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心世界  作者: rin極
第四章 ピラニア編
23/48

第23話 「パラサイト」



「・・・・・」


気づいたら目が覚めていた。

いつもそうだ。

いつのまにか目を覚ましてしまうんだ。

まだ夢の続きを見たいのに、俺の願いは朝日と共に遮られる。


夢を見たんだ。

それはいつか見た記憶だった。


寝起きなので、俺は布団のなかに居たまましばらく天井をボーッと見つめて過ごした。


どこか懐かしい天井だ。

まだ慣れないはずの天井が、どこか懐かしく感じた。

これも幼い頃にいつか見た記憶だ。

いつか見た天井。

それは誰かの記憶。


畳と線香の匂いのすぐそばで、隣のムガロがぐっすりと眠っていた。


ふと、窓の方を見る。

室内に流れ込む光を見ると、もう既に太陽がある程度の高さまで昇っている事に気づいた。

起き上がる。

そして立ち上がる。

辺りを見回してから廊下に出る。


その後、俺は外に出た。

庭の草引きをしていたお婆ちゃんがそれに気づき微笑んだ。


俺は草引きを手伝うことにした。

最初こそ申し訳無さそうにしていたが、結局一時間ほど手伝わされた。

手伝い終わった後、お婆ちゃんから何度も「ありがとう、ありがとう」と俺にお礼を言った。


昼になると、ご飯を作ってくれた。

メニューは好物のカレーライス、もちろん美味しく頂いた。


ムガロの分はいらないと伝えると、お婆ちゃんはとても悲しそうな顔をした。

ムガロがずっと眠っていることを不思議に思っている様子だった。


彼女は居眠りさんだからね、よく眠るんだ。

それも昼間にね。

夜中はどこほっつき歩いてんのか知らないが、まあ、悪さはしていないと思う。

もし要らん事してたら俺が責任を持って叱ってやらねばならない。


午後から俺は村の外に出た。

ヒバナに場所を教わって石化の森に入った後、軽く探検をする。

ある程度の探索が終わり、多少は満足できた所で少し自分の能力について調べてみることにした。

ヒバナに言われての事でもある。


色々な実験をしたあと、あまり遅くなってしまうとお婆ちゃんが心配するだろうと思い、俺はすぐに村に戻った。

時刻はもうすでに夕刻で、村人達はなにやら忙しそうにしていた。


聞いてみるとどうやらもうすぐ祭りがあるらしい。

俺は祭りの準備を手伝った。


次の日、村はよりいっそう人で賑わっていた。

いよきよ祭りの始まりだ。


「祭りだ祭り!崇めよ神よ!捧げよ恋を!」


村はとても賑わっていた。

誰かが言った。


「わっはっはっはっっは、世界を終わらしてくれよベイベーッ!」


この世はつまずくよメイデー。


とある老人が渋い声で歌い出す。


「起死回生、一変に、轟くあなたは僧侶で早漏」

「あっぱれなあ、さっぱりなあ、ふっくらしてっか龍草原」

「その心は馬にて(そうろう)

「馬上にて失礼でっさー」

「ビビたりと、してまてっかあ、あり得〜へん」


ある若者が喧嘩をしていた。


「罠か罠か、それはまだか!」

「割とすごいぞリョウヘイ!」

「え?なに?何だって?聞こえねえ」

「はっきり言え」

「なあマジで早くしろまだ分かんねえのか?」

「こっちは暇じゃねえんだ!」


ウルトラサマーズ大流行!

結界な戦術繰り広げ〜る。

その子の名前はアンダーテイル。

いまだに無名なイカ娘。

いけ好かねえガキは頓挫しろ?

いくつかの問ははき違える。

うるせえ小声、小せえ笑顔。


「マジでマジだよその話」

「その()れたがしそれが(しな)

