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心世界  作者: rin極
第九章 ソルジャー試験編
47/48

第47話 「どっかのお姫様」


 火星城の中は、未だに荒れていた。

 何人かが、壁際にぐったりと座り込んでいた。

 数々の試練で蓄積された疲労が、まだ回復出来ておらず、彼らは食料や水にもありつけず衰弱していた。

 このままでは試験で生き残れることはできないと絶望していた。


 目の前に水の入った手製のコップが現れたのに気づいた。

 この荒んだ火星国には、あまりにも場違いな優しさだったため、反応が遅れた。


「え?」


 自分に水を差し出してくれたのは赤く燃え広がる美しい髪をした可憐な女性だった。


「大変消耗しておられたみたいなので、お水を」

「な…どうして?」


 すると彼女はニコッと笑った。


「火星国を組織として機能させるためです。あなたたちの回復は、生き残るための最低条件ですから」

 

 彼女はそう言うと、他の人達にも水を配るために去っていった。


 温度のある声だった。だがその奥には計算がある。

 ただの善意ではない

 

 廊下を歩きながらぽつりと呟いた。


「……まずは、水と食料の供給網を作らないと」


 彼女がそういうふうに、考え事を口に出していた事が僕には聞こえた。

 真剣に考えを巡らせながら歩く彼女の姿を見た僕は、胸の奥で何かが燃えるのを感じた。

 

(この人の力になりたい)

 

 試験だとか、ソルジャーだとか、そんな理由を抜きにして、僕は本気だった。


 彼女は名乗らなかった。


 その女は、城を使いやすくすることに尽力した。


 最初は女として舐められた。物理的にも。

「うい~ へっ」

 ブルっと背筋にオカンが走る。

 

 やがて彼女の行動が、この火星という組織を変えていくことになる。


 

--

 

 

 火星の寝床、そこには雑多に古くて汚いベッドがおざなりに置かれていた。

 寝室というか、共用の大部屋があるのだが、そこにはそれなりの人数が部屋の存在理由に従って寝床として利用している。


 しかし、寝床としてはまだ安心できる場所ではない。

 いつ自分の寝首がかかれるか気が気でないのだ。

 同じ火星の人間を傷つけてもメリットはないのだが、やはり警戒心を解くものはいない。


 今、この部屋には複数人しかいなかった。

 

 そこに一人の女性が入ってきた。

 当然だが、ソルジャーを目指すものは男性が多い。


 この部屋にも、漢しかいない。

 こんなところに女性が入ってくるとは大した度胸がある。

 まあ、他に男の仲間を複数人連れているので売春の可能性には期待できないが。


 彼女達は無言でこの部屋の整理、清掃を初めた。

 何を始めるのかと思ったら掃除か。


 一人の男がその女性に話しかけた。

 

「俺も手伝おうか?」


 すると、その女は表情を明るくした。


「助かります。そこのベッド、シーツを除けてもらえますか?」

「おう、これを除けりゃあ良いんだな?」


 それから、ベッドの下を掃除するとか言って、奴にベッドの下にしまい込んでいたものを出させた。

 おいおい、それはまずいだろ。

 隠しているなら隠し通せ。


 俺、ロッキー・ザンは隠していた武器を自分の身体に装着し、少し離れた。

 ほう、あの女、今あいつの荷物の中を確認したな。

 警戒心の緩いやつだ。

 

 俺も彼女の清掃の手伝いに加わった。

 彼女の手伝いをするものが増えたおかげで、清掃は順調に進んでいった。

 

 掃除が進む中、ひとりだけ空気を読まずにベッドの上でシコっている男がいた。

 彼女は最後に残ったベッドを片付けるため、意をけして奴に話しかける。

 

「あの、掃除するので…どいてくれませんか?」

「ぼ、僕のおちんぽも掃除してくれるかい?」

 

 場の空気が凍る。

 彼女は一瞬だけ顔をひきつらせたが、すぐに表情を整える。


「手下、お願いできる?」

「っは、私が代わりにお掃除させていただきますッッ!!すこぉおおお!!!」

 

 彼女の手下が、血走った顔で周りの空気を思いっきり吸いながら奴に近づく。


「ぎゃあ!」


 もう一人の手下が無理やりベッドから引きずり下ろすことで、それは未遂に終わった。

 しかし、射精すでに始まっていた。

 ベッドの上に白いのが飛び散る。

 誰もが嫌な顔をした。当然だ。あのベッドでは絶対に寝ない。みんながそう決めた。

 

