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心世界  作者: rin極
第五章 学生編
27/48

第27話 「日常」



マスターピース学園に入学してから、2ヶ月が過ぎた。

俺の学校生活は実に短長である。


まず、俺の朝は早い。

日が昇ってすぐの頃に目を覚まし、洗面所で顔を洗って意識を完全に覚醒させたら、部屋でブラックコーヒを飲みながら読書だ。

俺はこの世界について無知なのでこの世界の常識を知ろうと思ったのだ。

この国の歴史や法律、地理など知るべきことはたくさんある。

幸いにして、マスターピース学園の図書館はパナム王国の中で一番保管している書物の数が多いので、資料には困らない。

そういうわけで朝はこの世界を知るためのお勉強だ。


食堂が開いたら、飯を食うため早めに行く。

俺は胃袋が無駄にデカくなってしまったのでおかわりが必須なのだ。


今、ヒバナが少ないエネルギーでも体を動かせるように改良してもらっている途中だ。


今日は珍しく俺の一番の友達であるセドリックと共に朝食をとった。

彼はいつも起きるのが遅いので一緒に朝飯を食べるのは久しぶりである。


飯を食べ終わると、食堂を出て部屋に戻る。

パジャマのまま学校に行くわけにもいかないので、着替えをしてから今日の授業に必要な教科書や道具をバッグに入れて、学校へ行く準備をする。

時間も迫ってきたので、そろそろ学校に行こうかと考えたときだった。

窓から一匹のカラスがやって来た。

窓は閉まっていたので、そのまま思いっきりぶつかってきた。


ドンッ


「何?」


その衝突音に反応したルームメイトがお化粧を中断し、窓の方を見た。

しかし、何もない。

すぐに興味を失くした俺のルームメイトは顔面塗装を再開した。

この男、男のくせに生意気な化粧をするのだ。

香水と頭もセットだ。


数秒もしないうちにさっきのカラスが窓から姿を現した。

今度は、ハチドリのように常に翼をバタつかせながら窓にへばり付いている。

クチバシになにか紙のようなものを(くわ)えていた。


「うわあ!!キモっ!カラス!?」

「おいポテトヘッド、窓を開けろ」

「はっ?なんで?意味がわからん」

「はあ…」


いちいち口答えすんな。


「俺が開ける」

「え〜、いやちょっと待って?開けるのは頭おかしいで?」

「うっせえ」


俺は構いもせず窓を開けた。


バサバサッ


カラスが部屋に入ってきた。


「あああああああああああ!!!」


ルームメイトのオイシー・ポテトヘッドが叫んだ。

カラスが俺の腕に止まる。


ムガロのカラスだ。


「おい、そいつを早く逃がせ…!」


ジャガイモの発言は無視し、俺はそいつが運んできたブツを受け取る。

ポテト頭は息を切らしてハアハア言ってる。

よほど怖いらしい。

奴はオカマだからな、仕方がない。


お、そうだ、いい機会だ。

あいつに画鋲の件の復習を果たすとしよう。


「おい疫病神、あいつを襲え」


俺がポテトに指を差すと、部屋は悲鳴にまみれた。

俺は良い気分になった。


登校する前に紙を確認してみると、なにやら文字が書かれていた。

学校が終わったら図書館に来いと書いてある。

やれやれ、ムガロのメッセージか。

手紙を確認した俺は学校に向かった。


登校中、空を見た。

今日は、久しぶりの豪雨、空を見上げれば思わず息を飲んでしまうほどに闇深く曇天の空で、何もかも飲み込んでしまいそうな渦を巻いているその中心は、黒点のように漆黒で、俺の魂が吸い込まれそうだった。

何かが起こりそうな予感がした。

近いうち、何かが起こる。

未来への不穏な空気を感じ取った俺は、風で傘が飛ばされないように気をつけながら通学路を歩いた。


魔法工学科棟の4階にある自分の教室に入る。

自分の席に座って、しばらくボケーっとしていたら後ろの男子の話し声が聞こえてきた。


「ホントだって、先輩が言ってたんだよ。魔法科の2年で、女子生徒が5人消えたそうだぜ」

「うっそマジ?怖ええ」

「そしてよお、殺ったのが魔法科の1年だって噂なのよ」

「たしか、首席の、ムガロだっけか」

「へえ、おっかねえ」


あいつ、やりやがったな。


ホームルームの時間になったので、担任の先生がやってきた。


「みなさんに、悲しいお知らせです。先日から、この学校で行方不明者が増えています。もうすでに20数名ほどの生徒がいなくなっています。皆さんも、夜道には気をつけてください」


