第28話 「鎮魂歌」
俺は珍しく街で買い物をしていた。
通りを歩いていると、やけにリアルな人形が置かれてあるお店を見つけたので、入ってみた。
中に入ってみると、長い間掃除をしていないような感じのホコリ臭い匂いがした。
それだけじゃない。消毒燻煙のにおい、保存薬のにおい、獣のにおい、はく製のにおい、土のにおい、粘土のにおい、日干し煉瓦みたいなにおい。
人間の匂い。
俺はいつのまにか冷や汗をかいていた。
奇妙だ。
なんだか分からないが、とても奇妙だ。
近くで見てみる。
「これ、人間の剥製…だよな」
本物だ。
気づけば鳥肌が立っていた。
美しい。
なんて、美しんだ。
俺は店の中をまわった。
いろんな剥製がおいてある。
ネズミの剥製は、何ていうか、不気味だったな。
でも、ドラゴンの剥製は今にも動き出しそうな迫力があった。
??????
「・・・・・」
俺は、言葉を失った。
イビルアイのお姉ちゃん。
ブルーアイズの目は偽物だったが、本物とそっくりのスカイブルーだ。
匂いも同じだ。
俺はそれに触った。
その人形がくずれた。
ブルーアイズの首が俺の足元まで転がる。
「脆いな」
俺は店を出た。
――
「なあ、この学校の生徒が、いきなり老人になる出来事が多発しているらしいぜ」
「ほんとかよ〜」
こいつらは数分後、いつのまにかお爺ちゃんになっていた。
クラスメイトはその出来事を理解出来ず、騒然っとなった。
その2人は医務室に行った。
休み時間も終わり授業が始まった。
あっという間に授業が終わった。
俺はなんとなく廊下を歩いた。
階段の先に、幽霊がいた。
ハンナは俺の姿を見ると、フワッと寄ってきた。
「この学校に邪魔物が来た」
「だれ?」
「分からない」
「探して」
「人を老人にする奴か?」
「うん」
「ムガロを呼んでこい」
「了解」
ハンナは去っていった。
幽霊は図書館の件のあとから、よく俺に接触してきた。
猫みたいな奴で、人懐っこい感じだ。
構ってやらないと機嫌を悪くする。
しかし、今回はいつもと様子が違っていた。
目の前にイビルアイが歩いていた。
ハンナがどっかから現れ、イビルアイにひっついた。
彼女は迷惑そうにしていたが、ハンナには触れないので引き剥がすことは出来なかった。
その様子を眺めていたら、誰かが俺の肩に手をおいた。
振り返る。
見知らぬ男がいた。
「お前、見えざるものが見えるんだな」
「誰だお前は、まず名を名乗れよ」
「クリムゾンだ」
「いきなりだが、君に頼みがある」
「何だ?」
「ポセイドンって奴だ」
「俺の仲間なんだ、探してくれ」
「特徴は?」
黒猫が歩いていた。
その猫が、人間になった。
そいつが俺の質問に答える。
「特徴?これといった特徴がないのが特徴?」
「お、おい、お前、ナニモンだテメエ」
「あっしの事ですか〜?猫人間のクラムボンってな感じ〜」
「ポセイドン、アイツ、1人で暴走しるんだ」
「やっていい事と悪いことの区別が出来ないからな、アイツは」
「彼は時を進める能力を持っている」
「それ、マジ?」
「ああ、因みに俺は時を戻すことが出来る」
「あんたら、何者?」
「俺たちは近いうちにこの学校に起こる災いを防ぐために組織から派遣された」
「組織?」
「詳しいことは言えないが、ポセイドンを捜索するのを手伝ってくれ」
「分かった、協力するよ」
「このカードを渡しておく」
「なんだ?ただの紙切れじゃねえか」
「そいつを破ると俺たちの下に転移するんだ」
「奴を捕まえて持ってきてくれ」
「分かった」
俺はさっそく探そうと思った時、止められた。
「いいか?忘れるなよ?彼の手のひらには触れるなよ?これは絶対だ!」
「分かったよ!」
数十分後、俺はムガロと合流し、捜索を続けた。
「いた!コイツか?」
「名乗れ!な〜の〜れ!!!」
「ポセイドン様だ」
「確保〜!!!!」
ポセドンが素早く動いた。
「早っ!」
ムガロがポケットから取り出した鉄球を投げる。
ポセイドンはそれを交わした。
後ろにいた無関係の生徒が吹っ飛んでいった。
「あちゃあ…」
俺も本気を出すことにした。
「おらああ掴んだ!」
「ぐおおおお!なんて力だ!」
「なにしてるの?」
イビルアイがいた。
「おい!近づくな」
彼が触れる。
イビルアイは倒れた。
「あれ?これ以上、時間を進められない」
「どういうことだ」
ムガロがイビルアイに駆け寄る。
「どうしよう…」
「ねえショウ!どうしよう!」
「息をしていないわ!」
「な、なんだと・・・?」
「寿命が、近づいていた」
いつの間にか幽霊がいた。
「え?」
「イビルアイは、死ぬ運命だった、1年以内に」
「そうか、だから、進められる時間も殆どなかったってわけか」
「お前!どうしてくれんだよ!」
「すまねえ!まさか、こんなことになるなんて思わなかったんだ!ちょっとしたイタズラのつもりだったんだ!」
その後、クリムゾンとクラムボンが駆けつけた。
「ポセイドン、お前はしばらく外出禁止だ」
「そ、そんなああ!許してくれよおおおおお!!!」
「ダメだ、異論は認めぬ」
「うぐぅ」
「それ、彼女を見してくれ」
ムガロが抱えていたイビルアイを寝かした。
「俺は触れたものの時間を巻き戻すことが出来る、何万年と時を戻すことも可能だ」
「ノータッチなら五分ほどだが、世界を巻き戻す」
「それゆえに、君等には認識できないだろう」
「なぜなら、君等の記憶も五分前に戻るからな」
そう言ってクリムゾンはイビルアイの手を握った。
「あれ…?」
イビルアイは元に戻った。
「みんな、どうして」
ムガロがイビルアイをかつぐ。
「え?なに?なんなんの?」
