第39話 「ソルジャー試験」
なんだか喉が苦しいと思った。
「お、気づいたか」
「ん……」
少し体を動かそうとしたとき、首に痛みが走った。
「いっ」
「なにこれ……」
ムガロは自分の首を触ってそんな風にぼやく。
「リンゴクのブツがお前の後頭部に見事激突したんだ」
リンゴクぅ?
「アイツかぁ…」
ムガロはあの男の姿を思い浮かべて、苛立ちを隠さずに自分の指の爪を噛む。
「まったく首から下が動かなくなったらどうしようかと心配したぜ」
このままずっと、ムガロが寝た切りになって、一生お前のオムツを交換する毎日になるじゃないかって。
お前はもう少しでオツムになるところだったんだ。
そうはならねえってのは分かってる。分かってるけど。そんでもよ、寝てるお前を見てたらよ、どうしても心配だった。
ムガロは起き上がる。
「あー首いた……」
ショウは椅子から立ち上がりこの部屋を去ろうとしたが、ドアノブに手をかけたとき言うべき事を思い出し立ち止まった。
「ムガロ、試験を受けられるようになったぜ」
「そうなの?よかった」
ムガロの反応はさっぱりしていた。
棺桶入れて運ぶか。
「極めて何か、生命に対する侮辱を感じます」
「そうか?礼儀をわきまえた送迎方法だと思うが」
「なんで?」
「だってお前死体じゃん」
翌日、俺とソーマは喪服を着て棺桶と共にムガロの病棟へ迎えに行った。
気合の入った俺たちの格好と死体箱を見て、ムガロは呆れ返って物が言えなくなった。
「悪ふざけが過ぎれば葬儀屋が儲かるのね…」
(なに『風が吹けば桶屋が儲かる』的なこと言ってんだよ)
俺とソーマは顔を見合わせて肩をすくめる。
ムガロはその様子を見て何か言いたげだったが、結局最後まで口に出さなかった。
俺たちはムガロの顔をまじまじと見つめる。
「なに? なんなの…? 」
棺桶の中に入るよう促す。
「はあ… 分かったわ、入ればいいんでしょ」
それから、ムガロは諦めて棺桶の中に入り、収まった。
そして、ゆっくりと眠りにつく。
死体箱の中は居心地が良かった。
死後の世界は、こんなふうに安らぐのだろうか。
棺桶の中には花が敷き詰めてあって、その中で眠る彼女は美しかった。
血など通っていないように見える白い肌。色素が抜けた白い髪。
彼女は本当に死んでいるように見えた。
--
いくつかの問は履き違える。
思いが爆ぜる今日此の頃、最後に笑った光を灯す。
すがる相手を間違えて。
時は少し遡り、ムガロが意識朦朧としている中、俺とソーマは試験についての情報を集めていた。
前に訪れた受付所は建物ごと無くなっていたので、不足した情報はソーマの情報収集能力によって補う。その結果、試験会場の場所が公開されていない、ということが分かった。
つまり、試験会場は自力で探し出さなければならない。
俺たちは必死に聞き込みをしたが、全くもって情報らしい情報は得られなかった。
このままでは、俺たちは試験を受ける事さえままならない。
冗談じゃねえ。
そんなのは嫌だ。
嫌だ。
「ショウも何か考えろよ」
「・・・・」
その言いぐさには腹が立った。
「ソーマ、偉ぶって物を言うんじゃねえ、ムカつく」
「…へい」
俺は再び地図を見る。
見たところで、何も思い浮かばない。
なんかピンと来いよ、マジでどこにあんだよ。
毎年数万人の受験者がやってくるんだ。試験会場はそれ相応の面積を必要とするはず。だけど、怪しいとこは大体探し終わったんだよなぁ。
はあ、さっぱり分かんねえや。
ステーキ屋とかだったら良いのにな。
いやいや、そっちのが分かるわきゃねえか。
俺は目をつむって思考する。
ピコッ!
開っ眼。
「ここなんだけどよ…」
「霧の森、別名〝惑わせの森〟か」
「ああ」
「その森の奥深くには誰も辿り着けないと云われている摩訶不思議森に、何か気になることでも? 」
「その誰も辿り着けないっつー奥深くに在るじゃねえのか? 」
「なあ、こりゃあからさまか?」
「うん」
ショウは便所座りで頭を抱えながら、苦言を呈する。
「でも、ここしか思いつかねえよ、他に何か思い当たんのかよ」
「なにも」
結局、最後まで分からなかった。
そして試験当日、俺達はムガロを回収して駄目もとで惑わせの森に向かうわけだが、
その前に、行くところがある。
ソーマはゴンザレス家の親父から情報を得られず。
ムガロにも何か思いつくことがあったら言ってくれと伝えているが、今のところ何も無し。
そして俺は、確信が持てるような事は何も思い浮かばず。
そんなほぼ詰みかけている俺達が向かった先は――。
市街地Aだった。
「ソーマ、ここで良いんだな?」
ソーマは頷く。
「ムガロ、撃て」
パアアアアアン!
