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心世界  作者: rin極
第八章 目指せ!ソルジャー編
37/48

第37話 「良くも悪くも」



「どうする?」

「ショウは大会に行っちゃったし、他になにか…」

「ん〜、とりあえず、他の受験者を探しましょう」

「うん、そうしよう」


ムガロとソーマは方針を決めた。

僕達、私達の他にソルジャー試験を受ける何者かを探すため、街中を計画性のない足取りで闇雲に探しまくった。

途中から彼ら彼女らは当初の目的を忘れ、観光を楽しんでいた。次々と目に入る目新しいものに惹かれ、二人の頭の中で、この街のどこかに潜んでいるはずの受験者のことなどとうに消え失せた。


「あれ?なんだあれ!?なんだなんだ!?」

「すごい!すごいわあれ!」

「うんすごい!なんかすごい!」


初めてみた大きな銅像に、二人は興奮していた。


「あ!あれ見て!あれめっちゃうまそう!」

「ホントだ!美味しそう!食べたい!」

「行こ!行こ!」


ケバブの屋台を見つけ、そこに駆け込んだ。


「あい商売繁盛、上がったりいいいいいい!!!!」

「おっちゃん!それ頂戴!」

「来たキタキタキタキタああああ!!!客が来たアアア!!!」

「いいからくれ!」

「いいよん、どのくらい欲すぃのん?」

「全部くれ、その鉄の棒ごと」

「ぜ、全部!?」

「私人肉が良い!!!」

「あいよ、人肉一丁っ!ってあるかそんなもん!!」

「ええ!?」

「ほいでほな、お嬢はどうなすって?」

「私やっぱりいいや」


しゅん…


お店の主は見るからに落ち込んだ。


「ごめんね、うちに人肉が置いてなくて」

「じゃあ今度仕入れといて」

「けばばばっ!そりゃ無理よっ」


その時、いきなりムガロに話しかけるものがいた。


「ムガロさん」


その声には、真っ先にソーマが反応した。


「誰?この人、ムガロの知り合い?」


それからムガロは振り向いた。ムガロは顔を明るくした。


「先生!!」

「先生…?」

「久方ぶりですね」


「う〜ん?」


ソーマは首をかしげた。

ムガロに先生がいるなんて


「この人は、大賢者マギよ、この国大魔法使いであり偉大な哲学者なの」

「だっ、大賢者マギいいいい!!!!??」


ケバブ屋の店主が叫んだ。

それから気絶した。


「へえ、すごい人なんだね」

「すごいってもんじゃないわ、私が唯一尊敬できる人よ」

「才ある貴女に、そう言ってもらえるのは嬉しいですね、私の弟子になるという話、もう一度考え直してくれませんか?」

「それは謹んでお断ったはずだけど」

「マスターピースが、そなたを失ったのは痛手でしたよ」

「ところで、ムガロさん達はこの街で何をしているのですか?」


そこでソーマとムガロは本来の目的を思い出した。


「ソルジャー試験を受けに、でも、応募に間に合わなくて、私達は今、資格を探してる所なの」

「なるほど、では、私があなたの推薦書を書きましょう」

「え?いいの?」

「ええ、この程度、お安い御用です」


そしてムガロは大賢者マギから推薦を貰った。


ソーマとムガロは、それから中央通りを進んだ。

しばらく歩いていると、どこからか楽しげな音が聞こえてきた。

ズン、ズン、ズン。

重低音が鳴り響く。

昼間なのに眩しいほどにピカピカと光を溢れ出している派手な建物があった。

そこだけ地震でも起こっているかのように揺れていた。


二人はその建物の前で立ち止まった。


「どうする?入ってみる?」

「うん」


二人は好奇心とほんの少しの平常心を持ちながら、そのとんだ魔境へと立ち入った。

そこは真っ昼間からナイトクラブだった。


二人はそこで踊った。

なんならこの会場にいる誰よりも派手に踊った。飲んだ。暴れた。

女を引っ掛けた。男を誘引した。

ムガロが良い歳したおっさんにトイレに連れ込まれた。


個室の中で、ムガロは男に感情の読めない妖艶な笑みを浮かべる。


「こんな所で始める気?」

「こんな所だからさ」


男はこんな不適切な場所でムードを高めるための始まりのキスをしようとした。

え、ちょっと待って、いきなり舌を絡ませるやつ〜?