最近、学校の敷地内で地方の治安維持隊と、民間の自警団がウロチョロしていた理由はこれか。

大賢者マギが異国の出張から戻ってきたのも結界を張り直すためか。


やれやれ。


ホームルームが終わったあと、他の担当の先生が来るまで後どれくらいの時間か。

ほんの少しの間だろう。


今日は専門科目の授業がある。

1年生は基礎科目がほとんどだが、ちゃんと専門もある。

高学年になるにつれて専門的な科目が増えるシステムだ。

もっとも、後2年ほどで世界が終わるので飛び級でもしない限り高学年には成れないし卒業もできない。

改めてそう考えると、学生なんかやってる場合じゃないなと思う。


ほんと、こんなことやってる場合じゃ、ないんだけどなあ。

勉強なんてやってる暇もねえのになあ。


まあ、考えても仕方がないので、未だにしていなかったこの学校についての詳しい説明をしようではないか。


まず、時は遡り約300年前、大賢者マギと、スパモン教、ソウカ学会の三者によって、このマスターピース学園が設立された由緒正しき学校である結構歴史のある学校なのよ。

学校としてのレベルは世界最高水準、学問の道に進むものにとっては、一度は入学を検討するであろう場所だ。

そして俺が選んだ魔法工学科は、就職にもめっぽう強い。

魔法工学科は、魔法という文字があるからといって、実際に学習する内容は超理系。

力学はもちろん魔力の性質、材料学、魔法言語などなど、学ぶことは盛りだくさんだ。

それ故に優秀な人材を大量生産している学科となっているのだ。


さて、もうすぐ授業が始まる。

集中だ。



--



「本日から、機械的な魔力制御についてを、基礎から学んでいただきます」

「私の名前はズラタン・カートリッジ、この学問の専門です」

「さっそくですが、人工的な魔力回路について説明します」

「魔力回路とは、魔力が流れる道のことであり、魔力回路に魔力を流そうとする働きを魔力圧といい、魔導線には、魔力抵抗といって、同じ魔力圧でも流れやすいものと、そうでないものがあり、魔力伝導率は半魔導体、魔導線によって異なります」


「では早速、レゲエの法則を使って、この問題を・・・」



--



「魔力の流れは、魔力を帯びた粒子の移動のことだ」

「魔力にはふたつの性質があり、これを粒子と波動の二重性と呼ぶ。つまり、魔力には粒子と波のような性質を併せ持つということだ。これは近年、アルツハイマーによる二重スリット実験によって判明した事実だ」



--



魔力回路図法、魔力が流れる特殊なインクを使って、魔力回路を作る。

魔法具制作、実際に魔法具を制作する。まずは簡単なものから。

魔法具理論、魔法具の仕組みや理論について学ぶ。


これらの学問は魔力を扱った工学的な分野だ。


午前の部が終わりかけた頃から、俺は気になることがあった。

昨日、席替えが行われて席が近くなったイビルアイという女の子が、なぜか、俺にとって気になる存在だった。

なぜか気になってしまうんだあの子のことが。


なぜだろう、あの子は、どうして・・・

いや、分からない。

なんだかとても、ほっとけない存在だ。


結局俺は、その子に話しかけることも出来ずに昼休みの時間になってしまった。


イビルアイは、この世界では珍しく、黒くて艶のある綺麗な髪をもっていた。

日本人的な素朴な顔立ちだ。

ムガロと違って、ハイライトのある黒目。

そうだ、黒髪黒目、東アジア的な控えめな顔、おっとりとした性格。

まるで日本人だ。

だから気になってしかたがないんだ。


ヘアスタイルも、陸上部がやってそうなポニーテイルだし、もしかして同郷…なのか?

