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第11話 私はきっと地獄に落ちる


「さーて、いっちょやってみますか!」


 用意された武器たちを前にやる気を漲らせ、先ずは進化条件である無銘の武器か否かを確認することに。


 弓……マル、斧……バツ、槍……バツ、苦無……さっき手裏剣やったから一回休み。


 どうやらゴルトとフェルムの武器は無銘ではなく在銘のようだ。つまり、賜物以上の品〝賜物品〟ということになる。

 そのこと自体は大変喜ばしくあるものの、残念ながら進化は諦めてもらうしかない。


 気は重いがみんなに確認結果を伝えたところ、エタンは冷静に「ふっ、当然だ」とか言いつつも嬉しそうに口を緩ませ、プラータは残念そうにしながらも「まっ、仕方ないか」と受け入れてくれた。

 一方、ゴルトとフェルムは完全に意気消沈。気不味すぎて最早かける言葉が見つからないレベル。


 一体どうしたものか……と私が頭を悩ませていると、ティナちゃんは気落ちする二人の前に来てこのように告げる。


「お二人とも、気落ちする必要などありません。進化はできなくとも素晴らしい武器なのですからその事実を喜びましょう」


 彼女の神にも等しい御言葉に二人はすっかり立ち直り、特にフェルムは「そうだよな……コイツはあの【陽花姫(ようかひめ)】の弟子が造ったやつだもんな」と槍を見ながら呟き微笑むほど。


 あぁ、よかったぁ。無事二人が立ち直ってくれて……と安堵したのも束の間、先程フェルムが呟いた言葉を急に思い出し、その事実に血相を変えざるを得ない状況へ。


「──ってちょっとタンマっ! イリアさんの弟子が造った!? そっ、その話もっと詳しく!」


 何気なくフェルムの口から出た【陽花姫】とはイリアさんの二つ名。

 彼女のイリアという美しき名はドワーフ語で〝太陽の花〟を意味するのでそこから名付けられたのだろう。

 しかし、私が血相を変えた理由はそこではない。〝彼女の弟子〟という言葉にだ。

 まさか復讐対象者の一人がフェルムに武器を造っていたとは……それも、無銘ではなく在銘の品を。


「──うおぉっ!? なっ、なんだよ急に!? まぁ、別にいいけどよ……」


 私の迫力ある食いつきに驚きつつも、フェルムは件の弟子について話し始めた。



 ……今から2年前、イリアさんの弟子『アガトス』は突如ティナちゃんの家に訪れた。理由は専属武器職人となるためだ。


 アガトスは20代後半の黒髪長身の男で、優しげな容姿と性格を合わせ持つ超一流の武器職人。

 当時はイリアさんが〝王家御墨付き〟であったため、王家と繋がりのあるティナちゃんの家でも専属希望者は尽く断ってきた。

 なので当然アガトスも断られるに違いない……そう思われていた。


 だが結果は真逆。何故かイリアさんは〝王家御墨付き〟を剥奪され、代わりにアガトスが選ばれたという。それも、専属として認められたと同時に。

 どのような経緯でアガトスが専属として認められ、そして〝王家御墨付き〟を得られたのかは謎。


 それを言うならティナちゃんの家もだ。

 幾ら王家と繋がりのある大貴族とはいえ、王家に直接働きかけることなど不可能なはず。そう……たとえどのような理由があろうとも。



「──てな感じでよく分かんねぇけどウデは確かだぜ? なんせ【陽花姫】の弟子だしな。で、あの人が王家御墨付きになってから会う機会が何度かあってよ、ダメ元で武器をくれって頼んでみたら新しく造ってくれたってわけだ。まっ、見た目以上に良い人だし、あの王様が気に入るのも当然かもな」


 信頼を寄せるように話すコイツに嘘はなさそう。ということは、本当にアガトスは良い人なの? 若くはそう演じてるだけ? どちらにせよ、イリアさんを陥れた事実は変わらない……だから復讐はする! 絶対に!!