「待って」


ムガロは男の唇に人差し指を当て、静止させる。


「その前に、気をつける事とかない?」

「・・・?ああ、避妊か…ごめんごめん」

「違うわ」


ムガロは男の背後の方に指を刺した。

そこにはケバブの鉄の棒を持ったソーマがいた。

ソーマは素早くそいつを男の後頭部めがけて思いっきったスイングをする。

男は頭から血を出しながら倒れた。


「悪い男ね!背後には気をつけなきゃ!」

「おらおらおらおら!てめえ良くも私の体欲しがったな!思いきった頭しやがって!」


ムガロは地面に転がっている男になんども蹴りを入れた。

それに続いてソーマも蹴りを入れまくる。


「ほっ!ほっ!ほいっ!うぃーっ」

「あもういっちょ!」


しばらく二人は若干楽しそうにその男を蹴りまくった。



--



ソーマとムガロが肉持ってやって来た。


「お〜いおっちゃん!肉持って来たよ〜」

「よおお!こりゃどえらい肉の塊もって来たわいなあ」

「さっき、失禁して恥をかかせたからね」

「言わないでくれよ〜」

「これでケバブ作ってよ」

「いいよ〜ん」


数時間後、その肉がケバブになった。


「どう、お味の方は」

「ん〜、美味しいかも!」

「どれどれ、けえも一口」


(いや、その肉はやめたほうが…)


ソーマは内心少し焦った。


店の主がその謎の肉を味見をする。


「おい、なんだこれは…」


主が突然、真剣な顔になった。


「うまい、美味すぎる。何の肉だ?」

「そんなに美味いの?じゃあ僕も貰おっと」


ソーマもそれを口にする。


うまっ。


「じゃあねおっさん、これは貰うわ」

「余った肉は使っていいから」


そう言ってムガロとソーマは去っていった。

ムガロが持ってきた肉はとても好評で、その日のうちに爆売れした。

美味すぎた故に、中毒性があったようで、それを一口でも食べた者はその肉をさらに欲しがった。

しかし困ったことに、その肉がなんの肉なのかが分からなかった。


「この肉なんの肉?人肉です」

「あははっ」



あれからもあいも変わらず彷徨っていた二人だった。


それからも、街を歩いていた。

人通りが多い大通りを通過中、二人はなにかに気がついた。


「ねえ、なんか忘れてない?」

「あっ!そういえば、探してるんだった、危ない危ない、またうっかり忘れちゃってた」

「観光なんてしてる場合じゃないよ」

「試験まで後一週間、それまでに」

「見つけなきゃね」

「私達の希望(ヒーロー)


推薦はもう手に入れた。後は資格だけ。


結局、いろいろ考えた結果、情報の宝庫、酒場へとやってきた。

そこら辺に飲んでいるやつにソルジャー試験を受ける友達でもいないかと尋ねたり、あわよくばご本人様に出会えないかと期待したり。当然といえば当然だが、あまり上手くいかなかった。


