第41話 「生き残り大合戦」
「どうして泣いてるの?」
ムガロが俺に問うた。
「ああ…」
why so sirios.
なんでそんなに悲しいの。
すぐにその涙は止まらなかったけど、心の奥底から込み上げてくる感情が引いた。
「不覚にもーー」
ショウは右の掌を眺めてから、少し上を向く。
「……思っちまったんだ」
あの日あん時した行動は、
因果王の己がの器を、三度損ねた。
「なにが?」
湿気った空気が鼻腔を流れる。
「あの部屋で70年間…閉じ込められたその後、俺は俺と出会った」
「あん時…俺はお前らなんかに目もくれず、俺は俺に駆け寄ったんだ」
俺の器はどれほどのものだろうか。
今まで注いできたもんが溢れやしないか。
自分を小物だと思いたくないんだ。
とんだ罪悪、羞恥心。こんな感情でもまだ捨てきれない。
なんだか自分が小物に思えてくるな……。
あたり前に自分のことしか考えないのは当然だった。
もう開き直ろうぜ。
「俺は俺を愛している!大好きだ!俺は俺が好きだ!」
どうやら俺は吹っ切れた。
突如叫んだ俺の意外な声明に、イカれたとしか思えない内容が彼らの頭に入った時、ドン引きせざるを得ない。
「同様に、お前らを愛したいと思う!」
俺がそう言うと、それぞれが各々の表情を浮かべる。
「ソーマとムガロを手放すには惜しい……一番敵に回したくねえのはお前らだ。それに能力も申し分ない」
ソーマ達は、珍しく俺の言葉を神妙に聞いている。
てっきり茶々を入れたり、からかったりして来るとばかり思っていたが、意外と空気を読める奴らなのかもしれない。
「俺はまだ、成りたい俺にはなれてないけどさ」
小説とかでよくある、主人公と初対面のときから謎に高感度が最高で、主人公の意志に関係なく付き纏うキャラ、それがソーマの印象だった。
俺はそういう人物があまり好きではなかった。
もっというと、付き纏ってくるのに困っている主人公が、自分がお前を迷惑に思っているというのに、その意思を伝えない——拒絶しないという態度が…優柔不断であり、どっちつかずの半端野郎で嫌いだった。
ハーレム主人公じゃねえんだからよ。
迷惑に思ってんなら、言えばいいじゃん。
嫌なら嫌ってそう言えよ。
「っすう…」
軽く息を吸った。
そして、息を吐く。
「はあ…」
俺達は驚くほどに噛み合っている。心配しなくても俺達は上手くやれる。
これ以上無いほどの関係性を築けると確信している。
だから、ソーマは違う。
「お前らが居れば、成れるじゃねえかって思ってる」
「へえ…」
「ふ~ん」
ソーマが笑みを浮かべながら頷いた。仮面で見えないけど。
「で、それを僕達に言って、どうするつもり?」
それは…。
「ソーマ、ムガロ、俺達で契約を結ばないか?」
「なんで?」
この世界には盃はないから。
「今から誓いを立てる」
そう言って、後ろから彼らの間に入って、俺の両脇でソーマとムガロの首を抱える。愛の抱擁だ。
それで彼らは理解した。
「ソーマ、ムガロ、今から俺の仲間にならないか?」
「それって……」
--
薄暗い洞窟の通路を歩いて渡る。淀んだ空気が蔓延していた。
割と広いこの通路でも、ずっと歩いていると圧迫を感じる。
スッと、鼻で息を吸う。
此処暫くで初めての、新鮮な空気だ。
俺は横を歩いているソーマを見る。
数刻前まで謎の眠気で元気がなかったが、すぐに元に戻ってケロッとしている。
そしてムガロは近い内に何度も死んだせいか、生気がない。元々だけど。
「ボケっとしてやんの」
「シャキッとせえシャキッとお!新鮮なレタスみたいになっ、ハハハッ!」
バンッ!バンッ!