「……とりあえず、シーツを変えます」

 

 彼女は苦い顔をしながらも、それをクリーニングするためにシーツを除け始めた。

 

「自分がやりましょうか?」

「いえ、私がやります」

 

 誰もが嫌がる事を彼女は率先して行った。

 この場にいる全員が、彼女に対し畏怖の念を抱いた。

 

 

--



 ソーマが城内の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「ソーマさん」

 

 ん?なんだ、マージュアリーか。

 汗を拭う間もなく働きでもしたのか、頬に疲労が浮かんでいる。

 

「なにか用?」

「あなた、以前に完璧なバリスタを作くりましたよね。その能力を見込んで……食料庫の修理をお願いしたいんです」

 

「う~ん、まあ別にいいよ、今ちょうど暇だし」

「ありがとうございます」

「その代わり、食料庫の管理権を半分よこせ」


 ソーマがそういうと、彼女の顔は少し引きずった。

 一瞬だけ考えを巡らせる。

 その様をソーマは意地悪く笑みを浮かべる。

 仮面を被っているので、彼女には見えていない。

 

「全部よこせって言ってるわけじゃないぜ、オーナー権限を僕と君とでシェアしようってんだ」

「……はい。その条件を飲みます」

 

 それから、火星城の裏口からすぐ近くにあるボロい小屋のような所に行く。この小汚い部屋は食料保管庫である。

 ものを持ち上げると、ネズミが走る。

 蜘蛛の古巣が顔に触れ、それが中々取れずにいる。

 複数に人がなにやら作業をしていた。


 ソーマは中を見渡し、一瞬で状況を把握した。


 最初は彼女とその部下だげが動いていたのだろう。

 だが今や、近くの者たちが当たり前のように手を貸していた。

 あまりにも自然すぎて、僕は呆れた。

 

 上手いなあ。


 雨漏れのせいで腐っていた木の棚を全部外に出されていた。

 今ここにある棚は、工作の得意なやつが、新しいつくったのだろう。

 これで食料の整理がしやすくなるね。もっとも、保管する食べ物がないんだけど。

 

 食料庫は、かなり古く、今にも崩れそうなほどにボロボロだった。

 だが、ソーマが手をかざすと、黒い煙がブワッと溢れ、一瞬で再生した。


「…すごいですね」

「まあね」


 おそらく彼女が最近いろいろ動いているのは、共同作業をすることで、組織に協調性をもたせるためだろう。

 見た所、すでに彼女がいなければ維持できない組織が出来つつある。

 

 火星の仲間たちは、なんとなく食料庫の管理はマージュアリーがするものをいう認識が生まれるだろう。

 これがマージュアリーの狙いだ。

 ソーマは彼女が、物資の分配権を狙っていることに気づいたため、修理を手伝う条件としてその権限を分けてもらうことにしたのだ。ちょっとした嫌がらせというか、遊びである。