でも、決定的な違いは魔力をもっていることだ。

だから、どっちなんだ。


「乳首取れた」

「ハッ?」


後ろの席のセドリックが急に意味不明な言葉を発声した。


「今、ピップエレキバンで何とか誤魔化してるんだけど、病院なら何科に行けばいいですか?」

「精神科だ」


「なあショウ、あいつマジブスくね?」


今度は自称イケメン、センター分けヤリチンのメメントが話しかけてきた。


「ヘンリーのことか、お前なあ、よくその顔面で人のこと言えるよなあ」

「なんで世の中にブサイクがいるんやろ」


メメントがそう呟くと、ジェームズ・ブライアンが割り込んできた。

不変の事実、誰も反論出来ぬ正論でもあるかのように、彼は言った。


「ブスいないとこの世界住めない」


なかなか哲学的な言葉だ。


俺はセドリックと共に食堂へ行くことにした。

食堂に向かうために外に出る。

未だに雨が降ってやがった。


「大雨、最悪だあ」

「そうかあ?セドリック、こんだけドバドバ降ってりゃもう逆に清々しいよ」

「傘もぶっ壊れたし」


俺は今ずぶ濡れだ。

大粒の雨にぶち抜かれなが走っている。

しかし、俺は幸福を感じ取るのが上手くなった。


「ははははは!最っ高だぜ!」

「気分は爽快!」

「マジかっ」


もう一つ変わったとこがある。

それは、嫌いだった下ネタにも割りと寛容になったことだ。


「はははっ、気持ち良すぎてこれオナニー、のような快感!」

「こりゃもう、興奮して夜も眠れないぜ、雨粒の衝撃がっ、ドラムを叩いている!俺の頭からこのリズムが離れない!」

「ショウって、いつも幸福そうだよな」

「そりゃそうさ!なぜなら!」


「俺の人生オナニー!!!!」

「あははははははは!!!」


その時、俺の耳から音が消えた。

遠く離れた場所、イビルアイの姿が見えたからだ。

一瞬、その情景がゆっくりと流れた。


大雨の中、天に顔を向け、両手を広げ、まるで恵みの雨を受け取るかのような・・・


彼女、イビルアイは幸せそうに目を瞑っていた。

雨を、感じ取っているようだった。


そのときは一瞬で、気づいたら食堂についていた。

ご飯を食べているときも、ずっとあの時の彼女の姿が頭から離れなかった。


「ショウ、なにボーッとしてんの?」

「え、いや、何でも…」


しばらく食事を忘れていたようだ。

突然、セノビックが態度を変えた。


「感じる」

「どうした?」

「乳首を、感じる」

「やばい!やばいぞ〜!」

「セドリック…始まった、のか…?」

「ああ!今、絶頂が近づいている!」

「何にいい!?」

「セドリック!逝くんだな!今!ここでっ!」


セドリック・セノビック。

16歳。

好きなものは自分の乳首。

最近の悩みは乳首でしか天国に行けないこと。


彼は、食堂のど真ん中で絶頂を迎えた。


あまりにも衝撃的だった出来事も数分後には頭から離れ、食事を終えた俺たちは午後の部を受講するために学校に戻った。

最近は、食事をとる時はセドリックだけでなく、もう一人加わることが多くなってきた。

名前は覚えていないが、メガネをかけていて髪はボサボサの低身長の小心者というのが俺が抱いているイメージだ。

俺は奴のことが何故か気に食わないので、こいつがいるときはセドリックといてもハッピーじゃなくなる。

いつも2人で食べていたので、正直邪魔だ。

会話の邪魔もされるし、体臭も洗濯物が生乾きしたときのような匂いがいつもしているので、俺の食事の気分を害す。

なんでいるんだ。


今日の昼食はそいつが居なかったので、楽しい食事をとることが出来た。


「・・・・」


学校に戻り、セドリックと一緒に廊下を歩いている時に、たまたまムガロとすれ違うことになった。

すれ違いざまになんとなくハイタッチした。


「ヨッ」

「よっ…」

「今日は早起きだな」

「ま、寝てないから」


ムガロの隣にいた女性が、ふと気になったので立ち止まり、声をかけた。

白銀の美しくて長い髪、青空のような青い目、そこそこある身長、まるでモデルさんみたいだ。

美人だし。


「ムガロ、となりのそいつは?」