軽い缶が破裂したような音で市街地中が鳴り響く。
周囲の通行人共の動きが一瞬止まり、銃声の後に静まりかえったその光景は、まるで時が止まったみたいだった。
俺は背中に翼を生やし、ムガロが撃った方向に飛んだ。奴は時計台の上にいた。
撃たれた瞬間裏に落っこちたのが見えた。
その時計台を飛び越えれば、いた。
見つけた。
奴は足を引きずりながら必死こいて走っていた。
ムガロに足を撃たれたその男は、脚力を失っていた。
ナイスだムガロ、おかげで見失わずにすんだ。
俺はそっから急降下する。
男に迫る時、そいつは俺に気づき驚いたような顔をした。
「何!?」
俺は、なりふり構わずそいつを捕まえる。
羽はしまった。
「よう、観念しな、大人しくしろ、ソルジャーの犬っころ」
「ック!」
「おい、ゴブリンに捕まった女騎士みたいな顔すんなよ。お前男だろ」
後から追いついたソーマがその男を黒い粒子で作った縄によって拘束した。
ムガロが入っている棺桶は、ソーマの煙で包みこんで浮遊させ、こっちまで運んできた。
「お前、監視するの向いてねえよ、視線を感じたぜ」
『さすが龍人、俺程度の気配じゃ感づくわな』
「ここでは人目につく、場所を変えたほうが良いぞ」
その男はそう言った。
「いや、必要ねえ」
「なに!?」
ここは裏路地だ。
ソーマが壁を作り出し塞いだ。
「これで、邪魔は入らねえ」
『土魔法か?それより、どやって、どこから撃ってきた。確かにこいつらの方角から弾は飛んできた』
「教えてやろうか?」
「何だと!?」
『心を読んだ?』
「俺達は死体箱を運んでたろ」
男は脇に置いてあるその棺桶を見る。
「その中に入ってるのは銃を持った動く死体だ」
その男はあることに気づく。
『まさか…!』
その棺桶には小さな穴が空いていた。
『ここから銃口を出して俺を撃ったのか?』
「どうだ、すげえだろ、天才なんだよ、うちの狙撃手は」
『穴の直径は二センチほどだ、そこから銃口をあわせたら視界は無くなる。つまり、対象の位置を記憶して、目隠しで狙撃したということか、なんてやつだ』
ムガロは狙撃の天才だった。
師匠に教えてもらわなくても、己の才能だけで銃を扱えた。
なんの知識も無いし、銃の構え方も変だし、そもそもサイトを覗いてすらいない。
そんなポンコツ狙撃手が狙ったところに当てることが出来るは、銃口の向きだけで弾道を読み、頭の中でレーザーポインターを作れるからだ。
だから、傘の形をした変な銃でも問題はない。
ムガロの狙撃の腕を活かしたこの作戦は、数日前から始まっていた。
実は、受付所を消したのはソーマだ。
他の受験者を削ぎ落とす目的もあったが、受付所がなくなってパニクった職員が向かう先にソーマの黒い粒子をばら撒きたかったからというのもある。一番は、ソーマの燃料補給だけど。
あの日、受付所に訪れたとき、ソーマはそこにいた受付の女の手を握った。
そこから伝って女の体内にソーマの黒い粒子を侵入させ、その女を無自覚なスパイにしたのだ。
それからもソーマは、ゴンザレス家や、賞金首として俺達を狙った他の受験者などなど、街中にソーマの遺伝子をばら撒き情報を集めていたのだ。
それで、たまに俺達を監視する者の正体がソルジャーギルドの手先だと分かった。
ムガロの首がやられたのは想定外だったが、うまく利用できたぜ。
「さて、質問はやめて、尋問だ」
「試験会場はどこだ」
「その必要はない」
「は?」
「尋問をする必要がないと言った」
「へえ、やっぱりそういうことか」
ソーマが何かに気づいたようだ。
「なるほど、そういうことか…!」
俺も何かに気づいたふりをする。
「俺は試験管だ。つまりそういうことだ。まず、この試験の目的は、いかにして情報を集めるかを見ること、だ。だからお前たち受験者には、情報を与えなかった」
「情報がなければ、どうするか。当然それは俺達ソルジャーを捕まえることさ」
「まあ、捕まえなくても、俺達を見つける事ができればその時点で合格だ」
『その思考に至るプロセスこそが重要なのだ』
つまり、捕まえる必要なかったのか。
にしても、ソルジャー試験の受験者は1万人をゆうに超える。
それを少人数で監視できる体制を作れるソルジャーは、やはり凄い。
「じゃあ何で逃げたんだよ」
「本当に捕まえられるか見たかったからだ」
「俺はソルジャーギルドの職員だが、ソルジャーではない。ただの一般人だ、俺程度を捕まえられないようじゃ、ソルジャーにはなれんさ」
『俺が試験官で、もう拘束の必要はないと教えても、まだ離さないか』
『簡単に敵の情報を信じないっと、ここも及第点だな』
「受験票を見てみろ」
俺とソーマは自分の受験票を見る。
確認してみると、新たに追加事項が記されていた。
『おめでとう。あなたは選別者に選ばれました』
「選別者?」
「ソルジャー試験を受けられる資格を貰えたってことだ」
「他の受験者にもこんな事やってんのか?」
「ああ、運営も意地悪だよな、受験料1万ポンドは、ちゃっかり持っていくんだから」
「誰でも応募資格があったのって、まさか…」
「そのまさかだ、受験料をむしり取るためだよ」
うわあ、やってんなあ。
「試験会場は、お前たちの読み通り、惑わせの森の中心部だ」
嘘はついていない。
受験票にも、試験会場は惑わせの森の中心部と書かれてある。
それと、9時までに着かないとダメとも書いてある。
「って、時間ねえじゃん!ソーマ、もう良いか?」
「うん、こいつは用済みだ」
「よっしゃ、じゃあ急ぐぞ!」
「おう!」
それから、彼らは去っていった。
ソーマが作った壁はサラサラと消え。
自分を縛っていたこの縄も、燃えカスのように崩れて消えて無くなった。
--
ここはソルジャーギルド、ムシカゴ支部。
男がギルドに戻り、建物の入口に入ると、警笛が鳴った。
俺にクリーチャー反応?