(それがし)それ無しそなゆかし」

「ゆわなければいけなければソサエティア」

「マジかよ、お前まじかよ、でもマジだよ」

「マジでマジかよそれ間近」

「それマジそれマジそれ魔人」


この日、お婆ちゃんは早朝から石化の森に出かけていた。

明日もあるとはいえ、初日の祭事に参加出来ないのは少し可哀想だなと思ったのだが、当の本人は全く気にする素振りを見せず、涼しい顔をして出ていった。

朝からお祭り騒ぎだったのが、昼頃には人の数が倍になり、大きく賑わい始めていた。


日が沈み始めた頃、俺も石化の森に向かった。

誰にも気づかれぬように、俺は一人で静かに村を出た。


持ち前の嗅覚でお婆ちゃんの居場所を探した。


完全に日が沈んだ頃、俺はムガロを回収するために村へ戻った。

お婆ちゃんのお家に入り、ムガロを夢の世界から引きずり出す。

俺は家の中で、適当な場所に自分の尿をかけまくる。


「ふう…やっぱり立ちションは最高だぜ」


彼女はドン引きするだろうと思いあらかじめ外に出した。

唾を吐くような感じで、(たん)を出す。

それはただの唾液ではない、炎の因子が混じっている。

灯油に火をつけたかのように、ものすごい勢いで炎が広まる。


「ボオオオオオン!!!!」


爆発音が部屋中に鳴り響く。


しまった忘れてた。

おしっこは爆発するんだった。

次からは気をつけるとしよう。


やがて数分もしないうちに部屋中が燃え始めていた。

ショウは炎への絶対的な耐性があるので、燃え広がる炎の中にいてもちょっと熱いぐらいで済む。


順調に燃え広がったと判断した俺は、家の中から出た。

外で待っていたムガロが俺に気づき声を掛ける。


「なんで燃やすの?」

「証拠が残ったら困るだろ?」

「…そ」


俺たちは村を出て石化の森に向かった。

辺りは完全に真っ暗で、俺の夜目と彼女のオイルランプを頼りにして進む。


森の中をある程度歩くと、数十分ほどで目的の場所に到着した。

ムガロからすれば何の特徴もないこの場所に、なぜ彼がわざわざこの地に立ち止まったのか理解できなかった。


俺は目的地を目印ではなく嗅覚を頼りにしてそこに辿り着いた。

それから俺は地面の中に腕を突っ込み、死体を取り出した。


ムガロは驚いた。

ショウが人を殺すような人間だとは思っていなかったからだ。


「ムガロ、食べ物を用意したぞ」


彼がそう言った瞬間、ムガロは笑みを浮かべた。

ショウが自分の為に用意してくれた死体を見て、とても嬉しくなったのだ。

彼女は乙女のように笑った。


「ふふっ」

「ショウ、よく殺ってくれたわ、ありがとう」

「若い肉体じゃなくて不満か?」


俺が冗談混じりに言った言葉に、ムガロは首を横に振った。


「違うの、本当に嬉しい」


ムガロは死体が着ていた衣服を脱がし、丸裸にしたあと、左の目玉をくり抜いて食べた。


「うげえ…」

「嫌なら別に見なくてもいいのに」

「お前こそ、このまえ人に食事を見られるのは嫌だとか言ってなかったか?」

「あなたになら、別に見られてもいい」


そう言ってくれると嬉しいが、やっぱり見ないほうが良さそうだ。


しばらくすると右目の方に指を突っ込んで取り出したあと、ポイッとそこらに投げ捨てた。


「捨てるのかよ、もったいねえ」

「なら食べる?」

「いらねえよ」

「んで、そっちは何で食わねえの?」

「右目は食べないって決めてるの」

「へぇー、変なの」

「良かったら食べる?」

「だからいらねえって、勧めてくんな」


それからムガロは舌をナイフで切り、そのまま一口で美味しそうに食べた。

やっぱり見なかったほうが良かったな。


舌の次は内蔵を食べるそうで、お腹からナイフで捌き始めた。

内蔵の次は脳みそで、彼女によるとそこが一番旨いそうだ。

死体を細かくバラバラにして、焼くでもなく煮るでもなく生のまま食べた。

ムガロは5時間ほどで死体を全て平らげた。

新鮮なものは生で食べるらしい。

しかし、干からびた肉体は生で食べても美味しくなかったそうで、焼けばよかったと後悔していた。

彼女もできるだけ早く完食出来るようにと、俺に気を使ってわざわざ調理せずそのまま食べた。


それにしてもムガロは大食いだ。

本人によると、これであと2週間ほどは持つらしいが、はてさて、困ったものだ。

俺は将来のことを考えて、頭を悩ませた。


「・・・ぉぉおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオ」


暗闇に包まれた森の中で、狼の遠吠えが聞こた気がした。



--



それからの事だったが、俺たちは日が昇ってしまう前にアライブ市を目指すことにした。

アライブ市の一番東側に位置する万国石材法皇町ばんこくせきざいほうおうちょうを目指す。

何だか凄そうな名前だが実際は大した街ではない。


半日ほどかけて俺たちはアライブ市万国石材法皇町に到着した。

街に入るには検問所を通る必要があるのだが、壁で囲っているわけでもないのでこっそり侵入することは可能だ。

それでも後でバレたら面倒なので俺はポケットからプレートを出しそれを首にかける。


「ムガロ、持ってるよな」

「持ってる」


俺が持つプレートは、リュートから貰ったものだ。

黒色のプレートには自分の名前と生年月日が刻まれている。


ショウ=ニドネスキー

621.5.7

 

