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心世界  作者: rin極
第六章 修行編 ㊦
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第29話 「リスタート」



イビルアイはその後、マスターピース駅に向かった。

彼女が駅のホームで列車を待っている際、イビルアイの身体は突如、変化した。

イビルアイは、人型クリーチャーになったのだ。

これは、バケモノの子を産んだ影響である。


彼女の理性は虚構に還った。

故に、その日、列車の中の人達は、クリーチャーとなったイビルアイによって惨殺された。

この事件の噂は、ベレッタを中心に瞬く間に広まった。

その後、イビルアイがどこに向かったのかは、誰にも分からない。




「なあムガロ」

「何?」

「もう、学校なんて辞めちまおうぜ」

「・・・・」

「うん、そうだね」



その日の終わりから夜が明け、日付が変わった頃に俺たちは退学手続きをした。

字を書くのが面倒なのでムガロに全て任せた。

学校側に承認されるまでの3日間、俺たちはゆっくり過ごすことにした。

つかの間のバカンスってやつだ。


ムガロの部屋は血なまぐさい匂いが充満していた。


「くっせえ」

「うそっ、臭う?」


ムガロは辺りの匂いを嗅ぐ。

やはり、なにも匂わないらしく、彼女の鼻はとうに血の匂いに慣れてしまったようだ。


ムガロは次に、自分の身体の匂いを嗅ぐが、それでも表情は変わらない。


「私の体は?」


ムガロが腕を差し出す。


「うん、生臭え」

「え?まじ?」


ムガロはよく、俺の部屋に来た。

彼女の部屋は散らかっていて過ごしにくいのだとか。


一緒にお風呂に入ることにした。

湯船を掃除して、薪割りして、炊いて。

ゆっくりと湯に使った。

体の洗い方も教えた。


風呂上がりに、素っ裸のまま二人仲良く麦酒を煽る。


「ごくごく。ぷっはあ、うめえ」


酒とつまみ、俺が木の板で作ったオセロを二人でして過ごした。

途中からムガロが強くなって勝てなくなった。


ムガロが失恋した悲しみで発症した(うつ)も、次第に良くなった。


大家さんにも伝える。


「俺たち、帰ります」

「あら、もう帰ってしまうの?」

「はい、なので、2ヶ月分の家賃返してください」


退学届を出してから3日後、俺たちの学園中退が認められた。



‐‐



列車が来る。

ムガロと共に、列車を待ちわびた。

予定の時間から約3時間ほどが過ぎている。


ずぶ濡れの靴下をストーブにかざしながら、彼女と笑いあった。

マスターピースの麓の、町一番の大きな駅の待合室で。


コヲオオオオオオオオ


列車の遠吠えが耳に届いた。

列車がやって来た。


way back home

帰り道



――



ガタンゴトン、ガタンゴトン。


列車の中、二人の男女が肩を寄せ合って座席に体の重みを預けていた。

二人とも疲れからなのかボーッとしている様子だった。

ただ、窓の景色を見て、その流れる情景が、二人の心の中を現していた。


小さな頃に憧れた大人には、やっぱ、なれそうにないけど、でもきっと、それでも良いのだろう。

これから先、どう生きようか、計画を立てている。

思い通りに描いた道は、結局そのとおりには進めなかった。

グダったり、まがったり、迷ったり、過去を思って立ち止まったり。

でもこの道は、ちゃんと目的地に繋がっているはずだ。


それにしても、15時間と一日、実に長い列車の旅だった。

あれからカンダハルについたのは早朝であった。

俺とムガロはジンギスカンで一泊することにした。

チェックインを済まし、ワンルームの部屋に入る。

一番安い部屋を選んだので、狭いベットが一つだけ。

ムガロがショウに抱きつくような感じで眠った。


それからは、バイクタクシー、客船などを利用してノアの町に戻った。

行きよりも帰りの方がスムーズに移動でき、約2日ほどで着いた。


それから俺たちはアビス街道をひたすら歩いて、ようやく師匠の家があるタイガの森に辿り着いたのだった。

着いた頃は真夜中で、移動の疲れでクタクタだった。