その後、身体検査すると俺の体内から黒い物質が検出された。
ハハッ、ソーマの仕業だな、恐ろしい奴め。
この俺を良い道具にしようとは。
それからすぐに浄化した。
ソーマはそれに気づき、驚いた。
ギルド長室に向かう。
「戻ったか、ファラン」
ギルド長グスタフが、ファランという冴えない男に声をかけた。
「って、何だその怪我は」
「いやあ、やられてしまいました」
「まさか、お前がやられるとはな、元ランク持ちソルジャー、単にファラン」
その名で呼ぶな。
「元、ですよギルド長、今の俺はしがない職員だ」
「俺はまだ、お前の引退を認めてないからな、つーかなんで辞めたんだよ」
そのクソダサい通り名で呼ばれるのが嫌だから辞めたんだよ。
「ひとえにそれは、一重だったから」
「また良く分かんねえこと言いやがる」
「っで、誰にやられた?」
「ガルムの息子が試験を受けると聞いて、興味が湧きましてね、いやあ、紙一重でしたよ」
「ああ、なるほど、そいつにやられたか」
泣く子の腕さえひねるソルジャーといえば新羅の番犬、あいつのことだ。
「しかも、リンゴクから推薦と来たら、居ても立ってもいられな…」
「えええええ!!!!リンゴクから推薦ですか!?なんですかその選別者!」
近くにいた女性職員がでかい声だして驚く。
「ショウ・ニドネスキー、怪物の後釜だ」
グスタフから名前を聞いたその女性職員は、その人物についての資料を探し始めた。
「ええと、ニドネスキー孤児院の出身で、ガルムが引き取り、養子縁組してますね」
「それから、アブソリューに弟子入り…って、あ、アブソリュート!?もしかして、ああの…王国騎士団最強の剣士と謳われた…。何十年も前に引退して隠居生活を送っているとか、もう死んでるなんて噂も聞いてましたが、弟子を取っていたなんて驚きです!」
「え?てか、アブソリュートとリンゴクから推薦が来てるなんて、これもう本部が黙ってないでしょ!」
「実績も凄いわね、大天幕闘技場で生き残った後その場にいた主催者、総督オスグッドを倒し、百人コロシアムでも優勝。偶然コロシアムにいたリンゴクと一騎打ちをして、彼の一撃を受け止めた」
「何?それは真か?」
「はい」
「リンゴクの一撃を止めたとは、ますます凄いな」
「ていうか!仲間の方もエグいですよ」
「大賢者マギから推薦を貰ってる女の子…は白髪の魔女!?で、ゴンザレス家の養子に入って指名手配は解除されたものの、未だ特定危険人物に指定されている悪食のソーマは、名家ゴンザレス家の長男で今期一番の有望株だったツヴァイから試験資格を強奪。それから、B級賞金首のシュメルマンを捕まえた」
シュメルマンは、ルドルフ大地の連合組織、マレーバグの会議中にテロを起こし、ソルジャーギルドに宣戦布告をした凶悪な犯罪者だった。
まさか、そんな大物がこの街に潜んでいたとは驚きだ。そしてそれを捕まえたソーマも。
「彼はソルジャーキングのガランから推薦が…って何なんですかこのチーム!」
「ああ、その事についてだが、上層部では揉めてるよ。彼を受け入れるか、始末するかで」
「始末する方に傾いているらしいが」
「それは致し方ないですよ、なにせ悪食ですからね」
「人類が滅びる一歩手前だ」
元帝三種、最悪の魔物の一体。
老婆が作りしクリーチャーの最高傑作にして不良品。
悪食を取り込んだ少年、ソーマの処遇。
『我々の組織を解体する体制が整い始めた今、大陸軍に牽制するにはこれ以上ない手札になる』
「ったく、面白すぎんだろ」
--
俺達は急いで惑わせの森に向かった。
「ここか…」
「不気味な森だぜ」
ソーマも俺の意見に同意する。
間髪入れずに森の中へ入って、ぐんぐんと進んでいくと、霧が濃くなって視界が悪くなった。
まるで帰らずの森みたいだ。
惑わせの森(霧の森)は、ソルジャーギルドの管轄区域にある。
惑わせの森という摩訶不思議森は、部外者を中に入らせまいと、入っても追い出される森であり、故に誰も中心部に辿り着けないと言われている。
それの対になる存在が、森の中心部に招かれて一度入ったら出られなくなるという、皆さんご存知のはずの帰らずの森だ。
と、このように、試験会場の場所が惑わせの森と分かったところで、ただ分かっただけなのだ。
そこに辿りつくのは容易でない。
もっとも、俺にとっては森の奥に行くのは容易い。
ヒバナの道案内すら不要だ。
もうあいつの存在意義はねえ。
最近、ヒバナとは会話してないな。
確かムガロも鬼婆の帰らずの森を自由に出入り出来ていた。