疲れて、もう諦めようかというフェーズに入った。

雰囲気の重い二人でバーで酒を飲む。


ソーマは体質的に酔わなかった。

体が酔っ払ってもそれを切り離すことができた。

今はまだ、それに甘んじるつもりはなかった。

ムガロだけほろ酔いになる。


そんな時だった。

ついに現れたのだ。


「しゃばばあばば!俺はゴンザレス家の長男!ソルジャーキングの息子!今年一の有望株!ツヴァイ様だ!」


静かな雰囲気のバーに、その男は似合わなかった。


「ツヴァイか…」

「あいつ昨日、ショーヤンクで見たぜ」

「ほんと、よく飽きないな」


他のお客さんは、ツヴァイの叫びにさも驚きやしなかった。

彼がお店の中で叫ぶ光景はこの街ではそれほど珍しくはない。

彼の趣味は幼少期から続く。自分の存在を誇示し、優越感に浸る事に喜びを感じ、それを生きがいとしていた。


「ひゅー!ゴンザレス家?すげえな!」

「さすがツヴァイ様だぜ!」

「しゃばば!すげえだろ!だがな!俺がすごいんじゃねえ!すごいのは俺の家と親父だ!」

「親父の威光を借りて、暴れまわるのはもう飽きた!」

「だから俺は、今日から自分の家名と親父の名前は言わない事にした!」

「みんな!俺は今年、ソルジャー試験を受ける!」

「そして、いずれ俺はあのソルジャーキングに、いやそれを通り越して、ソルジャークインーンだ!」

「俺は未来のソルジャークイーン!ツヴァイ様だ!!!」

「はは、頑張れよ、ガランの息子!」

「お前なら試験も楽勝だな!」

「当たり前だ!」


もちろん二人は反応した。


「やっと現れたわね、ヒーロー」


ムガロが不敵な笑みを浮かべながらそう呟いた。


「あいつから資格を奪うぞ、ムガロ」

「ええ、勿論よ」


ムガロとソーマはツヴァイが座っている席の両端を挟み撃ちした。

これで逃げられないように、しっかりホールドする。


「お兄さん、私と一杯どう?」

「へいへい兄さん、僕ともどう?」


「ああ?」


「マスター、いい酒を」

「かしこまりました」


「ねえねえ、試験を受けるんだってね、君」


ソーマが馴れ馴れしく話しかけた。


「なんだ手前ら、馴れ馴れしくすんな、俺は一般庶民を相手にする暇なんかないの」

「ええ良いじゃんちょっとぐらい」

「僕ソーマ!僕らだけ君の名前知ってるのなんか不公平だしね!」

「あれ?」


ツヴァイが不思議そうな顔をした。


「それはそうとして、手前ら、危険だな」

「俺は帰らせてもらうぜ、一刻も早く手前らから離れなくてはならない」

「どうして?」


ムガロが尋ねた。


「身の危険を感じるからだ」

「ああ、なるほどね、君能力者か」

「そうだ、俺はギフト持ちだ、俺の能力が教えてくれた」

「うわ、かったりい」

「僕の能力は〝契約〟だ。君の能力を教えてくれないか?」

「・・・・・」

「場所を変えないか?」


ツヴァイがそう提案した。


「さあて、話してもらおうか?なぜ俺を狙った?」

「その前に、僕の能力の説明をしよう」

「ん?」


ソーマは机の上に置かれた果物入りのバスケットから、りんごをツヴァイに渡す。


「例えば、君が持ってるそのリンゴと」


言いながら、ミカンを手に持つ。


「僕が持ってるみかんと交換するとしよう」

「君が僕のみかんを欲しがって、代わりに自分が持ってるそのリンゴを差し出すっていうていでね」

「これは約束だ、僕がみかんをあげる代わりに、そのリンゴをくれ」

「ああ、約束する」


ソーマがみかんを差し出し、ツヴァイはそれを受け取った。


「なあ、約束を破ったらどうなるんだ?」

「試してみろよ」


ツヴァイはみかんを食べようとした。

その瞬間、何かが体を蝕んだ。


「がああああああああっ!!!!」

「なははっ、激痛でしょ?」


耐え難い苦痛だった。


「はあ…はあ…とんでもねえ能力だ」

「その通り!」


「ねえ、そのりんご頂戴?」


ムガロがツヴァイに要求する。


「なんの冗談だ?普通にソーマに渡すわ」


流石にソーマと結んだ契約を破るほど馬鹿ではなかった。

ツヴァイはもうすでに契約について理解していた。


「どうも」


ソーマはりんごを受け取った。


ムガロは微笑んでいた。

それを見たツヴァイは嫌な予感がした。

なんかやべえ。

この時、とんでもない事をしてしまったと感づいていた。

しかし、わからない。


「そろそろ聞かせてもらおうか、俺を狙う理由を」

「知りたいなら何かを差し出せ」

「じゃあ、そのりんごでいいだろ?」

「だめだね、りんごの代わりに、僕はみかんを差し出した、不適切だ」

「このみかんは元々俺のだ」

「何言ってるの?」


ムガロがつっこんだ。

ソーマはそれを遮り、自分の意見を主張する。


「そういう理屈じゃない、順序と条件の話だ」

「ねえ、そもそも、そこの食べ物は、私たち客人にたいしてすでに差し出したもの、つまりそこのみかんは私たちのものよ」

「もういいってムガロちゃん、僕は話を円滑に進めたいんだ」

「わかったわ、ソウルイーター」

「でっ、話を戻すか」

「さっそくだが、俺は何を差し出せばいい?」

「君の能力を教えてくれ、そしたら君を狙った理由を話す。もちろん秘密は守るし、君が不利益になるような事も何もしない、むしろソルジャーになる手助けだってしてやる、僕の能力、契約を使って百パーセント絶対だ」