「ぅ゙っ…!ぅ゙げっ…!」
俺はムガロの背中をバンバン叩いた。
おっさん上司のウザい絡み方をしてしまった。
「やめて」
「悪ぃな、な~んか、しんどそうだなあと思ってよ」
ムガロは、なんだか不満そうな目でこちらを見る。
「死ぬのは疲れるから…」
「何度も死ねば、廃人になったりする?」
ソーマがムガロに聞いた。
「かもね」
「なあ、死ぬってどんな感じなんだ?」
純粋に疑問だったことをムガロに質問する。
「気持ちイイわ」
それに応えたムガロの解答は、あまりにも意外であった。
「「は?」」
俺とソーマは全く想定していなかった答えに、揃って間抜けな声を出した。
「どういうことだよ」
「死ぬ瞬間ってね、何ていうか、膀胱が締め付けられる感じして…何かが絞り出されるというか、それが兎に角気持ち良いの」
「溺れて意識を失う時に、文字通り溺れるような気持ちよさを感じる瞬間があるのだけれど、それがずっと続く感じね」
「っで、気づいたら生き返っているの」
「・・・・」
「……なによその顔」
「なんか、思ってたのと違え…」
--
フォオオオオオオオオ。
吹き抜けるような少し不気味な風の音。
「そろそろこの通路を抜けるな」
ここの空気とは、別の空気が流れている。この先に、だだっ広い空間が広がっていると分かった。
「うん、そうだね」
「ここを出る前に、話し合いたい」
「急にどおした?」
ソーマが少し笑いを込めた声で聞く。
「なんだ?」
ムガロも少し、単調な声で聞く。
「互いの能力を把握しとこうと思ってな」
「それ賛成、すり合わせは大事だもんね」
「まあ、そっか」
「よし」
俺は無言でその場に座る。
立って話すのも何だし、まあ、座れよ。
彼らは俺の意向を汲んで座った。
俺達は向かい合う。三角形の陣形で…お互いの顔が見える位置に。
「まずは俺の能力から」
「俺は……基本的に種族特性を使う」
種族特性とは、その種族がもつ能力だ。
毒蛇が毒を持つように、鳥が空を飛ぶように。
その種族が持つ特性を、すなわち特殊能力を種族特性と呼ぶ。
「俺はドラゴノイド——|龍人だ」
「龍が使えそうな力は大体持ってる」
「ブレスを放ったり、空飛んだり、体の一部を龍体化させて鎧にしたりな」
言いながら、俺は腕に龍鱗を纏う。
龍の鱗の鎧だ。冒険者の最高級の装備がセルフで手に入る。当然、類まれなる硬度と耐久力がある。
「〝ニュート〟を使えば俺は完全体のドラゴンに成れる」
「なるほどねえ」
「それと、これはあまり知られていないが、龍の目は人の魂を見る事が出来る。魂の形が分かるんだ。それで相手が魔法使いか、能力者かを判別できる。相手の心理状態を察する事もできるし、嘘をつけばそれも見抜ける」
「・・・・」
それを聞いた彼らは絶句した。
かなり衝撃的なカミングアウトだったようだ。
「あはは…それは、なんていうか反則だよね」
ソーマが乾いた笑いをしながら俺の能力について言及する。
おい、お前らなんでそんなドン引きしてんだよ。
「ああ、特にこのソルジャー試験では、みんなが相手の能力を知らない中で、前情報を得ることが出来る俺には圧倒的なアドバンテージがある」
「でも、なんでかは知らないが、お前らの魂はぼやけてよく見えないんだよ」
俺の発言を聞いて、心なしか彼らはホッとしたように見えた。
「じゃあ、次私ね」
声色を見れば、意外と乗り気のようだ。
「私のこの角を見れば分かると思うけど、私は鬼人族の末裔よ。秘めたる力は、天から与えられた身体能力と、爆ぜる血液、鬼人達にしか扱えない体術、〝鬼道〟ね」
身体能力は言わずもがな、爆ぜる血液は、その血を取り込んだ人間の心臓を爆発させることが出来る能力の事だろう。
〝鬼道〟については師匠からその存在は知っているが、実際に見たことはない。
あるいはもう既にムガロは使っているのかもしれないが。
「まあ、ゾンビになってしまった私には、鬼人の血は薄まってしまったのだけれど、十分引い継いでいるはず」
そう、ゾンビになってしまったムガロは、鬼人の名残は少ししか残っていないのだ。
「ゾンビ化の影響で私の体は、痛覚に鈍くなったのと、やる気が出にくくなって常に無気力な感じになってしまったわ」
「人間の肉しか食えなくなったし…」
「りんごは食えるだろ?」
「それは唯一の例外ね」
理由は教えてもらえなかった。
「コレはおまけ程度の能力だけど、脳みそを食べると、その人の記憶や知識の一部を得る。その人が窃盗症ならそれも移る。癖も移る。高所恐怖症ならそれも伝染る」
探偵向きの能力だな。
癖が移っちまうのは玉に瑕だが、そいつの記憶や知識を得ることが出来るのは反則的な能力といえる。
ソーマがいれば、そいつの頭に侵入して好きに情報を得られるが…てことはソーマは俺達の頭の中を覗いてるのか?うわ想像したら気分悪くなってきた。じゃなくて、ソーマの場合は、死体から情報を抜き取ることは出来るのか。
「ソーマ、お前死体から情報を抜き取ること出来るか?」
「出来るよ」
「え?出来んの?ムガロの能力いらねえじゃん」
「ただし、死んだばっかの死体に限るけどね」
「死んだら、その人の脳みその中に入ってる情報はすべて離散する」
「私も、新鮮なやつじゃないと無理ね、脳なんかとくに鮮度が大事だし」
そうか、だからムガロは人を食べるとき、真っ先に脳を食うのか。
「それと私、なんか色々凍らせる事が出来るわ」
そう言ってムガロは、地面を少し凍らせた。
「おい、なんだそれは…」
「・・・・・」
彼女は少しバツの悪そうな顔をした。
「仲間になったから、このくらいは明かさないと駄目かな…」
彼女は少し間を作ってから、話し始めた。
その彼女が語ったその内容は、あまりにも信じがたいものであった。
「アブソリュートのスノードラゴンの力を、私が引き継いだの」
「は?お前が?」
それを引き継ぐのは、弟子である俺のハズだろ?
