笑顔から一変、驚愕の表情となって……──



       【異世界偉人名鑑】



 著:ウィッキー=ペディアス


 20ページ……風魔小太郎(フウマコタロウ)



 異世界『テルステラ』に住まう忍者にして偉人。


 風魔一族及び風魔忍者を率いて主に仕えた乱波(忍者)の首領であり、数多の任務を成功させたことで主からは深い信頼を得ていたとされる。


 根拠地は国とも山地とは云われ、まるで煙に巻かれたように特定できないうえに神出鬼没だと恐れられた。


 巨躯にも拘らず俊敏であるため、巷では怪盗または妖盗と呼ばれ、民からは畏怖される存在であった。

 また、民の中には「身の丈は2メートル半もあり、筋骨隆々で眼は逆さに裂け、口は大きく黒髭に覆われたうえに牙が4本も生えていた」と嘯く者も。要は、それほど悪魔じみた強さだったのだ。


 黒装束に身を包み、風魔の術こと風遁を駆使して一人の偉人と戦うも、決着が付かず痛み分けで終わる。

 しかし、その死闘によって名声はより一層高まることとなり、遂には偉人として認められた。


 主の亡き後は大盗賊として名を広め、盗賊以外にも山賊や海賊としても大成し、そこでも名を広めたという。


 あまりにも有名になりすぎたため、同業の者からは疎まれ、嫉妬の目を向けられるほど。


 得意とするものは多々あるが、その中でも風遁と投擲は特に巧妙。



 追記:配下は200人を超え、それらが一斉に風遁を使えば〝嵐〟を起こせたとか起こせないとか。


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