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心世界  作者: rin極
第六章 修行編 ㊦
31/48

第31話 「心がないんだよ」

「なあムガロ、旅に出ようぜ」

「うん、いいよ」



「我がアブソ流格闘技の戦い方は実にシンプルだ」

「で、それって、具体的にどんな感じ?」

「まあ、端的に言えば環境利用闘法だ」

「つまり、この格闘技法にとって、環境を利用するというのがもっとも重要なことである」

「心で感じて、頭で考え、体で覚える。今、自分はどこにいて、何をしているのか」


「相手もよく観察しろ」

「武器は何を持っている。構え方はどうだ?魔法使いか?能力者か?それとも戦士か?それを瞬時に見極め、どう戦うかを考える」

「弱点を見抜け、スキを突け、相手が嫌がる戦い方をしろ」

「頭もよく使え」

「使えるもんは何でも使う」

「戦いに恥などない」

「勝てばそいつが正義だ」

「なんかカッコよくない」

「文句言うでない、勝てば良かろう!」


「いいか?お前さんら、この世で一番気持ちイイ行為は何だ?」


ムガロが元気よく答える。


「セックス!」

「違うわ!」

「え、え!?そ、そんなあ!」

「いいか!?勝つことだ!相手と戦って勝つことが!この世で一番気持ちいい事だ!!!」

「勝利、それはまるでハニートラップにでも引っ掛かったかのような甘い蜂蜜のごとき心地良さ!」

「相手に勝った、まさにその瞬間が、」

「戦って、勝った、その時が・・・」


「快っ感!!!」


「勝てん!(すな)ちさっさと心中!!!!」


「嗜好!まさに嗜好!」


「さあ!ワシを倒してみろ!!」

「勝利の快感をとくと味わえ!」


数分後、俺たちは師匠にボコボコにされた。


「っと言うは易し」

「ワシに勝てとつい口走ってしまったが、それは口で云うほど簡単ではないと知れ!かっ、はっはっはっはあ!」



俺たちはまず始めに、師匠と手合わせをすることになった。


今日は俺をみっちり鍛える予定だそうなので、ムガロはさっさと帰った。

龍草原にある大きな洞窟のなかで、師と向き合い戦いに備える。


「『習うより慣れろ』だ」 

「さあ、いつでもかかって来い」


師匠は余裕の笑みを浮かべながら、構えもせず自然な立ち姿で俺の攻撃を待っている。


舐めやがって。

そう思ったのもつかの間、すぐにこれは俺の誤りだと気づかされた。


俺の意識の外、まばたき一つで敗北したのだった。


まばたきをしたと同時に、師匠の姿が消えていたんだ。

気づけば俺は倒れていた。


油断した。

あの構えでこれほどの瞬発力をもっていたとは、思ってもいなかった。


「タイマンを張っとるっ中ときに、まばたきをするでない」


集中だ。

集中。


俺はゾーンに入る。

今度は俺が仕掛ける。


とりあえず俺は師匠の足元にタックルすることにした。


奴の姿勢を崩す!

出来る限りのトップスピードで!


師匠が右に避けようとする。

俺もそれに合わせて進行方向を調整した。


っと、その瞬間、師匠が俺が向かおうとした方向の逆に避けた。

フェイントだった。


グサッ!


