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心世界  作者: rin極
第四章 ピラニア編
22/48

第22話 「メソッド神話」


手を握ればスタートだ。

ブレーキはない。

アクセルならベタ踏みさ。


誰か教えてくれ。


このまま進めば許されるのか。


このまま歩けば辿り着けるのか。


俺たちは忍び寄る罪から逃れられるのか。


「走ろう」


俺はムガロの手をしっかりと握り、走り出した。


俺たちはただ走るんだ。


そして歪な世界を描くんだ。


なあ、教えてくれよ。

何でも良いから答えてくれよ。

なんで誰も教えてくれないんだ。


なあ神様よ!

お前に聞いてんだ!

俺の問に答えろよ!


「・・・・・」


俺たちはただ走り続けた。

しばらく走っているうちに、ムガロが急に笑い出した。


「あはははははっ!」


何だか夢の中にいるみてえだ。

でも確かにあいつはここにいる。

俺の隣で走っていて、笑っている。


それから俺は、どうでも良くなった。


彼女は笑っている。

なら、いいじゃないか。

他は何もいらない。

それだけでいいんだ。


そりゃあ、ちょっとは危ねえかもしれねえ。

確かに俺は、飛ばしすぎだし熱くなりすぎだ。


でも止まらねえ。

これでいいんだ。


何も間違っちゃいないはずだ。

俺はそう信じていた。




ある日、僕らは魔界に出た。

それは突然の事だった。

唐突だった。

なぜこんな事になってしまったのか、今だに分からない。

そう、あれは、ちょうど日が昇る頃だった。



--



「逃げるって、どこに?」


ガタンゴトン。


ガタンゴトン。


列車の音が鳴り響く中、密室にて若い男女が会話をしていた。


「まあ取り敢えず、ベレッタからは離れたいよな」


彼女の問に男は答える。


「じゃあ、リオネルで降りたら、西へ行ってアライブ市に行く?」

「ああ、それは良い、行き先はそこで決定だな」

「でも、私達の所持金は6万ポンド、正直心もとないわね」


彼らは元々スカンピンだったはずだが、一体どのようにして6万もの資金を集めたのだろうか。

きっと汚い事に手を染めたに違いない。


「そりゃあ、現地で稼ぐしかねえだろ?」

「・・・・・」

「ねえ、やっぱり不安だわ」


彼の適当さは、少女を不安にさせるのに十分だった。


「不安か?何がそんなに不安なんだ」

「私達二人だけで生きていけるのかしら」


ごもっともだ。


「まあ、そりゃあ楽な人生は歩めねえよ」

「そんなことは当たり前だろ?しっかりしろ」

「いいか?俺たちは逃げるんだ」

「師匠がせっかく俺たちの為に用意してくれたレールから」


そう思うなら学校行け。


「だから、リスクを背負え」

「責任を持て」

「現状に甘えるな。変化を恐れるな。それじゃあ失敗するぞ」

「リスクを背負えん奴は自分の夢を叶える事すらできねえぞ」


男は少女に対し偉そうに説教をする。


「俺はそう信じてる」


カッコつけんな。


「リスク、ね」

「良いね、気に入った」  


そしてなぜか気にいる女。


「私もスリリングな日常を送りたいからさ、ここに響いたよ、あなたの言葉」


そう言いながら、ムガロは自分の胸を叩いた。

それは一体なんのジェスチャーだ。


「ははっ、そうさ、つまんねえ日常からおさらば出来るぜ」

「心の準備はいいか?」

「・・・・」

「貴方が産まれる前から出来てるわ」


ムガロは真顔でそう答えた。


茶番はお終いだ。



--



列車が止まったあと、俺たちはリオネルの駅でおりた。

リオネルで必要なものを購入し、それから3時間ほど歩いて工業都市を囲う壁の門を出る。


それからさらに数十分ほど歩き、とある小さな小屋を見つけた。

そこで日が暮れるまで休憩することにした。


小屋の中でインスタントラーメンのような物を食べた。

それは金属の水筒の様なものに入っており、麺は乾燥させたものだ。

一応保存食の部類に入る。

お湯を沸かして容器に注ぎ、燻製肉と乾燥させた野菜を入れる。

ネギのようなものと、ほうれん草のような物だ。

それと、スープの粉も忘れずに。


俺はそれを味わって食べる。

ムガロにはスープを飲ませた。


日が沈んでからしばらくしたら、アライブ市を目指して道を進む。

彼女との旅にはいくつか問題点があった。


一つ、ムガロが夜行性であること。

2つ、ムガロの食事について。


夜行性である点は、俺が昼夜逆転すればいいだけの話なのですぐに問題は解決した。

しかし、食事に関してはそう簡単ではない。