「私が世話になってる先輩で、良くしてもらってるの」

「あ、こんにちは、ブルーアイズです」

「俺は工学科1年のショウで…どうも、初めまして」


ムガロに優しくしてくれる先輩がいたのか。

良かったなあ。


「授業があるんで、もう行くよ」

「あなたは、この子のお友達?」

「そうッスね」

「そろそろ行くんで、それじゃっ、あ、ムガロをよろしく頼みます」

「ええ、分かってますよ」


少し話したら、すぐ別れた。


別れる際、ムガロが俺に「放課後来いよ〜」というセリフを吐いた。

セドリックが俺に質問する。


「さっきの女の子、だれ?ショウの彼女?」

「妹だよ」

「え、なんかごめん」

「別に、気にすんなよ」


嘘だし。


一方ムガロの方では。


「っで、ムガロちゃん、ホントにただの友達?」

「弟だけど」


「あ、お姉ちゃん」


後ろの方で、イビルアイの声が聞こえた。

俺は振り返って少し眺めた。


「誰?その子」

「私の彼女」

「ええ!?お姉ちゃんまさか・・・」

「冗談よ」

「あはは…なんだあビックリしたあ」


どうやらブルーアイズはイビルアイのお姉ちゃんだったらしい。

あんまり似てないから分からんな。


それだけ確認すると、俺はさっさと教室に向かった。

そういや、なんでムガロがいたんだ?こんな時間帯に・・・

いつもなら寝ているだろうに。

あ、そっか、今日天気悪いからか。



再び俺たちは教室に戻る。

教室でセドリックと楽しく会話をしていたら、例の何故かムカつく野郎が輪に入ってきた。


「セドリック〜、今日帰ったら一緒に百貨店に行こ〜」

「いいよ」

「ショウも来る?」

「いや、いい」


放課後ムガロとの約束があるしな。


「ええ行こうや!絶対楽しいで?」

「や、わりいな、用事があるんだ」

「百貨店の裏にある民衆用カジノやで、ショウも絶対ハマるけん!いや、ほっんま、マジで!バチクソおもろいけん!」


パチンコかよ。

馬鹿だなあコイツ。


「カジノなんて辞めとけよ、金の無駄だ」

「どうせあれだろ?安く遊べる代わりに金が帰ってこねえで有名なとこだろ?」

「そうだけど」

「セドリックもそろそろ卒業しろよ、中毒になってんぞ」

「え〜、無理無理、やめたら死ぬって、俺の生きる希望が」


ダメだコイツら。

そう、この学校では、パチンコ中毒者が多く存在する。

セドリックも重症なみの中毒者だ。


どうやらパナム王国の首都圏の人たちは子供のころからパチンコをやっていて、それをやっていないと精神的に不安定になる者たちばかりらしい。

これがパナム王国の策略か、恐ろしい。

国民を中毒にして働かすってわけか。



--



放課後、ムガロに来いと言われていたので図書館へと赴いた。


「やっと来た。遅いよ」

「紙切れ1枚で来てやったんだ。文句言うんじゃねえよ」

「あはは、ごめん」

「なあムガロ、2年の女子が5人ほど消えたらしいんだが…」


ムガロは不敵に笑う。


「もう既に、1人は完食したわ」

「お前、まさか…」


ムガロは笑ったままだ。


「あ、そうそう、あと1人来るから」

「誰?」

「イビルアイ」

「え?」


イビルアイが後から来た。


「ども、イビルアイ、ですヨロシク」


彼女が軽く自己紹介したあと、俺の顔をみた。


「えっと、君、一緒のクラスだよね?」

「ああ、まあ、話すのは初めてだけど」

「そうだね、ははっ」


イビルアイは軽く笑った。


ムガロが喋る。


「この子、幽霊を見たんだって」

「はあ?幽霊?」


俺はイビルアイに問う。


「それ、本当か?」

「本当だよ」

「本当に?」

「本当」

「ホントの本当に?」

「ホントに本当!」

「嘘じゃなくて?」

「だから!ホントに見たんだって。信じてよ…」


イビルアイが軽く拗ねたようにそっぽを向いた。


「いや、すまん」


俺が謝ると、彼女は、再び俺の顔を見た。

俺もイビルアイの目を見る。

イビルアイが目を逸らすまで見るつもりだったのだが、彼女もなかなか目を逸らさなかった。


「お前、目を逸らさないんだな」