「なんで…俺じゃないんだ?」
「必要ないでしょ?」
「これは、私が持ってなきゃいけないの」
「それに、ヒバナとヒョウガが1つの器に同居するとは思えない」
「まあ、それもそうか」
「納得できないみたいね」
顔に出ていたか。
「そりゃそうだろ、お前は、あいつの弟子でも何でもなかったハズだ」
腑に落ちる部分はあった。
《ヒョウガはすでに消滅している》
「…ヒョウガはもう、存在しないんだろ?」
「そう、私が受け継いだのは、それの残り火…消えかかった炎」
「使ってしまえば無くなってしまう。そんな微弱な力」
《小僧、小娘の言う通り、アレは小娘が持っとくのが一番良い》
『分かってるよ、俺が持ってても、あまり良い使い方は出来ないだろうし』
師匠は俺に、一度も氷の力を見せなかった。
それは、この力は有限で、使えば使うほど無くなって、最後は完全に消えてしまうから。
「それでも私は、この力を出し惜しみしない。さっさと使い切ってやろうと思っているわ」
「分かった。それでいいよ、お前が持っとくのが一番良い」
ムガロは少し笑う。
同じような調子で次の技能の説明を始めた。
「あとはこの銃で狙撃する。そしてーー」
ムガロが手を向ける。
何かが動いた。
「〝反魔〟敵の魔法を打ち消す力」
「ん……?」
《空気中に、何かが蠢いているのが見えるだろ?》
『ああ』
《あれが空気中に放出された魔力だ》
「学校で習った」
というより、大賢者マキに習った。
「なるほど、把握した。続いてソーマ」
「はい、僕の能力は…」
ソーマが手から黒い煙を出して実演する。
「この黒い煙が、すべてを飲み込み、吐き出す、そしてそれが形となる」
ソーマはそこらの壁を煙にして、飲み込んだ。
それから、煙をだして、壁をもう一度埋めた。
「単純でしょ?」
「あとは、始天使からのギフト〝契約〟……と、僕の新技」
『〝思念伝達〟念話だ』
「おお、すげえ、頭ん中に響いてくる」
《なるほど、小僧の脳みそに寄生して、思考を繋げているのか。面白い》
『寄生だと?』
『君等の脳みそに、僕の黒い煙を少し入れさせてもらった』
「え?きも~!私の頭の中にあんたのあの黒い燃えカスみたいな奴が入ってるってわけ!?」
ソーマによると、俺達の頭の中に黒いひじきの様なモノが入っているらしい。
「つーか勝手に俺達の頭ン中に変なモン入れんなよ」
「い゙い゙いいいいいい!!」
ムガロが頭をブンブン回して、悶絶した。
彼女の奇行を無視して俺達は話し合いを続ける。
『っで、さっきの声がお噂の?』
「響いてる!頭に直接響いてる!」
「ああ、ヒバナだ」
《やあ、ヒバナだよぉ。そうとも、俺様がヒバナだ。よろしくな貴様ら、小僧には、仲の良い友だちが居なくてな、仲良くしてやって欲しい》
「誰!?」
「保護者面鬱陶しいのなんのって……」
ヒバナと少年の精神は統合されつつあった。彼らの精神は完全に一体化する危機に瀕している。
「お前のその技…使えるなあ、遠距離でも連絡が取れるってことだろ?」
「まあね、けどそっちから連絡することは無理だぜ?僕の方からかけるしかない」
「そうか、それでもまあ、使い道が無限に浮かび上がるぜ」
「ショウ、悪い顔をしているわ」
「ああ、試してみてえことが山程ある」
「なになに?教えてちょーだい?」
「そんときになったら教えてやるよ」
「ええお預けかよ~」
--
洞窟を抜けた先には、想定通り大きな空間が広がっていた。
目の前に超大型闘技場がある。
周りを見れば驚くほどの人たちが溢れかえっていた。
「すっげえ…」
思わず感嘆の声を漏らす。
