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第10話 進化、再び


「はぁ……なんだか気になるなぁ、五人目……」


 ……などと私が心の中のしこりを気にする一方、みんなは着々と出発準備を進めていた。


 大量の食料や飲み物の他に、衣服や下着などを全て大きなリュックに詰め込み、最終的には各々が愛用している武器の手入れを開始。


 当然、武器職人の私に武器を見ないという選択肢はなく、丸テーブルの上に置かれた武器たちを勝手に観察させてもらうことに。だって興味あるし……仕方ないよね?


 えーっとなになに……エタンは弓でゴルトは斧。それでチャラ男は……へぇ〜、槍なんだぁ。てっきり素手かと思──って、何コレっ!? プラータの武器ってもしかして……暗器ってやつ!?


 様々な形状のナイフがあるのはまだ分かる……恐らくは用途が違うのだろう。

 だがこのような十字に尖った黒い投擲具や黒い刃物などは今までに見たことがない。はわわっ……めっちゃ気になるんですけど!?


 初めて目にした武器に嘗てない興奮を覚え、すぐさま武器を指差して「ねぇっ、コレとソレっ! なんていう武器なの!?」とプラータに聞いてみたところ、当の彼は気だるそうに口を開く。


「えぇ……それ、答えなきゃダメなやつ?」


 面倒がるプラータに対し、そんなのお構いなしに「うん! 答えなきゃダメなやつ!」と勢いよく返し、顔を近づけて圧を掛ける。

 その猛烈な勢いと圧に観念したのか、プラータは「はぁ……しょうがない、答えてあげる」と嫌々ながらも説明してくれた。


 先ずはコレ……十字に尖った黒い投擲具。

 名は〝手裏剣〟といって、回転した際の遠心力を利用することで威力を高める中距離型暗器。

 投擲に慣れてくると直線のみならず弧を描くように投げることもでき、木や岩といった障害物を避けて標的に当てることも可能になるのだそう。


「うわぁ〜! めっちゃカッコイイじゃん! てかさ、どこで手に入れたの?」


「……内緒。それよりソレの説明はいいの?」


「は? ダメに決まってんじゃん。だから早く教えて!」


「はぁ……グイグイくる……俺の苦手なタイプ……」


 プラータが何か失礼なことを呟くも、今はソレのことが知りたい一心なので全く気にはならず。

 全身をウズウズさせて説明待ちをしている私を見て、またもやプラータは嫌々ながらもソレの説明を始めた。


 ソレは〝苦無〟という一風変わった名の刃物。

 しかし、ナイフのような近接戦闘だけではなく、なんと投擲具としての中距離戦闘や柄尻の輪っかにロープを通せば止め杭の代わりも熟せる万能型暗器らしい。


「──あと手裏剣や苦無は主に〝忍者〟が使うことから〝忍具〟と呼ばれてて、他にも撒菱や猫手とか色んなものが──」


「──ん゙んっ!? ちょっ、ちょっとタンマっ! その説明、前にも聞いたことが……ううん、なんかで見たことある……そういえば手裏剣や苦無も見た目は少し違うけど確かに見覚えが……あ゙ぁっ!」