俺がそう言うと、イビルアイは不思議そうな顔をした。

さっきのでなんとなく分かった。

彼女は、たぶん日本人じゃない。


「もしかして、マジ?」

「マジです」

「そっかあ、そりゃ悪かったよ」

「もう、失礼だな〜」

「で、ムガロ?なぜ俺等は集まったんだ?」

「そんなの決まってるじゃん、幽霊探し」

「何で?」

「だって気になるじゃん」

「はあ…」


ムガロが説明を初めた。


「これは噂話なんだけど、この学校の図書館には、黄昏時にしか入れない特別な書庫があるらしい」

「書庫にあるのは人の名前がついた本、書かれているのはその人が学園にいる間の記録よ」

「もしかたらコレ、本当にあるかも」

「探してどうすんだよ」

「見るの、自分の記録を、私の未来を」

「気になるでしょ?」

「まあ」

「よしじゃあ行こうか、ちょうど今黄昏時だから」


俺たちは図書間に入ることにした。


「あれ?」

「どうしたムガロ」

「これ、鍵がしまってるわ」

「今日は休みか?」


イビルアイがそれを否定した。


「いや、違うよ、図書館は4時に閉まるから」

「そっか、ねえイビルアイ、どうするの?」

「南京錠、破壊しよっか」


南京錠は俺が破壊し、中に入った。


「うわっ、暗っ」


中は暗かったので、俺は手のひらに火を灯した。


「ええナニソレすごっ!ねえどうやってるの?」

「マジックさ」

「へえ、すご〜」


俺たちはしばらく図書館の中を探索した。

5〜6分ほどの時間が経過したとき、突然ムガロが声を上げた。


「見つけた」


ムガロが指差す方向に、小さな扉があった。

本当に、小さな扉で、細身の人なら頑張ってなんとか入れそうな大きさだ。

もはや扉じゃなくて金庫だ。


「あ、普通に開いた」


中には、紙と、水筒が入っていた。

ムガロが紙に書いてある文字を読む。


「え〜と、廃校舎の3階の男性用トイレに行き、奥から3番目の個室にノックを3回してから入ってね、と書いてある」

「行くしかねえか」


あれ?金庫が消えている。

まあ、いっか。

たぶんあれだ。

心霊現象って奴だ。


「え、ちょっと待って」

「どうしたの、イビルアイ」

「もしかして男子トイレに行くの?ちょっとそれはー、なんていうかその…」

「あ、後書きに今から10分以内に来ないと秘密の書庫が消滅するって」

「おお、それじゃあ急がねえとなあ」

「ええ!?」

「なにしてるの?早く行くよ」

「勘弁してよお…」

「ダメ」


数分後。


「はあ…」

「入っちゃった。男子トイレ…」

「え〜、あー、奥から3番目だから〜、ここか」


他の個室は扉が開いているのに、そこの個室だけ、扉が閉まっていた。

取り敢えず3回ノックする。


コンコンコン。


「・・・・・」

「何も…起こらないわ」

「まあ、取り敢えず入ってみようぜ」


俺が個室の扉を開こうとしたとき、一瞬、視界が黒く点滅した気がした。


「あれ?俺今、何しようとしてたんだっけ」

「あ、そっか、扉を開けようとしたんだ」

「だよなムガロ?」

「・・・・・」

「おいムガロ?」

「ん?ああ、そう、だったわね」


なんだ、なんかおかしいぞ。


「ねえ、なんかお腹が変」


イビルアイが自分のお腹を抑えて呟いた。


「俺も」

「私も」

「・・・・・」


3人で顔を見合わせる。


「ま、まあ、取り敢えず個室の中に入ろうぜ」

「そ、そうね」

「ですね」

「よし、開けるぞ」


キイイイイイイ…


少し扉の金具が錆びていた。


「普通の、トイレだ」

「くっさ」


ムガロとイビルアイが鼻を押さえた。

俺も後から臭ってきた。


「くっせえええ!!!」


『ヒバナ!嗅覚を落とせ!』


《あいよ》


「ふう」


マシになった。

そういや前に嗅覚を鋭くしていたのを忘れていた。


「うんこ臭え」


とは言いつつも中に入る。

ムガロとイビルアイも中へと入る。


「おいお前ら、入ってくんな、狭いだろ」

「「え?」」


こんな人ひとりがやっとのスペースに3人も入るんじゃねえっての。


ん?