「医務室に行くよ、しばらく休みな、意味ないかもだけど」
「はあ?」
イビルアイが去ってから、俺は幽霊と話した。
「なあ、いつから知ってたんだ」
「・・・・」
「いつから…最初から」
「なんで教えてくれなかったんだ」
「だって、悲しいから」
「君は、彼女が死ぬ前にこの学校を去る」
「そしたらさ、知らずに済んだ」
「そうか」
「そもそも、私を見ることが出来るのは、死期が近づいている者だけ」
「あなたは例外」
「特別な目を持ってる」
「そうか…」
「・・・・・・」
「イビルアイ、もうすぐ死ぬのか」
イビルアイはもう既に、ブルーアイズが行方不明になったと気づいている。
そのことも彼女には本当の事を伝えていない。
だから、本当の事なんて言えない。
大体、どうやって伝えればいいのさ、あなたもうすぐ死にますって、言えるわけがない。
それでも俺は迷った。
彼女に本当のことを伝えるべきか、伝えないほうが良いのか。
結局、俺は事実をはぐらかした。
イビルアイに寿命の事は言わなかった。
彼女は何も知らないままだ。
姉の命も、自分の命も。
俺はイビルアイを避けるようになった。
元々そんなに会話をすることもなかったが、意識的に、だ。
--クリムゾン視点
彼の名前はクリムゾン。
時間を巻き戻す能力を持つ。
それは誰もがもつ潜在的な能力、言わば個性のある才能を開花させたものだ。
世界中でみても少数の異能力の使い手であり、その物を能力者と呼ぶ。
ショウも能力者だ。
『編集』という力をヒバナを介して使用できる。
さて、さっそくだが、彼の行動は間違っていた。
しかし、やりたいことは伝わった。
そのため、三角絞めを食らった。
そこで、時を戻すことにした。
コレがさっきの出来事を簡潔に述べたものだ。
本題に入ろう、突然だが彼は、ビーチ・ボーイ部のキャプテンになりたかった。
しかし、レギュラーになれなかった。
その結果、彼はカッター選手になった。
それから翌日の事だった。
お掃除ロッカーを開けると、中に死体が、そこでクリムゾンが時を戻す。
「うがあああ!!!いってええ」
「お、生き返った」
「助けてくれ、体が痛い!」
「よ〜しよし、痛いの痛いの飛んでけえ〜?」
「ぱっ!治った!」
「時を戻そう」
「うぎゃああああああ!!!!」
クリムゾンは犯人探しをすることにした。
--先生の苦悩〈カッタークラブのレースに参加する生徒たちの練習〉
今、特別に校内を訪問している大賢者マギが言う。
「ドラゴネット・フーガさん、あなたは休みなさい」
「え?なんでですか?」
「持病の発作がおきかけてまいす」
「そ、そんなあ、まだなんともありませんよ?」
「鏡を見てきなさい」
「え、あ、はい」
彼、ドラゴは非常に優秀だ。
勤勉で真面目にクラブ活動に参加している。
カッターにかける情熱も人一倍強い。
絶対にこのチームを優勝させたいという思いが感じ取れるのだ。
だからこそ、残念だ。
「フーガ、お前はもう休め」
「・・・分かりました。ニコラウス先生」
「勉強します」
フーガは帰った。
「・・・・・・」
「わしは、あいつに休めといったのか」
「やめてほしかったのか」
「分からない、何故なんだ、何故わしは・・・」
「まあ良い」
「昔に戻りたい」
「ああ!わしも青春を送りたかった!あの頃に戻りたい!わしは!わしは・・・!!!」
「なんで・・・」
「まだやり残したことがあっただろうに!」
「ぐおおおおおおおおおお!!!!」
明らかにいつもより様子が変になったニコラウス・ズッキーニを見た生徒たちが困惑した。
「大賢者さん!ニコラウス先生が大変なことに!」
「彼も発作が起きているようですね」
「ええ!!」
「大丈夫です。いつものことです」
「い、いつも!?」
「あの、ニコラウス先生に何かしたほうが・・・」
「ほっときなさい!」
「ええ!!!」
因みに、フーガと違ってそのまでカッターの情熱が無いショウは大会前日にクラブを脱退した。
理由は、せっかくの休日が潰れるから、とのことだ。
--メメント・モリ視点
「ふぁあ…朝か」
「ふう、今日も、いい朝だな」
「よっこらしょっと」
「今日は、マイカちゃんと話聞こうかな」
「いや先輩のリカちゃんも捨てがたい」
「ようし、ここは間をとってえ…久しぶりにマーキュリーちゃんと話きこうかな、あの子隠れビッチで最高なんだよな」
メメントはベッドから下りる。
「あ」
「やべえ、レポートやってねえ」
「まああの婆ちゃんチョロそうやし飯誘ったら単位くれっしょ、なんせこの俺、超ハンサムだし」
結果。
クレア教官は以外に硬派で、びくともしなかった。
「単位?落ちたなら拾えばいいじゃないの?3秒ルールよ」
「そ、そこをなんとかあ!先生!」
「土下座しても無駄よ」
畜生あのクソババア、俺の色気に惑わされないとは、さてはサキュバスだな?
この野郎。
俺は気晴らしのために水浴びをすることにした。
「え?ちょ、まって?めっちゃデカなってる右側だけ…これなんでや、え!左めっちゃちっちゃなってるやんこれ。何があったん」
「ああ、そっか昨日右側の玉だけで話聞いてたから、左の玉ちっちゃなってもうたんや。ってことは、左側の玉で右側の玉から話聞いたら、おお!左めっちゃでかなった。え、え?じゃあ右の玉で左の玉の話聞いたら、また右がデカなった。これどういうこと。そうか!話を聞いた方の玉がでかくなるんか!てことは、両方の玉で話聞きあったら、両方めっちゃデカなるやん…!ええ!すごこれ!世紀の大発見、性器だけに。ちょみんなこれ見てや!やばいもん発明してもうた!」
「・・・・・」
え?クレア教官!?