もしかしたら、辿り着けるかもな。
「なんだ、これ」
ソーマが呟く。
「アステリングだな、こりゃ… 触ったら爆発するから気をつけろ」
周りにはアステリングと呼ばれるシャボン玉のようなものがプカプカと浮かんでいた。
森の中は、宙に浮かぶ無数のシャボン玉のおかげで幻想的な空間が広がっていた。
気になって触ってしまいそうになるが、最悪死ぬので細心の注意を払わなければならない。
なので、たまに漂ってくるシャボン玉を避けながら歩き進める。
「うわあ、面白い」
「絶対触るなよ」
それからも、俺達は順調に森の奥に進んだ。
森の大きさが地図で見た通りだとすれば、もうすぐ中心部に着くはずだ。
俺とソーマは森の中を無言で歩き続ける。
その数十分後、他の選別者と出会ってしまった。
何やら揉めている様子だった。
「なあ、良いだろ?あの浮いてる玉触っても…」
「ダメ!触ったらどうなるか分かんないでしょ!」
彼女の言う通りにしとけ、少年よ。
「もう我慢できない!俺は行くぞ!」
「あああ!!」
「うっひょおおおお!!」
その男はその辺に浮かんでいたアステリングに向かってジャンプをし、
それが丁度彼の股間に当たって――
キュイイイイイン!!!(アステリングが発光する。まるで彼の股間が光っているみたいだ)
――爆発した。
フ スッパアアアアアアア!!!!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ああ゙゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
物凄い破裂音が鳴り響き、そいつの悲鳴が広がる。
奴のイチモツと下腹部は、内蔵まで吹き飛ばした。
「馬鹿だなぁ、あいつ」
ありゃ死んだな。
「ぎゃははっ、あいつおもろ!」
ソーマが笑った。
きっと、棺桶の中にいるムガロも爆笑しているのだろう。
呆然と立ち尽くしているあのバカはほっといて、俺達はさっさと先へ進んだ。
歩き続け、ようやく森が開けた。
森の中心部には難なく辿り着けた。
そこには大きな建物があった。
「着いた」
試験会場だ。
広場には他の選別者が2000人ほどいた。
「結構人がいるな」
「・・・・」
ソーマは周りを見渡す。
ソーマだけでなく、他の選別者たちも周りの奴らを観察していた。
ライバルになる奴らだ。今のうちに、厄介そうな奴を嗅ぎ分ける。
「ショウ、どうやら試験は簡単じゃなさそうだ」
「だなっ」
「でも、俺達の敵じゃねえよ」
「言えてる」
能力持ちもちらほらいる。
魔法が使えそうな奴もいる。
なんでここに辿り着けたのか分からねえ弱そうな奴もいる。
揃いも揃って曲者揃い。
この世界に強者がこれほどいたか。
今までどこに隠れてたんだよ。
門は、閉まってる。
まだ時間じゃないってことか。
俺達は門の前に行き、胡座かいて地面に座る。
ひたすら時が来るのを待つ。
喪服姿で、しかもわざわざ棺桶まで持ってきた俺達は少し浮き立っていた。
「ソーマ、今何時?」
ソーマはポケットから懐中時計を取り出し確認する。
時刻は9時だった。
門の前に立っていた如何にも門番って感じの二人が、声を張り上げる。
俺はその様を見てニヤつく。
「時間だな」
「これより!開門!よって、たかって、したがって!選別者よくぐり抜け!この時刻を持って、ソルジャー試験を開始する!」
門番がそう高らかに宣言、すると門は重厚そうな音を醸し出しながらゆっくりと開き始めた。
「俺がトップバッターだ!」
そう言って誰彼構わず真っ先に突っ込んでいく奴が一人。
先を越されたか?何人かがそう思ったのも束の間、そいつは門を抜けることが出来ずに弾き飛ばされる。
何か、見えない壁のようなものがった。
バリアが張ってあるのか。
「まず最初の鬼門は、文字通りの鬼門だ!間引きの門を突破できぬ者に資格はない!」
「なに!?」
周囲に動揺が走った。
間引きの門。まさに、選別者の壁。
「なお、時間制限内に門を通ること、それまでにこの場に居残った場合、その者は失格となる」
何人かが門を通り抜けようとしたが、尽くその見えない壁に阻まれる。
俺達はその様をしばらく眺める。
「質問良いか?」
「質問は受け付けていない」
「尋問ならいいか?」
「何にせよ、選別者に情報は一切与えない」
「じゃあ、拷問なら… 」
思いっきり睨まれた。
「 …すんません」
やはり情報は与えられないのか。
尋問とか拷問は辞めたほうが良さそうだ。