彼女によると、死体が一つあれば2週間程は持つらしいが、かなりの大食いらしく飢えがくると死ぬほどキツイとのことだ。

今も結構やばいらしく、急がねばならない。


近くに村があるということなので、寄ってみることにした。

ラボス村という名前で、なんとメソッド史から存在すると言われているのだ。



--



村に入ると、いろんな人達が働いていた。

火を灯した柱が無数にあり、夜だと言うのに視界には困らない程に明るかった。

まあ、見た目は普通の村だ。

しかりその内面は、王国で一番危険な村と噂されている。


村を見回していた俺たちは、とある村人に声をかけられる。


「君ら、旅のもんかい?」


俺は極めて普通の旅人を装いながら答えた。


「ああ、そうだ」


俺がそう答えるとその村人は意外に思ったのか、感嘆の息を漏らす。


「へえ、珍しいこともあるもんだ、こんな辺鄙(へんぴ)な村に、一体何の御用たしだ?」

「さあ、特には…」

「まあいい、ゆっくりと過ごすといい、この村の名産はお米だ。よかったら食べてくかい?美味しいよ?」

「一度食べたら止まんないぜ?」

「米?」

「そうだ」

「うちに来い、極上の新米炊きたてほっかほかのご飯を食べさせてやる」

「ホントか?」

「本当さ、なんならタダで食わせてやる」

「おお、そいつはありがてえ」

「それじゃあお言葉に甘えるよ、礼は弾むぜ」

「礼はいらねえ」

「ははっ、よく喋る爺さんだ」


米農家の爺さんと会話していると、近くにいた婆さんも寄ってきた。


「こんなクソジジイの家なんざより、わしの家に来んかい」

「ゲロうめえ馬のイチモツの漬物を食わせてやるよ」

「ゲロうめえ?」

「吐くほどうめえってことだよ」

「それホントにうめえのか?」

「おい、どこのどいつがクソジジイだって?このババア!」

「誰がババアや!わしゃまだピチピチの59歳じゃボケ!」

「このクソビッチ熟女め!まだ枯れてないのか!?もうとっくに旬の時期は過ぎてんだよ!」


そこへ更に新たな婆さんが加わる。


「あんたらおよし!争いは何も生まへんで!だから仲良くし!そして愛し合え!そしたら産まれるで!」

「なにがだよ!」

「あんたあ、ただでさえその少ない髪の毛をなあ、更に失いたくないんならなあ、喧嘩はせんこと、ストレスフリーが一番やで」

「分かったよ、ピエヨンちゃん」

「そこのアンタもやで!」

「わああったって」

「ところでお嬢さん、別嬪(べっぴん)さんやね、うちのお嫁さんに来んけん」

「え、嫌です。なんですか急に」

「行っとけよムガロ、滅多にないぜ?こんなチャンス、お前が嫁に行けるなんてな」

「は?」


気がつけば大勢の村人に囲まれていた。


「私の家に来たまえ!ご馳走をくれてやるぞ!」

「いいや、あたしんちに寄ってきな!寝床も用意してあげるわ!」

「いやダメだ!このババアの家には入るな!きっとお前らの童貞観念が崩れ去ることだろう!」

「何だって!聞き捨てならん!けしからん!」

「ならば!うちに来ると良い!!いや来い!」


よほど来客が珍しいのか、旅人に対して凄まじい勧誘だ。

ラボス村、なんてクレイジーな村だ。



--



最初に声をかけてきた白米おじさんの家にお邪魔することにした。


彼の名前パパイヤ。

職業は米農家。

ごく普通の村人だ。


俺たちは彼の案内の元、パパイヤハウスに失礼した。

中はごく普通の民家だ。


中には、俺より少し下の少年と、白米おじさんとその嫁パットマザーの三人家族。

どうやら息子さんは反抗期真っ只中のようで、親御さんも手を焼いているご様子だ。


「おいパトリック!お客さんだぞ!挨拶しろ!」

「え?ヤダよ、何で?」

「おういパトリック、クリスマスはもうすぐだったよなあ」

「あ、えっと、ジョン・パトリックです」


ムガロが挨拶に答える。


「よろしく」

「あ、うん、よろ?しく」


ムガロに続いて、俺も軽く挨拶をすることにした。


「俺はショウ、だ。こいつとはあまり関わらないほうが良い」


俺はそう言いながらムガロの肩を掴む。


「っ・・!?、気安くレディーに触るんじゃないわよ」


そう言ってムガロは俺の手を払い除ける。


「とまあ、コイツは変人だから相手するな」

「あ、はあ…了解です」

「は?」


おじさんが俺たちの輪に入り込む。


「同年代なんだから、仲良くしてくれ」

「私こいつより年上・・・」

「何でこいつらと仲良ししなきゃなんねえんだ!」

「ぱああああとりっく!!お前そんなんだから未だ(ろく)に友達ができねえんだぞ!」

「はああ!?ダチぐらいいるし!」


そこで母さんが参戦!