「ん〜なんかさあ、二人で話そうゆうてたからさあ、来ちゃった☆」
「え?」
「お前女おったな!」
「なっ!」
「あの娘はもうクリームシチューなったけど」
「ええ!何したんですか!」
「私のこと騙してたんやね!」
「楽して単位取ろう思っとったんやね!」
「もう許さんからね」
教官が俺を押し倒す。
「ちょっ、ああああああああああ!やめてください!」
「ドロドロのクリームシチューにしたるからな」
「きょっ、教授ううう!とぅああああああ!」
「しちゃるからなああああ!」
「あああああああああああああああああああああ」
ショウとセドリックは、この地獄の景色を見た後、静かにさった。
--ショウ視点
友人関係について、俺はセンチメンタルな気分になった。
俺にはセドリックという友だちがいる。
しかし最近、ルームメイトのボラギノール君がセドリックとばかりつるむようになった。
本当にずっとつるんでる。
朝から晩までセドリックの部屋でパチンコゲームをしてるんだ。
俺はいつもセドリックと二人で飯を食った。
いつもいつも、毎日毎日2人で学校に登校したし、いっぱい話をした。
今では3人になった。
3人で飯を食う。
3人で学校に行く。
3人で寮に帰る。
もちろん俺は最初、ボラギノールと仲良くなろうとした。
でも、やっぱり無理だ。
心の底から仲良くはなれない。
彼と一緒いることは、俺にとって大きなストレスだった。
やめてくれ。
俺の友達を奪わないでくれ。
別に奪われることはないけど。
でも、そう思ってしまうんだ。
ボラギノールに嫉妬した。
俺は愚かだ。
でも、人の心をもつ以上嫉妬するのは仕方のないことなんだ。
だから、俺は自分のことを嫌に思ったりしない。
別にいい。
どうせ、嫉妬の炎はいつか消えるのだから。
俺は負けない。
別に勝負はしてないけど。
セドリックは俺の友達だ。
親友だ。
だから、俺はセドリックとの絆は手放さない。
俺は強く思ったんだ。
ボラギノールに嫌われても、俺はとしきの友達であり続ける。
「なあ、オイシー」
「お前、さっきセドリックのこと馬鹿にしたよなあ」
「は?」
「お前はそうやって、一生人の事バカにしながら生きていくんだろうな」
「自分自身大した事ないくせに」
「ムカつくんだよお前みたいなやつは」
「どうせあれだろ?自分より下のやつを鼻で笑って、俺より下のやついるんだなあとか思って安心してんだろ?」
「そういうのイライラすんだよ」
「なあ、思ってんだろ?」
「俺はコイツラに比べりゃマシなんだってな」
「なあ、言えよ!」
「嘘ついてんのは見え見えなんだよ!」
「お前って、マジで最っ低だよな!」
「人として終わってんだよ!」
「ほんと、マジだせえよ!」
「おい、ショウ!落ち着けって、な?」
「お前もだピンキーダイヤモンド、お前もオイシーの悪口に同調したよなあ!」
「お前、何いってんのかさっぱりだわ」
「はっ!そうか!脳みそ足んねえな!父ちゃんの金玉袋からやり直せこのクソ野郎が!」
俺は必死に我慢した。
奴らの顔面に拳をぶち込むのを。
オイシーを殴ったら、面倒くさいことになるのは間違いないタチの悪い野郎だ。
気晴らしのためにセドリックの部屋に行った。
やはりボラギノールがいた。
そして何故か最近メメントもよく来る。
メメントは、別に嫌いではないがよく分からんやつだ。
取り敢えずセドリックと少し会話した。
ボラギノールには話しかけてもシカトされるので俺も無視する。
メメントは、あいつの事はよう知らん。
満足したら、部屋を出る。
廊下に出た。
そのまま自室に戻ろうと思ったのだが、ふと立ち止まった。
セドリックの部屋の前に立った。
ドアに耳を近づけ、アイツらの会話の内容を聞いた。
「あいつ、マジやべえよな!風呂入ったあとに、タオルを持ってくるの忘れたって気づいたんだよねって、ほんでセドリックがその後どしたん?って聞いたら、自然乾燥って、馬鹿かよ!!服とかで拭けよ!あいつマジやばいは・・・」
俺の悪口だ。
ボラギノールが積極的に俺の陰口を言っていた。
今日始めて知った。
まあ、ちょっと感づいてはいたが、ショックだった。
メメントもそれに乗っかって一緒に俺の悪い部分を言っていた。
そして何より一番悲しかったのが、セドリックが俺のために何もしなかったことだ。
まあ、彼は気弱だし、自己主張も弱いし、仕方がないとは思うが、やはりショックだ。
なんで俺の同部屋は俺の陰口を言うんだ。
文句あんなら面と向かって言えばいいじゃないか。
だからさ、俺に対して不満があんならよ、直接言わなきゃ改善されないって言ってんのに。
オイシーと、その相方ピンキー、もうひとりの同部屋のボラギノールと金魚の糞のメメント。
ここの3人部屋はもう最悪さ。
オイシーは、ムガロと性格が似ているが、アイツと違って可愛げがないし、オカマだし、スネ夫みたいな感じで、陰湿な野郎だ。
ボラギノールは、オイシーと同じ系統だが、優秀で女受けイケメンのオイシーと違って学力は低レベルのブス、低身長、メガネ、髪ボサボサ、体臭も生乾きみてえなクッセえ匂い、学校にたまにいる性格の悪いオクラで、陰湿な野郎。
はあ、なんでこんな性格が終わってる奴と同部屋なんだ。
ストレスで禿げちまうよ。
次の日、俺はセドリックの部屋に行き、何故かセドリックのベッドでくつろいでいたボラギノールを引きずり下ろし、寮の裏山に連れて行った。
試しに一発殴ってみた。
軽く殴ったので、たいしてダメージはないだろう。