門番に害を与えたら失格になる可能性もある(試験管の権限で)。
今はまだ、手荒な真似はしないでおこう。
ソーマの能力を使って情報を抜こうかとも考えたが、これは打つ手が無くなってからだな。
「時間制限があるけど、いつそれがやって来るのかは分からない」
グズグズしているとすぐ時間切れになるかもしれないし、余裕を持って丸一日ほどの時間が与えられているかもしれない。
おそらく、この試験の目的は時間制限が覚束無いという精神的バイアスがかかる中でいかに動くか、を見ることだ。
「間違いなく皆焦るな。逆にそこが狙い目か?」
周りの選別者が騒ぎ出した。
「お、さっそく門を抜けた奴が現れたか」
それに続いて門を通り抜けようとする奴は何人も現れたが、やはり見えない壁にぶち当たるのが多数。
その様子を見ながら、少し考えを巡らせる。
「さて、君ならどうする?」
ソーマが俺に訪ねた。
「ムガロを起こす」
俺とソーマは死体箱の蓋を開ける。
急に眩い光が入って目が覚めたムガロは、死体から蘇った奇跡の少女だった。
近くにいた周りの奴らが驚いていた。
「とりあえず、俺達に資格があるのかを確かめる」
(資格のないものに門を通る事は出来ない)
はたして、俺達にその資格とやらがあるのだろうか。
俺は門を通る。意外というか、拍子抜けというか、普通に通り抜けることが出来た。
だけど、それは俺だけだった。
ムガロとソーマは通り抜けられなかった。
「あっれれ、なんで、ぐわっ!」
「うっ!」
ムガロ、見苦しいぞ。
俺はしばらく様子を見ていたが、彼らは難儀していた。やがて俺はしびれを切らした。
「俺はお前らを信じて先に進む。向こうで待ってるぜ」
「え゙え!」
「ちょっとっ!」
俺はそう言ってあいつらを置いて先へ進むことにした。
お前らを信じるとか耳障りのいい言葉を吐いて捨てたが、実際は一ミリも信じてなどいない。
つまり俺はお前らを見限った。
奴らがここを通り抜けるかどうかは、俺には分からない。ただ、もし突破出来なければ、所詮、それまでの奴らだったってことだ。
「まあせいぜい頑張って俺の後ついて来い。期待はしといてやるよ。じゃあな」
俺は進んだ。
「フフッ、あははっ、ショウの奴、僕達を見捨てやがった」
「ああムカつく!何なのあいつ、少しぐらい待ってくれてもいいじゃない!」
そして二人は思った。
(何が何でも突破してやる)
残されたショウの仲間達は考えた。
ソーマは現場から少し離れ、ムガロも一旦、門の前から距離を取った。
それから、二人は真剣に考え込む。
一人の小さな女の子が門を通ろうとした。
どうみてもソルジャー試験を受けるような歳ではなかった。
幼いその子は、てくてくと歩き、何事もなく門を通り抜けた。
(一体何が僕達を阻む)
どのような人物が資格を持っているのか。
傍から見ていてもまったく検討がつかない。
そしてムガロは、空を見上げた。
上空に、カラスが見えた。
「疫病神、戻っていたのね」
(ねえ疫病神、どうしたら中に入れるの?)
『お前には資格がなかっただけだろ?』
何糞っ、諦めるもんか!
ムガロは再び門の前に仁王立つ。
透明な壁に指先を突っ込む。
少し、弾力というか、反発を感じた。
ゴムの壁を押しているような。
それでも、力いっぱい押し込んだ。
やった!五センチくらい押し込めた。
ボキボキに折れた人差し指を見ながら満面になる。
しかし、これだけでは門を通り抜けるに至らない。
「こうなったら…!」
そして、そこから導き出したムガロの答えは、ゴリ押しというほか無かった。
「ふにににに…!!」
透明な壁に顔を押し付けているムガロを見て、ソーマは奇っ怪に思う。
「ムガロ、何やってるの?」
「あんたも手伝って!」
なるほど!無理やり行くのね。
それから、ソーマはムガロの強行突破を手伝う。
ジジジジジッ!!!
ムガロの体に小さな雷のようなものが走り始めた。
周りの選別者はその滑稽な様を嘲笑った。
ムガロの頭からピキピキという音が鳴り出した。
顔面の皮が剥がれ始め、なかなかグロテスク。
「ムガロ、まだやるの?」
「いいから!やって!」
「うおおおおおおおおお!」
「ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ああああああああ!!!!!!」
ムガロが悲鳴を上げた。
彼女の身体が、分解を始めた。
それでも続けた。
彼女の体の半分が、屍になった。
そして・・・。
ズルん!
