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心世界  作者: rin極
第九章 ソルジャー試験編
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第48話 「半生」



スーーーーーーハハハ。


「んなあ、お前いい奴だな」


 俺とカシが言葉を交わしたのは、その時が初めてだったと思う。

 それは、国盗り合戦が始まって以来間もない頃だった。

 きっかけは、あいつがロッキーに肩を貸したことだ。

 

 ウォーゲーム2日目の朝旦(ちょうたん)、俺は城壁側の方に座っていた。

 坊主が坐禅でも組んでんのかってぐらい黙り込んでた俺は、黙祷を捧げ、目を瞑り、座して待っていた。

 なんで待っていたのか、俺には分からねえ。

 特に何をするわけでもなくただ見るだけだ。

 マジでやることが無かったから、俺はこのとき暇だったんだよ。

 

 周りには、5人組の男衆と、ロッキー、その他雑俳(ざっぱい)がいるぐらいだ。


 剣を使ってる奴とか、斧持ってんのが決闘してたな。あと、その辺で拾った木の棒を振り回してる奴。

 

 左耳から、こちらに近づかんとする足音が聞こえた。

 この場に、カシウスとかいう奴が追加された。


「なんだ?」


 俺はそいつに軽く唸るような声で尋ねる。


「ちょっと付き合えよ」


 そいつは開口一番にそんな事を言った。

 口を開けば、俺にどのような面倒事をさせると言うのか。


 カシウスは剣の柄に触れ、ニッと笑った。気持ち悪いな。


「先立ってくれないか?ええ、ショウよ」

「手合わせだな、おおいいぜ、気が乗ってきた」


 二人は剣を握りしめ、互いの顔に向ける。

 何人かが、その様子を伺う。


 カシウスが上段の構えを取る。普通だ。

 

 ふ~ん、なんか、負ける気がしねえんだよなあ。

 

 ショウは力を抜いて全身をだらけさせた。

 アブソリュートの教え、自然の構えである。

 カシウスは一瞬その姿勢に訝しんだが、すぐに踏み込んだ。


 切っ先が、俺の側へ。

 早い、が、俺には届かない。


 カシウスの剣の振り方を見て、俺はすぐに悟った。

 

 ああ、その剣術ね。王国ではよく見る剣だ。

 この国、いや、この大陸ではオーソドックスな剣術だ。

  

 俺は膝下の力を抜いて、それを交わした。

 カシウスの剣が俺の目の前の空気を切る。


 カシウスが驚いたような顔をした。


 タイミングも角度も完璧な打ち込みだったが、俺は容易に防げる。

 寸分たがわず昨日と同じ軌跡をだった剣筋では、俺に手傷を負わすことは不可能だ。

 

 俺の剣は地面に置いたまま。

 後ろ向きに倒れ込んだことにより、そのまま地面に腰を着けると思われた俺の身体は、ヘビの様に腰と肩を捻らせることでその体勢を維持した。


「・・・っは?」

 

 カシウスが間抜けが発する声を出す。

 どうやらカシウスは俺の剣が見えたようだ。

 動かせるはずのなかった大剣が、カシウスの首元にあったので、カシウスはびっくりしているのだ。

 

 再起叶わずの体勢から、いつの間にかショウは依然と立っている。

 

 俺の勝ちだ。


「俺の負けだ……」


「おおお」

 

 その試合を見ていたギャラリーは感心したような声を漏らす。


「おい、もう一本だ」

「そんな涼しい顔のままで帰すわけにはいかないんだよ」

 

 俺はカシウスの言葉を無視して、そっぽを向いて歩く。

 少し離れたところで、さっきと同じ様に座った。

 

 カシウスはその場から動けずにいた。

 

「クソッ」


 仰向けに寝転がり、はあっと息を吐いた。

 ちくしょう、という声が彼から聞こえてくるようだ。


 そうとう悔しいようだ。

 歯茎から血が出るほど噛み締めても、昨日より力が大きくなるわけではないし、速くなるわけでもない。


「なんで負けた?」


 そりゃあ、剣術という型にはめられた動きしてっからだよ。

 戦うってのは、剣術のとおりに剣を振るうことじゃない。どのように剣を振れば相手を負かすことができるか、だ。

 俺はお前と違って、剣技という枠からとっくのとうに出ている。

 つまり、鳥籠に囚われた鳥を外から突いて殺すぐらい楽勝って事だ。

 