師匠より前を通りすぎた時、背中に何かが刺さった。

師匠が投げた刀だった。

それは背中を貫通して胸から刀身が突きだした。


「フェイク!フェイク!フェイク!全部フェイクっ!くそっ!!」

「もう一度だ!」


「落ち着け、常に冷静でいろ」

「分かってる!!」



強い。

切実に思う。

これが強者って奴だ。


そうだ、忘れてたよ。


ただ猛烈に。


その強さに俺は、憧れたんだ。



「ショウ、覚えておけ、人間と云う生き物はな、不完全なのだ」

「たとえば首!」


その瞬間、師匠に首を折られた。


「他の動物と比べて貧弱すぎる」

「イッ、い"え"え"」


痛えよ。

なにすんだよ。


「これも修行だ」


再生。

畜生。

再生。


首を直す。

クソッ。


それから一日中師匠と手合わせをしたが、触れることすら出来なかった。

俺はそれから師匠に一矢報いるため我武者羅(がむしゃら)に頑張った。


こんなにも差があるとは思わなかった。


師匠は云った。

この世界は残酷で、弱いものは虐げられ、搾取される。

家畜も同然の生き方を迫られるだろう。

家畜とは、自由からもっとも縁遠い存在だ。

俺は家畜にはならない。


職を持たない俺が、何不自由のない生活を送るためには、何よりも強さが必要だった。


だから俺は頑張った。

憧れが少し背中を押した。


少し焦っていた。


俺はまだ若い。

まだ子供だ。

大人に成ったつもりだけど。


とにかく時間がないんだ。

あと、二年しかない。

世界を旅するには、あまりにも短い。


でも終わっちまうもんは仕方がない。


早く。

早く。

もっと早く。

強くなって旅に出たい。

そのための準備を、今必死にやってるんだ。


ハードな修行をこなす。

心が限界に近づいても、俺はその先を行く。


気絶しようと辞めるもんか。

たとえ、骨が折れようと肉が腐れようと!

意志の強さで乗り切ってやる!


この体に限界は無いんだ!


やれる。

やれる。

まだやれる。


もう少し耐えろ。

たとえ眠らなくとも死にはしない。


殺れよ。

そうだ、死ぬ気で病んた。

やった、心が勃起した。

でもな、俺は乗り越えた!