--



 たまに変人に翻弄されながらも、マージュアリーは活動を続けた。


「モニカは食料庫の管理をお願い」

「あいあいさ!」

「ダーク・ムニエルとイージー・ドールには、できればでいいのですが、交代制で城内の警備を頼みます」

「はい、交代ならモニカ様の護衛に支障はありません、城の警備、了解しました」

「夜間は、ロッキー・ザンとウージー、アレスの三人に任せます」

「はい!!!」

「ああ」

「カシウス、いずれ軍の編成をやろうと思っています。できるだけみんなの戦闘能力の確認をやっといてください」

「ああ、それぐらいなら」

「リョジュンは引き続き、上空からフィールド全体の戦況の監視を」

「うん」


 マージュアリーはそのほかにも、雑用や管理の割り振りをさり気なく委任。

 少しずつみんなに役割や仕事を与えていった。

 人はやることができると、途端に統率が取れるようになった。


 自然と彼女の周りには人が集まっていく構造が完成していた。



--



 試験開始から四日間の間で、火星内には派閥が生まれていた。

 タイタンの力が全ての武力派、アントニオの発言力だけで集まった自由派。

 そして、その中で一番でかい派閥が、マージュアリーの組織派である。


 ショウ達は派閥に属さなかったが、マージュアリーの側につくと公言したため、実質、その派閥に入ったことになる。


 そんな彼らが唐突に、木星を獲りに行くと言い出した。

 日星が木星を落とした次の日のことである。


 マージュアリーは突然のことで困惑しつつも、彼らの作戦を真面目に聞いてあげた。


「日星が木星を襲った時、10人の死者が出た」

「よし死体を盗みに行くぞって感じで死体を手に入れたムガロが作ったゾンビで…」

「なるほど、そういうことだったんですね」


「ああ、作戦決行は明日だ」

「太陽が起きるよりも前に起こしてやんだ」

「ふむふむ」

「結界はどうするんですか?」

「俺等は門から入る」 

「そこが、唯一と言ってもいい…あの無敵のメアリーの結界の穴だ」


 作戦の大まかな全容を聞いたあと、彼女は静かに行った。


「もし、木星でマーカーが手に入らなかったら、私が日星を交渉しに行きます」

「捕虜と交換で……ついでに食料ももらいましょう」


「助かるぜ」

「マージュアリー、お前が王になるって時は力になるぜ」

「…ありがとうございます」


「気づいてたんですね」


 それから、ショウ達は木星城を攻めに行ったのであった。



--



 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああだがああああん!!!

 突き破った!!!!!!

 身体が!!!空を切る!!!!

 風切り音が聞こえる!!!



「うをおおおおおおお!!!!」


 ばっ!

 視界が一瞬の内に切り替わる。


「はっ!」

「空!?」


 廊下を歩いていた。

 それは突然だった。


 全身を襲う強烈な斥力(せきりょく)、それが浮力となりすさまじい慣性が俺を空へと弾き飛ばした。俺は、気づいたら城の真上にいたのだ。どうなってんだ!?鉛直方向への推進力が消失。速度ゼロの最高点で、俺は一瞬の無重力を味わう。だが、ベクトルは即座に(マイナス)へと反転した。

 ――自由落下の始まりである。


 ん?

 あの魔力の淀みは…。

 結界か。

 メアリーの結界が見える。それはつまり、結界からはじき出されたってことか。

 いつしか俺もずいぶんと魔力を感じ取れるようになってきたな。

 ヒバナが言うように、祖龍子エネルギーも魔力も元となる元素は同じだから、俺はその源を見ているのだろう。

 さて、結界は破れない。一度は試し見るが、無理だった場合、門から入り直さないとな、すこし時間がかかる。

 俺は少しでも早く地表へたどり着くため、空に向かってジェット噴射のようなブレスを放つ。




--ソーマ




 ソーマは大きく口を開けてあんぐりとしていた。

 ショウがいきなり飛ばされて、唖然としていた。


 突然、ピエロの格好をした奇人にいきなり切り刻まれる。

 しかし彼は無事だ。


 ショウが飛んでいった所で一緒に僕も思考が飛んでいってしまったが、意識をそちらに向ける。

 ピエロがまた、こちらに斬撃をみまうつもりで伺っている。


「僕に物理攻撃は効かない」


 僕はふと笑う。


「その細胞で何ができる?」


 ああ、無意味だ。


 それには意味がない。


 そんなことしたって、何にもならないっていうのに。

 なんでそんな頑張れるかな。


「なんか、意味ありげなその表情…僕は苛立ちを隠せない」


 ソーマの体を、刃がすり抜ける。

 まるで、煙を相手にしているかのように、砂の粒が当たる、そんな刃触り。



 ピエロはめげずに高速の斬撃を繰り返す。


 ぴしゃっ、ぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃぴしゃ。


 だんだんピエロの斬撃のキレが失われていく。


 得体のしれない生き物に、底しれない不安な感情を感じている。


「対して僕の技は無味だ」


 ピッ


 ソーマは、ピエロを消した。


 ソーマの姿はとてつもなく異様だった。


 消えた?

 消えた。

 は?消えた。なんで?

 どこにいった?



「なんだよ、それ」


「あ、駄目か、捕虜にするんだった」


 ドピンが、呆けた顔をした。

 まだ、ピエロに何が起こったのか。この事象を理解できていない、そんな顔。

 なんて間の抜けた、頭の弱い人間だろう。

 可愛そうで可哀想で仕方がないよ。

 僕に人間をいたぶる趣味なんてなかったのに。


 残されたやつに向けて言う。


「僕は生まれた時から、すべてを塵に変えてしまうけれど、」

「何かを生み出すことは出来ない」


「僕は悪食だ」


 ソーマは、黒煙を自身の体、手のひらに、纏わせる。


「黒い、煙…?」


(いや、違う。ただの煙じゃない。普通の煙ではありえない動きをしている)