眼前に持ってこられた圧巻の光景に、俺達は唖然とするしかなかった。
中央大陸には4つの大地がある。
俺達が住むルドルフ大地から211人。
アルカナ大地から2704人。
母なる大地から3670人。
不毛の大地から4543人。
そして、当然といえば当然だが、この世界には別の大陸がある。そこから追加で1672人。
合計12800人である。
1万をゆうに超える選別者たちが、世界中からこの場所に集められていたのだ。
ここは試練の塔だ。
実は、今ショウ達がいる場所は、ルドルフ大地に存在するとはいえない。
この場所がどこにあるのか、誰にも分からないのだ。
1つだけわかることは、この場所が全ての大陸と繋がっているということである。
--
ショウ達は目の前にある巨大すぎる闘技場の中へ入った。
ここまで辿り着いた選別者は、あのデカすぎる建造物へと一同に集められる。
すでに他の選別者たちで埋め尽くされた観客席に俺達は座った。
「なんて人の数だ」
しかも、その一人ひとりが只者でないとわかる。
全員が強者であった。
もはや世界中の強者が集まっていると云っても過言ではない。
1万人もいるのだ。
これだけの人の数を見るのは稀である。
しかし、それでも大きすぎる超大型闘技場は、10万人を収容できたがゆえに、がらんとしていた。
俺達がいる席のところだけ特別人が集中しているだけで、他の所は過疎っていた。
人もまばら、点々と座っている程度。
それでも合計するとものすごい人数であるが…。
「おいおい、残っているのは数百人程度って話じゃなかったのか?」
「ソルジャー試験って、全世界同時に三箇所で行われるでしょ、たぶんそれが全部ここに集められている」
「なぜ一箇所に集める必要があるのか甚だ疑問だが?」
「さあ、世界数多に点在するソルジャーギルドの人員の能力値を均等化するのが狙いじゃない?たぶんだけど」
「なんだか不思議ね、こんな巨大な空間があって、しかも天井が曖昧で、照明もないのに明るいなんて」
「屋内で良かったな、お前も活動出来るし」
「そうだね、フードも被らなくていいだろうし」
そう言いつつ、ムガロはフードを外さなかった。
理由は、フードが無いと落ち着かないからだそうだ。
人見知りかよ。
「さて、次の試験はどう来る?」
「ここはコロシアムだし、殺し合いでもするんじゃないの?」
「愚直というか、安直というか…そんな暴力的で単純な試験がここに来て始まるってか?」
「まあ…ありそうだよねえ」
「なあ、お前どう思うよ」
「え!?さ、さあ…」
隣にいた知らんヤツにいきなり声を掛けて聞いてみたが、返ってっきたのは答えを濁した曖昧な返事だった。
「そんな奴に聞いたって分かるわけないっしょ」
ムガロがなかなか無礼講な言葉をかける。
あんまりじゃないか?ただ隣りに居ただけなのに…。
暫くたむろっていると、闘技場のステージに一人の男が登場してきた。
その男はある程度ステージのど真ん中まで歩き、そこに辿り着いたとき、ゆっくりと会場全体を体ごと動かして見回す。
「誰だ?」
「偉い人…?」
やがてその男は語り始めた。
その声は特に張り上げていなくても全体に広がっていった。
『やあやあやあ、下卑タ~諸君…ご無沙汰しておりますので早速ですが試験を始めます』
闘技場内がザワついた。
『そんなに怖がる必要はありませんよ、皆様には、半分になるまで殺し合って頂きます』
刹那で俺達は闘技場にいた。
体が、眩い光に包まれたと思ったら、俺達選別者約1万人が、闘技場のステージに立っていた。
いきなり!?なんだこのデスゲーム的展開は!?