「俺を狙ってるやつに自分の能力を教えるバカがどこにいるよ」

「そもそも契約の発動条件もわからない上に手前の存在は未知数だ、そんなリスクを犯せるわきゃない」

「なあ、ソウルイーターよ、強引にでも手前の舌を引き抜くことによって情報を引き出すことだって、出来ないわけではないんだぜ?この屋敷では、親父の次に俺が偉い」


ソーマとムガロの周りに、いかついゴロツキ共が現れた。

こいつらはツヴァイの手荒な使用人だ。


「そっか、残念だよ、僕の願いを聞き届けてくれないなんてね」

「しゃば!しゃばばば!手前はさっさと吐けよおら!」

「僕は悲しいよ、そして君は愚かだ」

「君が僕にくれたりんごは、本当に僕が欲しかったものかな?」

「何が言いたい?」

「君が僕に差し出したものは、契約したリンゴとは別のりんごだ。だから、この契約はまだ終わっていない」

「は?何を言ってんだ?」


ムガロがポケットからリンゴをだした。


「僕は言ったよね、そのリンゴじゃなきゃ駄目だって」

「今ムガロが持っているリンゴがそれだ」

「は?え?」

「君が僕の契約の効果を試して痛みに悶えている間に、ムガロがそのリンゴをとっかえひっかえしたってわけ」

「まだ分かっていないようだから、もう一度、契約内容について説明しよう」

「『僕がみかんをあげる代わりに、()()リンゴをくれ』そして()()リンゴ、はムガロが気を利かして違うリンゴと入れ替えた」

「つまりね、ムガロが持ってるそのリンゴをね、ムガロが食べちゃったら、君はもう僕に契約を守るのに必要なそのリンゴを差し出せなくなる」

「つまり一方的な契約破棄だ」


ムガロがリンゴを一口齧った。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!」


ツヴァイが叫んだ。


「ぐあ、はあ…はあ…痛い、痛いぞ」


「あ、因みに契約を守らなかった場合は、死ぬから」


ツヴァイはそれを聞いて、顔を真っ青にした。


「もう分かっただろ?ムガロに奪われたリンゴを返して欲しければ、能力を話せ」

「・・・・」

「くそっ、まだ体の奥が蝕む、まるで体の中が虫歯になったみたいだ」

「早く奴からリンゴを返してもらって、手前に差し出して、さっさとこの契約を終わらしたいぜ畜生、完全にしてやられた、どうやら話すしかないみたいだな」

「なあ、約束だぞ?話したら、命は助けてくれよ」

「ああ、約束するよ」

「あと、そうだな」

「まだあるのか?」

「僕達が君を狙った理由だけど、ソルジャー試験を受ける資格だよ」

「君、試験受けるんだってね?」

「あ?それなら他の奴を紹介するぜ、俺は今年受けたいんだよ」

「駄目だね、僕は君から資格を奪いたい」

「勘弁してくれよ…」


「いまから、僕は君を殺すことにした、だけど、それを回避する道を与えたい」

「よし、そうだな、契約内容は、僕達に自分の能力について一から十まで説明し、そして試験資格を譲渡し、代わりに僕は君を延命させる」

「強欲め…」


ムガロがリンゴをかざす。


「分かった、話す」

「俺の能力は、〝天啓〟と〝認識阻害〟恐らく世界でただ一人の、デュアルキャスターだ」

「おお、驚いたね、二つも持ってんの?天は二物を与えず、能力は一人につき一つまでというのが、世の常だったのに」