(同世代で俺に勝てる奴なんていなかった)

(剣の腕は俺の方が上だったのに、負けた。いくら剣術が上手くても、あいつのあの化け物じみた身体能力と反応速度の前では太刀打ち出来なかった。まるで豹だな)

(しかし、なぜナイフ使いのような戦い型をするんだ?しかもそれをあの大剣で)


 ロッキーがカシウスに声をかける。

 

「カシウス、お前見事に負けたな」

「ほっとけ」



--



 何度目の対戦か。


 カシウスはあれからも何度も対戦を申し込んだ。

 カシウスとのタイマンは結構楽しいので、俺は快くそれを受け入れる。

 ときには俺から誘うこともある。


「おい、カシウス、どうしたんだ?剣の手入れなんかして……誘ってんのか?俺を」


 剣を磨き終えたカシウスは、ショウに対し戦意十分な顔を向ける。


「悪いね、その気にさせちゃって」

「そうだそうだ、お前は悪い男だ」


 カシウスが突然俺に剣を振る。

 今回俺は、避けるのではなく、それを剣で受けることにした。

 

 さあ、カシウス、今日はどう来るつもりだ?


 いつもと同じじゃ結果は変わらんぜ?



 俺は基本的にカウンターの方が得意だけど、今日は俺から行くか。


 今日はいつもより隙だらけだぜ、俺からタイマンふっかけたから、まだ集中できてないのかもな。


 俺はそいつの隙に吸い込まれるように、右の脇下を斜め下から上に向かって、剣の軌道を置いた。


 カシウスがニッと笑った。

 ん?


 カシウスは俺にカウンターの一撃を。

 それは、もはや俺の思考では追いつかないほどの完璧なカウンターだった。

 俺の人外な反応速度をもってしても防げない一撃を放つために、カシウスはあえて隙を見せたということだ。

 俺の踏み込みに合わせて、カシウスの剣はすでに俺の首へと至る剣筋を描いていた。



 俺がその一撃を喰らわずに済んだのは、ひとえにこの身体の生存本能――脊髄反射のおかげである。

 このとき、俺の重心は右斜の方に傾いており、その体勢からカシウスの右カウンターを回避することは難しい。

 しかし、ここで俺の脅威的な生存本能が目覚める。


 勝利を確信しているためか、奴はうっすらと会心の笑みを浮かべていた。

 カシウスの剣が、俺の首の皮に触れるか触れないかの刹那。


 カシウスは、怪訝な顔をした。

 奴の瞳孔がギュッと収縮するのが見えた。


 思考ではなく本能、危ないと感じるよりも速く、俺の筋肉は無理やり身体を捻じ曲げ、骨が軋む音と共に、振るい終わったと思われた剛剣を、自分でもびっくりするほどのあり得ない速度で引き戻していた。

 俺はカシウスの剣を持つ方の手首を裏拳で叩き落としていた。

 下の方から、鉄の音が聞えてくる。


 カシウスの素晴らしき剣とともに、彼は勝ち試合を落とす。



「はあ、はあ」


(嘘だろ。何だよ……今の動き)

(間違いなく俺の剣が当たるはずだった)


「今のはやばかった……! !」


(こいつ、分かってんのか?)



 カシウス、やっぱ悔しいよな。


 心から賛美する。

 今のはやばかった。


「なんで、俺に勝てないのか、教えてやろうか?」


 自分でも何が起こったのか把握できない。

 俺はこの感覚がなんなのかを知っている。


「それはな、〝無我の境地〟だ」


「それに至るまでの間は、お前が俺に勝つことは絶対にない」

「あとな、俺とお前との一番の違いは、〝構え〟だ」

「カシウス、お前はか構え方を間違えている」

「・・・・」

 

 理解出来てない顔だな。


「つまりだ、そもそも、戦ってる土俵が間違っている」



Intrusive behavior

差し出がましい行い

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