第3話 「十戒」
ここに来てから半年の月日が流れ。
俺は、13歳になった。
「あの、すみません。自分、ノアに来るのは初めてでして。宿の場所を教えてくださいませんか?」
「すぐそこに あるだろ、あの派手な看板ぶら下げてるやつ」
「ありがとうございます。」
そう言うと男は軽く会釈をし、宿屋の方へ向かった。
おそらく さっきの人は旅人だろう。
「なあ、ザーフィール。3日前、神様から十戒を定められたけど。最後の…三年後に世界が終わるって奴。あれ どう思う?」
「・・・・・・」
「・・・・」
「・・」
しばらく沈黙が続いた。
少したって。
ようやく、ザフィルの口が動いた。
「ザフィルだ、伸ばすな」
え・・?
それだけ?
もっとこう …何か無いの?
「だから、世界が終わるってどういうことだよ」
「お前、知らないのか?前にもこんな事あったんだよ」
「え?どゆこと?」
「どんな環境で暮せばそうなるんだよ」
「あのな、正確には人類が滅ぶってことだ。世界は終わらない」
「十戒のこと知らないっつーなら、ここがなんでノアの街って呼ばれるか知らねえだろ」
・・・もしかして。
みんな、こうなるって知ってたの?
マジで?
え?
「ああ、知らないな。知ってるなら教えてくれよ」
そう答えると、ザフィルがため息をした。
そして呆れた顔をしながら俺の疑問に答えてくれた。
「はあぁ… いいか?三千年前、神の怒りに触れた人類は。神様によって世界に洪水をもたらした。で、人々は世界に飲み込まれた」
「・・・?」
「じゃあ、何で俺達は生きてんだ?」
「えーと、この話には続きがあんだよ」
「ノアは このことが夢にでてきたらしくてな。ノア達は船で生き残った」
「その後、天使の慈悲で自然が蘇り。ノア達の中で子供が生まれた。」
「産めよ増やせよ、地を満たせ」
なるほど。
そうやって人類が再生したわけか。
あれ?
この話、知ってる。
「ノアの方舟 …か?」
「なんだ、知ってんじゃねえかよ」
おい、嘘だろ?
マジか。
どの世界でも神話の内容は同じらしい。
俺は、神話は人間が作ったつくり話かと思ってた。
まさか、実話だったとは…。
「じゃあ、なんでこの街はノアの街って呼ぶんだ?」
ザフィルは面倒くさそうな顔をしている。
「ノアたちの家がこの街にあったんだとよ」
「それだけさ…」
「でも何でまた、神は人類を滅ぼそうとしてるんだ?」
「俺達 人間は、みな同じ血を引いている。みんなノアの子孫なんだよ」
「だけど、俺達は増えすぎた。もう… 家族以外赤の他人さ」
「つまり、増えすぎたんだよ。俺たち人間は」
・・・は?
そんな理由で神は俺達に災いをもたらすのか?
そんなのーー。
「理由になってない」
「しかたねえだろ。神は、なにやっても許される。だって、この世界を作ったのは神なんだから」
「納得できないな」
神様から十戒を定められた時。
人々は嘆き、悲しんだ。
だが、3日たって、全人類は開き直っていた・・・。
「不思議なもんだな。三年後、世界が滅ぶってのに。何も感じない」
そう呟くと。
ザフィルが頷いた。
「ああ、そうだな、それは全人類が思っていることだ」
「不思議なもんだよな」
「あ、やべ。忘れてた。おい少年!!薬草を採りにいくぞ!」
そうそう、俺達は今 今日の晩飯代を稼ぎに、街の外に出るんだ。
「了解。」
俺とザフィルは、門の前まで急いで走った。
「ちょっ速い。もうちょっとゆっくり!!」
「あ?これしきのスピードで何吠えてんだ。」
「速すぎんだよ」
「もうちょっと気遣ってくれよな・・・!!」
ふう、毎回思うけど、どうなってんだ。
こいつらの運動能力。
ジャンプ力だって小さな建物なら、軽々飛び越えるくらいだ。
マイケル・ジョーダンもびっくり!