家の敷地内に入ると、既に師匠が出迎えてくれていた。


「師匠…帰ってきたぜ」

「・・・・・」


師匠は無言だ。


「お前さん、なぜ帰ってきた」

「まだ半年も経っとらんがな」

「師匠、俺はもう悩んじゃいねえよ」


師匠は俺の顔をするどい眼光で覗く。

すると、何かを悟ったのか、表情を緩めた。


「ふむ、まあ、少しは成長したようじゃのう」

「もうよい、お前さんは先に入って休め」

「ああ、わりィ」

「ところでお前さん、ワシの猟銃はどうした?」

「ああ、あれね、えっと確か〜」

「・・・・・」

「失くした」


俺はそれだけ告げて中に入ろうとした。


「…まあよい、とっと寝ろ」


それから、師匠はムガロの方に目を合わせた。

今度はムガロの番だ。


「で?小娘、お前はなぜ戻ってきた」


振り返ってムガロの顔を見る。

俯いていて表情が分からなかった。


「・・・・・」

「小娘、お前さん、なぜ故郷に帰らんのだ」


ムガロが顔を上げた。


「リュート、お願い。暫くここに居させて」

「はあ…分からんかね」

「わしはお前さんに!帰れと言っておるだ!」

「嫌」


ムガロそう言った瞬間、師匠が彼女の頬を叩こうとした。

俺は師匠の腕をつかんで辞めさせる。


「師匠!いいじゃねえか!泊めさせてやれよ!」

「ショウ、この子はいかん、性根がひん曲がっておる、少々躾が必要だ」

「故に、甘やかしちゃあならんのだ」


生意気なのが、気に食わないのか。


「ムガロ、もっと誠意をもってお願いしろ!」


ムガロは少し嫌そうな顔をした。

しかし、彼女は頭を下げる決意をした。


「リュートさん、私を、暫く、この家に、泊めてください!」


ムガロは深く、師匠に向かって頭を下げた。

師匠はそれに満足したのか、快く彼女の願いを聞き届けた。


「へっ、ちょろ…」


師匠が中に入った時、ムガロがそう小さく呟いたのが聞こえた。


「お前なあ…感謝の気持ちとかねえのかよ」

「無いわ」


ムガロは平然と言った。


ああこいつダメだ。

性格が終わってやがるぜ。



――



俺たちは師匠の家に入った。


「お前さん方、上着は脱いでそこに掛けといてくれ、ダニを外で落としてからな」

「ああ」

「明日、衣服を干そう」


師匠がそう言って、少し微笑んだ。


「ショウ、学校はどうだったかのう?」

「普通だよ」

「面白くないのう、でそっちのムガロは、どうじゃった?」

「別に…普通」

「・・・・・」


師匠はため息をついた。

何かを諦め、別の事に意識を向けた。


「お前さんら、羊のシチューを食べるか?」

「あるのか?」

「冷えておるから、温めるのに時間が掛かるがの」

「はあ…ありがとう」

「久しぶりに師匠のシチューが食えるな」


俺がそう喜んでいると、ムガロは冷めた声で俺と師匠に言った。


「私はいらない」


彼女はそれだけ言って、俺たちから視線を離した。


「そうか」


ムガロはテーブルの椅子に座って、机に突っ伏した。

師匠がムガロに尋ねる。


「茶は、飲むか?」

「うん、飲む、あったかいの」


師匠はそれを聞くと、湯を沸かし始めた。

それとシチューも温める。


シチューのいい香りが居間を充満した。

夜中であるからか、それほど腹は減っていなかったのだが、その美味しそうな匂いでお腹が空き始めた。


ムガロは変な姿勢で茶ができるのを待つ。

その様子を呆けながら眺めていると、やがて、茶とシチューが出された。

このシチュエーションは、最高だ。


俺はシチューを口の中にとろけさせるような感じで食した。


うまい、久しぶりの味だ。

懐かしさで胸が温まった。

俺はこのシチューの味を、噛み締めるように味わった。


ああ、帰って来たんだな。


その実感が、ようやく湧いてきた。

食に満足した俺は、床に着いた。

フクロウの鳴き声から、いにしえの子守唄が聴こえてくるようだった。

ぐっすりと眠りについたのだった。


Wish Upon a Star

星に願いを



――



翌日の今日は、師匠のはからいで鬼婆のいる帰らずの森に訪れた。

俺とムガロを連れた師匠は、雑多な森の中を迷わず歩く。