ボラギノールがぶちギレて、大声を出す。
「うるせえな、騒ぐなよ、もうちょい静かにしろよ」
「お前!ヤバいって!やめろ!落ち着けって!なあ!これ犯罪だぞ!」
「そうだな」
「お前さ、正論しか言わねえのかよ、つまんねえぜ」
俺はもう一発殴った。
「いってえ!お前自分が何やっとるか分かっとんのか!メガネも壊れたし!どうしてくれんだよ!」
「ああゴメン、弁償するよ、だから大声出すなよ、うるせえ」
「弁償で済む問題やないわ!」
「・・・・・」
「なあ!気は済んだか!俺を殴ってスッキリしたか!?おい!!」
「いや、別に?暴力は何も生まないし、この行為自体に意味はない、ていうか、どうでもいい」
「じゃあなんで殴るんだよ!」
「さあ、何ていうか、興味があったんだよ、人を殴ったこと無かったからな、一回体験してみたいなって」
「何事も経験だよ、ジニー」
俺は殴り続けた。
本気で殴ったらすぐ終わるので、手加減して殴り続けた。
顔面だけを狙った、右腕だけを使った。
そこしか狙わないし、使わない。
「ん?」
ジニーの首元を触る。
「はあ、殺っちまったか」
「殺す気は無かったんだけどな」
死体は適当に隠しといて、後はムガロに食わせりゃいいだろ。
俺はそう楽観てきに思考し、満足した俺は寮に戻った。
セドリックの部屋に戻る。
「ショウ…ジニーは?」
「知らねえ」
俺はメメントの近くに寄った。
「ショウ、何やねん」
俺は無言でメメントを殴った。
俺の拳は、彼の顎に直撃し、歯が5,6本飛んでいき、顔の形が変形した。
少し強く殴りすぎたか、コレじゃあバキの世界だ。
俺は退寮になった。
2週間の謹慎をくらった。
その間に下宿先を探した。
そして、俺は一人になった。
セドリックとは距離を置いた。
彼も俺に話しかけてこない。
教室でもボッチさ。
--
ムガロがグレて不良グループとつるむようになった。
巷では尻軽モンキーズとか、尻軽パンパーズとか呼ばれてるいけ好かねえ連中だ。
前に一度、ムガロに誘われて校内にある使われていない古い倉庫の裏に、不良共がたむろしてる場所に行ったことがある。
なんて言うか、カオスだった。
火薬瓶を投げて遊んでたり、未成年のくせに酒と煙草、やりたい放題だ。
ムガロもタバコを吸いながら酒をラッパ飲みしていた。
パンダの隣りに座って、仲良く酒を飲んでいた。
あの亜人と仲が良いらしい。
あのパンダは、この学校じゃ一番の人気者で、女の子からもモテまくってるし、先生からにも気に入られてる。
調子こいてて腹立つが、たしかに魅力のある漢だ。
名前はルカクというらしい。
俺は適当にムガロの近くに座って、傍観していた。
「いい女だな」
ルカクがそう言ってムガロにキスしようとした。
ムガロはそれを嫌がって「やめて」と言った。
コレに対してルカクはつまらなさそうに「いいじゃんか」と言った。
はあ、やめさせよう。
「なあ、ルカク…」
ムガロがルカクにキスをした。
それも結構濃厚なキスだ。
ルカクは驚いていた。
長い間、その情熱的な口づけが続いた。
「・・・・・」
俺は唖然とした。
そっぽを向いて見てないふりをした。
しばらく地獄が続いて、耐えきれなかった俺はさっさと帰った。
来なきゃよかった。
--
朝。
日は昇り、世界は動く。
太陽がこちらを向いて微笑んでいる。
そして俺は、この世界に祝福されていると気づく。
日差しが差し込む通学路。
1人で歩いていると、なんとも清々しい気分だ。
2つの道が交わる分岐点で、たまたまイビルアイ近くを歩いていた。
こちらに気づいていない。
俺は挨拶をする。
「おはよう」
イビルアイがびっくりしたような顔で俺の方を向く。
俺はおはようの一言を言って満足したのでそのまま真っすぐ学校へ行こうとした。
「あ、おはよう…」
イビルアイが俺に挨拶を返した。
2人で歩く。
正確には、イビルアイがずっと俺の斜め後ろを歩いているのだが、学校につくまでその距離感を保ったままだった。
教室に入って、席につく。
イビルアイが俺の前に座った。
そういえば、俺の前の席だったな。
周囲を見回す。
誰も俺のことなんか気にしない。
2週間も休んだってのに、誰も気にかけないのな。
「あのさあのさ〜、君、なんでいつも1人なの?一匹オオカミ?」
イビルアイが話しかけてきた。
「友達がいないだけだ」
「ふ〜ん」
「なんで休んでたの?」
「知らないのか?人を殴って謹慎くらったんだよ」
「へえ、ヤンチャだね」
その日から、よくイビルアイが俺に話しかけて来るようになった。
「どう?結構筋肉あるでしょ、鍛えてるんだ〜」
イビルアイが袖をまくって腕の筋肉を見せる。
確かに女の子にしては結構筋肉ある。
でもまあ、まだまだ細いな。
「俺の方があるぜ」
「うわ〜、負けた」
「腹筋は!?見して見して!」
「ヤダよ、恥ずかしい」
「ええ〜なんでよ〜いいじゃん別に減るもんじゃないし…」
「私の腹筋見せてやるからさっ」
「無理」
「・・・・」
「あのさっ、上体起こしは何回出来るの?」
「100回」
「へへっ、私120回出来るよ」
「ああっと、俺確か150回出来るわそういえば」
「私も頑張ったら200回出来るもん」
「少なくとも俺はそれ以上は出来るね」
「じゃあ腕立て伏せは?」
「1000回だ」
「わっ、負けた」
「じゃあさっ、ランニングは?何キロ走れるの?」
「それは・・・」
--
「・・・・・・」
俺は今、マーシャル鉄道の列車に乗っている。
今日はサボりだ。