と、このように刻まれており、名字は俺が適当に考えたやつだ。

師匠に名字はあったほうが良いと言われたから付け足したのだ。

なんでも、名字があるだけで最低限の身分はあると判断してもらえるんだとか。


因みに数字は、シリウス歴621年5月7日という意味だ。

シリウス歴は太陽暦と同じだと俺は思っている。

太陽暦を発見したのがシリウスという人物だ。

発見したといっても、一年の周期を毎日地道に数えて発見したというわけでもなく、どこかの遺跡で一年時計と呼ばれる古代の技術が使われた機械をシリウスが見つけたというだけだ。

のちにその時計が研究され、一年周期で針が一回転することが判明したことにより現在のシリウス歴があるという。

時間を司る神様として、シリウスを信仰する宗教もあるらしい。

なんともくだらない話だ。


誕生日については、前の世界の物を覚えていたのでそれをそのまま使った。


プレートにもいくつか種類がある。

パナム王国とその他周辺国家、主にこの大陸ではプレートが身分証に当たるものだ。

この大陸はヨーロッパのEUのように、システムをある程度共通化しているのだ。


例えばイソック通貨と呼ばれるマレー共通通貨は、日本の感覚でいうと一円=1ポンドと言った感じになっている。



キマイラ紙幣・・・200万ポンド


メメント紙幣・・・10万ポンド


シータ紙幣・・・・2万ポンド


タクト硬貨・・・・1万ポンド


ミドル硬貨・・・・4千ポンド


ノーマル硬貨・・・400ポンド


ピッコロ硬貨・・・20ポンド



あとはチップと呼ばれる一枚1ポンドの鉄銭だ。


この通貨は主にパレスチナ地方で頻繁に使われている。

ノアの町だと、違う通貨を使ったりもする。


紙幣に関してはほとんど使われておらず、普通の人にはまず縁のない代物だろう。

俺も紙幣は一度も見たことがない。


おっと話がそれたな、長い間通貨について説明するのを忘れていたのだ、許してくれ。


パナム王国やその周辺国家は連合しており、連合に参加している国や地域を含めてマレーと呼ばれている。

マレーでは、人々を非属民、平属民、上属民、隷属民と分けられている。

普通は自由人、平民、貴族、奴隷と呼ばれているので上の文はあまり気にしなくていいだろう。


ここでやっと出てくるのがプレートだ。

身分によってプレートの色が4つに分かれる。

自由人は黒色、平民は銀色、貴族は金色、奴隷は銅色だ。

俺は黒色のプレートを持っているので、自由人だ。

因みにムガロも自由人だった。


俺たちは検問所が開く朝まで待ち、やっと開いたのでそこへ向かう。


「二人か?」

「ああ」


俺はプレート見せる。

従業員が判子のような物を俺のプレートに近づける。

すると、判子とプレートがピタッと磁石のようにくっついた。


それを確認した従業員が、俺に告げる。


「よし、入っていいぞ」


どうやらムガロの方はチェックしなくてもいいみたいだ。

俺たちはようやく、アライブ市に入ることができた。


プレートには特殊な金属が使われており、あの判子とプレートとの間に磁力が発生するように作られているので、それを利用し本物かどうかを確認する事ができる。

もちろん普通の磁石ではプレートが引っ付くことはない。


俺たちは2ヶ月ほどこの街でくらした。

ムガロの食事があるので、あまり長い間滞在するのは危険だと判断したからだ。


万国の次はベネット町だ。

そこで3ヶ月ほど過ごした。

この街では比較的楽に過ごせた。

できればもうちょっと長く居たかったが仕方がない。


カナリア町では2週間ほどで出た。

ムガロがやらかしたからだ。

どんなふうにやらかしたかと言うと、バイトで盛大な失敗をしたらしい。


ある飲食店では、「マンゴーパンパンフラペチーノ、チンして食べると美味しいよ〜♪」と客に対してノリノリで言った。

その他に、客引きの仕事のさい、飲食店なのにも関わらず「美味しい熟女はいかが〜?」とふざけた事をやってのけた。

というかこれが原因で飲食店なのに娼館と間違えられ売上が一気に下がり、クビになったらしい。


ムガロも流石に反省したのか、次のバイト先であるマンボー屋さんでは真面目に働いた。

しかし、普段から下ネタを喋りまくっていたせいか、レジの仕事でやらかしたというのだ。