「落ち着きなさい、冷静に」

「すまん母さん」

「君らは、料理が出来るまでパトリックの部屋にいな」

「え、え〜?勘弁してよパパァ〜」

「すまんなあ、こいつは人見知りなんだ。この村には同年代の子がいないから、一緒に遊んでやってくれ」

「だ、誰が人見知りだあ!俺は人を見て人を知る!つまり俺は人見知りだあ!」


こいつあ凄え。


「あー、なるほど、そういうことなら、この私に、お任せてください」


ムガロはそう言って歯を光らせた。

 ドヤ顔で・・・


その後、俺たちは本人の案内のもと、パトリックの部屋に向かった。

彼の部屋に入ると、パトリックはぎこちなく俺に椅子を進めた。


「ど、どうぞ」

「ああ、こりゃどうも」


何とも気まずい雰囲気だ。

すまんね、急にお仕掛けて。

机の上を見ると、作文用紙のようなものが複数枚置かれていた。


「これ、なんか書いてあっけど、小説か何かか?」

「課題だよ、長期休暇中の」

「一年かけて書いたんだ」

「その作文で俺は賞を取るんだ」

「ほんと、全部書くのに苦労したよ、何せ全部で50枚あるからさ」

「へえ」

「明日、その作文を提出するんだ。学校が再開するからね」


学生だったのか、コイツ。


「粗茶です」


パトリックは俺にお茶を出した。

もてなす心はあるらしい。

相変わらず敬語を使うか使わないかで迷っているらしいが・・・


「毒は入ってねえよな」

「は?入ってるわけないだろ」


ムガロが尋ねる。


「あなたいくつ?」

「13です」

「へえ〜、アソコの毛はもう生えた頃かしら」

「はああ!?何だって!?この変態女!」

「ああそうだったな、こいつは変態天才少女だったなあ、気をつけろおパトリック」

「お前に名前を呼ばれる筋合いは無い!」

「ああ"?」

「なに?こいつムカつくんだけど」


ムガロはそう言うと何かを探し始めた。


「お前!人の部屋で勝手に!何やってんだてめえ!」

「おいムガロ、何してんだ」

「探してるの」

「何を?」

「・・・・・」


ムガロは、棚を覗いたり、机の下を覗いたりしていた。

一体何がしたいんだアイツ。


彼女は布団の下をめくった。


「あ、あった」


その瞬間、ムガロはニアっと不敵な笑みを浮かべた。

これにはパトリックくんも想定していなかったようで、顔をたいそう青ざめている。

ムガロが冷淡な口調でパトリックに告げる。


「やっぱりあった、えっちい本」

「あ〜あ、思ってたとおりね、あると思ってた…」

「爪が甘いのねパトリック、ちゃんと隠さなきゃダメでしょ、こういうのは…」


彼はそれを聞いて、ますます顔の血の気が去っていった

そして、パトリックが叫ぶ。


「ああああああああああ!」

「あなたみたいなガキはからかい甲斐があるわ…」


そこでタイミングよくお母さんの入場。

すかさずムガロはパトリックの母さんにそのエロ本を見せびらかす。


「これ、パトリックくんが隠してました」