「俺は本当なら、双子で生まれるはずだったんだ。だけど、途中で俺が吸収して、一人っ子として生まれたんだ」

「ああ、たまにそういう事があるそうだね、そしてたまたまどちらもギフテッドだったって訳ね」

「まあ、そんなとこだ」

「天啓は言葉通り、神からお告げが来る」

「お前らが危険だとわかったのも、そのお告げだ」

「でも、この能力はあまり役に立った事がない。欲しいときに来るわけでもないし、必ずしも俺に利益になるような事を教えてくれるわけでもない」


欲しいときに来ないのは、自動発動型の能力だからだろう。


「なぜなら、これは俺のための能力ではない、神が都合の良いときだけにしか降りてこない天啓だ」

「へえ、なるほど」

「認識阻害は、どんな能力なの?」

「認識阻害は、人間には過ぎた能力だ、だから俺は一度も使ったことがない」

「それは、気になるな」

「俺の存在を認識できなくなるって能力だよ、これを使えば手前らの前でいつでも消えることだって出来る」

「消えたところで、手前が持ってるリンゴを潰されちゃ終わりだけどな」

「そして、認識阻害には代償がある。それは、一度使ってしまえば俺の名前が一生、人々の記憶から消えることだ」

「今まで愛されてきたこの俺の名前が、消されるのは良くない」

「そして、この能力を使用するにあたって最も気をつけなければならない点は、使いすぎると俺の存在がマジに消えちゃうって事だ」

「これは流石に困る」

「なかなかリスキーな能力だね」

「まあな、でも、こんなことならさっさと使って逃げればよかった、でも、もう手遅れだよ」


こっちは任意発動型か。


「僕の能力もなかなかリスキーだけど、それと中々いい勝負するかもね」

「僕の能力は、僕自身の命を担保してるから」


「よし、そろそろ、僕達の一番の目的を果たしてもらおうかな」


ツヴァイは使用人に受験票を持ってこさせた。

そして宣言する。


「この試験資格を、ソウルイーターに譲渡する」


その瞬間、受験資格が淡い光を放ち、やがて散った。

ツヴァイはそれを見納め、ソーマに手渡した。


「ありがとう」


ソーマは渡されたものを確認する。

契約の効果が切れたことを確認すると、それが本物であることを認めた。


受験票には、ツヴァイの名前が二重線で消され、その下にソウルイーターと書かれていた。


「なんでソウルイーターなんだよ、ま、いいけど」

「よし、じゃあ帰るか」

「うん」

「あ、そうだそうだ、ツヴァイ、僕は君の命を助けてやると言ったけど」

「あれは嘘だ」

「は?」

「契約内容では、僕は君を延命させてやるって言ったんだ、もう十分生きただろ?」

「貴様ああああああああああああああああああああ!!!!」


「あははっ、冗談冗談っ、そんな面倒なことしないって」


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」


ムガロが、そのリンゴを齧ると、ツヴァイは絶命した。

まじで冗談のつもりだったんだけど。


「あ、あれ!?ムガロ、何してくれてんの?」

「あ、うっかり」

「うっかり食べちゃったかあ…」


ソーマとムガロは床に転がった死体を眺める。


「これ、どうする?」

「・・・・・」


どう考えても、名家のゴンザレス家の長男を殺したのはヤバい。