--



あれから数日が経った。

師匠との差は、少し縮まった。

でも、まだ師匠に触れることすら出来なかった。


ムガロが話しかけてきた。


「ねえ、あなた少し休んだら?」

「もう休んだ」


師匠も俺に話しかける。


「なあ、お主、少し詰め込み過ぎではないか?」

「しょうがねえだろ」

「無理をしなきゃ、間に合わねえんだ」

「今頑張らないでどうするよ」


「少し気を緩めたらどうだ?」

「切羽詰まった状態が続くと、精神衛生上あまり宜しくない」


「廻りが視えず、沈むぞ」


「沈んだら、泳げば良い」

「泳げなかったらどうする?」

「そうならないために、今頑張ってんだよ」

「そうか」


《まあ、死なねえ程度に頑張りな》


「いいからショウ」

「心に余裕を持て」



--



戦う時の姿勢や構え方について教わっていた。

師匠が云う。


「基本的に構えるな」

「いつ仕掛けるかを相手に悟られてはならん」

「体の力を抜いて、自然体で居ろ」


師匠によると、体の力を抜くことで、本来のポテンシャルが発揮できるそうだ。


それ故に、アブソ流の構えは自然体である。

それは一見して相手に遅れを取りそうな構えであるが、その認識は間違いである。

逆の立場を想像してみよう。


相手は構えていない。

だから向こうから仕掛けてくることはないと考えるだろう。

しかしその先入観が命取りになる。



俺がその自然の構えに慣れた頃、師匠が俺に言った。


「姿勢、足さばき、脱力」

「速さに必要なのはこの3つだ」


また戦う。


「見ろ!これが脱力だ!どうだ!!」


脱力で初速を最速に。


「躍動感!!!!」


脱力した状態からの打撃には、予備動作がなく、その衝撃は体の内部まで浸透する。

相手に隙ができたら、脱力をやめてワンパンで終わらす。


師匠の言葉を聞き入れて、実戦でやってみる。

なるほど、これはすごい。

脱力って大事だな。


確実に、俺は強くなっていっているのだが、結局師匠には一度も勝てなかった。

方向性は間違っていないはずだ。

俺は方針を変えずに、ひたすら頑張った。



「相手の間合いに入れ」

「間合いに入ったら、下に視線を落とし、脚の動きを観て次の動作を読む」

「立ち回りも重要だ」

「狩りをする刻の様に、相手の背後に回るのも良いだろう」

「そして、蝶のように舞い、蜂のように刺すのだ」


意思を持って石を投げる。


「使えるもんは何でも使え!」


立体物などを積極的に利用する。

相手をよく観察して、弱点を探す。


師匠にはまったく隙がなかった。

弱点など、ほとんど無いに等しい。

ホントこの爺さん、なんでこんなに強いんだ。



ここ数日の訓練で、最近気づいた事といえば、循転をすると身体能力が上がる事と、どうやらこの体にはまだ伸びしろがあるって事だけだ。



ある時、師匠が俺に云った。


「いいか?喧嘩をするな」

「お前さんは、ソルジャーになれ」

「そして、標的を狩るハンターのように生きろ」


「弱者は強者に狩られ、その強者を狩れるハンターに成れるように」

「ワシはのう、お前さんを、そういうふうに鍛えるつもりでおる」

「・・・・」

「そうか、頑張れ」


別にどうでも良かった。

だから俺はその言葉に、頷かなかった。


心なしかいつもより修行が厳しくなった。


それから、何日か経った。

ムガロも格闘訓練に加わった。

途中参加だ。

いや、強制参加か。

彼女は嫌がっていた。

とはいえ、アイツは意外と運動神経が良くて、戦闘の才能がある。

せっかくの才能を放おっておくのは勿体ないから、俺の方からもムガロに参加するように言った。


「ふむ、ムガロはのう、鬼人の名残か、身体能力がそこそこあるようだな」

「ただ、才能はあってもセンスは無い」

「ショウのような戦闘センスは持ち合わせていないようだ」


ムガロはもう体力が限界なようで、地面に横たわって息を切らしていた。


師匠のありがたい言葉も、ムガロには届いていないだろう。


「ワシはいろんな武術を心得ておる、お主の里の護身術である鬼道も知っておるぞ」

「型を教えてやろうか?」

「ええ…別に興味ないです」


休憩時間になった。

ムガロと少し会話する。


「ムガロ、大丈夫か?」

「大丈夫なように見える?」


「喋れるなら大丈夫だろ」

「はあ?んなわけないでしょ、骨何本かイッてるし、体痛し、もう立てないのに」

「あのクソジジイ、私が可愛くないのかしら」


お前はどう考えてもかわいい系じゃないだろ。


「あれでも師匠、結構手加減してるぜ?」

「俺なんか…毎回殺されるんじゃないかって思う程にこっぴどくヤられてるからな」

「確かに、あなたも暫くは動けなさそうね」


そうだよ。

その通りだよ。

だって俺、今首から下動かせないもん。



--



修行を始めてから一週間経った。

俺はかなり動けるようになったと思う。

毎日、俺は少しづつ強く成れているという実感がある。

努力して着々と成果が出てきているのが分かって、なんというか、毎日が充実していて楽しいと感じるようになった。


体の使い方もだいぶ覚えてきたし、そろそろ、次の段階に進みたい。

もう、俺の中にいるヒバナを叩き起こす頃合いだ。

せっかく手に入れたヒバナの力を、もっと上手く有効活用できないかと思い、俺は祖龍子エネルギーの活用方法を模索し始めた。

鬼ごっこ、アブソ流格闘技の修行と並行しながら、試行を続けた。


この体の問題点はいくつかある。


まず、圧倒的な燃費の悪さだ。

エネルギー効率がすこぶる悪い気がする。

他には、体の耐久力が低いということだ。

無論、細かいことを言えば問題点などいくらでも炙り出せる。

とにかくまずは燃費の悪さをなんとかしようと考えた俺は、さっそくヒバナを起動した。


『ヒバナ、起きろ』


《何だ?緊急事態か?》


『違えよ』

《じゃあ何の用だ?》

『聞きてえ事がある』

『この俺の体ん中に眠っている力について』


俺はヒバナにこの身体について詳しく教えてもらった。


まず、この身体の燃費が悪い理由は、身体を動かすのに必要な電源の消費エネルギーが大きすぎるからである。

このエネルギー消費量は実際の運動量に影響されないので、つまり、何もしてなくても滅茶苦茶エネルギーを使うってことだ。

流石に無駄が多すぎるので、通常時は電源のワット数を下げる事にした。


それと、龍子核に蓄えられている元のエネルギー(祖龍子エネルギー)が身体のどこかにある龍子変換器という臓器に送られ、そこから必要なエネルギーを取り出すときに8割程のエネルギー損失が生まれるらしい。