何故か急に学校をサボりたくなった。
「ハイ」
前から女性の声が・・・
「昨日ぶりだね」
イビルアイだった。
「え?おい!奇遇だな、お前もサボりか?」
「そう!」
イビルアイが俺の前の座席に座っていたのだ。
なんという偶然。
「行き先は?」
「特には…」
「じゃあ!一緒の旅!よろしくショウ!」
「ああ、ヨロシク」
これが、始まりだった。
お互い未成年のくせに一緒に酒を飲んだ。
イビルアイは酒が弱くて一口飲んだだけで体調を悪くした。
夜になった。
イビルアイに勧められて凍った湖に行く。
「ここ、私が好きな場所っ!」
「なにも無いな、真っ暗だ」
「そ!だから星が綺麗でしょ?」
湖の上を歩く。
「氷が割れる音がする」
「割れないよ、意外と分厚いから」
「何ビビっちゃってんの?」
「ビビってねえよ」
寝転がって星を見る。
「知ってる星座を教えて」
「俺、そんな詳しくないぜ?」
「知ってるのでいいよ」
「分かったよ」
「あ、ホメオティック遺伝子」
「どこ?」
「あそこだよ、弓形の十字だ。偉大なるホメオティック遺伝子」
「デタラメでしょ?」
「いや、あそこにある」
「ショウの嘘つき」
ああ、なんか今、すごく幸せだ。
「今、死んでもいい」
「こんな気持は初めてだ」
「ずっと前から、こうなることを望んでいたみてえだ」
「私も、今が一番楽しいかも」
「あなたが一人ぼっちだったから、神様にお礼を言ったわ」
「やっと、ああいうこと好きじゃ無い人を見つけたって」
「ああいう事?」
「学校の環境」
「ああ、お前も好きじゃねえのか?」
「うん、あんまり」
「人と話すのは疲れるし」
「まあ、気持ちは分かるよ」
「ショウ君だけだったよ、あのクラスの中で会話しても疲れないのは」
「へえ、嬉しい事いうじゃねえか」
しばらくここに居たい。
できるだけ長い時間。
そう思った。
次の日の朝早朝、雨が降り始めた。
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアア。
「雨、降ってきたね」
「そうだな」
「傘、貸そうか?」
「いや、いい、このままがいい」
彼女は両手を広げ、雨を全身に受けながら、笑っていた。
「私…雨、好きなんだ」
あの日の体験はずっと心に残った。
その当時の俺は、あの日が人生で一番楽しい瞬間だった。
あの日以来俺とイビルアイは仲良くなった。
学校では、よくイビルアイと話すようになった。
「なあお前、彼氏とかいんの?」
「いるって言ったら、悲しんでくれる?」
「ああ、みっともなく泣き喚いてやるよ」
「もう、やめてよ、冗談キツすぎ」
「で、いんの?」
「いないけど、ショウ君みたいな彼氏なら欲しいかな」
「本当かよ」
「ホントだよ?試してみたら?」
「イビルアイ、好きだ」
「付き合ってくれ」
「え?え、ええ!?あ、あの、え?」
イビルアイが顔を真っ赤に染めた。
「おい、照れんなよ、そっちから仕掛けておいて」
「え、だってマジで試してくるなんて思わなかったんだもん」
「で、どうなんだよ、返事は」
「そ、そんなに急かさないでよ、まだ心の準備が整ってない…!」
「なあ、俺は本気だぜ?」
「分かってる、だから、あのさ、ここじゃ恥ずかしいから…」
「ちょっとこっち来て」
俺はイビルアイに連れられ、廊下に出た。
階段を下りる。
「おい、どこまで行くんだよ!」
「いいから来て!」
一番下まで下り、階段の裏にまわる。
「こんなとこまで来て、何を…」
イビルアイが俺の肩に両手を置く。
彼女が深呼吸する。
「・・・・・」
「・・・!?」
イビルアイが俺にキスをした。
「なっ…!」
「これが返事よ」
この日、俺は生まれて初めての彼女が出来た。
--
「ねえねえ聞いて〜、私の彼ピッピがさあ…」
「なあムガロ」
「何?まだ話の途中なんだけど」
「俺彼女出来た」
「はあ!?」
「またまたご冗談を〜」
「嘘じゃねえっての」
「え?マジなわけ?」
「ああ」
「うっそ…」
「はあ、人生ダリい」
「うっざ」
俺の人生、全部お前で染まっちまいそうだ。
イビルアイの事を考えながら、そう思った。
それからの学校生活は充実していた。
行方不明者が増えているせいか、クラスで3人くらい実家に帰ったが、概ね平和だ。
イビルアイと居るときは本当に幸せだった。
――イビルアイ視点
夜、散歩をしていると、バケモノに出会った。
本能的に恐怖した。
私は一目散に逃げ出した。
何か念力のような物がバケモノから流れてきていて、全身の筋肉が痙攣した。
その念力は不思議な感じで、体が熱くなり、汗ばんでくるのが分かった。
何故か私の動きは鈍くなっていた。
すぐに息切れが始まった。
「い、いや、やめて!近づかないで!やめてよ!お願いだから〜!!!!イヤアアアアアアアアアアア!!!!」
バケモノの体から、大きなナメクジのような変なものが大量に湧き出てきた。
それは生き物のようで、しかし生命があるようには感じなかった。
謎の物体が私を襲う。
「ひっ・・・!!」
「いいいいいいいい!!!!」
私は必死に逃げる。
足に力が入りにくくなり、転んだ。
私は自分の体を引きずりながら逃げた。
なんとか立ち上がって逃げようとした。
何匹か私の体に引っ付いてるのが分かった。
私はヒルを払い除けるようにそれらの物体を取り除いた。
太ももにも一匹いることに気づく。
払い除けるより先に、そいつが内ももに入り込んだ。
しまった!このままじゃ寄生される!