帰らずの森の中は、太陽の光が入らないらしく、昼の時間帯でもムガロが問題なく来られた。

やはり、不思議な森だ。


ムガロは最初、帰らずの森に入るのに嫌がった。

理由は分からないが、結局、師匠に嫌々連れてこられた形になった。


久しぶりに、鬼婆と対面した。

こうしてみると、優しそうな普通の婆ちゃんだ。


鬼婆は、ムガロを見ると、孫を見るような目つきに変わった。


「ああ、鬼の子よ」

「よく来てくれたねえ」

「あ、はい」


ムガロは俺の影に隠れていた。

よっぽど鬼婆とは関わりたくないらしい。


「鬼の血を引くアンタはもはや、あたしの孫も同然、いつでもあたしの家に遊びに来てもいいんだよ」

「ははっ…遠慮しときます」

「ああ、可哀想に、あの忌々しい老婆の奴よ、あたしの娘を、ゾンビに変えてしもうた」

「許せん、許せんなあ」


鬼婆がムガロに近づきハグをする。

ムガロは青ざめた顔で身震いをする。

しかし、ムガロも鬼婆には逆らえないのか抵抗せず、体を硬直させたまま明後日の方向を見た。


「娘よ、人の肉は麻薬じゃけえ、あんたに罪はないよ」

「抑えられるものでもない、人の命など、アタシらにとっちゃー、人間の家畜と変わらん」

「じゃけえ、気に病むでないで」

「大丈夫、アンタの魂は穢れとらん」

「大丈夫、大丈夫じゃけえ…苦しかったろう…辛かったろう、でも、もう悲しまなくていいやで…全ての罪は、アタシにあるんじゃけえ」


いつの間にか、ムガロは涙を流していた。

鬼婆が、抱きしめる力を強めた。


ムガロは長い間、泣き止むことはなかった。


帰りに、俺は疑問に思ったことをムガロに聞いた。


「なあ、やっぱりお前、鬼だったのか」

「鬼じゃないよ、鬼人族」

「そうか、やっぱりか、その角は、鬼の角だったんだな」

「まあ」

「鬼婆が、お前のこと孫っていてたけど、それは?」

「ああ、あれね、鬼婆は、鬼の子孫だからじゃない?」

「ふうん、そうか」



――



師匠が俺に質問をした。


「ショウ、やりたいことは、見つかったか?」

「・・・・・」

「やりたいこと…」

「・・・やりてえことかあ」


「なあ師匠」

「なんじゃ」

「俺、夢とかさ、そういう将来具体的に何すんのかとか、全然思いつかねえんだ」

「そうか…」


師匠は、少し悲しそうな顔をした。


「でも…生き方は決めたよ」


師匠はそれを聞くと、表情を明るくした。


「生き様を決めたんだ。残りの人生、俺は、これを貫き通すつもりだ」


師匠がゆっくり俺の言葉に頷いた。


「では、もう一度問おう」

「お前さんは、なんの為に強くなる?」

「俺は、俺は…!何かに縛られるのが嫌だ」

「昔から俺は、そうだったんだと気づいたよ」

「だから、自由であるために、そのために、強くならなくちゃいけないんだ」

「その何かとは、何だ?」

「それは…」

「決まってるだろ」


俺は天井を見上げる。

そして、両手を広げた。


「この」

「世界だ!!!!」

「世界?」


「そう、この世界に…世界に!!!たった一度だけの…俺の…人生を!!!!俺は…!!俺は、俺の人生を楽しみたい、幸せになりたい、だから…!!何者にも俺は縛られない!!!!何者にも俺を止めるこは出来ない!!!そんな、世界一自由な奴になりてえんだ!」


俺がそう言った瞬間、師匠は初めて笑った。

嬉しそうに、俺に告げる。


「そうかっ、よかろう、強くなる理由としては十分だ」

「ショウ、明日から本格的に修行を始めるぞ、途中で投げ出すような真似は許さん」

「ああ」

「分かってるよ」


これで、俺の修行が再開することが決まった。


「・・・・・」


ああそうさ、俺はあん時決めたよ。

俺はもう二度と、下を向いて、メソメソと泣いたりなんかしねえってよ。

振り返らず、まっすぐ前を向いて進むさ。


なあ、イビルアイ、お前がした選択を、俺は尊重するよ。

だから俺も、俺だけの人生を歩むことしたんだ。


ありがとう。

イビルアイ。

少しばかりだが、君のおかげで俺は成長することが出来た。



1 step forward

一歩、前へ

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