あれ?

なんかおかしいぞ?

体が、動かねえ。


「やべえ、体が動かねえ!」


ダンッ!


個室トイレの扉が思いっきり閉まった。


「「「え’’え’’!?」」」


みんなビックリした。


「う、うおお!?」

「体が!勝手に!?」


俺の意思とは関係なく、自分の身体が便器の前に跪く。


「ショウ!どうしたの?」

「体が!動かねえんだ!」

「うそ…そんな」


どんどん俺の顔が便器の汚えところに近づいている。

こ、これはもしや!

い、嫌だああああ!!!!


「う、うおおおおおおおお!!!」

「「ぎゃあああああああああ!?」」


そばに居る女子2人も俺のさまを見て悲鳴をあげる。

くそ!なんで俺だけ!


視界には、もう汚え便器の底でいっぱいだ。

こ、これは!!


俺の口は勝手に開き、舌を出す。

おいおい、舐めろってか?

便器の底を!!!???

それだけは勘弁してくれよ・・・


「ぬお、おおっ、ふぉお!?はっ、はふああ、はっ」


あ。


俺はこの日、初めて便器の底を舐めた。


意識、が・・・


バタッ。


俺は2人の前から姿を消した。

突然、ショウが目の前から消えたので、2人は恐怖する。

残った2人は抱き合いながら絶叫するのだった。



――



「はっ」


俺は勢いよく上体を起こす。


「あれ?みんなも、さっき起きたのか?」

「うん、私も今さっき目を覚ましの」

「わ、私も…」

「なあ、さっきのは…夢、だよな」

「・・・・・・」

「・・・」


3人とも冷や汗をかいた。

そこで、みんなハッとなった。


「夢じゃ…ねえ!」

「「「うげえええええ!!!!」」」


みんなほぼ同時に喉元を抑え、ベロを出した。


ムガロが水筒の水を口に入れ、うがいを始めた。


「おいムガロ!!その水筒を貸せ!お前には必要ねえだろ!!!」

「そうよ!私にも頂戴!」

「順番待ちよ、いい?私も舐めてしまったのよ!!いや!舐めさせられたんだわ!クッソオオオおお!」

「え?えええ!?」


俺はイビルアイの方を見る。

涙を流していた。



「もしかして、お前もなのか?」


イビルアイは静かに頷いた。


「マジ…かよ」


ムガロ、イビルアイ、俺の順番に口の中を水でゆすいだ。

ムガロは放心状態で、イビルアイはずっと小さく泣いていた。

正直、俺も今すぐ泣きてえ気分だ。


ムガロが呟く。


「それにしても、ここはどこかしら」


ホントだ。

何処だ?ここ。

さっきの出来事があまりにも衝撃的すぎて周りが見えていなかった。


突然、3人以外の声がした。


「ようこそ、秘密の書庫へ」


そこには、見知らぬ女の子が立っていた。

いや、性格には立ってなどいなく、宙に浮いているのだが。


「透ける体、人魂、昔の男の制服、制帽、どれも噂通りの姿なのね!」

「ああ、うん、たぶん合ってる」


幽霊が頷いた。


「お前!便器舐めさせやがって!ふざけんなよ!」

「ははっ、騙されてやんの」


畜生、軽く見られてる。


あれ、なんかお腹が痛くなってきたぞ。


「あ、やばいウンコ行きたいかも」


ムガロがそう呟いた。


「お前もか?」

「あれ?私も、お腹が…」


そして幽霊が言う。


「その水筒、下剤入ってるよ」

「てめえ!なんてもん飲ませんだよ」

「勝手に飲んだのはそっちじゃん」

「ぐう」

「そこ、トイレ」


幽霊がトイレが有る場所に指を差した。

俺たちはダッシュでトイレに行く。


「私が先よ!」

「いいや俺が行く!」

「ええ〜!!」


トイレが一つしか無かったので、俺たちは醜く争った。


「俺が一番やべええんだよ!」

「ええ私もよ!」

「もう今すぐ出そうだ!」

「ええそうですとも!」

「お前ら!俺を先に入れないと後悔する羽目になるぞ!良いのか?もう漏れちまいそうだ!ああああああ!!!!やばい非常にやばい!」

「私だってもう限界だわ!」


「ははっ」


その光景を幽霊があざ笑う。

そして3人はこう思った。

「コイツ、絶対性格悪い」っと。


「おらああああ!!!」


俺は無理やりトイレに入る。

女性陣の非難の声が聞こえるが無視だ。


「ふう、間に合ったぜ〜」


んん?あれえこのトイレ、さっきのトイレと似てるなあ。


そう思いつつ、用を足した俺はトイレを流し、個室から出る。

この世界では珍しく水洗式だ。


「おや?」


出てみると、そこはさっきの男子トイレ室の中ではないか。


「戻った、のか?あの異界から」


なぜ?