そう思った私はパニックになった。
既にいろんな箇所に寄生されていた。
皮膚の下で何匹か泳いでいるのが分かった。
もう手遅れだ。
痛い!痛い痛い痛い痛い。
痛い・・・
体の内部が食われるような間隔だった。
ものすごい激痛。
とても我慢できない。
死にたい。
でも、死にたくない。
私は、あのバケモノから逃げるために最後の力を振り絞って逃げた。
今まで生きた中でこんなに必死に走ったことなどないと言い切れるくらいに、私はとにかく走った。
なんとか自分の家に帰った。
私の母が心配してくれた。
自分の部屋に入る。
もう動きたくなかった。
でも、早く病院に行かなくちゃ。
そう思っていたのに、私は、眠ってしまった。
次の日、目を覚ますと、体はなんとも無かった。
どこも痛くないし、体の中に何かがいる気配もない。
「夢か…」
そうだ、夢に違いない。
私はそう思い込んだ。
念のため学校を休んで街の病院に行って、見てもらうことにした。
結果、私の体は健康そのもので、何も異常がなかった。
それから私は普通に過ごした。
3日目に、異常が起き始めた。
朝起きると、私のお腹が妊娠しているみたいに膨らんでいたのだ。
体調もすごく悪かった。
皆に悟られないように、普通を振る舞った。
幸い、制服を着ると腹の膨らみは隠せた。
いつも通り学校に行くことにした。
授業中、ずっと下腹部が痛かった。
それも時間が増すごとにどんどん酷くなった。
途中、トイレに行ってみる。
服をめくると、驚きが隠せなかった。
「うそ、さっきよりも大きくなってる」
腹痛もどんどん痛くなった。
限界だった私は体調不良を訴えて早退した。
ゆっくり登下校を歩く。
もう限界が近かった。
近くにあった公衆トイレに入った。
普段なら何があっても絶対に入らない場所だ。
地元の人でさえ決して入ること無い場所だ。
それでも、私は限界だった。
これは、陣痛かもしれない。
お腹もすごい速さで大きくなる。
私のお腹の中で何かが動いていた。
それが動くたび、内蔵が押しつぶされるようで、とても苦しかった。
出産が始まった。
股が裂けるような痛みだった。
気を失いそうなほどの激痛なのに、なかなか意識は飛んでいかない。
痛みで声が漏れた。
数十分後、小さなバケモノを産んだ。
私はこの得体の知れない生き物の母親になった。
--ショウ視点
今日のイビルアイは様子がおかしかった。
そして、俺には何も言わずに早退した。
訳が分からない。
一体どうしたんだ。
俺は彼女の事を心配した。
その日から、イビルアイが学校に来なくなった。
俺は彼女の住所を調べ、家に行った。
家のチャイムを鳴らすと、イビルアイが出た。
「・・・・・」
まるで別人のように生気がなかった。
体も細くなっていて、顔がやつれていた。
まるで廃人のようだった。
「お、おい!イビルアイ!大丈夫か!」
「・・・・・」
「どなたでしょうか」
「え…?」
「お、俺だよ、ショウ…!」
「誰?」
おい、なんの冗談だよ。
ふざけんなよ。
俺を馬鹿にしてんのか!?
「ホントに覚えてないのか?クラスメイトのショウだよ」
「ああ、いたっけそういえば…」
「お前、本当にイビルアイなのか?」
「そうだけど?」
「用がないならさっさと帰って」
「・・・・」
イビルアイはドアを閉めた。
俺はその場で立ち尽くした。
ショックで頭ん中真っ白だ。
俺は絶望しながら下宿に戻った。
それから3日経っても、イビルアイは学校に来なかった。
その日の学校の帰りに、俺はスラム街みたいな所に行った。
何故か、帰りたくなかったんだ。
適当な所に腰掛けて、ボーッとした。
何時間そうしたかは覚えていない。
とにかく何も考えたくなかった。
雪が振り始めた。
もう冬か。
寒い、凍えて死んじまう。
俺は変温体質だから、気温の変化に弱い。
これもヒバナになんとかして恒温体質にしてもらわいとな。
ああ、ヤバい、眠くなってきた。
そこで一晩を過ごした。
日が昇る前に目を覚ました。
俺は雪に埋もれていた。
結構積もっている。
20センチぐらいだろうか。
取り敢えず、下宿に戻ることにした。
既に東の空は明るかった。
もうすぐ朝日が昇る。
何十分か掛けて、下宿に戻った。
ムガロがいた。
服を着ていなかった。
裸で何してんだ。
「おい、ムガロ、何してんだ」
「別に…?」
ムガロは雪の上で体操座りをしていた。
横に血で汚れたスコップが置いてあった。
ムガロも血まみれだった。
「また人を殺したのか」
「うん…」
俺は自分の上着をムガロに被せる。
「戻るぞ」
「・・・・」
今日のムガロは変だった。
ムガロの部屋は2階にある。
実はムガロも退寮していたのだ。
あれは、つい2週間ほど前だったか…
引越し作業が終わって一段落した頃。
何故かムガロがやってきた。
「よ!」
「ショウ、私もその家で住みたい」
「無理」
「ええ!なんでよお」
「退寮手続きももう済ませたのに」
「じゃあそこで寝ろ」
俺は庭を指した。
「えぇ!嫌ッ!」
幸いにも、上の階が空いていたのだ。
そんな事があった訳だ。
因みに1階は俺の居住スペースだ。
とりあえずムガロを部屋に入れたかった。
ムガロの部屋は外の階段を上がってはいる。
ムガロをソファに座らせ、暖房をつけた。
ムガロが泣いていた。
「どうした、何かあったのか?」
「ううん…」
--
次の日。
どこかの教室、そこのクラスは、みんな静かに授業を受けていた。
このクラスは男子生徒よりも女子が多いクラスだった。
次の瞬間、女子生徒が死んだ。
20人あまりの女子生徒が、体から骨だけが飛び出たのだ。
人間から、死神でも生まれたかのようだ。
そのさまは、さながら地獄であった。
男子共は情けなく悲鳴を上げてパニクる。
謎の力が働いて、天井に大穴が空いた。
3階、4階も貫き、空まで見えた。
それに巻き込まれた生徒も大勢死んだ。
死体から出てきた全身の骨が、一つの箇所に集まり、本物死神が現れた。