「この煙は、触れると火傷では済まされないよ」

「へっ」


 二人の顔、表情。典型的な感情を僕に見せるな、それはすでに見たことがある

 もっと違う顔をしろ。


「触れると痛い目を見る。まるで腫れ物を見る目だ」


 僕はなんどもその目を見た。


 黒煙を棘の形に変える。

 残った奴等に向けて、棘を飛ばす。


 ドピンは避けた。


 長い髪で顔が見えない不気味な女に、不思議な力で止められた。



 しかしなぜ、こいつらは酸欠で気絶しなかったのだろか。



 二人がいきなり凍った。

 ムガロが割って入ってきた。

 そいつらは割って出てきた。


 僕は内部に侵入させた奴を暴れさせる。ドスッピンは倒れる。


 やつは更に怒り狂いパワーアップさせた。

 おそらく何らかの能力だろう。


 ショウが戻ってきた。

 直ぐに攻撃。


 ソーマは奴の脊髄を刺激。

 ムガロが自身の血塗った弾を撃つ。

 ショウが奴の腕を切る。


 脊椎が暴れる。

 心臓が破裂する。


「殺してしまったな」


 三人は悔しかった。

 捕虜に出来なかった。

 殺す他なかった。



 ソーマが奴の体に触れる。

 ムガロが何かに気づいたのか、訝しげな目でソーマを見る。


「無駄よ、もう助からないわ」


 ソーマはムガロの言葉に耳をかさない。


「ショウ」

「魂はまだ、そこにあるかい?」


 ソーマに言われ、俺はドピンの死体を見る。

 魂はもう、いない。


「魂は戻らねえ」

「そっか…」


 その後、俺は残った奴ら(ピエロの格好をしたおっさんと、スッピン女)にある処置を施す。


「編集」


 ヒバナを介して発動させたこの能力は、彼らの能力を封じ込めることができるのだ。

 初めてやってみたがうまくいった。



「おお、ショウ、君えげつないねえ」



「よう、目覚めたか」


 彼の意識は現実へと誘う。


「おい」

「…今、能力を使おうとしたな?」


「出来ねえだろ」


「な、何んで?」


「お前の能力、使えないようにしといたからよ」

「へ?」


 俺は彼女の肩にぽんと手をおく。

 そして機嫌良さげな顔をして俺はこう言った。


「いいか?」

「戻してほしけりゃな、俺達の言う事は何でも聞く、従順な下僕になるんだ」


 こうして俺達は、何でも言うことを聞く、従順な下僕を手に入れた。



--


 

  ムガロの初襲撃時、連絡鳥が飛んでいるのをショウは見かけたので、リョジュンに伝えた。


 リョジュンはその鳥を撃ち落とす。


 しかし、日星の方からも木星を監視していた。

 木星が奪われたのを知る。



「くそっ!やられた!油断していた!」


「ローエンファイド、木星が盗られたぞ」

「あちゃあ、やられたかあ、シーラ、すぐに軍を用意してできる?すぐにとり返すぞ」


「で?相手は誰だ~?」

「そ、それが!たった三人です」

「三人?たった三人にやられたのかあ!?信じられん」


「お前ら黙れ!メアリーはそのままこの城で待機だと伝えろ」


 結界の維持に専念してもらう。

 ああそうそう、木星の方は解除してもらわないとな。邪魔になる。



「それ以外の主戦力は全て木星奪還に参加、いいね?」

「分かった」


 それぞれが出撃のために動き始めた。

 ローエンはため息をつきながら気持ちを吐露する。


「ははあ、こりゃ参ったなあ。あたしらが二日酔いで寝込んでたときに」

「ああったま痛え」

「ったく~こんな夜明け前に起こしやがって、覚悟しろよお」



「旗だ!旗がたてられた!火星です。パナムの奴らです!」

「なに?パナム?」



「へえ…」

「いつも最下位のくせに初っ端からあげてんじゃん」

「これりゃ今回の戦争は面白くなるな」


 テオドールがそう小さく呟いた。



--



「みんな聞いたよな?あたし達の木星がパナムの奴らに横よからぶんどられたらしい、さながら横暴なガキ大将のように」

「ってなわけで取り返すべく、木星奪還作戦を開始する!」


「よしじゃあ!行くぞっ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「待ってください!待って!ちょっと静かにしてくれませんか!」