『始め』
いきなり始まった。混乱が広まる。
だが、流石というべきか、間引きの門を通り始まりの試験をくぐり抜けてここまで来た屈強な選別者達だ。
すぐさまやるべき事を理解して殺し合いを始めた。
喧騒、怒号、悲鳴、命乞い、所々あるまじき所から聞こえてきた。
「もうすでに3人殺したけど…」
ムガロが持っている大釜の刃から血がボタボタと落ちている。
彼女は自分の手の甲を俺達に見せる。
「数字が増えてる?」
「ええ、間違いないわ、人一人殺すにつき一点貰える」
「これは、殺し合いが激化するな」
言いながら、飛びかかってきた輩を殴り飛ばした。
5メートルぐらい吹っ飛んでいった。
吹っ飛んでいった先で金属バッドのようなものを持った奴に叩き落とされているのが見えた。
「おほっ、首吹っ飛んでったぞ…しかもホームラン…!」
「やっべえな」
「ショウ、どうする?殺しまくる?」
「お前らは好きに点数稼いどけ、俺は殺し飽きたからな、誰も殺さない縛りで遊んでくるわ」
俺はそう言って、激戦区の密集地帯に駆け込んでいった。
「じゃっ、私達は稼がせて貰いますか」
--
目の前で人の目玉が飛んでいった。
内蔵があちこちに飛び出ていた。
早くも死体の山が出来始めていた。
あちこちで爆発が起こる。
魔法が連発されれている。
「あんまり初っ端から飛ばすと魔力持たねえぞ」
「分かってるよ!」
あんだけ目立てばリンチにあうだろうし、考えなしも居たもんだ。
あっちからは弓が大量に飛んでいた。
魔物の大群を召喚しやがる奴もいる。
現場はとことん混沌だった。
俺はわざと人が密集している激戦区に潜り込む。
剣気戦乱のさなか、俺は怒涛の殺し合いの間をすり抜ける。
コース取りと反射神経、空間把握能力が重要だ。
サッカーの生粋のドリブラーは相手に触れられずにゴール目前までボールを運ぶ。
その要領で俺は誰にも触れられずにピッチを引っ掻き回した。
誰かが俺の頭部目掛けて剣を回す。
俺がそれを避けると後ろに居た奴に直撃した。
コース取りはなんとかなるが、反射神経はノリでいく。
俺に空間把握能力なんてものはないが、こういうときに発揮される戦いの勘というか、体で空気の流れを感じながら俺は動いた。
とにかく感じろ。俺は感覚で動くタイプなのだ。
スリルマウンテン。
これは酔狂な楽しいお遊びだ。
避けて避けて避けまくる。
ドッチボールでボールを避けまくるように避けまくる。
今思えば、避けるだけで結構楽しかった思い出だ。
「うわ~ん、うう、うわああああ!!!いやああああ!!」
場に似合わず、芳醇な香りを漂わす女児の声が聞こえてきた。
その幼い女の子は巨躯な男に両手でハンドルを握るかのように鷲掴みにされていた。
なんてデカさだ。
子どもとはいえ人間の胴体を手でがっしりと掴んでいる。
「ぐははははははっ、このまま上半身と下半身を引きちぎってやるぜゲハはハハハッ!」
「おい!やめろおおお!」
俺は思わず剣を抜いた。
これは正義感ではない。倫理観だ。
俺はその行動を生物的に許せない。
だが遅かった。
その巨人(身長5メートル)は、女の子を2つに引きちぎった。
内蔵が伸びる。チーズ入りのホットドッグのように内蔵が伸びた。
まるでハンバーグを2つに切ったかの様に獲物が溢れ出る。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」
向こうから、同じような光景が見えた。
ビリビリビリ。
恐らく同種族の巨人が、エロい姉さんの両足を持って(逆さまでスカートの中身が丸見え)、裂けるチーズのように股を裂いた。
いやはやその光景はまるでテリファーの映画を生で見ている気分だった。
「若い女ばっか選びやがって、まんまホラー映画のモンスターじゃねえか」
「アアアアアアあ!!!」
隣りにいた若い初年おやじが悲痛な叫びを上げる。
今見た光景がよほどのショックだったのか…その目を見れば、とてつもなく怒り狂っていた。
丁度良かったから、ものすごい怒りの形相の彼に声を掛けた。
「おいそこのお前、ちょっと手伝え」
言いながら、俺は一人の巨人を殴って半殺し(意識有り)にしていた。
それを見たその男は少し驚きながら、俺の顔を見る。
「分かった。お前の言う事を聞こう。何をすればいい…」
死体を転がしながら、俺はそいつに指示を出す。
「お前は右足を持て、左を俺が持つ」
それを聞いた男は、笑みを浮かべ、頷いた。
「ハハン…分かったよ」
この男は既に、俺のやろうとしている事に気がづいたようだ。
「せえ~のっ!」
人力牛裂きの刑だ。
「やめてくれえええええ!!!!!!」
「あ゙?聞こえねえなアア!??」
そのまま2つに引き裂いた。
続いてもう一体。
「お前…あれ倒せるか?」
「あれを?あの怪物をか?冗談だろ、まあやってみるよ」
男は刃が付いた投げ輪に紐をつけたようなものを巨人に投げ、その体を縛り動きを封じる。
器用なもんだ。カウボーイが嫉妬する腕前だぜ。
「はああああああ!!!」
雄叫びを上げながら駆け、巨人の心臓部を剣の柄頭(握る部分の頭)で貫通打撃を打つ。
俺と師匠以外にも使い手がいたのか。貫通打撃は、体の内部まで浸透する打撃技…それを心臓部に打てば最悪死ぬだろう。
その巨人は、心臓部を抑えながら蹲った。
呼吸もできずに藻掻き苦しんでいる。
「ようやった!」
「おし、そっち持て」
「俺はこいつの両腕を掴んでっと……引張式拷問刑!そのまま飽くまで千切っちゃえ!」
「うぎゃああああああ!!!」
「ああお構いなく!」
ぶきちゃあ!