それを見たパットマザーは息子を問い詰めるような目で見る。


「あ、あんた…」


それで慌てたパトリックが無様にも言い訳を始める。


「ち、違うんだ!これは!その!じいちゃんの形見で!大事にしまってたんだ!」

「パトリック、あんた何言ってるのよ!爺ちゃんまだ死んでないでしょ!?」


パトリック渾身の言い訳は母によって一瞬で破られる。


「てかこれアンタねえ、え〜、これ、乳はみでてんじゃんこれ、え?ナニコレ?ねえ、何なのこれ、ねえ?はみ乳?」

「随分と可愛い子写ってるわねえ、これ、ほおおら、これ、こことか、おおおん」

「あんた熟女が好きなの?」


すかさず責められるパトリックは、なす術もなく、もう終わりだということを悟った。


「母さん…」

「あんたこれが何か説明しなさいよ」

「うう…」

「ねえ?これ、何?ジャンルは?母さん初めて見るわよこれ、モデルは?いつ出版されたやつ?これえ、そうとうマニアックなやつよねえ」

「もう、やめてくれ…」


もう辞めてくれ、とそう何度も願った。

そんな彼の願いは通じず、更なる絶望へと彼は導かれる。


パットマザーはムガロからぶつを受け取り、その中身をパラパラと観察した。


「なんで見るんだよおお!見なくていいだろっ!それええっ」


これ以上の絶望があるのだろうか。


「う、うう…もう、やめてくれ、やめてくれえええ」


母さんはその内容を見て顔をしかめる。

持っていた本を床に投げつけ、激昂した。


「あんた!なんてもん持ってるのよ!すぐに捨てなさい!」

「い、嫌だあああ!」


こんな事になってもパトリックは、その貴重な本を手放したくなかった。


「もおおお辞めてくれえエエ!!!」

「あんた!!」

「母さん!!」

「パトリック!」

「母へ、どうか、ど〜か、この愚かなる息子をお許しください!」

「許しません!」


ははっ、笑えるぜ。

やはり人の不幸は笑えるな。

にしてもちょっとかわいそうだなパトリック。


そう思いつつ、床に捨てられた本を拾い、その中身を見てみると、俺は愕然とした。

なんと、そのエロ本の内容が母と息子の愛情ものだったのだ。

詳しくは言えない。

いや、言いたくない。

だからほら、言わなくても分かるだろ?

実際にヤッたらダメなやつ、化学反応起こして爆発するやつだ。


俺はさっきまで気楽に笑っていたが、本の内容を知ってしまったのだ。

もはやこの出来事は笑い事では済まされないだろう。


俺は吐き気を抑えられず、胃液が逆流してリバースした。


「うおおおおおえええええええええええっ」


それを見たムガロは、何がそんなに面白いのか、吹き出した。


「あはははははははっ!あはっ!あははははは!」

「ちょっ、無理!しんどい!あははははは!」

「ふふっ、ふふふ、あははははっ!」


いや笑い事じゃねえんだが、まあそういえば、こういう時にこそ笑う奴だったよな、ムガロは。


ここでお父さんも参戦!