数分後、ムガロが出てきた。


「うお!?戻った?あ!ショウ、ここにいたのね」

「随分長いなと思って、入ってみたら、あなたは既にいなかった」

「心配してたわ」

「それにしても、なんで戻ったんだ?」

「多分、あのトイレが異界への入口なんじゃない?」

「なるほどな」


それからまた数分後、イビルアイが出てきた。

俺たちは顔を見合わせる。


「・・・・・」

「よし、入ってみるか」

「そうね」

「え〜と、奥から3番目だから、あった!ここだわ」

「ノックを3回っと」


俺たちは中に入る。


「おいお前ら、入ってくんなよ狭いだろ?」

「くっさ」

「くっせえ」


ダンッ。


扉が独りでに閉まる。

その音で、全員クソビビる。


「うおっ!閉まった!勝手に閉まったぞ?」

「ええ!?なんで?なんで閉まったの〜?」

「うおおお!?か、体が、動かねえ!!」

「ええええ!!!???ショウ!動かないの?」

「おおおお!今度は勝手に動き出したぞおおお!?」

「おい!扉を開けろ!早く出るんだ!」

「ダメ!開かない!びくともしない!」

「くっそおおおお!!!」

「・・・・・」

「あれ?これ、さっきもあったよな」

「「あ…」」


全員が黙る。

緊張感が漂う狭い個室の中は、静けさだけが残った。


みんな冷や汗をかいた。


パッ。


その時、俺たちは転移した。


「・・・・・」


異界だ。


「まさか、3回目で気づくなんて」


幽霊が少し残念そうに呟いた。


「おいちょっと待て、なんだよ3回目って、一体何の事だ?」

「それは、知らない方いいんじゃ無い?」


幽霊は不敵な笑みを浮かべながらそういった。


イビルアイが、顔を青ざめた。


「やだ…そんな」

「知りたくない!知りたくない!!」

「はあ?何なんだよ?何が3回目なんだ?」

「やめて!あなたは黙って!」

「何だよ…」


ムガロが俺の耳元で伝える。


「私達は同じことを繰り返してたのよ」

「え?」

「ま、まさか」

「そのまさかよ」

「ループしてたのよ」


幽霊が言う。


「はあ、私の汚便器無限地獄が」

「自信作だったのに」


イビルアイがそれを聞いて確信したのか、また泣き始めた。


「うう…」

「よしよし、可哀想に」


幽霊が頭を撫でる。


「お前が作ったのか?」

「うん」

「そ、それにしても、自分たちが用を足した便器を舐めるのは、くふふっ、笑える」

「・・・・・・」


俺たちは、また気づくべきではないことに気づいてしまった。


「はあ、もうどうでもいいわ」


イビルアイがそういった。


「おお、大丈夫か?イビルアイ」

「平気ですけど?」


それから彼女はうつむく。

そして小さく呟いた。


「はあ…もうお嫁に行けない」


なんか、可哀想だな。


「まあ、気を取り直して」


「ここは境界の入口、秘密の書庫はあそこ」


幽霊が指を差した方向に、下りの階段があった。


「そこの階段を下りたら、書庫があるよ、たぶん」


俺たちは階段を下りることにした。


「4段目と6段目は踏んじゃいけないよ」

「上からか?それとも下からか?」

「下から数えて」


俺たちは慎重に階段を下りる。

そしてようやく、書庫にたどり着いた。


「おお、すげえ」


そこには、壁一面が本棚になっており、どこまでも広がっていた。

上を見上げても、天井が見えない。


一体どうなってるんだ。


「白杖代、明かりを灯せ」


幽霊がそう言うと、そいつ自身の周りに漂っている白い方の人魂が、明るく光った。

ん?なんか床が濡れてる。


「水?」


俺がそう呟くと、幽霊は説明を始めた。


「ここは境界、此岸(しがん)彼岸(ひがん)…2つの岸辺を繋ぐ海」

「そこには、生と死が存在しない」