って、んな事考えている場合じゃなかった・・・!!
置いてかないでー!!!!
おっと、危ない危ない。
危うく叫んじゃう所だったぜ…!!
「ふう…」
追いついた。
ザフィルは既に門の前で俺を待ってくれていた。
「おっせ~ぞ。何待たせてんだこの野郎」
「しょうがないだろ。お前が速すぎるんだ」
ザフィルと適当な会話をしていると門番の人が喋りかけて来た。
「あんたら今日も薬草採りかい?」
「ああ、そうだ」
「気をつけるんだよ。この頃 魔獣が活発になってきたからね」
「何で魔獣が活発になってきてるんだ?」
「ん~、そうだね。昔から、春になると魔獣達が冬眠から覚めるんだ」
「あー、そういうことか」
俺は適当に挨拶をして門番の人と別れた。
薬草採取が無事終わり、俺達は宿屋に向かった。
あ、でも、宿には泊まらんけどな。
俺らにはそんな余裕なんて無い。
毎日ただ生きるので精一杯だ。
亭主に薬草を渡し、その代わりに飯などの残り物や余った材料や傷んだ野菜などを受け取る。
「今日の分はこればだ。さっさと行け! しっしっ」
「あざーす・・・!! また来るんで夜露死苦!」
ザフィルの奴、相変わらず強いな。
「もう来るなって言っただろ!!」
亭主さんは いつもこんな感じだが意外と面倒見がいい。
この前も薬草が採れなくて餓死するかと思ったときも、ゴミ捨てをしてくれたら飯をやるって言ってくれた。
あの時はマジで助かった。
明らかにゴミの量が多すぎだと思ったが……。
「亭主 いつもありがとな。感謝してるぜ」
俺はそんな言葉を言い残して宿屋から出た。
「ザフィル!さっさと行くぞ」
「おうよ!」
俺らはアジトに向かった。
勿論、俺がアイツラと初めて出会った場所だ。
アジトに着いたあと、俺はみんなで夕飯を食べた。
ちょと食休みっと思っていたら、ステファが俺に喋ってきた。
「おめえ、どうしたよお、シラけた面しやがってえ」
仲間のみんなが、俺の方に視線を集めた。
「・・・・・」
「あのさ、俺考えたんだけどさ。明日世界が終わるとしたら。みんな…」
俺は言葉が詰まった。
あの日の事を思い出していた。
--
アイツらと初めて仲間になってから一週間たった頃。
初めは、俺は彼らに対して、多少警戒していた。
だがすぐに打ち解けた。
本当に良い奴らだったのだ。
初めてご対面した時はマジで不良グループかと思ったが。
その日の夜、俺は仲間のみんなに聞いた。
「何で俺を助けてくれたんだ?」
そしたらステファが答えてくれた。
「ああ?理由はねえよ。」
「どういうことだよ」
「ふう…」
ステファはタバコの煙を吐いた。
「俺達はよお…」
「みんな、帰る場所がねえんだ。自分の親が生きてんのは、俺だけなんだ」
「え・・・」
「みんな、過去に辛いことがあった奴ばかりなんだ」
「俺はよぉ、みんなとはちげえ。俺だけが、何も背負ってねえ」
「ただ自分のわがままで家を出ただけさあ」
「俺ェあコイツらに何度も救われたあ」
「それがあ… お前を助けた理由だよ」
正直ビビった。
この人達は、この世界で生きている。
生まれた時から。
遠すぎる。
この人達が居る世界は、俺には遠すぎるんだよ。
とてもじゃないけど追いつけない。
12の俺には遠すぎた。
その翌日、俺はこの人達から離れるため、早起きして出ていこうとした。
何故かと言うと、その日の夜、俺はずっと寝れなかったからだ。
嫌な予感がしたんだ。
俺がこの人達と一緒に居たら、この人達が不幸になる。
そんな予感がした。
気のせいかもしれないが、もしそうなら……。
俺は、この人達に… 災いをもたらすかもしれないと、考えていた。
この人達はいい人ばかりだ。
もし、この人達がもっといい人生を送っていてもっと長生きできたなら。