なんで、そんなに無駄が多いのかと疑問に思ったところ、ヒバナがその理由を教えてくれた。


もともと俺は普通の人間だった。

それ故に、俺の身体はヒバナが受肉する器としてはあまり適していない媒体であったらしい。

したがって、俺の身体とヒバナの同期が不完全な形で終了し、龍人化した俺の身体は最適化されなかったという事だ。


ヒバナは頑張って最適化をやっているらしいが、終わるのはあと1年後らしい。

要するに、この身体はまだ不完全ってことだ。

俺はそんなに待ってられないので、全力で協力するつもりだ。


とりあえず、省エネ化とエネルギー効率の向上はやるとして。

まず俺がやるべき事は、体内エネルギーを増やすことだな。


電池を増やせばそれだけ使えるエネルギーも増える。

そうすればファイアブレスだって何度でも撃てるようになるはずだ。

それこそ高出力のブレスだ。


さて、どうやれば増やせるのか。

考えないとな。



--



さきの思考会議で可決した蓄電チ大幅拡張計画の案、あれがどうなったかのかを報告しよう。


まず結論から言うと、成功した。

どういう手品を使ったのか、今からそれを説明する。


祖龍子(ソリューシ)を圧縮出来るように身体を改造したのだ。

具体的に言うと龍子変換器をイジった。


我々は実験に実験を重ね、ソリューシというエネルギーは極限までに圧縮すると、反発力が溜まって爆発的なエネルギーを生むということを知った。

ソリューシを圧縮すると、新たな性質を持つエネルギーへと変化するのだ。

我々はそのエネルギーを〝超新星〟と名付けることにした。


この新エネルギーが、革命を起こすレベルですごいのだ。

超新星が1グラムあったとすると、それだけでソリューシ8トン分のエネルギーがある。

つまり、元のエネルギーの100万倍である。


それだけではない。

この身体は、呼吸をしたり、食事をしたり、太陽光を浴びたりした時に得られる魔素エネルギーを、龍子変換器でソリューシに変えて蓄えることが出来るのだが・・・・

そこで俺は思ったのだ。


圧縮器を常時稼働していれば半永久的に発電できるんじゃね?