「いや、よろしく助かったよ、名前は?」
「俺はアシリトだ。お前みたいな年層のエルフ小僧とチビ助の仲間がいたんだが、この人混みだからハグレちまって」
アシリトと名乗ったその男は、黒髪ロングの片目眼帯に無精髭、まんま闇落ちエレンの風貌だった。
「ういおおおお!!!ふぉうおっをうお!ほほほほほほほっ!!!」
お姉さんがこっち見て走ってきた。
有象無象を引き連れて。
「お姉さんモテますねえ」
「いやあモテすぎるのも考えものだなあ、あっはははは!助けてくれ~!」
お姉さんが俺達の背中につく。
「こいつ、俺の彼女なんだわ、ご引取願おうか」
「ああ!?んなわけねえだろがボケえ!」
この数は面倒だな。
「貫通しちゃって変な火吼!あ゙あかつきイイイ!」
《おい、変な改ざんするな》
聞いてません聞こえません。
俺は掌からドラゴン・ブレスそのままをぶっ放す。
有象無象・烏合の衆を、『あっ!』という間に灰にした。
「うわあ…やっちまった」
俺は手の甲を見る。
『111』
100から111、今日11人も殺しちまったよぉ…。
誰も殺さない縛りしてたんだけどなあ。
「いやあ、あんたすっげえ化け物っぷりだな、人間やめてるぜ」
「そりゃ人間やめてるからな。つ~か」
「おい女ア、てめえ随分なお気楽様だな」
「元お貴族様だからね」
理由になってねえよ。
逃げて俺達に泣きついてきた奴なのに、なぜか強者の雰囲気があった。
武将の空気を纏っている。踏んでいる修羅の数が違う。
『123』
女の手の甲に刻まれいた数字は、現時点でかなり好成績だと思っていた俺の得点より遥かに高かった。
「お前、そのポイントはどうやった?」
「ポイント?ああこれねえ、私もあなたと同じ特別枠だから」
「どうして俺が特別枠だと?」
「そのポイントの数を見れば自ずと察するでしょ」
そりゃそうか。
「さてはて、どうすっかなあ、ここで集ったのも何かの縁だ、なんかどデカいことしようぜ」
女が提案した。
「具体的に、何をするんだ?」
「私は歴戦の女軍師だ、数多の戦場を引っかき回してきた経験がある。ここは敵味方の秩序を失った戦場だ。つまりはアタシの専売特許……やれることは幾らでもある」
「すごい自信だな。なんか面白そうじゃねえの」
「俺もそれに参加させてくれ」
アシリトも乗りかかった舟。
これは面白くなりそうだ。
「まずは仲間を集めないと話になんないかなあ」
「——その話、俺も混ぜて欲しいなあ」
いきなり割って入ってきた見知らぬ男性。
フード被った金髪黒目で女顔の少し背の低い男。
「いいよぉ」
女軍師が二つ返事で加入を決めた。
--
「ステージのど真ん中に移動しよう」
女軍師が突然そう言い出した。
「なぜだ?」
「一番安全だからだ」
「うん、そうだねえ」
フードを被った男——シーラが頷く。
「端を、見てごらん。どんどん縮んでってるでしょ」
ローエン・ファイドと名乗った女軍師が言った通り、ものすごい速さ(ゆっくり歩く速度)でどんそん闘技場が狭くなっていた。
「そして、ステージの端っこには等間隔に全長5メートルほどの騎士像が幾つも配置されている」
俺達は見た。
その銅像が独りでに動いて、近くにいた選別者に攻撃した。
「近づくと攻撃される仕掛けがある」
「この調子でステージが縮んでいけば、あの騎士像の間隔が次第に狭くなっていき、最終的に囲まれるのか」
アシリトが分かりやすく説明した。
「そう、その通り、察しがいいねえ兄ちゃん」
「だから真ん中に行くのか」
「それだけじゃないよ」
俺はステージの真ん中を見て、あることに気づく。
「真ん中が、開いている?」
「人間心理に基づけば、自ずとステージの中心は開かれる」
「殺し合いの最中、誰も渦中のド真ん中に行きたがらない。結果、ステージの端に人が追いやられるってわけ」
「先に真ん中でバリゲートでも組んで、来たるべき混沌に備えようではないか」
「っと、そういう訳だから…」
「さて、行こうか」
俺達は女軍師の言う通りに、ステージの真ん中に移動することにした。
その後、偶然にもアシリトの仲間(エルフは耳が良い)と、俺の仲間(ソーマが念話で連絡)を回収した。
俺、ソーマ、ムガロ。
無精髭のアシリトとその仲間、耳長族ケンジ・ントン、ハーフのエンド・ローゼ。
女軍師ローエン・ファイド。
フード被った女顔の男、シーラ。
それは、移動してる最中だった。
奴が突如として俺の前に現れたのは。
鳥の羽根が、俺の頬をかすめたような気がした。
ふわり、それは柔らかく、俺の意思の外から気づけば視界に入っていた。
俺と、お前の、初めての出会いはこんなだった。
眼前にぽっと立っていた小さな女の子が俺の事を凝視していた。
進路の方向をそのままに、俺は彼女に近づいた。
なぜ俺の右腕が落ちているのかが理解できなかった。
「・・・っ!」
いつ?