今はまだ、ツヴァイが使用人をお払い箱してくれて、この部屋にはムガロとソーマしかいないけど、すぐに誰かがこの部屋にやってくる事は確かだ。

まず十中八九、この殺人の犯人は僕達になるのは間違いない。


僕達はとりあえず、この死体を椅子に座らせた。

口の周りについてる血を拭き取って、それなりに身ぎれいにする。

そしていろいろと工作をさせてもらった。


ゴンザレス家当主の、ガランを呼んだ。


「男の手前と、女の手前は、手前らで間違いないか?」

「・・・・・」

「はあ、なぜ俺の愛しのバカ息子を殺ってくれた?」

「御当主様、これは事故です、死なせるつもりはありませんでした」

「どういうことだ?」

「これを」


ソーマは一枚の紙を渡した。

その書類を眺めたガランは見るからに機嫌を悪くした。


「やってくれたな…」

「どうも」


ソーマは得意げに返事した。


「おい執事、なんでコイツラに血版印紙(けつばんいんし)を渡した?」

「大変申し訳ございませんガラン様、それはツヴァイ様に頼まれて、予め用意していたものです。必要になったら渡すように命じられていました」

「ハア・・・」


ガランは深くため息を吐いた。


「こいつは将来どこの馬の骨かもわからん所へ婿に入れるつもりだったんだ」

「殺されたのが長男で良かった。次期当主は次男を予定していたから、不幸中の幸いだな」

「だがしかし、息子をソルジャーに推薦するのに、この家と俺の名前を使った、おかげで面子は丸潰れだ」

「それにしても、うまいことやったな」

「契約を一方的に破ったことによる死亡…か、これでは下手なことはできん」


血版印紙とは、この大陸でもっとも信頼されて、もっとも絶対的な契約書類である。

当然、一般の人には入手困難で、値段はキマイラ紙幣一枚分(200万円相当)となっており、大変貴重な書類である。

印に本人の血判を使い、その契約は絶対となる。


契約内容は『ソウルイーターとムガロがツヴァイを入試で合格するように手伝う、その報酬としてゴンザレス家が後ろ盾となる、契約を破ったものは死ぬ』


このように、血版印紙にそう書かれていたら、そういうことになるのだ。

しかし、死人の血判でも効力を発揮したのはイレギュラーだった。

そしてこれの一番やっかいなポイントは、ツヴァイはすでに死亡しているのでこの契約は無効とされることだ。

おかげで、ソーマ達のアリバイだけが残った。


「手前らを罰することは諦めた、よって、手前ら、俺の養子になれ」

「息子が馬鹿やった償いとして、ゴンザレス家は手前らの後ろ盾になるって寸法だ」

「これで俺がいきなり養子をとっても不自然ではない、どうだ?悪くないだろう?」

「いいよ、ただし条件がある、後ろ盾以上のことは何もしないでくれ。ただ大人しく支援を送るだけで、僕達には必要以上に関わらないでね、あと僕のわがままには出来るだけ付き合ってれ」

「僕は君の言いなりにはならない」

「とんだわがまあ王子だな」

「君はゴンザレス家当主としての面子が保てれば、それで良いんでしょ?」

「ああ、その通りだ」

「後もう一つ」

「まだあるのか?」

「養子になるのは僕だけだ」

「ふむ、まあ良かろう、元々俺は手前に期待しているからな」


(え?私よりコイツなの?)