天才かよ。

少ないエネルギーで莫大なエネルギーを作る、まさに理想の発電機だ。


こうして俺は、入ってくる祖龍子エネルギーを超新星に変えることで、ある意味体内エネルギーを自家発電することに成功したのだ。

それにより、無茶なことしてソリューシを使いまくっても、すぐに充電することが可能になった。


さらに、超新星はソリュウーシより何倍も小さいので、同じ容量のバッテリーでもたくさん入るようになった。

この身体には、バッテリーの役割をもつ龍子核というものがあり、そこに超新星を蓄えられる。

この龍子核も少しイジって容量を増やした。



--



「軸を意識しろ」

「体の軸を意識することで、バランスを崩さないようにできる」


体幹をつけるためには、軸が大事だ。

それにしても、この感覚を掴むのにはとても苦労した。



体の中にある軸を感じ取れるようになると、キックやパンチなどの基本的な攻撃の威力が5倍増しになった。

軸に沿って回転すれば、ブレのない強いキックができる。



--



禁じ手を教わった。

金的、後頭部、脊髄、関節、目、鼻の横と下、みぞおちを狙うことが、戦いに勝つコツらしい。


膝蹴り、肘打ち、噛みつき、頭髪つかみ、爪、使えるもんは全部使う。

やり方も教わった。

実際にその威力を体験した。


防御の仕方も教わった。

防御はシンプルだ。

とにかく頭を守ればいい。

そこさえ守れば後はどうにかなる。


それから、強いて言うなら、背後を取らせないことだな。

まあ、そんぐらいだ。



--



ショウの体は完全体になった。

自家発電によって、ヒバナの頭脳に使われる膨大なエネルギー消費を補えるようになり、さらに、循転を常時行うことでヒバナの器を完全な形に修正することに成功した。


でも、師匠はあまり良い顔をしなかった。


「ついに、か…随分と早いな」

「ワシがかけた暗示も、もはや忌みを持たない」


そう、ヒバナの覚醒だ。


「ヒバナ、話がある」


《何だ》


「ショウを殺さいないでくれ」


《それは俺様の自由だ》


「頼む、ワシのかわいい弟子だ」


《言ったはずだ、俺様はてめえの意見なんざ聞かねえってな》

《ショウがてめえの事をえらく気に入っているようだから、俺様は何も言わなかったんだ》

《忘れるなよ、てめえはショウに生かされてるって事を》


「ヒバナ、頼む」


《嫌だ》


「昔からの知り合いではないか」


《因縁のな》

《てめえは嫌いだ》

《だから聞かねえ》


《だが俺様は、ショウの言う事なら聞く》

《なあ、ショウ、お前はどうなんだ》


ショウはそれを聞いて、少し考えた。


「師匠、俺とヒバナ、二人で話したい」

「分かった」


アブソリュートはそう言って、彼から離れた。

ショウとヒバナで、二人で会話をする。


「ヒバナ、お前の好きにしろよ」


《はっ、それがお前の答えか》

《分かっているくせに》


「ああ分かっているさ」

「お前が…」

「俺を殺さないってことぐらい」


《お前の考えていることぐらいは分かる》

《お前の脳みそを俺様の頭脳に共有しているからな》


「じゃあ、俺の秘密も知っているわけだ」


《そうだ》


「何を企んでんだか…」



--



俺の体が完全体になったことで、色々と出来ることが増えた。

俺の体の筋肉密度を増やして身体能力も上がった。

極度の遠視も直った。

その他にも――


●龍化

ドラゴンになる。使う機会はなさそう。


●鎧

体を龍の鱗で纏って鎧にする。

部分的に鱗を纏うことも可能。

ヒバナの鱗はつや消しブラックなので、かっこいい鎧になった。

しかもこの鎧、とても硬いのだ。

なにせ、師匠の刀ですらこの身体を貫けなかったのだから。


●バトルモード

体重を増やす。

攻撃力が増す。

単純な話だ。

ボクシングでも体重のあるやつの方が強い。


え?どうやって俺の体重を増やすかって?

それはだな、俺の身体のどこかにある特殊器官、龍種にとってはとても重要な役割をもつ龍子変換器がカギになるんだ。

龍子変換器は、エネルギーを持つものであれば何でもソリューシに変換することができる。


ええと、何を言いたいのかというと。

だから、体重ってのは重さだから、それだけでエネルギーを持つって訳。

つまり、体重をソリューシに変えることが出来るのさ。

逆に、ソリューシを消費して体重を増やすことも可能だ。

これには俺の〝編集〟の能力が役に立つらしい。


●ラビットダッシュ

足の裏から爆発的に炎を出して高速移動する。

足の裏は〝孤月(こげつ)〟だ。



このように、俺はかなり強くなった。

鬼ごっこで鬼に捕まる事はなくなったし、師匠とのタイマンでも勝てるようになった。


もう、師匠から教わることは、少ないのだと思う。


師匠から教わった技。NEW!


貫通打撃(ディープインパクト)

まっすぐ立ち、片足を前に出し、膝だけを曲げると拳が前に出る原理を生かした打撃技。

インパクトの瞬間、体を極限まで硬直させると、ものすごいエネルギーが生まれる。

己の全体重がそのままエネルギーとして伝わり、音速を超え、衝撃波による破裂音が鳴る。

コレを瞬時に打てるように成るまで修行した。

結構極めたので、空中でも打てる。


●脳天杭打ち

相手を持ち上げ逆さまの状態で、相手の脳天を地面に突き刺す技。

相手の首の骨が折れる恐ろしい技だ。

喧嘩で使うことは無いだろう。



以上!