いつ切られた?
さっき、この瞬間にだ。
あの幼い女の子は刀を握っていた。
「あ!ごめん!間違えて切っちゃった!」
俺は少し遅れて答える。
「気にしなくていいよ、また生えるから」
自分でもびっくりした。
俺がそのように口を聞くとは思わなかったからだ。
その女の子はそれを聞いて笑みを深めた。
誰かが俺の視界を通り過ぎたあと、奴はもう気配すらなかった。
「・・・・・」
その集団はど真ん中に辿り着いた。
そこには、俺達と同じように考えたのか、ほぼ同時期に中心にやってきた者たちが居た。
女軍師の見事な手引で何事もなくここまで来た訳だが、流石混戦を渡り歩いてきた猛者というところか。
紛争地帯を抜けると、俺達以外に数十人の選別者がいた。
「ありゃりゃ、鉢合わせたか、ばったりだねえ」
「うん…どうしよう」
「俺達に戦う意思はない。ここはどうか、共にこの地で永住しようではないか」
シーラがそう言った。
その言葉には、如何にもな商人顔のおっさんが饒舌に頷いた。
「おやおや、それは誠に我々にとっても大変利益ある提案だ」
「君たちに出会えたのは、実に、いや実に!願ってもいない幸運ということだ」
「なんだアイツラ…」
呟いたその女の名はモニカ。
「丁度真ん中辺りがすっぽり開いていて安全だと思ったのに…人が来ちゃったかあ」
「モニカ様、ここは危険です。下がりましょう」
「ううん…それも良いかもだけど、どこに?って話だよね~」
「おいそこのお前、モニカだって?どうする?俺達と一緒に立て籠もるか?他より安全だと思うぜ?」
その時、新手の女が現れた。
「あらら?これなんの集まり?争って無さそうだしかなりの大所帯……私もその輪に入れてください!何でもします!この通り!」
新手の少し残念そうな雰囲気の女がなぜかモニカにすがりつく。
「え?なんで私に縋り付くの?」
「あなたがここのリーダーですよね!?私魔法使いなんですけど、初っ端から魔力のこと考えずに魔法ドバドバ撃っちゃって、もう残像魔力が残り少ないんですう!助けてください!!!この通り!ほら!見てください!このものの見事な土下座を!」
「あの、私ただの通りすがりの選別者で、この集団のリーダーでも何でもないですよ?いやホント勘弁してください。ていうかなんで私こんな勘違いされやすいんだろ、ただの一般人なのに…」
「おい女」
「はい!何でしょう?」
「俺達がお前の云う大所帯だ。今さっきここの大商人ベン・クーバーと同盟を結んだばかりだ」
「そうですか!?貴方がたが!どうかこの私もその一員に!」
「いいよお」
「やったあああ!これで助かる!私ってばツイてる!」
なし崩し的にモニカ一味も俺達の集団に加わり、俺達は円陣を組んだ。
360度カバーしたこの陣形なら、そう崩れることはないだろう。
「ああ!モニカ!てめえ生きてやがったか!」
「あれえ?親に大層な名前付けられた可愛そうなアレスではありませんか!」
「誰が名前負けしてるだとおお!俺は野蛮で勇敢なアレス様だぞ!」
「下劣で臆病の間違いでしょっ、て!アレス!後ろ!」
「え?きょわあああ!あ゙あああ!」
「背中切られたアア!助けてくれモニカ!」
「ちょっとこっち来ないでよ!」
「ああ助けてくれええ~~!!!」
「モニカ様、輩の対処は私に」
「頼んだわイージー・ドール!」
「ムニエル様、モニカ様のお守りをよろしく頼みます!」
「ああ!任せてください!」
「僕も!僕もモニカ姉ちゃんを守る!」
「うんありがとうねニア、私のそばにいて守ってね」
「おいおい!俺は輩じゃねえぞ!」
そのままアレスと引き連れた殺人鬼は倒された。
アレスは陣の真ん中で目覚める。
「って!俺まで攻撃することないだろ!」
「モニカ様をお守りするためです。ご理解ください」
「庶民にくせに…貴族みたいに護衛つけやがって、そんなんでソルジャーになれっかよ」
「別に私は一人で受ける気だったんだけど勝手に着いてきたんだよ、しょうがないでしょ」