「なんだよ、今盛り上がってるところだろうが」

「火星です。火星の軍がこっちに進行しています」

「あ?」

「総数20人超えです」

「なんだと?もう木星の目の前まで来てしまってるぞ」


 でも、たった三人で木星を奪ったんだ。

 その三人が火星の唯一の戦力である可能性が高い。


 ああ、でも相手はあの姫さんだ。

 油断は、できないねえ。


 ファイドが出した結論は。


「ま、メアリーがいりゃなんとかなるか」


 最初に水星に襲撃を受けたときはメアリーが一人で撃退したんだ。


 連絡鳥が側近のところに来る。


「軍師殿、マスタングからそのまま行っていいとのことです」


 あの我儘娘もマスタングの言うことなら素直に聞いてくれるしな。


 メアリーの結界を破れるものは存在しない。

 つまり、日星が占領されることはない。


 なら、あたしらがやるべきことは変わらない。


「よし、そのまま木星城を目指すぞ~」

「別働隊シーラを先回りさせろっ」

「将軍、お前が先陣を切り軍をひっぱれたまえ」

「おうよ!そ~のつもりだぜえ?」



 彼女らの一行は木星城のある地点へと到着した。

 彼らは、目の前の光景を目の当たりにして確かな衝撃を受けた。


 木星城があったはずのそこは、綺麗な更地になっていたのだ。


「木星城が消えた?」

「どういうことだ?」


 ありえない?幻覚でも見ているのか?


 そういう能力者がいても不思議ではない。


 城を全て消すより現実的だ。


 それを確かめるべく。


 ファイドは木星城があったところまで行く。


 確かめる。


 間違いない。本当に消えた。



「ごごごごごごごごごごごごご!!!!」

「!?」


 突如、日星の軍が巨大な壁に覆われる


 囲まれた!?

 囲まれた。 

 閉じ込められた。やったのはおそらくあの3人の内の能力者だろう。

 創造の能力だな。


 またこりゃやっかいな。


 あたし達が保持する戦力では、この壁を壊すことは難しい。


 可能性があるとするなら燃やし野郎か。

 あいつの火力なら。まあ、とても貫通力があるとは思えないが。

 レッドの能力は広範囲を焼却するのには向いているが、破壊力があるわけではない。

 ものは試しだけど。


「燃やし野郎、壁を壊せるかい?」


「楽勝でしょ!おいらの炎で、燃やせないものなんかないもんね!おいッらあああああああ!!!!」


 ぼおおおおおおおおおお。


 おおすごい熱気。

 近寄ろんとこ。


 んん、鉄板を熱しているようにしか見えんぞ。

 しかし凄い持続力だな。


 レッドは炎を出し続けた。


 だんだん壁が赤く成ってきていた。


 なるほど、溶解させて穴を開けるのか。

 たまには頭が回るじゃん。


「ふんぎいいいいいいいいいいいいいい!!!」


「レッドの顔がだんだんしおれてくるぞ」


「無理しているんだな…」

「もうすこしだ!頑張れ!」


 なかなか穴があかない。


 お、やっと空いたか?ってところでレッドは炎を出すのを辞めた。


 出し切ったのだろう。抜け殻の様になっていた。


「よく頑張ったなレッド、偉いぞ」

「しかし穴は塞がってしまった」


 どうやらこの壁は自動修復機能があるらしい。

 壁の破壊は諦めるべきだな。

 

 ならどうやって壁を脱出するべきかだ。


 テオドールが脱出を試みる。

 壁を走って、ちょっとづつ上がっていく作戦だ。


 おお、凄い、螺旋状に確かに登っていっているぞ。


 昇りきった所で、ちょうどショウも登ってきた。


「よっと」


 ショウは軽くジャンプして壁に登った。


 ん?


 テオドールが壁伝いに走って昇りきった所だった。

 ちょうどショウの足下にそいつがいたので、そのまま足の裏で踏んで落とした。


「ああああ!!」

「ああ、テオドール、惜しかったね」




 日が昇り始めた。


 壁の外側。

 ムガロはその場に寝転がり、ソーマに傘をもたせ。呑気に寝ていた。

 ソーマはうちわで仰いでいる。



 壁の内側。


「おい、上!誰かいんぞ!」


 壁の上にショウが立っていた。


「日星!」

「お前らの仲間は全員捕虜にした。とりあえずそこで大人しくしてろ」


 ショウはそれだけ言って、壁から下りた。



 あたし達はやられたが、まだ別働隊のシーラが残っている。


 うまくやってくれるか。




 シーラ。

 なぜ来ない。



 何をしているのだろうか一体彼は、どうして。


 シーラの隊は姿を現さなかった。



--シーラ



「う~ん、これは、行っても意味ないね」


 シーラは、現在の日星軍マザー兵の様子を観察し、そう結論付けた。


「シーラ、どうするんだ?」


「パナム王国民は、ほとんどが日星城のほうに向かったから、今、火星城は空きの状態であるはずだ」

「なら、僕達が向かうべき所は自ずと決まってくるよね」


 シーラ達は、火星の情報を得るため、そちらに向かった。


 