なんというか、ある一定のラインまで押し込むと、ズルんと通り抜けた。
「やった!」
ソーマは嬉しげに叫ぶ。
ボトッ。
小鳥の死体が落ちたような音だった。
「あ…」
間引きの門を抜けたムガロは間引かれた。
骨と肉だけの干からびた屍となり、人体錬成の失敗作みたいになっていた。
辛うじて人の形は保っている。
肋のあたりにドス黒い心臓が見えた。
それは動いていた。
驚いたよ。これでも生きてるなんて。
なんだかとても不気味だ。
それを見ていた選別者はみな怯えた。
「バカな奴もいたもんだ。無理やり抜けようとするからああなる」
どこかの選別者がそういった。
他の人達も、その者の言葉に賛同する。
「バカじゃないよ」
「あ?」
言い出しっぺのその男は怖い顔をする。それに対してソーマは真剣な顔をしていた。
「まあ見てなって」
ソーマが何故か得意げに言って、皆はムガロの亡骸に注視した。
亡骸のはず、だった。
それが再生をし始めるまでは・・・。
「おい」
異変に気づいたのはその時だった。
ムガロの流血が、ゆっくりとだが奇妙な方向に流れ始める。それは何か、魔法陣を描いていた。
やがて陣は光り、そこからは、まるで途中だった人体錬成を完遂させているように見えた。
「なっ!」
その場にいた皆が驚愕した。
グチョグチョグチョッ。 ベキベキベキッ。
とても不快な音があちらから聞こえてくる。
ムガロの再生は、まるで植物のようだった。
それから数十秒でムガロは蘇った。
彼女は生き返ったやいなや、ソーマに挑戦的な顔(腹立つ顔)で勝ち誇った仕草をする。
その様を見たソーマは笑って、ついさっき創造したばかりの服を投げ渡す。
彼女の服は門を抜けた時、ほとんど布地が残っていなかった。
局所的にしか隠せていないボロボロな服は服とは言えなかった。
「ありがとう」
「私は優しいから、貴方を待ってあげるわ」
ソーマは考える。
地面に手を置いた。そして目をつむる。
この見えない壁が、地中ではどうなっているのかを探る。
もしかしたら、穴を掘って侵入出来るかもしれない。
土と土の隙間から、己の黒い物質を流し込み、地中の構造を見る。
その結果、分かったことは、どうやらこの結界はこの建物全体を囲っている、という事だった。
次の手を考えよう。
ふと、壁の向こうで居座っているムガロを見る。
そういえば、僕が造った衣服は問題なくすり抜けたな。
ハッ!
そこでソーマは重要なことに気づく。
もしかして・・・。
ソーマは門の結界に手のひらを当て、黒い煙を出した。
その黒い煙は自然に結界内に抜ける。(つまり、物質は通り抜ける)
やっぱりそうか。
(あとどれくらい時間が残されているか分からない)
ここで躊躇して、時間切れになって途方に暮れるぐらいなら・・・。
さっさと覚悟を決めて、先に進もう。
あの小娘だって抜けられたのに、僕一人だけここでリタイヤは、嫌だ。悔しい。
だから、ソーマは己の肉体を捨てた。
結局は、あの阿呆な娘と同じようなやり方だ。
僕は遅れを取ってしまった。
「ソーマ~、まだ~?」
「今行くよ」
ソーマの体は黒い煙のような物質に分解した。
サア~~。
ソーマの体が、すべて黒い煙になったら、それは門の向こう側に流れていった。
門の内側で、それはソーマを形作った。
「驚いたわ、何をしたの?」
「・・・・」
言い知れぬ。開放感と少しの侘しさを憶えた。
ソーマは何やら自分の身体を確かめているようだった。
自分の手を握ったり、緩めたり。
腕を煙にしたり、もとに戻したり。
それから、周りの景色を見渡す。
「うん」
ソーマは一人で頷いた。
--
やれやれ、とにかく話が進まない。
ここまで来てまだ序章だ。
「おい、待ちくたびれたぜ」
「あれ?ショウだけ?他の選別者は?」
「先行った」
「こっから先が、いよいよだ」
合流した俺達は次の試験に向かった。
選択の扉。この試験は、とにかく選ぶ。
最初の部屋は、千の扉だった。
薄暗い空間に、とにかく扉がたくさんあった。
名前通りなら、扉が千個あるのだろう。
この中から、唯一の正解の扉を、探し出さなければならない。
部屋の中央には大きな時計があった。
制限時間60分。
多すぎる選択肢は、人を迷わせる。だから、人は選択から逃れようとする。
見ろ、あそこにこの試験のルールが書いてある。
ルールはこうだ。
扉には番号が書かれており、正解の番号を見つける。
各扉の開閉には一定時間が必要(5分)。つまり、一度扉を開けたら、他の扉を開けるのに5分待たなければならない。
扉の種類は3つ。
ダミー扉 …中身のない空っぽな扉。時間の無駄。
ヒント扉 …ヒントを得られる扉。
リスク扉 …ペナルティがある扉。
俺達はまず、探索した。
最初に見つけた扉はダミー扉だった。豪華な装飾が施されていたので騙された。
次に、ムガロが見つけた扉はヒント扉だった。
扉を開け中に入ると、小さな部屋で、中央に小さな机が置いてあり、その上に暗号が書かれた紙があった。
ムガロがそれを解読する。
「正解の扉は偶数で、左から5列以内にあるみたい」
「どこから左に5列以内?」
「いや、その暗号には違和感がある。ヒント自体がミスリードを誘うこともある」
「え?ソーマ、もう暗号の解き方覚えたの?」
この暗号は、ソルジャーなら簡単に解けるものらしい。
俺はさっぱり分からないが、ムガロにとっては朝飯前だった。
ムガロがいて助かったと素直に思う。
俺一人では絶対にこの試験は突破出来なかっただろう。
それはそうとして、ソーマはムガロが暗号を解く様を見て、すぐに暗号の解き方を覚えた。こいつの頭脳はイカれてる。
「ほら、ここが違う」
「あ、ホントだ。部分的には正しいけど、誤った情報が混ざってる…」
いつの間にか、残り時間が40分を切っていた。
次に見つけたのはリスク扉だった。
ペナルティが発生するかもしれないが、ヒントを得られる可能性は高い。
扉を開けたら、ペナルティが発動し、残り時間が10分減少した。
ここまでは想定どおり。
正解の扉は‘3桁の番号’で始まる。さらに‘青い印’が目印だと判明。
それから俺達は偶数で、なおかつ3桁の番号で青い印があるものを探した。
その結果、条件に合致した扉が5つ見つかった。さらに、青い印が微妙に異なるデザインで存在している。
残り時間は25分、扉を1つ開けるたび5分の待ち時間が発生することを考えると、5つの扉すべて開けるのは非現実的である(5分×5個=25分より)。
だから、せめて4つに絞らないと。
「どれが本当の青だ?」
もっとヒントがいるのか?