「そしてここは私の境界、ここでは私がルール」


幽霊が手を広げて自慢げな顔をする。


「ここにあるのは学園に関係する人の記録」

「ねえ、質問なんだけど」

「なに?」

「白い本と、黒い本、あと、赤い本と3種類あるけど、それの違いは?」

「白い本はまだ生きてる人の本」

「で、黒いのはもう死んじゃってる人の本」

「赤いのは、絶対に読んじゃダメなやつ」

「OK?」

「私の本読んでみたいんだけど」

「名前は?」

「ムガロ」

「フルネームはあり?」

「ない」

「じゃあ、ない」

「は?どういうこと?」

「あなたの本はここには無い」

「どうしてなの?」

「さあ、私にもさっぱり」

「俺のは?」

「ユアネームイズプリーズ」

「ショウ・ニドネスキー」

「う〜ん、無い」

「そうか、やっぱり」

「あなたの名前は?」

「イビルアイ」

「あ〜、えっと、あ!あった!」

「はいどうぞ」

「あ、ありがとう」


イビルアイは幽霊から白い本を受け取ると、さっそく本を開いた。


「すごい、全部本当の事が乗ってる」

「え、ちょっと私にも見せてくれない?」

「いや!恥ずかしいことまで乗ってるから嫌!」

「ええ〜見せてよ〜、先っぽだけだから〜」

「だ〜め!」

「私も私も〜」


幽霊もそれに参戦し、イビルアイの本を見ようとした。

イビルアイは本を閉じる。


「えー…」

「幽霊!あなたさっきちょっと見たよね!」

「見てない」

「まあ、後で見るけどね」

「え、ホントにやめて」

「おい、その本、赤くなってるぞ」

「え?」

「あなた、未来の記述読んだ」

「ええ?でも、ちょっとしか見てないよ」

「もうあなたの未来は確定した」

「決して変えることは出来ない」

「え…」

「いい未来だと良いね」

「おいイビルアイ、何を見たんだ」

「何って…明日の朝ごはんは私の好物の桃がでるけど、寝過ごして食べられなかったので落ち込んだと書いてあったけど」

「それだけしか読んでないのか?」

「うん、それだけだよ?」


幽霊の顔を見る。

なぜか、悲しそうな顔をしていた。


「イビルアイ、あなたはもう帰りなさい」

「え?」


幽霊はそう言った。


「便器を舐めた事実は消してあげる」

「私は過去を切り取ることができる」

「この本の内容を書き換えればね」

「トイレに入って、外に出たら忘れているから」

「えっと、それってつまり」

「無かった事にできる」


イビルアイは先に帰った。


「なあ、なんであいつを先に帰したんだ?」

「あなた達と話がしたかったから」

「へえ、どうして?」

「私を成仏してほしい」

「いきなりだな」

「それで?どうすればあなたは消えるの?」

「私の依代を壊してくれれば、私は消えると思う」

「これを」


幽霊が俺に、何かを渡した。


「これは、日記?」

「そう」

「ねえあなた、名前は?」

「ハンナ」

「へえ、ハンナ、あなた…なんか私達に通ずるものがある気がするわ」

「私も」


ハンナと名乗った幽霊は、ムガロの顔を覗き込んだ。


「やっぱり、君、特別な存在…かも」


今度は俺のほうも見る。


「ショウも、特別」


「友達になれそう、だけど、やっぱり」

「早くそれを壊して」


俺は、彼女の依代である、この日記を破り裂いた。



--



これはハンナの、彼女自身の記憶だ。

日記に書かれている内容が、情景として俺の脳内をよぎる。


彼女には双子の妹がいた。

幸せに暮らしていた。


しかし、ある日、ハンナは殺された。



--



「なんで、消えないんだろ」


依代を壊しても、彼女は消えなかった。



Ghost

亡霊

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