とあるマンボー屋さんでの出来事。

最近この店で働き始めた女。

名前はムガロというらしい。


「1マンボー、2マンボー、3マンボー、4マンボー、5マンボー、6マンボー、8マンボーと、おまけのマ○コと…」


お客A 「すいませんなんて言いました?」


「え〜と、おまけのマ○コと…あ、間違えた」

「あ、え〜、わざわざ買いに来てくれたので、おまけのマンボお…と、えっと〜、買いに来て、買いに…くださって御愁傷様(ごしゅうしょうさま)です」


彼女は初日でクビになったらしい。


まあ、俺もバイトで色々失敗したが、ムガロほどではない。



--リリス町



この町はリリス教の聖地だ。

俺たちはしばらくこの町で過ごすことにした。


リリス町では半年ほど滞在した。

それから先は、分からない。

もう俺に未来なんてない。


ある日、俺とムガロでカフェに行っていた時のことだった。


「まあ何だ、お前は少しアレだな」

「アレって何?」


ムガロは、コーヒを一口飲んでから尋ねた。

俺もブラックコーヒを飲みながらゆっくりと話すことにした。


一口飲んでリラックスした時、「この頃不景気で参ったよ」と誰かが喋っているのが聞こえてきた。

ムガロも聞こえて来たみたいで、隣の席の男性を(いぶか)しそうに見つめていた。


「不景気ねえ…にしても、アイスコーヒーはブラックが最高だ」

「ねえ、話をそらさないでくれる?」

「ああ悪かったって、今話す」

「で、何なの?」

「お前は、アレだ、陰湿って奴だ」

「私が?」

「ちょっとな、いやちょっと所じゃねえな、結構陰湿だ」

「何言ってんの、サイコパスのくせに」

「ん?俺は別にサイコじゃねえぞ?」

「嘘、自分で言ってたじゃないの」

「いやそれが最近気づいたんだけどよ、どうやら俺はサイコパスじゃないっぽい」

「はあ?」


俺はここでコーヒを入れる。

ムガロはポケットからタバコを1本出し、俺に向ける。


「火」


俺は人差さ指からライターのように火を出し、ムガロが持っていたタバコに火をつけた。


「タバコ辞めろよな、ここ禁煙だし」


彼女は俺の言葉など気にも止めず一口吸う。

そして煙を俺の顔面に向けて吐き出した。


「うわけっむ、何すんだよムガロ、肺がんになったらどうするんだ」

「・・・・・」

「喫煙は私が犯したたった一つの悪事、だから許して」

「はあ…」


「ていうかお前、なんでタバコやんの?」

「空腹を紛らわす為」


そう言ってムガロはもう一回吸った。

一口吸った後、彼女が呟く。


「ふう…やっぱコーヒー飲んだ後の一服は最高だわ」


俺はそのセリフを聞いて呆れる。


「タバコなんてやんない方がいいぜ?」

「なんで?」

「口臭くなるぞ」

「ならないよ」

「口臭トイレになるぜ?」

「あははっ、それ何?ウケる」

「やい口臭トイレ」

「・・・・・」

「お前の口臭トイレ」

「ちょっと黙ってくれない?ウザいんだけど」

「ごめん」


俺は気を紛らわすためデザートのキャラメルナッツを頬張った。


「で、なんでサイコじゃないの?」

「ああそういえばそういう話だったな」

「何でって言われてもなあ、う〜ん」


俺は口の中に広がる甘味を、コーヒを飲んで打ち消す。


「なあムガロ、お前は金魚が入ったミキサーのボタンを押せるか?」

「そんなの、押すわけ無いでしょ倫理的に考えて」

「俺は押すね、そしてスムージーにして飲むね」

「うげえ、衛生観念キモすぎ」

「そうかあ・・・?そこまでじゃないと思うんだけどなあ」


ムガロがちょっと引いていた。

俺は気にせず話の続きを語る。


「ファニーな奴、ソシオパス、サイコ、そしてヤク中、皆は俺のことをそう呼ぶが・・・」

「だが俺はどれでもない」

「ただ型を破りたいだけなんだ」

「俺はチャンスを掴むぜ」

「だけどお前には無理だ」

「あれがどうとか、これがどうとか、くだらねえから俺はもう行くぜ」


俺はそう言って席を立った。


「え?ちょっと待って」


ムガロが引き止めるが、俺は歩みを止めない。

ムガロが慌てて俺のあとをついて行く。


「俺たちは名声と凡人の狭間、言わば井の中のカエル大海を知らずだ」