ムガロは少し納得がいかなかった。

というか、ムガロは拗ねていた。

自分はずっと黙ってるだけだったからだ。


「よし、善は急げだ。今から手続きをしよう」

「アルファード」

「はい」


執事が養子縁組の書類を手渡す。

それから、手続きをすませた。


「これで俺達は親子だ」

「はい、パパ」

「そうだ、俺はパパだ」


ガランは満足そうな顔をした。


「ねえパパ、お金頂戴?」

「?」

「たくっ、生意気な息子だぜ」


ガランは10万ポンドを渡した。


「うっひょー、パパ大好き!」

「・・・・・」


ムガロは心底嫌そうな顔をしていた。


「父ちゃんはこれから、役所に行って書類を提出してくるから、その間、あまり悪さするなよ」

「じゃあ、僕たちは帰ろっか、ムガロ」

「うん」

「おい、聞こえてんのか?まじで大人しくしてろよ?」

「へ〜い」

「はあ、たくっ、近いうちに手紙を出すからな?」

「じゃあね〜、ばいば〜い」


今回は、ソーマにとって収穫が大きかった。

資格を手に入れたし、強大な後ろ盾も得た。

僕達はついていた。



--ショウ視点



一人って最高。

やっぱり孤独であることが自由なのだ。


俺はこころなしか気分が高揚していた。

今日は人をいっぱい殺して疲れたので、高い宿に泊まろうと思った。


そこの宿にはソーマとムガロがいた。


「おい、なんでお前らがいるんだよ」

「うおお、ショウ!やっぱ僕らは赤い糸によって結ばれているんだね!」


キモい事言うな。


「なんで赤い糸なんだよ、せめて運命で結ばれてるとかにしてくれ」

「はあ、疲れるわぁ…」

「お疲れ、ショウ」 

「ああ、お疲れ」


せっかく奇遇なので、今夜は話し合いおよび化かし合いをした。


「ショウ、大会はどうなったの?」

「おう、こっちはまあ、まずまずだな、無事百人コロシアムの出場権を得ることに成功した」

「あら、やるじゃない」

「っで、そっちはどうだ?」

「私たちは、資格と推薦を手に入れたわ」

「マジかよ、すげえな」

「誰から推薦もらったんだ?」

「私は大賢者マギから貰ったわ」

「は!?あの大賢者から?お前マジでスゲえな!」

「マギから推薦って、まず間違いなく大注目されるな、影響力は国王をも凌ぐと言われていなるし」


凄すぎる、嘘をついているのではないかと疑うレベルだ。


「僕は、ゴンザレス家の後ろ盾を手に入れた」

「貴族の後ろ盾か?そりゃあ良い、権力に対してはソーマをぶつける事にするか」

「貴族ではないけど、それなりに力を持った家なのは違いないね」

「うん、下手な貴族より強そうだったわ」

「なにせ御当主様がソルジャーキングだからな」


「明日はどうする?」

「ショウは?」

「次の大会は明後日だからな、とくに予定はねえよ」

「じゃあ、明日は、ショウが大会で失敗したときのために、みんなで賞金首でも探そう」

「それはいい案だと思うわ」

「おい、俺は勝つぜ?」


俺達はスリーベットワンルームの部屋で休み、明日に備えた。



--



「それにしても、どうやって賞金首を探す?」

「私に聞かれても分かるわけないじゃん」

「大丈夫だって、賞金ギルドに行けばいい」

「それ、たしか一般人じゃ近づくことさえ出来ない所じゃない?どうやって入るの?そもそも場所は知っているのかしら?」

「どうやって入るんだろう…」


とりあえず俺たちは街の掲示板を見に行った。

手配書とか貼ってるあるかも知れないからだ。


「これ、お前のことじゃないか?」


そこにはソーマの手配書があった。

仮面がかぶってあって、素顔が見えないので、手配書としてはあまり機能していないけど。

現にここにいるソーマと同じ姿なので、ひょっとすると賞金稼ぎに狙われる可能性がある。


「うわっ、やっべ、しかもB級じゃん」

「ショウ、コイツ突き出せば終わりね」

「ああ、思ったより早く見つかったな」

「え?マジで僕を突き出す気?冗談やめてよ」

「はは…って、おい!俺の手配書もあんじゃん」


そこには俺の似顔絵が賞金額があった。

ランクはC級、キングストーンで史上初の脱獄犯となっていた。

いや、やっぱそうなるか。


他の手配書どれもC級以下で、パッとしないものばかりだった。


「あなた達とんだ悪党ね、私まで仲間にされたらどうしよう」