誰かが、生贄を捧げて召喚したのだ。
そう、イビルアイから生まれた小さなバケモノだ。
クリムゾンが真っ先にその死神に挑んだ。
「クソッ!遅かった!」
死神の周りには人間の首が9つほど衛生のように周っていた。
死神が鎌をふる。
クリムゾンはあっけなく消えた。
「だ、だめだ、勝てねえよおおおお」
クラムボンが叫ぶ。
死神が屋上に移動する。
それに続いて、クラムボンとポセイドンが階段を登って屋上に向かう。
ショウも来ていた。
「ショウ!お前はさっさと逃げろ!」
「いや!俺はまだ逃げねえぞ!おい!お前ら!アイツは敵なのか!敵だと判断して良いんだな」
「ああ!」
ショウは死神に向かって両手を突き出す。
「貫通式特殊火吼 炎…!」
ショウがビームを打つ。
「あんれ〜?」
「効いてない?そんなん聞いてねえぞ!」
「奴は物理攻撃が効かないんだ!」
「はあ、お手上げだ」
「クリムゾンが唯一倒せる能力だったのに、奴が真っ先に死んでしまった」
「ポセイドンは!?奴の寿命まで時を進めれば!」
「無理だ!奴は寿命がない!」
「マジかよ」
「大賢者ならなんとか出来るか?」
「それも無理だ!あの人戦えないよ〜!」
「どおすんだよ〜!」
「お…ん?」
「お、おい、空を見ろ!」
空にも異変が起こっていた。
何か大きな魔法陣のようなものが空に描かれていたのだ。
その中心がどんどん膨らみ月ほどの大きさの球体となった。
クラムボン、ポセイドンはそれを知っていた。
「天使が妊娠した」
「もう、産まれるぞ…」
「おい!何が産まれるんだ!」
「始天使様だ」
「してんし?誰だそいつはあ!」
空に浮かんでいた黒い球体から、何かが落ちた。
それは俺たちのいる屋上に落下する。
落ちたものは胎児のような生き物だった。
まだ母親のお腹にいるべき姿だ。
それは成長した。
その胎児から小さな翼が生え。
やがて赤子になった。
そらに成長し、乳児、幼児、子供、大人へと成長した。
それが完全に成長しきるのに長い時間は必要としなかった。
「始天使様…」
それの天使は女的な体つきを持ち、皮膚がないので、人間の皮を剥ぎ取ったような姿であった。
そして大きな翼を持っている。
身長は我々と同じくらいだ。
「奴は敵か?それとも味方なのか?」
「どっちでもない」
「しかし、始天使様は我々に興味がないそうだ」
始天使は俺たちの方を一度も見なかった。
死神の方を見ていた。
「さて、俺たちは何も出来ないな」
「どうなるかな…」
始天使はゆっくりと死神の方に向かった。
しばらくした後、死神が自分の頭をちぎり、始天使に渡した。
まるで、殿方に対して何かを献上するように。
あまりに異様な光景だった。
死神は灰になって消えた。
始天使は死神の頭蓋骨を持ってどこかへ羽ばたいていった。
屋上には、何が起こったのか何も理解出来ていない者達だけだ。
「とにかく、助かった、のか…?俺たちは」
「ああ、そのようだ」
「なあ、一つ、気になるんだが、始天使って何者なんだ?」
「始天使様は、我々に能力を分けてくださるお方だ」
「一瞬で成長したのも、ポセイドンが持つ時間を進める能力だ」
「つまり、我々が一つだけ持つ固有の能力はすべて、始天使様にも使えるというわけだ」
「一体何者なんだよ」
「まあ、我々も詳しい事は知らないが、始まりの天使であるといのは確かだ」
始天使について、ある程度知った俺は、帰ることにした。
どうせ休校になるだろうしね。
こんな凄まじい事が起こった後でも、俺はイビルアイの事が頭から離れなかった。
イビルアイ、一体何があったんだ。
《お前の事を覚えてないのは本当らしいな》
「ああ、分かってる」
原因は何なんだ。
《原因、か…》
考えてもやっぱり分かんねえや。
取り敢えず俺は下宿に戻った。
ムガロの所に行った。
中に入ると、カーテンは全部締め切っていて、真っ暗だった。
「お〜い、邪魔するぜえ」
「・・・・・・」
「寝てるか」
俺はムガロを起こそうとした。
「んん……うみゃ……みダブつ」
ペシッ
ムガロの頬っぺをしばく。
「ンア゛ア゛ア゛!!」
「ナニい……?」
「ムガロ、起きてくれ」
「ヤダあ……」
「頼む、起きてくれ」
「・・・・・」
ムガロがゆっくりと上体を起こす。
「ふぁ……っあ」
「…何の用?」
「相談があるんだ」
「はあ…」
「何?うざいんだけど、さっさと帰ってくんない?」
「まあそう言うなよ、俺の話を聞いてくれよ」
「はあ…あと5分だけ寝かせて」
「分かったよ、5分だぞ」
「・・・・・」
「1…2…3…4」
「ああうるさい!数えるなアアアア!」
「・・・・・・」
2時間後。
「で、相談って何?悲しそうな顔してるけど」
「イビルアイの事なんだ」
「へえ、なに?上手くいってないの?」
「うう、それとはまたちょっと違うんだ」
「違う…」
「そんなレベルじゃねえ」
「もう何がなんだか分かんねえんだよ」
「ねえ、ショウ、落ち込んでるの?」
「ああ、もう正直死にてえ気分だ」
「私も今結構センチメンタルな気分なんだけど、まあ、いっか…」
「取り敢えず言ってみ?」
「ムガロ…」
「なあムガロ、俺、どうすりゃいいかなあ…!」
気づけば涙が流れていた。
「イビルアイが!俺のこと覚えてないんだ!もう訳わかんねえよ!」
「どうすれば、どうすればいいんだよおお!!!」
「元にもどしたいんだ!」
「なんか、彼女、元気無かったし!とにかく普通じゃねえんだ!」
「ムガロ、助けてくれ!お前なら何か知ってんじゃねえのか!なあ!」
「分かった分かった!とにかく落ち着きなさいよ」
「ちょっと待って、今考えてるから」
「うん…」
「記憶喪失?」
「いや、それはないはずだ。だって、俺に関する記憶だけが無くなってるんだ」
「なるほどねえ、あれじゃない?記憶から消したい人物を消してくれる店」
「お、おい、なんだよそりゃ…」
「この街の総合病院の近くにあるダイナーって店、元々は大事な人が失って悲しいって人向けの店だわ」
は?