賑やかな奴らだな。
そして数分後…。
なんか増えた。
どこかの国のお姫様みたいなやつ——マージュアリーが俺達以上の人数を引き連れてこっちにやってきたときは驚いた。
そして、なんかトランプで言うところのジョーカみたいな如何にもラスボス?みたいな風貌の謎に包まれた死神みたいなや~つ。というか古のスナイパーみたいな格好をしているそいつはヘッド・ショッドと名乗った。こいつ絶対スナイパーだろ。
それと魔法具師と名乗った強そうな男。
いつの間にか俺達の集団は60人を超えていた。
まず俺達庶民組が15人。
大商人ベン・クーバーが護衛20人を金で雇った。この殺し合いの最中、金の暴力で成り上がったのだ。もちろん金だけではない、彼の口のうまさの賜物である。
そして、どこかのお姫様、マージュアリーがどんな手を使ったのかは知らないが32人連れていた。
「ねえ少年、この試験の目的は何だと思う?」
女軍師が俺に聞いてきた。
「さあな、知るかよ」
「なぜ半分になるまで殺し合いをさせるのか?なぜ殺しの舞台はコロシアムなのか。そして、なぜそれが必要なのか?色々と考えてみてくれ、君の意見を聞いてみたい」
「単純に、多すぎる選別者の数を減らすためだろ?」
「それはあると思う。ただ、重要なのはそこじゃない」
「ソルジャーギルドは元々、傭兵ギルドだった。今でもソルジャーは半分傭兵みたいなものだ。諜報や暗殺、クリーチャー討伐、迷子の犬の捜索から雑用まで、今となっては幅広い分野で活動する組織になってしまった。それが現代のソルジャーだ。戦えるだけではソルジャーには成れない」
「思ったのが、こんな感じで殺し合いさせたあとに、仲良く協力プレイさせる試験を行うとか?」
「あはは!面白いこと思いつくねえ、性格悪いよあんた。まあ、ソルジャーギルドならもっとえげつない事やりそうだけど…協力させた仲良し同士で殺し合いさせるとか」
「えげつねえなそれ」
「この試験の本質は、何だと思う?」
「生き残ることだろ?」
それを聞いたローエン・ファイドは笑った。
「そう、何だ君わかってるじゃないか」
「当たり前だろ、試験の内容は『半分になるまで殺し合え』だ」
「選別者の数が半数になれば試験は自動的に終了する、つまり何もしなくても、生き残るだけで合格できるってことだろ?」
「そう、人一人殺すにつき1ポイント入る。だから余計、殺し合いという部分を意識してしまうのが普通だ」
余計な殺しはしない。殺しを避けられるなら避ける。
一人につき一人殺せば、理論上はそれで半数になる。
つまり、一人殺せば十分なのだ。
この試験では、殺しまくってる奴ほど死亡する確率が高い。
なぜなら目立つからだ。そして狙われるのだ。
「生き延びること、それがこの試験の本質だ」
「だから、真ん中に来たのか、おそらくこのステージの中でここが一番安全な場所だ」
「そういうこと」
それから、個人と、チームリーダー、集団のボスをだけで会議をすることになった。
「ほお…」
俺は今、10人集のうちの一人に混ざっていた。
ムガロとソーマは、俺の背中を守っている。
それにしても、よく集まったものだな。
俺はそうそうたる面子を眺める。
この場にいるのは——
龍人 ショウ・ニドネスキー
無精髭 アシリト
女軍師 ローエン・ファイド
フード男 シーラ
天才児 ニアニ・イコール(モニカの連れ)「私はいいかな、ニアが行きなよ、私より頭良いし」「分かった!モニカ姉ちゃんのために頑張る!」
王国魔法師団の下っ端 ボーダー・コリー
狙撃手 ヘッド・ショッド
鬼才の魔法具師 ベネルギーツ
大商人 ベン・クーバー
どっかのお姫様 マージュアリー
——以下10名。
「もうすぐ、この試験は終わりそうだ。だから終わる前に、私達で協定を結びたい」
女軍師がいきなり提案をする。
こうして、俺達十人集が同盟を結んだ。
You can never be too prepared
備えあれば憂いなし