この人達に救われる人がもっと増えただろう。
だから俺は、この人達から離れようとした。
でも、ステファがそれに気づいた。
「おめえ、こんな朝早くからよお、何してやがんだあ」
「・・・・」
「ごめんなさい、俺は、もう貴方達と一緒にいられません」
そう言って…俺は離れようとしたら。
急に肩を掴まれた。
「待てよ、少年」
セレヌンティウスだった。
気づいたらみんな起きていた。
「少年、行かないでくれよ」
「お前はもう俺達の仲間なんだ」
「なあ、分かるだろ?みんな お前待っている」
「みんなが居なきゃ、ダメなんだ・・・!!たとえ、お前1人欠けただけでも、俺達は終わる・・・!!」
なぜ終わるんだ。
俺が抜けたぐらいで。
俺は、この人達の役に立てない。
俺が居たって、足手まといになるだけなのに。
きっと俺は、この先もずっと、この人達の力になれないだろう。
なのに・・・。
「どうしてそこまで……」
「俺達の、仲間だからだよ。」
何でだよ。
「俺が居たって、何もできない」
「俺達は一つだ!!兄弟だ!!お前は、俺達の・・・」
何でだよ。
「家族だ・・・・!!!」
何で。
「何かして欲しいから仲間にしたんじゃない」
何で。
「俺達が……!!!!お前を」
どうして俺なんだよ。
「仲間にしたかったからだ……!!」
「どうして俺なんだよ…!!」
「俺の何処が良いって言うんだよ…!!」
「俺は親が居なきゃ何もできない… 何もできないんだよ……!」
「俺は無力で、強くもない…」
「歪んだ世界に俺は、何を待ってればいい?」
「限られた時間の中で」
「誰かに気づいて欲しくて」
「俺は、あとどのくらい待てばいい?」
「何もかも要らない」
「俺は、何もかも終わらそうとして」
「無理やり自分を変えようとして」
「でもさ、結局俺は何もできなくてさ」
「こんな俺の何処が良いってんだよ・・・!!」
不安定な俺の感情は、誰も描いていなかった。
でも、セレヌンティウスは俺を諦めなかった。
「迷いこんだ世界で俺達は、どんな壁にぶつかっても。必ず超えて泣いて去って、信じあって、いつか、絶えて消して散って!!どうなったって悔いは無くて!もう理由なんてもん要らないんだよ・・・!!!!」
「たとえ、変わり果てた景色で自らの運命に・・・最後は気付いたとしても・・・!!」
「お前が俺達の仲間って事を証明する・・・!!俺達の証明は時代を超えても物語る・・・!!」
「絶対的俺らの存在は、何年経ってもずっと、形を変え、世界に響き渡る・・・!!」
俺は、体の力が抜けて崩れ落ちた。
「いいか? 少年…お前がなんといようと ……俺達の仲間だ」
結局俺は、セレヌンティウスの言葉に救われたのだ。
なんせ、俺1人じゃどうせすぐ飢え死にするからな。
また、俺は、この人達に貸しを作っちゃったな。
それからも、俺はこの人達と生活した。
俺は、仲間のみんなを尊敬している。
生活は決して楽じゃなかったけど。
俺は幸せだった。
だからこそ、三年後に世界が終わるって知った時、思ったんだ。
今更になって、明日世界が終わるとしたら、俺はみんなと、どう過ごせばいいかって。
例えばだけど、三年後の最後の日。
明日がないんだよね。夢も無いんだよね。
もうアイツらには会えないんだって。
いくら手を振ったって、どうせ叶わないんだ。
世界を終わることを待つだけの日になるのか。
今日でみんな、さよならなんだ。
仕方ないんだ。
俺にはどうすることもできないんだ。
ならせめて、神に祈ろう。
一日だけでも良いから長く、一緒に。
みんなと居られるように。
If the world ends tomorrow
明日、世界が終わるとしても