 たとえ善人だったとしても決して揺らぐことはない。寧ろ、現実味を帯びてきた〝復讐〟という名の罪。

 私はきっと地獄に落ちる……だけど、その前に弟子どもをみんな地獄に落としてやる! そう改めて心に誓った。


「──ゴホンッ、話はもう済んだのか? 済んだのだろう? ならば早く進化させてくれ。流石の私でも限界だ……もう待ちきれん!」


 話がひと区切りついたところで痺れを切らしたエタンからまさかの催促が。

 睨みを利かせながら眉間を痙攣させるエタンを見て、大急ぎで弓に視線を移す私。だって怖すぎるんだもん、あの顔。


 気を取り直して弓に集中。

 どのような進化に至るのがエタンにとって最善なのかを判断するためだ。

 すると、不思議と弓から気持ちが伝わってくる。

 エタンのことを教えてくれるみたい。そっか……そうなんだ。


「なるほどねぇ……エタンは射る前に色々考えすぎちゃうからチャンスを逃すことが多いのかぁ。それなら……うん! 考えなくても狙えるようにすれば万事解決だ!」


 不思議とできた『武器との対話』で進化先を決めた私は、幾名か思い浮かんだ偉人の中からこの人物の名を挙げる。


「ナスノヨイチ」


 その名を挙げた刹那、弓が眩いほどの光を放ち、私とエタンの頭の中に謎の知識が流れ込んできた。



【無銘の弓が『ヨイチの弓』に進化した】


【ヨイチの弓:攻『+100%』・耐『+400%』・能力(アビリティ)『必中』】

【詳細:異世界の偉人『那須与一』が愛用していた弓の魂を宿すことで進化を遂げた元無銘の弓】 

【必中:狙った箇所に必ず命中させる。但し、射程外や遮蔽物がある場合はその限りではない】



「おぉ〜っ!!」


 私とエタンは同時に驚嘆の声を上げた……が、その理由は違う。

 私は希望どおりの進化先だったので驚いたが、エタンは恐らく謎の知識に驚いたのだろう。まぁ、それも予想どおりではあるが──


「──って痛ったぁ、急に頭が痛くなってきた……それに眩暈がして気持ち悪い……なんかこれ、二日酔いみたい……」


 突如襲いくる二日酔いに似た症状。昨日は酒など呑んでいないのに。

 一体何が原因なのか見当もつかず。ただ、敢えていうなら潜在スキルを使ったことくらい──


「──お姉様っ、突然何が……はっ! もも、もしや、重大なご病気なのでは──!?」


「あはは……へ、平気平気……さっ、行こ?」


 ティナちゃんの過剰な心配に嬉しく思いつつも、これ以上の心配を掛けぬよう気丈なフリをして歩きだす……が、二日酔いの状態でも平気で武器を造るような私がたかが数歩を歩いただけで耐え切れずにフラつき、そして転倒。遂にはそのまま意識を失ってしまい……──




「──……ん、んん……あれ? 私、なんでベッドに……」


 ふと目が覚めると何故か見知らぬベッドの上で仰向けになっていたため、真っ先に視界に入った見知らぬ天井を見つめながら何があったのかを思い返す。


「……!! そっか……気を失ったんだ、あのまま……」


 気を失う直前の記憶まで鮮明に思い出し、たかが二日酔いで倒れた自分に情けなさを感じずにはいられなかった。

 武器を進化させ、これから出発する矢先にこの体たらく。

 そのあまりの情けなさに「ダサいなぁ、私……」と独り俯き呟いた直後、部屋のドアが開いて誰かが中へ入ってきた。


「よぉ、起きたみたいだな。つーか大丈夫なのか? まだ寝てていいんだぞ?」


 この声は、フェルムだ。てっきり悪態でも吐かれるかと思ったがそんなことはなく、声色から本当に心配してくれているのが伝わってくる。どうやら仲間に優しいのは本当みたい。


 ただ、その優しさが今はつらい。みんなを急かした挙句、当の私がその足を留めたのだから。

 それなら一層のこと悪態を吐かれた方がマシだ。この涙は悪態によるものだと言い訳できるから。


「なっ……ひょっとしてお前、泣いてんのか?」


「……ごめん」


「な、なんで謝るんだよ……別に悪いことなんてしてねぇだろ」


「ううん、私が倒れたせいで出発できなかった……そうでしょ?」


「……違う」


 私の問いかけから少しの間があった……やっぱり私のせいなんだ。

 その事実を知って再度「……ごめん」と答えると、急にフェルムが私の頭を優しく叩く。


「だから違うっつってんだろ? 寧ろ逆だ逆っ! ……おっ、お前のお陰で襲われずに済んだんだよ! ったく、言わすんじゃねぇよ……」


「……どゆこと?」


 本当の本当に意味が分からず、首を傾げながらキョトンとする私であった……──



       〜メイキング&NG集〜



スタッフ「んじゃ次は〝ごめん〟のシーンいきまーす!」



フェルム「なっ……ひょっとしてお前、泣いてんのか?」


ルゥ「……ごめん」


フェルム「な、なんで謝るんだよ……別に悪いことなんてしてねぇだろ」


ルゥ「ううん、私が倒れたせいで出発できなかった……そうでしょ?」


フェルム「……違う」


ナレーション「私の問いかけから少しの間があった……やっぱり私のせいなんだ。その事実を知って再度──」


ルゥ:ナレ「……ごめん」


ナレーション「──と答えると、急に私の頭をフェルムが優しく叩く」


ルゥ「──!! ひらり」


フェルム「──!? なんで俺の手躱すんだよ! って、あれ? これデジャヴじゃね?」


ルゥ「あっ、しまった。右手だったからつい……テヘっ☆」


フェルム「このやろう! って、これもデジャヴ──ってかまだ昨日のナニ引っ張ってんの!? ……あ、そういや今日、ココ来る前にシて──」


スタッフ「──はいカーット! 聞くに堪えませーん!」


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