でも、適当に扉を開けたら、それこそただの時間の浪費でしかない。
ほとんどの扉がダミーである中、ヒントになり得る扉を探すのは難しい。
天井を見ると、シャンデリアがある。
「光源か?」
薄暗いから、青を見間違えた可能性がある。
よく見ると、紫だったり、黒っぽい色の印が混じっていた。
おかげで正解の扉候補は3つまで絞れた。
残り時間22分、扉は3つ。
全部開けても時間は余る。
警戒すべきはリスク扉だ。
ペナルティが残り時間10分減少だった場合、残り時間22分から(10分+待機時間5分)を引いて持ち時間7分になる。
その次で正解を当てなければ詰んでしまう。
だが、この3つの扉がリスク扉である可能性は低い。
前回開けたリスク扉には赤い警告があった。この3つの扉にはそれがない。
結局、俺達は開けることにした。
1つ目の扉、不正解。
2つ目、不正解。
3つ目の扉に手をかけ、ゆっくりと開けた瞬間、大時計が鳴った。
「正解です」
「やった!」
俺達はハイタッチして喜んだ。
空間全体が静まり返り、チーム全員が固唾を飲む。
扉の向こうは、また扉だった。
百の扉。
扉が百個ある。
「またかよ…」
制限時間はさっきと同じ60分。
この中から正解を1つ、選ばなければならない。
どうやら、俺達を休ませてくれないようだ。
「お、見ろ、今度はヒントがあるぞ」
ヒント ――『選択肢を全部見ていない、というのに尽きます』
「意味がわからん」
ルール ――『扉を開けられるのは一度きり』
「つまり、違う扉を開けたら即失格か」
まず最初は、千の扉のときと同じく、すべての扉を見て回った。
その結果、分かったことがある。
各扉には、言葉が書かれたいた。
そして、隣合う扉はそれぞれが二択のようになっており、「〇〇に相談する」と書かれた扉の隣には、「一人で考える」と書かれた扉がある。
「〇〇に相談する」 or 「一人で考える」、「戦う」 or 「逃げる」、「近づく」 or 「様子を見る」などなど、百の扉の構造は、二択の集合体である事が分かった。
色々見て回ると、「見ている」 or 「見ていない」でセットの扉があった。
ヒントは『選択肢を全部見ていない、というのに尽きます』だ。
だから、「見ていない」と書かれた扉を開けるのが正解なのか?
でも、なんか違う気がする。
選択肢を全部、という部分が引っかかる。
「もしかして、選択肢を全部見ていない、のか?」
「ショウ、なにか気付いたの?」
「扉の数を数えてくれ」
俺達は扉の数を数える。
そして分かった。
俺達は選択肢を全部見ていなかった。
扉の数は99個だった。
「残り1つはどこにある」
「1つ足りないということは、一箇所だけ、二択になっていない所があるはずだ」
「よし、探そう」
それから数十分、探した。
「見つけた!」
ソーマの声が聞こえ、俺とムガロは群がった。
「“見える”、の他の選択肢がない」
「本当だ!よく見つけたな、ソーマ!」
「確かに、この扉とあの扉の間に“見えない”の扉がないとおかしいわね」
「うんうん、ちょうどこの辺りにあるとバッチしなんだけどなあ…」
グラッ。
ソーマが壁に触れた瞬間、その部分が少し凹んだ。
隠し扉だった。
「見えない扉、か」
俺達は次の部屋に進んだ。
--
一二の扉。
『自分を表すのにもっとも近い扉を開けよ』
ここでは、自分を表すのに最も近い扉を開けることができれば次に進めるようだ。
面接とかで必須な自分を分析する能力が問われている。
「俺を表すなら能天気な人生」
明るい方の扉を選ぶぜ。
「こっちのが道が明るいぜ」
問題は、俺以外の奴はこの扉の先に進めるのかどうか、だ。
仲間に目配せしてそれを伝える。
みんなは俺が選んだ扉の先へ行くと決めたようだ。
--
次、三の扉。
ここから先は適当だった。試験の質が急に乱雑になった気がする。試験を作ったやつが面倒くさくなったのだろう。
「選択肢が3つあったら、その真中を選んでしまうのが人間の心理だ」
「ババ抜きでよく使う戦略だな」
「つまり正解は真ん中だ。なんとなくだけど」
俺は真ん中の扉を開けた。
「「ショウ!!」」
ムガロとソーマが迫真の顔と声を出した。
(なんで勝手に開けたの?)って顔をしている。
彼らは俺が適当に選んで勝手に開けたと思っているようだ。
そのとおりだけど。
--
次、二の扉。