「例えば、息子を亡くしたお婆ちゃんがいるとします、悲しみで1日中泣いて過ごします、周りのご家族はそんなお婆ちゃんを見てられなくて、いっそ息子のことを忘れたほうが良いと判断した。そのために存在するお店」
おい。
「じゃあなんだ、イビルアイが俺の事を記憶から消したっていうのか?おい、お前、ふざけてんのかテメエはよお…」
「そうかも知れないって話よ!そもそもその店が実在するかも分からないんだから!可能性の話よ」
「俺は信じねえ、そんなの信じねえぞ」
「信じる信じないの話じゃないでしょ、とにかく行ってみなきゃ、話はそこからよ」
「・・・・・・」
「もう、そんな顔しないでよ、なにか理由があるのよ、明日一緒に行って確かめよ?ね?だから今日はもう寝な?あんた疲れてるわ」
「…分かった、寝る」
俺は自分の部屋に戻った。
次の日、例のお店に行くことにした。
ムガロは一緒に行くって言っていたのに寝てやがるので、俺一人で行く。
街の人に聞いてみたら、あっさり見つかった。
「おや?若いの、誰を消したいんだい?母親でも亡くしたかい?」
「いや、聞きてえ事がある」
「何ですか?このワタクシめに答えられる事ならなんなりと」
「イビルアイって女の子、来てなかったか」
「・・・・」
「少し…お待ちを」
店員さんが引き出しの中から何かの書類を探し始めた。
「お客さん…悪いことは言わない、このまま知らないふりして帰った方がいい」
「知らねえほうが幸せなことが世の中にはたくさんある」
「おいおっさん、俺は事実を知りたいんだ」
「…分かりました、そこまで言うのなら、お見せしましょう」
そう言って1枚のカードを俺に渡した。
「これは?」
「過去に利用したお客さんの名前と、そのお客さんが記憶から消した人物の名前が書かれてあります」
カードをみる。
真ん中に大きくイビルアイという名前が書かれていた。
そして下の欄に、俺の名前があった。
動機が激しくなるのが分かった。
信じられない。
でも、間違いなく彼女の字だった。
これは夢なのか?
そうであって欲しい。
「理由を、教えてくれ」
「それは、教えられません、秘密事項ですので」
「いいから教えてくれよ!」
「プイバシーですので」
「そんなのどうでもいいからさっさと教えろよ!」
俺はおっさんの胸ぐらを掴んだ。
「いいえ、ダメです」
「何故なんだ」
「決まりですので」
「どうしてもダメか?」
「はい、何があっても、どのような事情があっても、決してお教えすることは出来ません」
「・・・・」
俺はおっさん胸ぐらから手を離した。
「…分かったよ、諦める」
俺は椅子に座った。
ため息を付き、背もたれにもたれかかった。
「少なくとも彼女は幸せでわなかった」
「忘却に進みゆく世界は、穢れなき無垢な心に宿る」
「彼女が幸せになるにはそうするしかなかったのです」
なあ、イビルアイ、俺と一緒じゃ、不満だったのか?
なあ、教えてくれよ。
俺とじゃ、幸せになれねえってのかよ。
「…ふざけんなよ」
俺はしばらくの間ただ黙って椅子に座った。
「なあ、記憶を消すの、いくらだ?」
「どなたの記憶を思い出から消しますか?」
「イビルアイだ」
「本当に、よろしいのですね?」
「ああ、さっさと消してくれ」
「畏まりました」
「では少々お待ちを」
「・・・・・・」
数分後、俺は紙を渡された。
必要な内容を記入し、提出しなければならない。
俺は素早く汚い字で書く。
俺の名前と、彼女の名前だ。
詳しい関係性や、特に記憶に残っている思い出などを記入する。
最後の欄を記入している途中、何故か、筆が止まった。
「・・・・・」
「どうなさいましたか」
そうか、やっぱり。
ははっ、そうだよな。
辞めよう。
こんな事したって、意味がない。
大事な人の事を忘れようとするなんて、どうかしてる。
「辞めだ」
--
俺とムガロは、学校を自主退学した。
その日のうちに、帰る準備を済ませた。
--
例えばあの体験がフィクションならば、どんなに良かっただろうか。
どんなに救われただろうか。
あの時俺はまだガキで、全てを手に入れることが出来ると思いこんでいた。
全てを知ることが出来ると思ってた。
恋したのも初めてなんだ。
イビルアイに捧げるレクイエム。
君のために愛を歌うよ。
この痛みさえ愛してみせるさ。
Requiem for Evileye
イビルアイに捧げるレクイエム




