異世界東京
首都高を走るバスから背の高いビルが見えた。
子供のころは本当に別世界みたいで、飽きも世辞、車窓に流れるそれを眺めていた。私が東京に来るのは、父が運転する車で家族そろってディズニーランドに行く時くらいだった。そのイベントは幼い私のとって年に数度の、ひどく特別なものだった。道路は東京に入り、遮音用の壁の上からぽつりぽつりとビルが顔を覗かせだすと、私の胸はワクワクと高鳴った。青と白のディズニーランドホテルが見えた時と同じくらい、心の中ではしゃいでいた。
「あとどれくらい?」
「もう東京入ったから、あとちょっとだね」
寝るのにも飽きた妹と、ハンドルを握る父がこんな会話をしているのを聞きながら、平常な車内で一人、花を窓に近づけて静かに目を輝かせていた。
この大きくて、時折ガラス張りでキラキラと水の中見たいに車を反射している物すべてを、人間が作ったなんて信じられなくて、あの窓一つ一つに人が住んでいるなんて想像できなくて、だただた夢の中みたいに見とれていた。非日常に溺れていた。
一日中パークで遊んだ帰り道、寝静まった車内では、父が絞った音量で音楽を聴いていた。私は黙ってオレンジ色の街灯が等間隔で通り過ぎていくのを眺めている。夢と現実が溶け合う境目は、きっとこんな風景が広がっているに違いない。単調でけだるげで、藍とオレンジにほんの少し、理由のない憂鬱。
あの頃の私は、東京を異世界だと信じていた。