トロッコ問題的発想の二択問題だった。
正解は片方のはずなんだけど、正解のない問題だから迷うな。
確率は二分の一、選択の重みが違う。
「ううむ…悩ましいね、どっちが正解なんだろ」
「出産中のお母さんが赤ちゃんと間違えて下痢を出すか、希望に満ちだ5歳児のハゲが確定するかの2択問題」
「こんなの、どっちを選んでも酷だわ…」
「落ち着け、お前ら、こんな問題を真剣に考えるバカはお前らしかいねえよ」
「扉に書かれてある文字はすべて無視だ無視」
「基本的に、人は迷ったら左を選ぶ」
「だから正解は右だ」
「いや適当!」
俺は右の扉を開けた。
「「あっ!」」
またしても迫真に迫られた顔面と声を漏らす。
--
そして最後、一の扉。
「おめでとう、あなた達は選択の扉を乗り越えました」
アナウンスが聞こえた。
「やっと終わった」
さして面白くもない試験だった。
「ショウが途中から適当に開け始めたときはどうなるかと思ったけど、なんとかなったね」
「適当じゃねえよ、俺の勘が的中したんだ」
それぞれがお疲れ様をなすりつけ合う。
って、あれ?
この部屋にも時計があった。
指針は制限時間5秒を表している。
それが何を意味しているのか、俺は瞬時に理解した。
「おい、まだ試験は終わってねえぞ!」
「は?」
扉が1つだからって、選択の扉の試験はまだ終わっちゃいなかった。
いや、選択肢が1つしかないんじゃ、選択の扉とは言えねえだろ。
ムガロが扉を開けようとした。
それはマズい。
「開けんじゃねえ!ムガロ、やめろ!」
「なに言ってるの?早くのこの扉を…!」
「とにかく待ちやがれ!」
扉は1つしかねえけど、ここは選択の扉だ。
つまり選択肢がある筈だ。
扉を開けないという選択肢。
これで二択になった。
あと三秒。
考えろ。考えろ。最後まで諦めるな。
後ろを振り返ると、そこに通路があった。
瞬間、俺は走り出した。
そこだ!
「こっちだ!」
俺は通路の方を走った。
俺に続いてソーマ、ムガロも走った。
「後2秒!走れ走れ!」
急がば廻れ。全力で走った。
残り一秒を切った時、間に合ったと安堵した。
--
とても、大きな力だった。一瞬、抗えないとさえ思ってしまった。
気がつけば俺は、深い深い海の底にいた。
光が差し込む海の天井は、大きなクジラの影を作る。
なんだ、あの巨大生物は…。
俺の仲間はいなくなっていた。
十数メートル前方に大きな水晶玉があり、「触れ」と書かれていた。
ああそうか、これも試験か。
振り返れば出口があった。
「危ないから戻ったほうが良いよ」と、囁く声が聞こえた。
恐らく逃げたら失格だ。
俺は水晶玉に触れた。
カウントダウンが始まる。
クジラが俺目掛けて突進してきた。
「逃げろ」という声が、俺の頭に響く。
カウントダウンはもうすぐゼロになるところだった。最後まで触れていたら合格、とういことだろう。
このままでは食われるな。
本来なら、丸呑みにされても水晶玉に触れ続ける度胸を試すのだろうが、俺は違う。
俺には力がある。
もとより食われてやるともりなど微塵もない。
俺はクジラの鼻先に手のひらを向ける。
その瞬間、クジラはバラバラになった。
あとから衝撃波で水中が大きな渦になった。
カウントダウンがゼロになる。
俺はまた、大きな力によってどこかに引っ張られた。
またもや、気がつけば俺の体は大気に触れていた。
そこは、明るい広場だった。
「試験終了」
「合格です」
そこには試験管がいた。
俺の仲間もいる。
「お前ら、無事だったか」
「僕の養分になった」
「私は逃げた」
「え?逃げても合格だったの?」
「あなたは不死身ですからね、死ぬことには慣れていると思っていましたから、逃げるという判断が出来るのは評価できます」
(いや、不死身だからって、胃袋の中で生き返るのは嫌なの)
周りを見渡すと、無数の選別者が20人程いた。
「なあ、こりゃどういうことだ?間引きの門を超えられたやつは10人ぐらいしかいなかったはずだが」
「惑わせの森以外にも、入口はあるんですよ」
「俺は地下通路を見つけて入ってきたぜ」
「俺は火山からだな」
なるほど、そういうことか。
「皆さん、もういいですか?」
「さて、次の試験の説明を始めます」
Next time: “cross the vale of Ghena”
次回、「ゲヘナの谷を渡れ」