「俺はお前の手配書がないのが一番不思議だよ」


ムガロは食事に人間の死体が必要だ。

だから、今まで殺人をたくさんしていたはずなのに、よくバレいな。


「まあね、私はあなた達と違って、要領がいいから」


大変信じがたいが、実際そうなのだろう。


「ソーマ、つーかお前、何やらかしたんだ?」


俺はソーマの手配書をよく見ると、罪状は特に書かれていなかった。

指定危険人物として、手配書が発行されていた。


「僕は何もしてないよ、ただ、僕の体質が少々特殊なんだ」

「それはどういう事だよ?」


俺はソーマに聞く。

ソーマは答えようとした。


「うん?お主、この手配書の顔と似ておるな」

「うわあ!ホントだ!手配書のやつだ!」


ある老人と女の子が叫んだ。

周囲は注目した。


俺達は二人組の男に、目をつけられた。


「おいおい!こんな所に賞金首がいるぜ?正気じゃねえぜ?」

「ポイント稼ぎに付き合ってもらおうか」


その男達は俺達をケラケラと笑った。

ソイツらはソルジャー試験の受験者だった。

俺とムガロはその哀れな男たちをボコボコにし、資格を奪い取って魔剣も奪った。


それから、俺達はその場から離散した。


俺達は誰かさんの家の屋根の上に横並びで座った。

ここら辺の建物は高さがほぼ均一で、見通しが良かった。


「僕はさ、体の中に悪食っていうクリチャーがいるんだ」

「それってつまり…あなたは半人半魔ってこと?」

「うん、そんなとこ」

「なあ、悪食ってどんなクリーチャーだ」

「最悪よ」

「この世で最も人類を滅ぼす可能性のある三体のクリーチャー、人々は元帝三種と呼んでいる」

「幻夢大亀、黒ミミズ、そして悪食」

「なるほど、そりゃ危険人物に指定されるわ、まだ人として扱ってくれてるだけマシかもな」

「ありがたいことにね」

「そうなると、ゴンザレス家の養子になったのは正解だったわね、身分があれば、賞金稼ぎも下手なことできないし」

「そうそう、あと、ソルジャーになるのは僕にとっても都合が良いんだよね、半人半魔って、排除される事がほとんどだけど、たまに組織にその能力を買われて身柄を保証されている奴もいる。この際、ソルジャーギルドに匿ってもらうのはアリだと思ったのさ」

「ゴンザレス家じゃ心もとないしね」


その後、魔剣は質屋で売り払った。



--



賞金ギルドへはあっさり行けた。通行人(みちゆくひと)に聞いたら普通に教えてくれたからだ。

拍子抜けである。


俺達はそこで手配書の山を見まくった。

ランクが高くて顔が印象的な奴だけを覚えた。

ムガロはハンサムを全部覚え、そしてソーマはここにあった手配書の顔を全部記憶していた。


それから街中を探し回っていたら、ソーマが賞金首を見つけた。それは偶然だったが、ソーマの記憶力と嗅覚があってこそなのは間違いない。俺とムガロは気づかなかったし。

そして、奴の首はソーマと同じB級だった。

ソルジャーギルドに身柄を引き渡し、俺達は賞金で3000万ポンドという大金を貰った。

キマイラ紙幣15枚、大儲けである。そのお金はソーマが全部飲み込んだ。



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翌日、俺は100人コロシアムに出場した。

今日はムガロとソーマが観戦に来ていた。


「ショウ、僕は全財産を君に賭けたから、絶対に負けるなよ!」

「心配ない、俺に賭けたお前は賢いぞ!」


俺はまわりのギャラリーに向けて高らかに宣言する。


「この金でお前らの嫉妬を買うぜ」



その言葉どおり、俺は順調に生き残った。

この日も鬼神のように戦った。

俺一人で30人は殺した。


やがて敵が最後の一人になったとき、俺はダウロのことが少しだけ脳裏によぎった。

最後に戦ったのはブギーマンという男だった。


「最後に、言いてえ事とかある?」


俺はその男に剣を向けそう言い放った。

決着はすでに着いていた。

あとはトドメを差すだけだった。


「マキシマム、ルーフェン、すまない…」


彼が死に際に放った言葉は、それだけだった。



Bad Salute, Goodness Justice

悪い敬礼、良い正義

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