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短編集  作者: 岡倉桜紅
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ロボットペットを愛してる

「お願い、お母さん、買ってよ!」

 ガラスのショーケースの中から、生まれて数か月の子犬が小首をかしげて、まん丸の目で少年を見ていた。少年は地団太を踏み、おねだりをする。もうこの状態になってしばらくの時間が経っていた。

「うちのマンションでは飼えないって何度も言ったでしょ?それに生き物を飼うっていうのは責任を伴うの。毎日ご飯をあげて散歩をして、予防接種やトリミングに行って、もちろんうんちだってするんだからそれもちゃんと片付けなきゃいけないのよ。タカシには難しいんじゃないかしら」

 母親は辛抱強く少年に説明した。少年の目には大粒の涙が浮き上がり、ぽろぽろとこぼれた。近くで見ていた定員が駆け寄って来る。

「やだ。犬飼うもん。だって、おうちに帰ってきたとき、犬がいたらもう寂しくない」

「うちは共働きで。帰りがどうしても遅くなるんですよ」

 母親は店員に説明するように言った。最近のほとんどの家庭は共働きだ。少年はいわゆる鍵っ子というやつなのだろう。

「ああ、それでしたら」

 定員はレジカウンターの下から一枚の広告を取り出して母親に見せた。

「ロボットペットがおすすめですよ」


『ワンワン!』

 部屋の中を犬型のロボットが駆け回っている。犬種は黒のダックスフンドだ。最新技術を駆使して作られたそのロボット犬は、毛並みやしぐさもリアルで、本物の犬と並べてもすぐにはロボットだとわからない。

「よし、おまえの名前はペスだ!」

 少年はロボット犬を抱き上げて言った。ペスは尻尾を振った。ペスの首輪にはスイッチと充電用のプラグを挿す穴があった。

「大事にするよ。ずーっとずっと大好きだよ」


「タカシ!ペスを散歩に連れて行ったの?最近ずっとゲームばっかりやっててペスに構ってないじゃない」

 帰宅した母親は、リビングの大きなモニターでゲームをする少年に言った。ペスは部屋の隅で充電用ケーブルにつながれてピクリとも動かない。

「設定で行ったことにしたから大丈夫」

「ご飯はあげたの?」

「大丈夫だって。今日はゲームがしたいんだ。ペスの世話はオートモードにしてるの」

 少年はモニターから目を離さずに言った。

「タカシ。ゲームをやめなさい」

 母親は静かに言った。少年はその威圧感にしぶしぶといった様子でコントローラーを置く。

「あのね、あなたが飼っているペスはあなたのペットなの。ペスの飼い主はタカシだけで、ペスにとって自分の世話をしてくれる人はタカシだけ。あなたが犬を飼いたい、その責任を持てると言ったからペスはうちにいるのよ」

「でも、ペスはロボットだもん」

「ロボットだろうと、ペットであることには変わりないの。今からずっとペスの電源はオンにしておきなさい。オートモードは禁止」

 少年は不満げな顔をしたが、母親が険しい顔をするので頷いてペスの電源を入れた。


『ワンワン!』

 ペスがゲームをしている少年の足元にまとわりついてくる。口にはリードをくわえて、散歩の時間だとアピールしているのだ。

「しょうがないなぁ」

 少年はしかたなくゲームを中断して立ち上がった。ペスは少年の周りを駆け回った。リードが絡まる。

「こら、おとなしくしろよ」

 少年はペスを抱き上げてその短い足からリードをほどいてやる。ペスの体は冷たく、ぬくもりは感じられない。

 少年は玄関のドアを開けた。雨が降っていた。雨降りの日はペスが決まって泥だらけになるので、風呂に入れるところまでがセットになる。母親が帰ってきたときにペスが汚れたままだと怒られてしまう。

「めんどくさいなぁ」

 少年はため息をついた。


 散歩の最中に雨はだんだん強くなり、少年は途中で引き返した。ペスの体を風呂場で洗い、リビングに戻って来る。ペスは外の嵐に反応しているのか、窓辺で激しく吠え始めた。

「ペス、静かにして。隣の部屋の人に怒られちゃうよ」

 少年はなだめようとするが、ペスは雨に向かって吠え続ける。

 ピンポーン、とインターフォンが鳴った。少年が背伸びをしてモニターを見ると、隣の部屋の住人のようだった。

「ペス!静かにしてったら!」

 またインターフォンが鳴る。少年は焦ってペスを抱き上げる。ペスは冷たい。

 少年の心にはふと、ある想像が生まれた。もしかしたらペスはさっきの散歩とシャワーでどこか故障してしまったのではないか。だからこんなに狂ったように吠えるのをやめないんだ。

 インターフォンが鳴る。

 少年はペスを両手で高く持ち上げた。そして、床に向かってたたきつけた。たたきつけられたペスは静かになる。そうか、ペスが壊れちゃったら、もう世話もしなくていい。少年はもう一度ペスを高く持ち上げる。

「タカシ、何してるの?」

 声がして振り向くと、母親が震えながら立っていた。

「ペス、壊れちゃった」

「あなたが壊したんでしょう。……あなたを、そんな子に育てた覚えはありません」

 母親は少年に近づいて目線を合わせてしゃがんだ。

「壊れちゃったのね」

 母親は少年の首筋にあるスイッチを切った。

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