--



日星。


「マスタング、火星の使者が、話がしたいと」

「この場合、聞いたほうがいいね」

「では、そのように」

「あの、メアリーが魔法陣の展開を始めましたが…」

「すぐに辞めさせて、ああやっぱり私が行くわ、多分言うこと聞かないし」

「はい」




 火星側。



 モニカがその膨大な魔力を感じ取り絶望した。


「マージュアリー、やばいよ、あの魔法陣の規模はやばいよ」


 メージュアリーも悟ったのか。割と本気で死を覚悟した。


「ええ、私たち、冥界への入口ね」

「姫様…」


「マージュアリーちゃん、冗談だよね、死ぬとか冗談きちいよ」


 アレスが泣きそうな声でいう。


「私達にあの大規模魔法を防ぐ手段は持ち合わせていません。素直に死を受け入れましょう」

「そんなああ」


「見てください、敵側も察してくれたのか、魔法陣を撤回してれましたよ」

「良かったアアア」


 火星は、タイタンの一派を除いてほぼ全てのメンバーが出頭していた。


 これは日星側に舐められないよう圧力をかけるためである。

 あくまでこちらはいつでも攻めるぞという意思表示だ。

 実際に攻め落とせることはメアリーの結界により不可能だが。


 そう、日星を落とすにはこのメアリーの結界をどうするかによる。

 木星の方はショウ達がうまくやったが、日星はそうはいかない。

 穴がないのだから。付け入る隙もないのだ。



 数人の護衛をつけて、マージュアリーは日星城に向かう。


 マザーからも使者が走ってきた。


「要望ならこの私が王に伝える」


「では、交渉です」

「交渉…?」

「木星城のドレインマーカーの所有権をこちらに譲ってください。代わりに木星城で現在拘束中の捕虜化したマザー兵の返却を約束します」


「…承知した。王に伝えよう」


 数分後、さっきの使者が戻ってきた。


「要望を受け入れるとのことだ。これが、木星のマーカーだ。確認してくれ」

「はい、間違いありませんね」




「約束通り、捕虜にしたマザー兵は返します」





--





 ソーマに、マージュアリーが木星城のマーカーを手に入れたと連絡が入った。


「ショウ、木星のマーカーが手に入ったそうだ」

「ほう、あの姫が上手いことやってくれたのか。やるじゃねえか」

「じゃあ、マザーの奴らは返すっかな」


 俺は壁に指差す。

 消せ。消せ消せ。



 ソーマが「ああはいはい分かったよ」てな感じで壁を消す。


 すぐに、壁は消えた。

 当然消えたもんだから、日星の奴らはびっくりしている。



 ショウは歩いて、ローエン・ファイドに近づく。


 皆が武器を構えるが、ローエンがそれを抑える。


「まあ待て、落ち着け、まだその時ではない」


「ローエン、向こうで縛った奴らは返すよ。だが、木星は俺等のもんだ。帰れ」

「ん~、そう簡単には引けないんだがね、こっちは主力を連れてきたんだ」

「木星の管理をまかせてた奴らとは戦力が違う」


「ああ…やるか?いつでもいいぜ?」


 やるんなら早く決めてくれ。

 面倒だな。


 マザーの奴らが全員構える。いつでも戦いを始められるように。


「ジャスティス?お前がやってくれ」

「マザー、ウィ~、まざー…」


 クズの。

 腑抜けた声発す。


「お、来た…」


「・・・・・・」


 両者睨み合う。

 その間僅か3秒。


「バブリッシュ・アート……!!」


 さっきまで幼児のような声を発していたその男は、急に渋くて太い声で技名を唱える。


 瞬間、彼の周りに目の無い赤ん坊が無数に発現。


 ぽよ、ぽよ~ん。

 それはプカプカと浮かぶ。


「ボンッ、やってくりぃぃ・・」


 それが、来たのは…


 悪夢に苛まれた、その日の夜、現れたのは目のない赤。


「うわっ!」


 その絵面はいかんせんホラー味が強すぎた。

 さすがに、ビビるわこれ。久々に情けない声だしちゃっし恥ずかしい。


「ソーマああ!あれ、なんとかしてくれ!」


 俺は逃げる。

 すぐに逃げの判断をとれるのは、やはりこの俺が戦いのセンス抜群ということだろう。


 流れてしまって、誕生叶わわずのすべての赤ん坊へ。