--



「俺、旅に出るよ」

「まずはソルジャーになって、そっから、王都ラマに行くんだ。3つの都市を全部まわって、この国の文化を味わう」

「なあ、ムガロ、俺と一緒に行こうぜ」


お前と一緒に、旅をする。

それが俺のビジョンだ。


「お前はソルジャーの資質があるし、都市まで行けば人間もたくさんいる」

「いいの?私と一緒で」

「あたりまえだろ」

「ありがとう」

「私も行きたい」


彼女が返した言葉を俺は、肯定の意で捉えた。


「でも、私は、あなたと一緒にはいられないかも」

「どうしてだよ」


彼女は目元を擦った。


ムガロは泣きながら――


「だって、グスッ、死神がっ…」


――笑った。


溢れた涙を拭いながら。


それからも修行を続けた。


俺は諦めなかった。

説得を続けた。


「俺、世界中を見て回りたいんだ」

「自由にこの世界を駆け巡って、思うがままに暮らすんだ」

「なあ、ムガロ、一緒に来てくれよ」

「俺一人は寂しいよ」

「自由は孤独がついてまわるって言うけど」

「でも、お前がいれば退屈しないと思うんだ」

「・・・・・」

「あん時一緒に居てくれるかって俺に尋ねたよな。一人は嫌なんだろ?だからさっ、俺と一緒に世界を見て回ろうぜ」


「せっかくこの世界にいるんだから!」

「なあ!終末旅行にでも出かけようじゃねえか!どうせもうすぐ世界が終わるんだから!」


ムガロはまた、泣きながら――


「もう」

「…そんなふうに言われたら、つらいよ」

「なあ、行こうぜ」

「・・・・」


――答えた。


「分かった」


俺はそれを同意と受け取った。


「ごめん」

「やっぱり、貴方と一緒には行けない」


なんで。


プツ プツ。


心から、静かな怒りが湧いてきた。


「なあ、お前、喧嘩売ってんのか?」


どうにも、コイツが俺のことを馬鹿にしている気がしてならない。


「違う…」


ムガロはそう言った。


「何が違えんだよ」

「・・・・」


ムガロは泣きそうな顔で俺を睨んだ。


「なんか言えよ」

「思ってること全部話せ!」

「言いてえことあんなら言え!」


「はあ?意味わかんないんだけど!」

「分からねえ筈はねえ」

「収まらねえ気持ちを携えて、俺は必死に抗った、お前はそれに応えなかった」

「あんたが何?くだらないポエム聞かされて、ついてこいって?」

「まだ分からねえか」

「やるっつって、そんで、やっぱ無理って、俺をバカにしてんのかって言ってんだよ!?」

「なあ!俺を馬鹿にしてんのかよ!」

「前にも合ったよなあ、こんなこと。言いてえ事あんならハッキリ言えよ!」


「わがままばっかり」

「めんどくせえ」

「やっぱお前とは無理なのかもな」


「なんでそんな、酷いこと言うの?」


だって、お前、本当は、

俺の事なんかどうでも良いんだろ?