「ねえ、それどういう意味?」

「8時間労働を死ぬまで続けるか?」

「俺はそんなのごめんだね」

「俺たちは言語に支配されている」

「休んでる暇はねえ」

「名声なんてクソ食らえ」

「俺は型を破る」


俺はムガロを助けたかった。

ムガロは毎日酒に溺れている。

そして大麻も吸っているのは、多分俺のせいか、それとも世界だ。

俺はお前を大事に思ってる。


「お前は欲の赴く(おもむ)まま、先のことなんざ考えずに、大麻吸って捕まるか酒とメンソールで毎日をただ垂れ流すだけ」

刹那的(せつなてき)に生きてるつもりでも、毎朝起きて自分がバカだってことに気づく、そうだろ?」


ムガロは絶句した。


「することといえば愚痴や不満を言うだけか!?」

「大成したわけでも、夢を叶えたわけでもねえのに、毎日酒に溺れて、大麻吸ってイイ気になって、情けねえったらあらしねえ!もう自分でも分かってんだろ?お前は現状に甘えてばかりだ!なにも自分から始めようとしない!なにも自分で知ろうとしない!なにも自分で動こうとしない!全部全部人任せ!それで良いのかよ!それでお前は満足かよ!それでお前は幸せになれるのかよ!なあムガロ!このままで良いのか!?」

「これで良いのか?」

「そんなの、嫌に決まってんじゃん!」

「じゃあ何でだ!?」

「だって!無理なんだもん!」

「なんで無理なんだ!?変えようぜ!今の自分を!今の生活を!今のこのクソッタレな人生を!」

「私だって変えたいよ!変えられるのなら!でもどうすればいいの!?どうすれば変えられるの?分かんないよ!」

「そんなの簡単だろ」

「簡単なわけない!」

「いや楽勝だって!」

「楽勝なわけない!」

「いや、今の自分を堕落させているものを全て排除するだけだぞ?」

「それだけのことなんだ、たったそれだけで変えることが出来るんだ!」

「だからどうやって!」


「なあいいかムガロ、この世で最高なものはFの文字から始まるんだ」

「Fuck ! Food ! Freedom ! 」

「でもそれだけが人生の全てじゃねえ」

「全ては大袈裟だ」


そう、全ては大袈裟なんだ。


だって、全ては変えられるのだから。



--



ムガロは俺の言う事を聞き、酒と大麻を辞めた。

それから彼女は真面目に日々の生活を送った。


もう大丈夫だと思った。

もうムガロは大丈夫だって、何の根拠もなしに、俺はそう思っていた。

それが間違いだったと気づいた時、もう何もかもが遅かった。


手遅れだった。

俺はムガロの手を握れなかった。


本当は分かってたんだ。

俺がお前になんと言おうと、意味がなかったって。

俺が何かを言っても、何かをしたとしても、お前には関係がなかった。

俺が止めようとしったてお前は、止まってくれないんだ。


後悔してるよ。

あの時俺は選択を間違えたんだ。

謝るよ。

でもそれは意味ねえ。

もう意味なんかねえんだ。


なあムガロ、何で死ぬんだよ。



--



それは、俺が仕事が終わって宿に戻った時のことだった。

いつものように、俺はムガロと話すために彼女の部屋に入った。


中には彼女の死体があった。


「おい、嘘だろ…」


俺は目の前の光景を、すぐには理解できなかった。

上半身は心臓を中心に内部から破裂したようだった。

訳がわからない。

でもこの感じ、見たことがある。

そうだ、思い出した。

ムガロがたまに使う究極の殺人術である心臓爆破だ。

一体だれが、いやもしかして、考えたくもないが。

やっぱりそうなんだろうか。


自殺か。


俺は膝から崩れ落ちる。

頭が真っ白になる。

久しく味わう絶望だ。


「ふう…」


俺は何事もなかったように部屋から出た。


それから俺は、世界が終わるまでただ毎日を過ごした。

俺は待ち遠しかった。

世界の終末が。


早く俺の人生を終わらして欲しかったんだ。


だから世界が終焉を迎えた時、世界を破滅へと導く黒い雨は、俺にとって希望の光に満ちていた。

俺はこの時、初めて神様に感謝したのだ。


「ああ、神よ…」



A world without me

私だけがいない世界


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