 どうか俺につきまとうのではない。


「あ・・・うん」


 ソーマがとっても、呆れた顔をしていらっしゃるのです。

 やめろ。やめろください。


 ソーマが消してくれた。

 ありがとう。お前の能力便利だよなあ~。



「あんたそんな情けない奴だったっけ」

「未知のものに安易に近づかないだけだ」


 ローエン・ファイドのもとに、鳥が降り立った。


「ふうん、へえ、そうかい」


ローエンは俺を見て不敵に笑う。


「名残惜しいけど、どうやら今日は、ここで引くしかないようだ」


「ああ……そうしてくれ」


 このあと、ソーマの趣味で拘束していたマザー兵を釈放し、日星の軍に引き渡しを終え、公に木星城は火星のものになった。



--



 木星城には、モニカ一味と、ソーマの分身のようなものと、マージュアリーの手下ども、木星の捕虜の半数に管理と防衛を任せた。

 モニカに関しては木星城が落ち着き次第戻って来る予定である。


 木星のもう半数の捕虜を連れて、日星から帰ってきたマージュアリーの一軍は、タイタンが火星を占拠しているのを目の当たりにする。

 その圧倒的な暴力という名の力で、火星城を一時的に支配していたのだ。


 王様は俺だとほざいていた。


 捕虜もぞんざいに扱っていたし。

 綺麗めな子にはレイプまでしている。実際の戦場の兵士がやってそうなことしなくてもいいのだが。


「マージュアリー、あれはもう消すべきだ」

「そうですね…」


 マージュアリーは少し、気の向かない反応だったが、概ね俺の意見に同意した。


「まあ取り敢えず火星城を取り返して、タイタンらを拘束するで良いな?」

「はい、お願いします」


 ここは俺達の戦力をアピールするためにも、先陣をきろう。


「隊長はショウに委任します!」


 ざわめきが生じる。

 あちこちで納得の行ってない顔だ。


「彼らはたった三人で木星城の殲滅を完了させました。現火星内においてもっとも戦闘能力をもつ者であると認識します!今のところ彼以外の適任はいないはずです」

「確かに、一番初めに行動に移したのはショウだ。何もしていない俺達より、彼がリーダーであるべきだし、彼の言うことを聞くべきだろう」


 カシウスが賛同し、俺達の前に出た。

 それに続く形で、みんなも納得しつつある。


「よし、もういいだろ!」

「おいお前ら、作戦はとくにねえとにかく突っ込め!」

「俺達のあとに続け、奴等のような、武力で支配する輩には、力でねじ伏せるのが一番いい!」

「火星軍!突撃いいいい!!!!」


 俺達は突っ込んだ。


 タイタンが用意していた脆弱な防衛戦は、俺だけで突破した。

 あとに続くものが残りの残飯がごとき残党をお残しなく綺麗に掃討する。


 ショウ達はすぐにタイタンを拘束した。

 タイタン一味を全て拘束し、中庭の広場中央に集めさせた。



「タイタンの素行は悪すぎだし、火星国にとって害悪でしかないので、俺達が処刑すべきだろう」

「はい」


 マージュアリーが苦い顔をして頷いた。


「今回お前はなんの役にも立たなかったが、まあしゃあねえな」

「お前が俺に命じろ」


 マージュアリーが驚きの表情で俺を見た。


「いざとなったら処刑を決断できることをみんなに示せる」

「統率者に必要で必然なる大義……良いのですか?あなたはてっきりこの国の王を目指していると思っていたのですが」

「器が違え、悔しいが、お前の方がでかい」

「体はあなたのほうが大きいですよ」

「図体ばかりでかくなっちまったんだよ」


 心はまだ、大人になりきれていない。

 マージュアリーは背は小さいが、大きく見えた。


 俺なんかよりよっぽどビッグな人間だ。


 その魂を見れば分かる。


 間違いなく彼女は、王の器だ。


 それに、マージュアリーの手助けをするのは、俺が奴の人柄を気に入ったからだ。

 優しくて、賢くて、ほんの少しの腹黒さ。

 正直、何考えているか分かんねえが、嫌いじゃなかった。


 マージュアリーはふっと笑うと、真剣な顔に戻る。


「ショウ、あなたにタイタンの処刑をお願いします」


 火星国の全員に聞こえるように、彼女は俺に告げる。