「お前は、心がないんだよ!」

「・・・ッ!」


指さして言った。

ムガロは、「信じられない」って顔をした。


俺の怒りは頂点に達していた。


「ほら、やるよ」


俺はムガロにナイフを渡した。


「俺を拒絶するんだろ?」


ムガロはナイフを握りしめ、胸を抑えた。

そして、俺にナイフを振りかざす。


どうして、そんな、

苦しそうな顔をするんだ。


「あああああああああああああああああああ!!!!」


ムガロがナイフで俺の口を切った。

コントロールがなってない。

いや、わざとか。


腹が立つ。


「おい、こっち側が切れてないぜ」


俺は自分の口を爪で切り裂いた。



--



「なんでこんな事したの?バカじゃないの?」


ムガロに、口が裂けた部分を刺繍糸で縫ってもらう。


「ねえ、なんで直さないの?」

「・・・・」

「私への嫌がらせのつもり?」

「違えよ」

「じゃあなに?」

「…ケジメだよ」


ムガロに縫ってもらった傷口は、さながらジョーカーのようだった。

顔面を白塗りして、目の周りを黒く塗ったら完全にそれだ。


顔の傷は男の勲章と言うが、もちろん良いことばかりではない、ご飯を食っても血の味がするのだ。


「ホント馬鹿ね」

「さっさと直しちゃえば良いのに」


ああ、そうだよ。

正論だよ。


自分でも、意味不明なことしてると思っている。

でも、俺の意思は変わらない。


「なあ、ムガロ、旅にでようぜ?」


俺は懲りずにムガロを誘った。


「うん、いいよ」



--



師匠が寝たきりになった。

自分では起き上がれないらしい。


それと、朝起きたら、ムガロは居なくなっていた。


どこかへ行ってしまった。


机の上に手紙を置いて、それっきりだった。


『あなたへ』


手紙の中身は白紙の紙一枚だった。

何も書いていなかった。


封筒は確かにムガロの臭いがした。

肝心の手紙の中身の方は匂いがなかった。

それだけが気がかりだった。


わざわざこんなもん用意して、何もなしかよ。

ふざけんなよ。


俺には何も残したくなかったってのかよ。

言葉も、臭いも。


なあムガロ、あん時「うん」って頷いたよな。

なんで俺を置いてくんだよ。


ヒバナが呟いた。


《やっぱりそうなるか》


冗談じゃねえ!

今更俺一人置いて、構わず消えやがった。

信じた瞬間裏切りやがった!


クソっ、畜生っ!

せめて一言、俺に言えよ。


俺は悲しいよ。

本当に、残念だ。



--



「もう寿命じゃよ」

「わしは、長いこと生きた」


「洗濯狐みたいなことを言うなよ。天界にでも行くのか?」


「鐘の音が、聞こえる」

「ゴンゴンと頭の中で響いている」

「列車の音だ」

「あの世行きのな」


「チケットは?」

「いらん」

「帰りがないのだから」


「なあ、お主、修行は十分か?」

「ああ、正直、お前はもう用済みだ」

「ハハッ、そうか」

「これからは、お前さんの好きにしろ」

「ワシが教えられることも、もうほとんど残っていない」

「だが、十分だろう」

「かつて修練した技は、のちまで使える」


「老いて死ぬって、どんな気分なんだ?」

「悪い気分ではない」


「薪を燃やしたらいつか灰になる。そしたらどっかに撒く。ワシが生きてきた人生で、永遠なんて何一つ無かった。だからこそ、世界は美しい、されば、老いていく人々は美しかろうて」


「ワシにとって、美しく老いる事が何よりも大切だった」

「だからもう満足さ」


「師匠…」


「ショウ、人の常識はすぐに移り変わってゆく、だから常に常識を疑え」

「そして、夢を描き、知恵を磨け」

「さすれば、実りのある人生を送れるだろう」


「お前さんは、可哀想な子だ。お前さんの心の内は、とても人に見せられるものではない。しかし、そんなことなど気にする必要はない、人知らずして、もしお前さんが世に認めてもらえなかったとしても、ワシがお前さんを認めてやる」

「安心せい、このご時世、なんとかなるもんさ」

「さっさと行ってこい」

「ムガロを探しにいくのだろう?」

「ああ」


それにしても、

随分と、世話になったな。


「じゃ、行ってくるよ」


俺は師匠の家を出た。

ノアの街に赴き、ガルムの墓に寄った。


墓に刺さっていた剣の柄を握る。

そして、引っこ抜いた。


「やっと、俺を気に入ってくれたか、アバラ」


その大剣の名は、アバラ。

元の持ち主ガルム。


持ち手を選ぶ剣で、前回は引っこ抜けなかった。

でも今回は、そうじゃない。

俺はアバラに、主として認められたのだ。

強くなった証だと思えて、嬉しかった。


師匠から譲り受けた外衣を着て、ガルムの大剣を背負った。


「よし、行くか」


俺はノアの町を出た。




Departure

旅立ち

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