「おいパトリック!また何かやらかしたのか?」

「ちょっと父さん!あなたからも言って頂戴、この子いかがわしい本隠し持ってたのよ」

「え、いやあ、あいつも年頃だし、持っててもおかしくねえだろ」

「それを言う前にこれを見て」


ムガロは例の本をおじさんに手渡す。

パトリック、更なる絶望を味わう。


「もおおおお、見なくて良いって!」


内容を確認し終えた米じいは、幻とでも思ったのかもう一度見直す。

そして間違いないと分かった瞬間、彼はショックを隠せない表情を浮かべた。


「お前これっ!一体どこで手に入れたんだ!」

「そうよパトリック!そもそも何でこんなもの持ってるの!答えなさい!」

「し、知らねえよ」

「ちゃんと答えなさい!」

「うっさい!このクソッ!クソババアッ!クソジジイッ!」

「・・・・・」


少年の発言で、両親は静かに怒った。


「へえ、クソジジイっか…」

「ちょっと質問に答えてくれパトリック、どのへんがクソなんだ?」

「く、クソは糞だ。牛の糞を肥料にしてる田んぼに毎日入って、いつもクソまみれになってるじゃないか」

「なるほど、え?だから?どのへんがクソなの?そもそもジジイは祖父でババアは祖母って意味だからお前が言ってること滅茶苦茶だぞ?」

「正しくはクソパパ、クソママでは?じゃあお前はクソ夫婦から生まれたダブルクソ野郎や〜♪」


えげつな。


「うわああああああああああああああああああああああ」


パトリックは泣き出した。

彼の父さんは自分の息子に対して容赦がなさすぎる。

無理もない、あまりにもかわいそうだ。


パトリックは泣きながら、机の上にあった紙を衝動的に破りさいた。


「ハッ」


そこで彼は冷静になり、その手で握っているものが何なのかを知り、更に絶望した。

彼はその破いた紙を床に捨てた。


パトリックはその場で一回転しながら「たはっ」と声を漏らす。

なにやら同様を隠しきれないようだ。

見かねた父は静かに部屋を去って行った。



--



「どうだい?お米の味は」

「美味い」


一言呟いてご飯をほうばる。


オジサンは彼女が料理に手を付けてないのを見て、どうしたのかと尋ねるが、彼女は答えない。

代わりに俺がその事について説明をした。


「コイツは物凄い偏食で、食えないものが多いんだ」

「そうか、それは可哀想に」

「この子の分は代わりに俺が食べるよ」


とは言ったものの、アレを見たせいか何時もより気分が優れなかったのであまり食は進まなかった。

だというのにムガロの分も俺が食べると言ってしまったもんだから、非常に困った。

自業自得だけど・・・


ムガロがバカを見る目で俺を見る。


せっかく俺がお前のも食べてやるってのに、なんちゅう態度だ。


結果的には完食したものの、わりとギリギリで結構キツかったのが正直な感想だ。


はあ、ムガロの腹の虫を何とかしないとな。

彼女は空腹だ。


それはそれとして、寝床はどうするんだと疑問を持つ者もいるだろう。

それについては、この村で一番まともそうなお婆ちゃんのお家に泊めてもらう事にした。

ムガロは移動中俺が背負って運んでいたので睡眠を取る必要はないのだが、俺は普通に眠いので睡眠を取らしてもらう。


善は急げということで、さっそくラボス村に在住する親切なお婆ちゃんのお家にお暇した。

この場合の善は、お婆ちゃんにとってである。



--



「さ、お入り」


お家ガイドの婆ちゃんは横開きのドアを開け、俺たちを中に招き入れた。


玄関は広く、小さな部屋ぐらいの面積はある。

玄関の壁にはコートをかけるのに便利そうな牛の角が設置されており、大変立派な虎の絵画が飾られていた。


この世界では珍しく土足禁止のようで、玄関のところで靴を脱いでスリッパを履く。


そこから中へと続く廊下が横に連なっており、我々はその道を歩む。

古い民家ではあるものの、その材質は大変優れており年季の入った木柱を見ると、まるで日本のお城の中にいるような高級感を感じさせた。

さながら大豪邸である。

こんな広い家で一人寂しく暮らしているんだとか。 


廊下を渡り、リビングの様な場所に入る。


キッチンとテーブルなど基本的な家具が置いてあるスペースだ。

ムガロは興味がないのか、ただボーっとそこら辺に突っ立っていた。 


少し鬼婆の屋敷に似ているな。


そろそろ、結構いい時間なので就寝についてもいいのだが、その前にこのお婆さんといろいろと話がしたかった。

お婆さんも同じ気持ちなのか、ムガロではなく俺に話しかける。


おそらくお婆さんはムガロの事をお喋りが苦手な子と認識したからだろう。

ムガロは俺の後ろについて黙ってるだけだし、仕方のないことだ。


「んー、なんか有ったかいなあ、ちょっと待ってな、お茶出すきんな」


そう言ってお婆ちゃんは棚の中を漁る。

お茶っ葉を取り出すと何かに気づいたのか、こっちを振り返り俺たちに尋ねる。


「冷たいのと温かいの、どっちがええかい?」

「俺、冷たいの」

「冷たいのでいいん?」

「じゃあ嬢ちゃんの方は?」

「・・・・・」

「温かいのが良い」



--



お婆ちゃんが俺たちに布団を用意してくれた。

今俺たちがいる部屋は、好きに使っていいと言われている。

なんとも親切なお婆ちゃんだ。


「優しいな、あのばあちゃん」

「うん」


俺の呟きに、ムガロは静かに答える。


「腹は減ってないか?」

「減ってる」

「そうか」


俺はそれを聞いて、解決方法を考え始めた。

なんとなくいい方法を思いついたので、それに満足し布団に潜る。


ムガロは壁にもたれかかり、ぼーっと天井を見つめていた。


俺は眠気が来たのでゆっくりと目を閉じる。


3日後、俺はお婆ちゃんを殺した。




Strike while the iron is hot

善は急げ

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