 古い記憶を辿り、幼き頃に見た〝ある本〟の1ページを思い出した私は、共に記載された〝ある忍者〟の名を無意識に口から零す。


「……フウマ、コタロウ……」


 その名を口にした刹那、目の前にある幾つかの手裏剣のうち最も使い古された一つが眩いほどの光を放ち、私の頭の中に再び謎の知識が流れ込んできた。



【無銘の手裏剣が『コタロウの手裏剣』に進化した】


【コタロウの手裏剣:攻『+250%』・耐『+250%』・能力(アビリティ)『風遁』】

【詳細:異世界の偉人『風魔小太郎』が愛用していた手裏剣の魂を宿すことで進化を遂げた元無銘の手裏剣】 

【風遁:風属性の忍術を使用できる。なお、発動条件は〝印〟を結ぶこと】



「あはは……な、なんか進化させちゃったみたい……」


 進化後の手裏剣は刃の形状が十字から万字に変わっており、大きさ自体も手の平サイズから顔ほどのサイズにまでなっていた。

 見た目からも性能が上がったことは丸分かりだが、それとこれとは話が別だ。きっとこの手裏剣は長年愛用してきたものなのだろう。

 たとえ才能の欠片もない私であってもそれくらいなら見れば分かる。それに、使い捨てていないのが何よりの証拠。


 変わり果てた手裏剣を見てショックを受けているのか、プラータは俯いたまま小さく震えている。それはそうだ、私だってそうなる。

 幾らわざとではなくとも別物にされてしまったのだからショックを受けぬはずがない。


 ゔぅぅっ、ホント悪いことしちゃった……と私が落ち込んでいる傍ら、ショックを受けていたはずのプラータが急に立ち上がり、私の顔を見るなり迫ってきた。


「何今のやつ!? 手裏剣はカッコ良くなるし頭の中になんか入ってきたし! ねぇ、一体どうやったの!? ねぇ! ねぇ! ねぇ!」


 奇襲の如く、美形の童顔が私の顔先まで押し寄せてきた……が、そこでピタリと動きが止まる。どうやら誰かが彼の後ろ襟を掴んで止めてくれたみたい。


 ビっ、ビックリしたぁ……! てっきりキスされちゃうかと思ったよ……


 突然の展開に驚き鼓動を速めつつも、私はプラータのすぐ後ろにいる人物に目を向けた。


「……チャラ男? どうしてアンタが……ううん、ありがと」


「……おう」


 素直に礼を言われて気恥ずかしかったのだろう、照れ隠しで顔を逸らしながら応答するチャラ……フェルム。心做しか耳も赤いように見える。


 その照れ隠しで向けた横顔が可愛らしくもおかしく思えたのでニヤニヤしながら眺めていると、私の視線を遮るように「おーい」と右手を振り始めるプラータ。私がハッと気づいたところで再び彼が口を開く。


「ねぇ、いつまでこうしてる気? 俺はもう大丈夫だから。じゃ、お前はナニした手を離してキミは何したのか話して」


 おぉ、上手いこと言うなぁ……ってそうじゃない! ナニした手ってなにっ!?


 閑話休題っ!

 見たところプラータは本当に大丈夫そう。

 なので、言われたとおりフェルムは後ろ襟から手を離し、それを確認した私も観念して〝偉人の銘〟について話すことにした。



「──ってなわけで、私の潜在スキルには無銘の武器を進化させるチカラがあるってこと! 分かった? ……てか、絶対内緒って言った自分が言っちゃってんだもんなぁ……はぁ……」


 深いため息を吐いて項垂れる私に対し、頑張って励まそうとするティナちゃんと笑って馬鹿にしてくるフェルム。なんなの? この対応の差。

 しかもさ、他の三人は誰の武器を次に進化させてもらうかで言い争いを始めてるし……っていやいや、そもそも「やる」とは一言も言ってないからね、私。


 このカオス極まる状況下で冷静さを取り戻した私は、スッと顔を上げて声を張り上げる。


「煩ぁぁぁーい!! お前ら早く出掛ける用意しろぉ! ……あっ、ティナちゃんは私と待ってようね? はい、これ飴ちゃん」


 私が怒りを爆発させた途端、大慌てで武器を仕舞ってリュックを背負い始める男四人。

 流石のアイツも私を馬鹿にしすぎたと反省したのか文句一つ垂らさずに動いている。


 男たちが用意を終えた直後、それまで大人しくしていたティナちゃんが私のツナギを軽く引っ張ってきたため、何かあったのかもとそちらに顔を向けると、彼女は上目遣いで〝あるお願い〟をしてきた。それは……



「お願いします、お姉様……彼らの武器を進化させていただけませんか? (わたくし)にできることでしたら如何なることもいたしますので、どうか……」


「……ッ!? な、なんだって……!? 如何なることも……だと!?」


 彼女が口にした〝あるお願い〟の後の発言に、思わず顔の彫りが深くなるほどの衝撃を受けた私。返事は勿論……OKだ!

 てなわけで、早速ティナちゃんには私の願いを聞いてもらうとしよう! フヘっ、フヘヘ……


「そ、それじゃあ私のこと〝お姉ちゃん〟って呼んでみて? さっ、早く早く!」


「えっ? は、はい……お姉さ──お、お姉ちゃん?」


「はい天使ぃぃぃ〜っ!!」


 両の瞳を潤ませ、恥ずかしがりながらも〝お姉ちゃん〟と呼んでくれたティナちゃん。超絶ヤバい……し、死ぬほど可愛いすぎ……る……



 ……その後、危うく昇天しかけたもののなんとか耐えた私は、あの可愛すぎる妹の願いを叶えるべく丸テーブルの上に再度置かれた武器たちと相対し、そして……──



       〜メイキング&NG集〜



スタッフ「んじゃ次は〝ナニ〟のシーンいきまーす!」



プラータ「ねぇ、いつまでこうしてる気? 俺はもう大丈夫だから。じゃ、お前はナニした手を離してキミは何したのか話して」


ルゥ:ナレ「おぉ、上手いこと言うなぁ……ってそうじゃない! ナニした手ってなにっ!?」


スタッフ「はいカーット!」


監督「……マル」


スタッフ「はいオッケーでーす!」


監督「ブレイキンッ」


スタッフ「はい休憩入りまーす!」



フェルム「よぉ、お疲れ。ほれっ、ドリンク」


ルゥ「──!! ひらり」


フェルム「──ッ!? なんで投げたの躱すんだよ!」


ルゥ「えっ? だって、ナニした手で持ったやつとか触りたくないし」


フェルム「このやろう! てか今日はまだシて──」


スタッフ「──はい再開しまーす!」


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