「仰せのままに」


 ソーマとムガロがタイタンの体を抑え、首を捧げさせる。


 俺は剣を抜く。


「タイタン、馬鹿な真似をしたな」

「ぐむむうううう…!!!」


 考えなしの行動がこの結果を招いたのだ。


「頭使えよ」


ッザン!!


 一太刀で、タイタンの頭と身体は分離した。


 

--



 残されたタイタンの一味には、十分な罰を与え、捕虜と同等の扱いでこの城のために働かさせることになった。 

 俺たちの強さを知った彼らは、特にショウ達には従順であった。


「クソッ、何で俺があの女の言いなりに……」


 それを聞いたマージュアリーは、男に近づく。


 彼女は、男の頭に触れる。


「あ…」


 優しくそっと、母性を感じさせうる手で。

 彼女は彼の髪の毛を整える。

 

「前髪が崩れていてよ」

「あ、あぁ?」


「あなたは今日から手足よ」

「これからは、私があなたの生活を、食事、睡眠、排泄の時間まで、全部管理してあげる」


 彼女の沼に嵌った彼らは、もう逃げられない。

 


 さて、そんなことよりももっと大事なことがある。

 そろそろ誰が王か決めるべきだ。


 タイタンの処刑を終えた今、ここで、マージュアリーの策略が動き出した。


 彼女は一切、自分が王になると言わなかった。

 周囲に誰が王にふさわしいかを議論させるように仕向けた。


「ねえ、私は?」


 ムガロが俺達に尋ねる。


「ムガロ?だめだ、奇人すぎる」


 ソーマが即答した。

 ムガロがわざとらしく肩を落とす。


「じゃあ、カシウスは?」


 ムガロはわざと、カシウスに聞こえるように、鼻にかけたような言い方でソーマに聞く。

 おい、やめなさい俺のダチだぞ。


「責任を背負いすぎる」


 カシウスはショックを受けていた。


「ショウは動きすぎて捕まらない」

「俺もだめかよ」



 実は、俺を王に推す声も少なくない。


 一番最初に行動を移したのは俺だし、タイタンらを制圧する際の指揮も俺が取ったし当然だろう。

 しかし俺は王になどなるつもりはない。

 そういうのは政治力に長けた狸がやるべき仕事なのだ。


 火星のみんなが議論を交わした。


 そして、全体の声が決まった。


「マージュアリーしかいない」


 彼女は選ばれたのではない、選ばせたのだ。

 マージュアリーはみんなが自分に王にするように仕向けた。

 ごく自然にその座を手にした。


 誰も座れなかった。王の椅子に、彼女はかける。


 マージュアリのその頭に、王冠が被せられた。


「どっかのお姫様」から、「火星のプリンセス」に昇格した。


 

「私は、とあるお家騒動を巻き込まれて追い出された身です」

「王が重い病を患い、継承戦がはじまったのです」

「兄達に暗殺されかけ、逃げる形で宮殿をさりました。ですが私の心は折れません」

「後継者に返り咲くために、私はソルジャーを目指します」

「私の名はプレデウス・マージュアリー」


 その名を聞いた火星の国民は、皆一様に驚いた。

 あくまで試験の中のパナム王国に、本物の王女が着いた。


「デウスの名は王家の証」

 

 本物だ。本物の王だ。

 

「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 火星中に、大きな歓声が沸き起こった。


 

(……重い)


 頭に乗せられた王冠は、鉛のように重かった。

 

 これでは私はもう、逃げられない。


(……ああ、ゾクゾクする)

 

 兄たちに閉じ込められた鳥籠よりも、ずっと……。

 

 これだ。これが私の望んでいた幼き頃、神様のおとぎ話のとある少年の。

 世界のために人柱になることを、興奮して読んでいた。

  

 国という巨大なシステムの人柱になること。それこそが、私が求めた究極の束縛。


 マージュアリーは、恍惚とした表情を隠し、国民に向けて微笑んだ。


「……良い首輪(王冠)だわ」


 

Princess of Mars

火星のプリンセス


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